建設業務への労働者派遣が禁止される範囲と実務
人事ノート建設会社で人手が足りないとき、「派遣で埋められないか」という相談は必ず出ます。しかし建設業務は、労働者派遣法が派遣を行ってはならない業務として明記している分野です。禁止の対象は派遣元だけではなく、受け入れる側にも規制が及びます。ここでは、条文に書かれている範囲を整理したうえで、実務でどう線を引き、何を代わりに使うかを手順の形にまとめます。
禁止の根拠は労働者派遣法の適用除外業務
労働者派遣法は、一定の業務について労働者派遣を行ってはならないと定めています。いわゆる適用除外業務です。建設業務はその一つに位置づけられています。
| 適用除外業務 | 建設会社との関わり |
|---|---|
| 港湾運送業務 | 資材の海上輸送に関わる場面で出てくる |
| 建設業務 | 施工の作業そのもの。本記事の中心 |
| 警備業務 | 現場の交通誘導、出入管理、施設警備 |
| 医療関係業務のうち法令で定めるもの | 建設会社では通常関わらない |
ここで押さえておきたい点が三つあります。
- 禁止は業務単位で判断されます。派遣労働者の雇用形態は関係しません。無期雇用(常用型)の派遣であっても、建設業務に従事させることはできません。
- 紹介予定派遣も労働者派遣の一形態です。「いずれ直接雇用するのだから」という理由で建設業務に受け入れることはできません。
- 医療関係業務には法令で定める例外がありますが、建設業務については、期間や人数で例外を設ける仕組みは設けられていません。
現場の警備は建設業務ではなく警備業務として、別の号で適用除外とされています。交通誘導員を派遣で確保しようとする相談がありますが、こちらも派遣では対応できません。警備業の許可を受けた事業者への発注(請負)が基本になります。
「建設業務」とはどこまでを指すか
条文の定義
労働者派遣法は建設業務を、土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊もしくは解体の作業、またはこれらの準備の作業に係る業務、と定義しています。読むときの要点は次のとおりです。
- 新築だけではありません。改修、修繕、保存、解体も含まれます。維持管理の名目でも、工作物に手を加える作業であれば該当し得ます。
- 「準備の作業」が含まれています。資材の荷下ろし、仮設materialsの設置、片付けといった、作業に付随する行為も対象になり得ます。
- 「作業」に着目しています。作業そのものに従事しない業務は、同じ現場にあっても建設業務には当たらないという整理がされています。
現場にあるが建設業務に当たらないとされる業務
判断の目安を表にします。ただし、最終的な判断は業務の実態で決まります。迷う業務は、自社の判断で押し切らず、所管の労働局に事前に確認してください。
| 業務の例 | 建設業務に当たるかの目安 | 実務での注意点 |
|---|---|---|
| 躯体・仕上げ・設備の施工作業 | 当たる | 派遣は不可 |
| 現場での建設機械の運転・操作 | 当たる | 施工に伴う操作は作業そのもの |
| 資材の荷下ろし、仮設、養生、片付け | 当たる可能性が高い | 条文の「準備の作業」に該当し得る |
| 解体・撤去・アスベスト除去 | 当たる | 破壊・解体の作業として明記 |
| 施工管理(工程、品質、原価、安全の管理) | 作業に従事しないなら当たらないと整理される | 実際は手元作業もしている、という実態があると疑義が生じる |
| 設計、CADオペレーション | 当たらない | 現場常駐が長くなる場合は業務内容を書面で明確に |
| 積算、見積、原価管理 | 当たらない | |
| 本社・現場事務所の一般事務 | 当たらない | 事務所内の書類作成、写真整理など |
| 測量、地質調査 | 個別判断 | 工事の準備作業に当たるかで判断が分かれる |
| 交通誘導、出入管理 | 建設業務ではないが警備業務として別に不可 | 警備業者への請負発注が基本 |
| 竣工後のビル清掃、設備の日常点検 | 当たらない | 工作物に手を加える修理になると別 |
表の中で、実務上いちばんもめるのは施工管理です。名目が施工管理でも、人手が足りない日に墨出しを手伝う、資材を運ぶ、職人と一緒に取り付ける、といった実態があれば、建設業務に従事していると見られる余地が出ます。派遣で施工管理者を受け入れている場合は、業務の範囲を契約書と指示の両方でそろえておく必要があります。
禁止が及ぶのは派遣元だけではない
条文は、派遣元が適用除外業務について労働者派遣を行うことを禁じると同時に、派遣先がその業務について労働者派遣の役務の提供を受けることも禁じています。つまり「派遣会社が送ってきたのだから自社に責任はない」という説明は成り立ちません。
違反した場合に想定される帰結は次のとおりです。
| 区分 | 想定される内容 |
|---|---|
| 派遣元 | 許可の取消しや事業停止などの行政処分、指導 |
| 派遣先 | 行政による指導・助言、勧告、勧告に従わない場合の公表 |
| 双方 | 罰則の定めがあります。法定刑の具体的な内容は条文で確認してください |
| 派遣先 | 労働契約の申込みをしたものとみなされる制度の対象 |
労働契約申込みみなし制度
実務で最も影響が大きいのは、労働契約申込みみなし制度です。適用除外業務への派遣受け入れを含む違法な派遣を受け入れた派遣先は、その時点で、派遣労働者に対し、派遣元との間の労働条件と同じ内容の労働契約の申込みをしたものとみなされます。派遣労働者が承諾すれば、派遣先との間に労働契約が成立します。
- 派遣先が違法であることを知らず、知らなかったことに過失がなかった場合は除かれます。ただし「建設業務は派遣禁止」という基本的な点を知らなかったという主張が、過失なしと評価されるとは限りません。
- みなされた申込みには有効期間が定められています。期間や撤回の可否は条文で確認してください。
- 承諾があれば、人件費だけでなく社会保険や退職金制度の適用など、雇用に伴う負担が一度に発生します。
「現場が忙しい数か月だけ」という短期の判断が、無期の雇用関係につながる可能性がある制度です。受け入れ判断は現場任せにせず、人事部門で止める仕組みにしてください。
派遣が使えない場面で何を選ぶか
建設業務の人手不足に対しては、派遣以外の手段を組み合わせます。それぞれ指揮命令の所在が違うので、そこを軸に整理します。
| 手段 | 雇用主 | 現場で指揮命令する者 | 建設業務での可否 | 主な留意点 |
|---|---|---|---|---|
| 直接雇用(正社員・有期・日雇) | 自社 | 自社 | 可 | 労働条件明示、社会保険、安全衛生教育が前提 |
| 請負(下請契約) | 請負業者 | 請負業者 | 可 | 発注者が直接指示すると偽装請負の疑い |
| 在籍出向 | 出向元(出向先とも労働関係) | 出向先 | 可 | 業として繰り返すと労働者供給に当たり得る |
| 建設業務労働者就業機会確保事業 | 送出事業主 | 受入事業主 | 別の法律に基づく枠組み | 労働者派遣法とは別制度。許可などの要件は所管の公表資料で確認 |
| 有料職業紹介 | 自社(成立後) | 自社 | 可 | 紹介であって派遣ではない。手数料と入社時期の設計 |
出向については、注意点を補足します。労働者派遣法の規制がかかるのは「業として行う」労働者派遣です。グループ会社間の在籍出向のように、雇用の維持や経営指導、技能習得といった目的で、反復継続の意思なく行うものは、一般に派遣には当たらないと整理されています。ただし、手数料を取る、常態的に人を回す、といった実態になると、労働者供給として問題になり得ます。出向契約書と実態をそろえ、目的を説明できるようにしておいてください。
建設業務労働者就業機会確保事業は、建設業の事業主が雇用する労働者を、他の建設業の事業主のもとで就業させる仕組みです。労働者派遣法とは別の法律に基づく制度で、送り出し側・受け入れ側それぞれに要件があります。利用を検討する場合は、制度の要件と手続を所管の公表資料で確認し、必要なら事前に相談してください。
請負と派遣の境目をどう判断するか
建設業務の人手は、実務上そのほとんどが請負(下請契約)で確保されています。ここで問題になるのが、契約書は請負でも実態が派遣になっている、いわゆる偽装請負です。適用除外業務では、偽装請負と評価された時点で、禁止業務への派遣を受け入れたことになります。
判断の基準として、請負と認められるには、請負業者が自ら雇用する労働者の労働力を自ら直接利用していること、請け負った業務を自己の業務として契約の相手方から独立して処理していること、が必要とされる考え方が示されています。具体的な基準の文言は、公表されている区分基準で確認してください。
実務でずれやすいのは次の点です。
| 確認する点 | 請負として整っている状態 | 疑義が生じる状態 |
|---|---|---|
| 作業の指示 | 請負業者の職長・責任者が出す | 元請の社員が個々の作業員に直接指示を出す |
| 出退勤・休憩の管理 | 請負業者が管理する | 元請が出勤簿を付け、残業を命じる |
| 配置・人選 | 請負業者が決める | 元請が「あの人を明日も」と指名する |
| 機械・資材 | 請負業者が用意する、または賃貸借等の契約がある | 無償で借りたまま契約書がない |
| 代金の決め方 | 出来高・工事内容に応じる | 実質的に人工(にんく)単価×人数のみ |
安全衛生や工程調整のための指示は、請負であっても元請が行う必要があります。ここは法令で元請に求められている役割と重なる部分です。安全に関する指示と、作業内容そのものの指揮命令を、誰がどの場面で出しているのかを分けて説明できるようにしておくことが大切です。判断が微妙な現場は、個別に労働局や専門家に相談してください。
受け入れ前に人事が踏む手順
現場から「人を入れたい」と相談が来たときの流れを、そのまま社内手順として使える形にします。
- 依頼内容を業務単位に分解します。職種名ではなく、実際に何をするのかを動詞で書き出します(例:配筋検査に立ち会う、写真を撮る、型枠を運ぶ)。
- 分解した作業を、前掲の表に当てはめます。一つでも建設業務に当たる作業が含まれていれば、派遣は選べません。
- 派遣を提案された場合は、契約書の業務内容欄と、現場での実際の指示内容が一致するかを確認します。一致しない見込みなら受け入れません。
- 請負で対応する場合は、指示系統と人選、機械・資材の扱い、代金の決め方を契約書に落とします。人工単価だけの取り決めになっていないかを見ます。
- 出向で対応する場合は、出向の目的、期間、費用の精算方法を出向契約書に書き、反復継続の実態になっていないかを確認します。
- 現場の職長・所長に、誰が誰に指示を出すのかを事前に共有します。ここを口頭で済ませると、忙しい日に崩れます。
- 就業開始後、一定期間が経った時点で、指示の実態が契約どおりかを現場で確認します。確認した日付と内容を記録に残します。
手順のうち、2と7を飛ばす会社が多いところです。入れる前の判断と、入れた後の実態確認の両方がないと、契約書だけ整っていても説明できません。
よくあるつまずき
- 常用型なら大丈夫という誤解。無期雇用の派遣であっても、建設業務に従事させることはできません。雇用形態ではなく業務で判断します。
- 施工管理として受け入れたが、実態は作業も担当。人手が足りない日の手伝いが常態化すると、名目と実態がずれます。手伝いが発生する前提なら、派遣以外の手段を選んでください。
- 「応援」「手間貸し」の整理がされていない。協力会社間で人を融通する慣行が、書面のないまま続いている例があります。誰が雇用し、誰が指示するのかを整理しないと、労働者供給の問題になり得ます。
- 交通誘導員を派遣で頼もうとする。警備業務も適用除外です。警備業の許可を受けた事業者への請負発注で対応します。
- CADオペレーターの現場常駐が長期化。図面作成から始まっても、現場で測る、立ち会う、手伝うという業務が増えると、建設業務に近づきます。業務内容を定期的に確認してください。
- 派遣会社から「この職種は可能」と言われて鵜呑みにする。最終的な判断の責任は受け入れ側にも及びます。自社で業務を分解して確かめてください。
- 工期末だけの短期受け入れを現場長の判断で実施。みなし制度の対象になれば、短期の判断が長期の雇用関係につながります。受け入れの決裁権限を人事に置いてください。
社内で残しておく記録
監督機関から質問を受けたとき、説明できるかどうかは記録で決まります。最低限、次のものをそろえてください。
| 記録 | 内容 | 保管する部署 |
|---|---|---|
| 業務分解のメモ | どの作業を誰に担ってもらうかを書き出したもの | 人事 |
| 契約書 | 請負・出向・紹介いずれかの契約書と付属書類 | 人事・管理 |
| 指示系統の周知記録 | 誰が誰に指示を出すかを現場に伝えた記録 | 現場・人事 |
| 実態確認の記録 | 就業開始後の確認日と確認内容 | 人事 |
| 相談記録 | 労働局や専門家に確認した内容と回答 | 人事 |
よくある質問
Q. 施工管理技士の資格を持つ人を派遣で受け入れるのは問題ないのですか
資格の有無で判断するのではなく、実際に行う業務で判断します。工程・品質・原価・安全の管理に限られ、施工の作業そのものに従事しないのであれば、建設業務に当たらないという整理がされています。ただし、現場で作業を手伝う実態が生じれば評価は変わります。受け入れる場合は、業務範囲を契約書と現場への指示の両方で明確にし、判断に迷う点は所管の労働局に確認してください。
Q. 派遣会社から提案を受けて受け入れてしまいました。すぐに何をすべきですか
まず、その労働者が実際に行っている作業を書き出し、建設業務に当たるかどうかを確認します。当たる可能性が高い場合は、受け入れの継続を止める判断が必要です。労働契約申込みみなし制度の対象になり得るため、対応方針は自社だけで決めず、労働局や弁護士・社会保険労務士に事実関係を示して相談してください。経緯と判断の記録を残すことも忘れないでください。
Q. グループ会社から出向で現場作業に入ってもらうことはできますか
在籍出向で、出向先が指揮命令を行う形であれば、労働者派遣には当たらないと整理される場合があります。ただし、業として反復継続して人を送る実態になっていると、労働者供給として問題になり得ます。出向の目的、期間、費用の精算方法を契約書に明記し、実態がそれと一致しているかを定期的に確認してください。常態化している場合は、専門家に実態を見てもらうことをおすすめします。
Q. 建設業務労働者就業機会確保事業を使えば、実質的に派遣と同じことができますか
この枠組みは労働者派遣法とは別の法律に基づく制度で、送り出す側・受け入れる側の双方に要件が設けられています。誰でもすぐに使えるものではなく、手続と許可が前提になります。要件や手続の詳細は変わることがあるため、所管する行政の公表資料で最新の内容を確認し、必要に応じて事前に相談してください。
Q. 現場事務所の事務員を派遣で入れることはできますか
書類作成、写真整理、電話対応といった事務は、施工の作業そのものではないため、建設業務には当たらないと整理されています。ただし、人手が足りない日に資材を運ぶ、墨出しを手伝うといった作業が加わると、評価が変わる余地があります。受け入れる場合は、業務内容を契約書に具体的に書き、現場にも「作業は依頼しない」ことを事前に伝えておいてください。
出典
- 労働者派遣法
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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