複数媒体を併用する採用での応募者情報と重複応募
人事ノート複数の求人媒体、人材紹介、自社サイト、リファラルを並行して動かすと、応募者の情報が別々の場所にたまります。そのままにすると、同じ人に別々の担当者から連絡が行く、不採用にした人のデータが誰の管理下にあるか分からない、といった事故が起きます。ここでは個人情報保護法の考え方をふまえ、採用担当者が明日から着手できる順序でまとめます。なお個別の契約や事案の判断は、社内の法務や専門家に確認してください。
併用で起きる問題は、たいてい次の3つ
- 入口の分散:媒体の管理画面、紹介会社からのメール、自社サイトの問い合わせ、現場社員の紹介メモ。保管場所が4つ以上に分かれ、全体を見た人がいない状態になります。
- 重複応募の見落とし:同じ人が別媒体から応募し、別々の担当者が別の選考を進める。日程が二重に入り、条件提示の内容も食い違います。
- 消し忘れ:選考が終わった後も、担当者の端末や個人のメールボックスに履歴書が残ります。退職や異動のたびに、誰も把握していないデータが増えます。
どれも運用の問題に見えますが、個人情報保護法の観点では、利用目的の範囲、安全管理措置、保有期間の管理に直結します。仕組みで止める必要があります。
最初に決めるのは「利用目的」と「保有期間」
利用目的は採用の実態に合わせて書く
個人情報を取り扱うときは、利用目的をできるだけ特定し、取得にあたって本人に通知するか公表することが求められます。採用の場面では、応募フォームの近くや自社サイトの採用ページに、応募者向けの利用目的を掲げるのが実務的です。
書くときのポイントは、実際にやることを漏らさず書くことです。よくあるのは「選考のため」とだけ書いて、次の運用と食い違うケースです。
- 不採用者の情報を一定期間残し、別のポジションで再度声をかける
- グループ会社の求人を案内する
- 入社した場合に人事情報として引き継ぐ
- 応募経路別の歩留まりを集計し、採用計画に使う
これらを行う予定があるなら、利用目的にその旨を含めておきます。後から目的を広げる場合、変更には制限がありますし、当初と関連性のない使い方をするには原則として本人の同意が要ります。最初に広めに、しかし具体的に書いておくほうが安全です。
保有期間は区分ごとに決める
利用目的を達成した個人データは、遅滞なく消去するよう努めることとされています。「いつまで持つか」を決めていないと、この判断ができません。次のように区分して社内規程に落とします。
| 区分 | 保有する範囲 | 期間の決め方 | 期間経過後の扱い |
|---|---|---|---|
| 選考中 | 応募書類一式、面接評価、日程連絡 | 選考終了まで | 下の区分へ移行 |
| 不採用(再応募の案内あり) | 氏名、連絡先、経験職種、不採用理由の要点 | 応募日から一定期間(社内で決定し明示) | 期間満了で削除 |
| 不採用(案内なし) | 応募があった事実と集計用の記号のみ | 短期 | 書類は速やかに削除・返却 |
| 内定辞退 | 氏名、連絡先、辞退時期と理由の要点 | 社内で決定 | 期間満了で削除 |
| 入社 | 人事記録として引き継ぐ | 労務関係の保存義務に従う | 規程どおり |
期間の年数はここでは示しません。他社の慣行ではなく、自社の再応募運用と法定保存の必要性から決めてください。決めた期間は応募者向けの案内にも書くと、問い合わせが減ります。
入口を1本化する手順
媒体を増やしても、社内の保管場所は1つに保ちます。次の順序で進めます。
- 保管場所を1つ決める:採用管理システム、または権限を絞った共有フォルダのどちらかにします。個人のメールボックスと個人端末は保管場所にしません。
- 経路コードを付ける:媒体A、媒体B、紹介会社X、自社サイト、リファラル、といった区分を決め、全応募に必ず付けます。後の重複判定と費用対効果の集計に使います。
- 転記のルールを決める:媒体の管理画面から社内に取り込むのは誰か、いつまでにやるか(例:営業日の午前中に前日分をまとめて)を明文化します。
- アクセス権を割り当てる:人事全員に全件を見せる必要はありません。担当ポジション単位、または職務単位で権限を分けます。閲覧できる人の一覧を作り、異動と退職のたびに更新します。
- 持ち出しの扱いを決める:面接官へ履歴書を渡す方法(印刷可否、返却先、面接後の回収)を決めます。現場の所長が面接に入る建設業では、ここが最も抜けやすい部分です。
- 削除の担当と時期を決める:月に一度、保有期間を過ぎたデータを確認して削除する担当者を決めます。担当が1人だと止まるので、代行者も決めます。
重複応募をどう見つけ、どう扱うか
判定のキーを先に決める
人の目で気づくのを待つと必ず漏れます。取り込み時に機械的に照合する項目を決めます。
| 判定キー | 一致したときの扱い | 注意点 |
|---|---|---|
| 電話番号 | 重複の可能性が高い。要確認 | 家族と共有している場合がある |
| メールアドレス | 重複の可能性が高い。要確認 | 経路ごとに使い分ける人がいる |
| 氏名+生年月日 | ほぼ重複と判断 | 生年月日を取得していない媒体もある |
| 氏名+直近の勤務先 | 重複の疑いとして人が確認 | 同姓同名に注意 |
| 保有資格の番号 | 補助的に使用 | 取得目的の範囲内かを確認する |
判定のために新たな項目を集めるのは本末転倒です。すでに取得している範囲で、どのキーを使うかを決めてください。
重複が見つかったときの手順
- 応募日時、経路、選考の進み具合を並べて一覧にします。
- 選考の窓口を1つに決めます。原則は先に応募のあった経路とし、例外を認める場合は基準を明文化します。
- 本人に連絡し、どの経路の話として進めるかを伝えます。黙って片方を止めると、応募者は「連絡が来なくなった」と受け取ります。
- 止めるほうの経路には、選考を進めない旨を速やかに伝えます。
- 判断の理由と連絡日を記録に残します。後で費用の話になったとき、記録がないと説明できません。
人材紹介と自社応募が重なったとき
手数料の帰属は、紹介会社との契約書の定めによります。法律で一律に決まるものではありません。契約に「重複応募の判定基準」「有効期間」「通知の方法と期限」が書かれているかを、媒体を増やす前に確認してください。書かれていない場合は、覚書で補うほうが後の争いを防げます。判断に迷う事案は、担当部門だけで決めず、契約の所管部門に上げる運用にしておきます。
第三者提供・委託・共同利用の区別
併用時に最もあいまいになるのがここです。区別を誤ると、同意なしに外部へ情報を渡したことになりかねません。
| 類型 | 採用での例 | 求められる主な対応 |
|---|---|---|
| 委託 | 採用管理システムの利用、書類の電子化を外部に頼む | 委託先を適切に監督する。契約で取扱いの範囲と安全管理を定める |
| 共同利用 | グループ会社と応募者情報を共有して選考する | 共同利用する旨、項目、範囲、目的、管理責任者をあらかじめ本人に通知または公表する |
| 第三者提供 | 上記に当たらない形で外部へ渡す | 原則として本人の同意が必要。記録の作成が求められる場合がある |
グループ採用で子会社にも紹介する運用は、共同利用の枠組みを整えるか、個別に同意を得るかを先に決めてください。「同じグループだから問題ない」という理解は誤りのもとです。
また、外国にある事業者のサービスに応募者情報を保管する場合は、追加の対応が必要になることがあります。導入前に、保管場所がどこかを提供元に確認してください。
集めてよい情報とそうでない情報
応募者の情報のうち、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴などは要配慮個人情報にあたり、取得には原則として本人の同意が必要です。採用の場面では、次の点に注意します。
- 面接での質問が、本人の思想や家族の職業に踏み込んでいないか
- 健康状態の確認が、業務上必要な範囲にとどまっているか
- リファラルで紹介者から聞いた事情を、本人の同意なく記録に残していないか
建設業では高所作業や夜間作業など、健康面の確認が必要な職種があります。それでも、聞く理由と使う範囲を本人に説明したうえで、必要最小限にとどめる姿勢が要ります。詳細な線引きは、個人情報保護委員会の公表資料で確認してください。求職者の個人情報については職業安定法にも定めがあります。あわせて公表資料を確認してください。
開示や削除の求めがあったときの手順
応募者から「提出した書類を返してほしい」「登録を消してほしい」と言われることがあります。保有個人データについては、本人から開示、訂正、利用停止などを求められる仕組みが法律で定められています。次の形で受けられるようにしておきます。
- 受付の窓口(部署名とメールアドレス)を採用ページに明記します。
- 受け付けたら、受付日と内容を記録します。
- 本人確認の方法を決めておきます。過剰な書類を求めないようにします。
- 社内のどこに当該データがあるかを、経路コードから追跡します。ここで保管場所が1本化されていない会社は対応できません。
- 対応した内容と日付を本人に回答し、記録に残します。
削除の求めに応じたのに、面接官の端末に印刷物やファイルが残っていた、という事故が最も多い形です。削除は保管場所だけでなく、派生した複製まで含めて確認します。
漏えいなどが疑われたときの初動
個人データの漏えい、滅失、毀損などが発生し、個人の権利利益を害するおそれが大きい場合には、個人情報保護委員会への報告と本人への通知が求められます。報告の期限や様式は定められていますので、具体的な日数は公表資料で確認してください。社内では次を先に決めておきます。
- 一次連絡先(誰に、何分以内に連絡するか)
- 事実確認の担当(対象者数、項目、原因)
- 外部への連絡を判断する責任者
- 応募者への説明文の雛形
メールの宛先間違いによる応募者情報の送信は、実際に起きやすい事故です。複数媒体を扱うと一斉送信の機会が増えるため、宛先の一括入力を禁止するなどの運用ルールを先に置いてください。
よくあるつまずき
- 面接官が履歴書を持ち帰る:現場での面接後、車内や事務所の机に書類が残ります。面接シートを渡す際は、回収して人事へ戻すまでを一連の手続きにします。
- 媒体の管理画面を退職者の権限のまま放置:媒体側の利用者一覧は、社内の権限管理とは別です。四半期に一度は媒体ごとに見直します。
- 紹介会社への返信に他の応募者の情報が混じる:転送で連絡すると起きます。応募者ごとに新規メールで返信するルールにします。
- 不採用の理由を書きすぎる:主観的な評価や健康状態の推測を記録に残すと、開示請求時に説明が難しくなります。事実と基準への当てはめだけを書きます。
- 「まだ選考中」と「終了」の区別がない:終了処理をしないと保有期間の起算ができません。選考終了の入力を必須にします。
- リファラルの情報が個人のやり取りのまま:社員が本人の同意なく履歴書を人事に転送していないか確認します。応募の意思と情報提供の同意を、本人から取る流れにします。
明日からのチェックリスト
- 採用ページに、応募者向けの利用目的が掲示されているか
- 保有期間が区分ごとに決まり、規程に書かれているか
- 応募情報の保管場所が1つに定まり、権限一覧が最新か
- 全応募に経路コードが付いているか
- 重複判定のキーと、窓口を1つにする基準が決まっているか
- 紹介会社との契約に、重複応募の扱いが書かれているか
- 委託、共同利用、第三者提供の区別が整理されているか
- 開示や削除の求めを受ける窓口が公開されているか
- 漏えい時の一次連絡先が決まっているか
媒体を増やす判断そのものは採用戦略の問題です。ただ、増やす前にこの9項目が埋まっているかを確認してください。埋まっていないまま経路だけ増やすと、応募が増えた分だけ管理が崩れます。
出典
- 個人情報保護法
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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