労務・法改正2026.09.07 公開読了 約8建設タレントサーチ 人事ノート 編集部

建設業の時間外労働の上限規制と人事の実務対応

建設業は2024年4月から時間外労働の上限規制が全面的に適用されました。原則の限度時間、特別条項の上限、災害復旧・復興事業の例外を整理し、36協定の点検から勤怠把握、工程管理までを人事の実務手順に並べ替えて解説します。

施行日
2024.04.01
情報の基準日
2026.09.07

建設業では、時間外労働の上限規制の適用が5年間猶予されていました。その猶予が終わり、2024年4月1日から他の業種と同じ枠組みが適用されています。適用から時間が経った今は、「協定を結んだかどうか」ではなく「協定の枠内で運用できているか」が問われる段階に入っています。

この記事は、厚生労働省が公表している「時間外労働の上限規制」の内容を、人事・労務の実務の順序に並べ替えて整理したものです。数値や仕組みは公表資料に沿って記載し、あいまいな点は「公表資料で確認してください」と書いています。個別の事案の判断は、所轄の労働基準監督署や社会保険労務士、弁護士に相談してください。

1. まず押さえる枠組み

労働時間は、原則として1日8時間・1週40時間が上限です。これを超えて働かせるには、労使で36協定を結び、労働基準監督署に届け出る必要があります。

上限規制の要点は、次の3層で理解すると整理しやすくなります。

  1. 原則の限度時間:36協定で延長できる時間の原則的な上限
  2. 特別条項:臨時的な特別の事情があるときに、原則を超えて延長できる範囲。ただし絶対的な上限がある
  3. 罰則付きの上限:特別条項を結んでも超えられない線

猶予期間中の建設業では、特別条項を結べば実質的に上限がない状態でした。2024年4月以降は、この3層目の線を超えると法違反になります。ここが最大の変化点です。

2. 上限の数値を確認する

原則の限度時間

36協定で延長できる時間外労働の原則は、月45時間・年360時間です。1年単位の変形労働時間制を採用している場合(対象期間が3か月を超えるもの)は、月42時間・年320時間となります。建設業では1年単位の変形労働時間制を使っている会社が少なくありませんので、自社がどちらの数値に当たるかを先に確認してください。

特別条項を結ぶ場合の上限

臨時的な特別の事情があり、労使が合意して特別条項を設ける場合でも、次の線は超えられません。

項目上限休日労働の扱い
時間外労働の年間合計年720時間以内休日労働は含めない
単月の時間外労働+休日労働100時間未満含める
2〜6か月の平均(時間外労働+休日労働)1か月平均80時間以内含める
原則の限度時間(月45時間など)を超えられる回数年6回まで時間外労働のみで判断

実務でつまずきやすいのは、休日労働を含めるかどうかが項目ごとに違う点です。年720時間の計算では法定休日労働を含めませんが、単月100時間未満と複数月平均80時間以内では含めます。集計表を作るときは、時間外労働と法定休日労働を別の列で持ち、判定式を分けてください。

また「複数月平均」は、2か月平均・3か月平均・4か月平均・5か月平均・6か月平均のいずれもが80時間以内である必要があります。単月だけを見て安心しない設計にしてください。年度をまたぐ期間も対象になります。

建設業に残る例外

災害時における復旧・復興の事業については、単月100時間未満と複数月平均80時間以内の規定が適用されません。ただし、年720時間以内と、原則の限度時間を超えられるのは年6回までという部分は適用されます。

この例外は「建設業だから使える」ものではなく、あくまで災害の復旧・復興の事業に従事する場合の取り扱いです。どの工事が該当するかの判断は慎重に行い、該当すると考える場合は根拠を書面で残してください。適用範囲の細部は厚生労働省の公表資料で確認してください。

違反した場合

上限規制に違反した場合には罰則が定められています。罰則の内容と適用の考え方は公表資料で確認してください。加えて、送検事例の公表や、公共工事の入札における評価への影響など、事業面のリスクも生じます。人事としては、罰則の有無以前に「協定の枠を超えない運用ができているか」を経営に説明できる状態を作ることが重要です。

3. 36協定を点検する手順

適用開始から年数が経ち、協定を毎年更新するだけの作業になっている会社もあります。次の順序で点検してください。

手順1:事業場の単位を確認する

36協定は事業場ごとに締結・届出します。建設業では、本社・支店・営業所のほか、一定規模以上の工事現場が独立した事業場として扱われる場合があります。どの単位で協定を結んでいるか、現場ごとの届出が必要な範囲はどこかを整理してください。判断に迷う場合は所轄の労働基準監督署に確認するのが確実です。

手順2:協定の記載事項をそろえる

協定には、対象となる業務の種類、労働者数、延長できる時間、対象期間、有効期間などを定めます。特別条項を設ける場合は、これに加えて次のような事項が必要です。

  • 限度時間を超えて労働させる必要がある具体的な事由
  • 限度時間を超えて労働させる場合の割増賃金率
  • 限度時間を超えた労働者に対する健康福祉確保措置
  • 限度時間を超えて労働させる場合の手続

「具体的な事由」は、恒常的な業務量の多さではなく、臨時的な事情を書きます。「業務多忙のため」といった記載では不十分と指摘される可能性があります。工期の変更、災害への対応、突発的な設計変更など、自社で実際に起きる事象に即して記載してください。

特別条項を設ける場合の届出様式は、通常のものと分かれています。様式の番号と最新の記載例は、厚生労働省の公表資料で確認してください。

手順3:健康福祉確保措置を決める

健康福祉確保措置は、指針に選択肢が例示されています。たとえば、医師による面接指導、深夜業の回数制限、勤務間インターバルの確保、代償休日または特別な休暇の付与、健康診断、連続休暇の取得、相談窓口の設置、配置転換、産業医等による助言指導などです。

協定に書いた措置は、実際に運用する必要があります。「勤務間インターバル」と書いたのに現場で守られていない、という状態は避けてください。運用しやすい措置を選び、記録の残し方まで決めてから協定に書くのが安全です。

手順4:周知と保存

締結した協定は、労働者に周知します。掲示、書面の交付、社内ネットワークでの閲覧などの方法があります。現場に常駐する社員や、直行直帰の社員にも届く方法を選んでください。届出の控えと協定書は、事業場ごとに保存します。

4. 現場運用に落とす

協定を整えても、実際の労働時間が把握できていなければ上限は守れません。建設業では次の論点が実務の壁になりやすいので、順に確認してください。

労働時間の把握

上限規制は、実際の労働時間で判定されます。日報や出勤簿だけで管理している場合、始業前の準備や終業後の片付け、朝礼の時間が抜け落ちていないかを点検してください。複数現場を回る社員や、直行直帰の社員については、把握の方法をルール化しておく必要があります。

移動時間や待機時間が労働時間に当たるかは、指揮命令の有無など個別の事情で判断が変わります。自社の運用に不安がある場合は、実態を整理したうえで専門家に相談してください。

月次のモニタリング

上限規制は「年間で見たら超えていた」では手遅れです。次の指標を月次で出す仕組みを作ってください。

  • 当月の時間外労働時間、当月の法定休日労働時間
  • 当月の時間外+休日労働(100時間未満の判定)
  • 直近2〜6か月の平均(80時間以内の判定)
  • 年度累計の時間外労働(720時間の判定)
  • 原則の限度時間を超えた回数(年6回の判定)

危険水域に入る前にアラートが出る設計にします。たとえば、月45時間を超えた回数が年4回に達した時点で所属長へ通知する、といった運用です。

工程と工期への反映

人事だけで解決できない部分が残ります。工期が短ければ、現場は残業と休日出勤で埋めることになります。上限規制への対応は、受注段階の工期協議、施工計画、休日の設定と一体で進める必要があります。

人事の役割は、時間外労働の実績を部門別・現場別に可視化し、経営会議や工事部門との協議の材料として提出することです。「どの現場で、どの職種が、どの月に上限に近づいたか」を出せると、工程側の議論が動きやすくなります。

対象から外れる人の確認

管理監督者に該当する人は、労働時間の規制の一部が適用されません。ただし、役職名だけでは判断されず、職務内容や権限、待遇の実態で判断されます。実態と合わない運用は、後から大きな是正につながります。

また、請負や一人親方として契約している人が、実態として指揮命令を受けて働いている場合、労働者と判断される可能性があります。上限規制の前提となる「誰が自社の労働者か」の整理は、あわせて点検しておくべき論点です。

5. 関連して確認しておく制度

上限規制と同時に確認しておきたい項目を挙げます。いずれも制度の詳細は公表資料で確認してください。

  • 年次有給休暇の時季指定:年10日以上付与される労働者について、年5日は使用者が時季を指定して取得させる義務があります。
  • 月60時間超の時間外労働の割増賃金:割増率が引き上げられており、中小企業への適用も始まっています。原価計算と就業規則の記載が最新かを確認してください。
  • 労働時間の状況の把握:長時間労働者への医師の面接指導と結びついています。把握方法を規程に落としておくと運用が安定します。

6. 人事の対応チェックリスト

最後に、今期のうちに確認しておきたい項目を並べます。

  • 事業場ごとの36協定の締結・届出状況を一覧化した
  • 有効期間の満了日を管理し、更新の手続を決めた
  • 1年単位の変形労働時間制の採用状況と、対応する限度時間を確認した
  • 特別条項の「具体的な事由」が実態に合っている
  • 健康福祉確保措置を実際に運用し、記録が残っている
  • 時間外労働と法定休日労働を分けて集計できている
  • 複数月平均と年度累計のアラート基準を決めた
  • 災害復旧・復興事業の例外を使う場合の判断根拠を書面化した
  • 管理監督者の範囲を実態で確認した
  • 現場別・職種別の時間外労働実績を工事部門と共有している

上限規制は、採用や定着にも直結します。休日と労働時間の実績は、応募者への説明材料になり、同時に離職の理由にもなります。労務のコンプライアンスと採用力は同じ土台の上にあると考えて、数値を継続的に見える形にしておくことをおすすめします。

出典

  • 厚生労働省「時間外労働の上限規制」

(情報の基準日:2026年9月7日。制度の内容は改正される可能性があります。最新の内容は公表資料で確認してください。)

出典

  • 厚生労働省「時間外労働の上限規制」

本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

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