同一労働同一賃金 有期・パートの待遇差の説明
人事ノートこの記事で扱う範囲
短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下、パート・有期雇用労働法)は、通常の労働者と、短時間労働者・有期雇用労働者との間の不合理な待遇差を禁じています。いわゆる同一労働同一賃金の中心となる法律です。施行は2020年4月1日で、中小企業への適用は2021年4月1日からとされています。
この記事では、次の3点を実務の順序に並べて説明します。
- 均衡待遇(第8条)と均等待遇(第9条)の違い
- 待遇ごとに差の理由を整理する方法
- 待遇差の説明義務(第14条)への対応手順
なお、派遣社員の待遇は労働者派遣法が定めており、この法律の対象ではありません。派遣を受け入れている場合は、派遣元との情報提供のやりとりが別に必要になります。
誰が対象になるか
| 区分 | 説明 | 建設・不動産での例 |
|---|---|---|
| 通常の労働者 | 期間の定めのないフルタイム労働者。比較の基準になる | 正社員の施工管理、正社員の技能者 |
| 短時間労働者 | 1週間の所定労働時間が通常の労働者より短い者 | 週3日勤務の事務、時短勤務の設計補助 |
| 有期雇用労働者 | 期間の定めのある労働契約を結んでいる者 | 工事期間に合わせた契約の技術者、定年後再雇用者 |
定年後に有期契約で再雇用している人も、有期雇用労働者として法の対象になります。フルタイムでも契約期間の定めがあれば対象です。ここを外している会社が少なくありません。
第8条と第9条の違いを押さえる
| 項目 | 第8条(均衡待遇) | 第9条(均等待遇) |
|---|---|---|
| 対象 | すべての短時間・有期雇用労働者 | 職務の内容と、職務の内容・配置の変更の範囲が、通常の労働者と同一の者 |
| 求められること | 不合理と認められる待遇差を設けないこと | 待遇について差別的取扱いをしないこと |
| 判断の物差し | 職務の内容、職務の内容・配置の変更の範囲、その他の事情のうち、待遇の性質・目的に照らして適切なもの | 差を設けること自体が認められない |
| 実務の作業 | 待遇ごとに趣旨を書き出し、差の理由を言葉で説明できるようにする | 対象者を特定し、待遇をそろえる |
重要なのは、第8条の判断が「正社員かどうか」という雇用区分ではなく、待遇ごとに行われる点です。賞与には賞与の趣旨、通勤手当には通勤手当の趣旨があり、それぞれに照らして差の合理性が見られます。「正社員だから一律に上」という説明は成り立ちません。
待遇項目ごとの点検表
自社の賃金規程と実際の運用を並べ、次の観点で1項目ずつ確認します。担当は人事、期限は規程改定の3か月前が目安です。
| 待遇 | 典型的な趣旨 | 点検の観点 |
|---|---|---|
| 基本給 | 職務内容、能力、勤続などへの対価 | 何に対して払うのかを規程に書いているか。決定基準が区分ごとに違うなら、その違いを説明できるか |
| 賞与 | 業績への貢献 | 「正社員のみ」としている理由を、貢献の差として示せるか |
| 役職手当 | 役職に伴う責任 | 同じ役職名なら同額か。責任範囲が違うなら、その内容を書けるか |
| 資格手当 | 資格の保有・活用 | 同じ資格で支給額に差をつけていないか |
| 特殊作業手当・危険作業手当 | 作業環境の負担 | 同じ作業に従事しているのに支給対象を分けていないか |
| 精皆勤手当 | 出勤の確保 | 出勤を確保する必要性に、区分による差があるか |
| 時間外・休日・深夜の割増 | 時間外労働への対価 | 法定を上回る上乗せ分を正社員だけにしていないか |
| 通勤手当・現場移動の費用 | 通勤費用の補填 | 勤務日数や距離以外の理由で差をつけていないか |
| 食事手当 | 勤務時間中の食費補助 | 昼をまたぐ勤務かどうかで判断しているか |
| 慶弔休暇・慶弔見舞金 | 私生活上の事情への配慮 | 勤務日数に応じた調整を超えて、対象から外していないか |
| 病気休職・法定外の休暇 | 雇用の維持、心身の回復 | 契約期間との関係で説明できるか |
| 教育訓練 | 職務遂行に必要な能力の付与 | 安全衛生教育や資格取得支援の対象から外していないか |
| 福利厚生施設 | 就業環境の確保 | 現場事務所の休憩室、更衣室、給食施設の利用に差がないか |
| 通常の労働者への転換 | 登用の機会 | 募集情報の周知や試験制度が整っているか |
教育訓練、福利厚生施設の利用、通常の労働者への転換については、パート・有期雇用労働法に個別の条文が置かれています。条番号と細かい要件は、法律の本文で確認してください。
建設業では、現場ごと・支店ごとに手当の運用が分かれていることがあります。本社の規程上は同じでも、現場の運用で差がついていれば説明を求められるのは同じです。棚卸しは規程だけでなく、直近12か月の賃金台帳と突き合わせて行ってください。
待遇差の説明義務(第14条)
説明義務には3つの場面があります。
雇い入れたとき
短時間労働者・有期雇用労働者を雇い入れたときに、賃金、教育訓練、福利厚生施設の利用、通常の労働者への転換に関する措置の内容を説明します。労働条件の明示と同じ機会に行うのが実務的です。
また、労働基準法の明示事項に加えて、昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無、相談窓口を文書などで明示する義務があります。この明示を怠った場合には過料の定めがあります。金額は法律の本文で確認してください。
求めがあったとき
本人から求めがあったときは、通常の労働者との待遇の相違の内容と理由、待遇を決定するにあたって考慮した事項を説明します。
不利益取扱いの禁止
説明を求めたことを理由に、解雇その他の不利益な取扱いをしてはなりません。評価、契約更新、シフトの割り当てなど、間接的な形も含めて社内で周知してください。
説明の手順
- 受付窓口と担当者を決め、受付簿に記録します。記録するのは、誰が、いつ、どの待遇について求めたか、の3点です。
- 比較対象となる通常の労働者を選びます。職務の内容や、職務の内容・配置の変更の範囲が最も近い人を選ぶのが基本です。選び方の考え方は、法律に基づく指針などの公表資料で確認してください。
- 待遇の違いの内容を整理します。決定基準そのものが違うのか、支給の有無が違うのか、金額が違うのかを分けて書きます。金額を示すときは、個人が特定されないよう平均額や標準的な額を用います。
- 違いの理由を、待遇ごとの趣旨に沿って書きます。「正社員だから」ではなく、「この手当は転居を伴う異動の負担に対して支給しており、対象者には異動の範囲を設けていないため」といった形にします。
- 原則として文書で交付し、口頭で補足します。控えを人事で保管します。
- 回答までの日数は、社内の目安を決めておくと運用が安定します。法令上の取扱いは公表資料で確認してください。
社内の進め方と年間の組み立て
| 時期 | 作業 | 担当 |
|---|---|---|
| 期初 | 待遇項目の棚卸し。規程と賃金台帳の突合 | 人事 |
| 規程改定の3か月前 | 手当の趣旨を規程に明記。説明文の雛形を作成 | 人事・経営 |
| 賞与の支給決定時 | 支給対象と除外理由の確認 | 人事・経営 |
| 契約更新の1か月前 | 明示事項を記した書面の内容確認 | 人事・支店 |
| 通年 | 説明の求めへの対応と記録 | 相談窓口 |
就業規則を作成・変更する際は、短時間労働者・有期雇用労働者の過半数を代表すると認められる者の意見を聴くことが求められています。また、一定数以上の短時間・有期雇用労働者を雇用する事業所では、雇用管理の改善を担当する者を選任するよう努めることとされています。人数の基準は法律の本文で確認してください。
よくあるつまずき
- 転勤を理由にしているが、実績がない。「正社員は全国転勤があるため」と説明しているのに、直近数年の異動実績がゼロという例があります。理由は実態で裏づけてください。
- 手当の趣旨が規程に書かれていない。趣旨が書かれていないと、説明のたびに理由が変わります。まず規程に趣旨を1行入れるところから始めます。
- 比較対象を会社に都合よく選ぶ。負担の重い正社員だけを比較対象にすると、説明の信頼性が下がります。職務の内容が最も近い人を選んでください。
- 説明を求めた人の契約を更新しない。不利益取扱いの禁止に触れます。更新判断の記録を残し、判断理由を説明できるようにしてください。
- 求人票と実際の運用がずれている。求人票の待遇欄に賞与ありと書きながら、有期契約者は対象外という運用は、入社後の不信につながります。
- 名称だけ変えて実態を変えない。手当の名前を変えても、支給の趣旨と実態が変わらなければ説明の材料にはなりません。
- 定年後再雇用を一律に大幅減額する。有期契約である以上、法の対象です。定年後の継続雇用であるという事情をどう評価するかは個別の事案ごとの判断になります。減額幅が大きい場合は、社会保険労務士や弁護士に相談してください。
行政の関与と紛争が起きたとき
事業主に対しては、行政による報告の徴収、助言、指導、勧告の仕組みが置かれています。また、労働者からの苦情について事業所内での自主的な解決を図ること、都道府県労働局長による紛争解決の援助や調停の仕組みも定められています。まずは社内の相談窓口で受け止め、記録を残すことが第一歩です。
個別の待遇差が不合理にあたるかどうかは、職務の内容や運用の実態によって結論が変わります。判断に迷う項目は、自社で結論を出す前に専門家に相談してください。
よくある質問
Q. 定年後に有期契約で再雇用した人の賃金を下げていますが、問題になりますか。
有期契約である以上、パート・有期雇用労働法の対象になります。定年後の継続雇用であるという事情は考慮され得ますが、それだけで一律の減額が当然に認められるわけではありません。職務の内容や責任、異動の範囲がどう変わったのかを整理し、待遇ごとに理由を書き出したうえで、減額幅が大きい場合は専門家に相談してください。
Q. 説明を求められたら、正社員個人の賃金額まで開示する必要がありますか。
個人の賃金額をそのまま開示する必要はありません。比較対象となる通常の労働者の平均額や標準的な額、あるいは賃金の決定基準の違いを示す方法があります。ただし、抽象的に「基準が異なる」とだけ述べるのでは説明になりません。何を根拠にいくらの差が生じているのかが分かる水準で示してください。
Q. 下請の職人や一人親方との待遇差も、この法律の対象ですか。
対象外です。この法律は、自社と労働契約を結んでいる短時間労働者・有期雇用労働者と、自社の通常の労働者との比較を扱います。請負契約の相手方は含まれません。ただし、契約の形式が請負でも実態が労働者と評価される場合は別の問題が生じますので、契約形態の整理は別途行ってください。
Q. 説明義務を果たさなかった場合、罰則はありますか。
待遇差の説明義務については、行政による報告の徴収、助言、指導、勧告の対象とされています。一方、昇給の有無や賞与の有無などの明示義務には過料の定めがあります。どの義務にどの措置が結びつくかは条文ごとに異なりますので、法律の本文で確認してください。
Q. まず何から着手すればよいですか。
手当の一覧を作り、それぞれの趣旨を1行で書くところから始めてください。趣旨が書ければ、支給対象を分けている理由が説明できるかどうかが自然に見えてきます。その次に、賃金台帳で実際の支給実態を突き合わせ、規程と運用のずれを潰します。この2つが終われば、説明を求められたときの回答はほぼ書けます。
出典
- 短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
‹ 労務・法改正の記事一覧に戻る