職業安定法で見直す求人票の書いてはいけない表現
人事ノート求人票の文言は、採用担当者の裁量で自由に決められるものではありません。職業安定法は、求人情報の表示について求人者(募集を行う企業)に義務を課しています。表現をひとつ間違えると、応募者との認識のずれ、内定辞退、入社後すぐの離職につながります。行政の指導対象になることもあります。
この記事では、職業安定法の枠組みを実務の順序に並べ替えて、建設・不動産の求人票で起きやすい表現の問題と、その直し方を整理します。労働条件の明示項目そのものについては別記事で扱っているため、ここでは「表現の作り方」に絞ります。
求人票を点検する二つの軸
求人票の文言は、大きく二つの規定で縛られます。
| 軸 | 規定の内容 | 求人票での意味 |
|---|---|---|
| 的確な表示 | 求人情報などについて、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしてはならない。情報を正確かつ最新の内容に保つ措置をとる | 事実と違うこと、事実だが誤読させる書き方を避ける |
| 均等待遇 | 人種、国籍、信条、性別、社会的身分、門地、従前の職業、労働組合の組合員であることを理由とする差別的取扱いの禁止 | 属性による絞り込みを求人票に書かない |
的確な表示の規定は、令和4年の改正で設けられ、2022年10月1日から施行されています。対象は募集する仕事の内容や労働条件だけではありません。自社に関する情報や、事業の実績に関する情報も含まれます。建設会社であれば、施工実績、元請比率、受注先の名称、創業年、社員数といった記載も対象になります。「実際より大きく見せる」書き方は、労働条件でなくても問題になり得ます。
なお、条文の番号は改正のたびに移動することがあります。社内規程や研修資料に条番号を書き込むときは、必ず現行条文で確認してください。
誤解を生じさせる表示になりやすい書き方
「嘘は書いていない」求人票でも、読み手が別の意味に受け取る書き方は避ける必要があります。建設・不動産の求人で頻出するものを整理します。
| よくある表現 | どこが問題か | 書き換えの方向 |
|---|---|---|
| 月給35万円以上 | 固定残業代や現場手当を含んだ額なのに、基本給と読まれる | 基本給、固定残業代の金額と対応時間数、超過分の追加支給を分けて書く |
| 年収1000万円も可能 | 歩合の最高実績を上限として示し、平均と乖離している | モデル年収の前提(経験年数、成約件数など)を添える。実績値なら対象人数を示す |
| 土日休み | 現場稼働に合わせて土曜出勤があり、実態は4週6休 | 年間休日数と休日の取り方(4週6休、隔週土曜出勤など)を書く |
| 残業ほぼなし | 繁忙期や竣工前は大幅に増える | 月平均の時間外労働時間と、繁忙期の目安を書く |
| 転勤なし | 転居はないが、現場の異動で通勤先が変わる | 就業場所と、その変更の範囲を書き分ける |
| 正社員募集 | 実際は有期の契約社員、または試用期間中は別契約 | 契約期間の有無、試用期間中の労働条件を明記する |
| 直行直帰OK | 実態は始業前の資材置場集合が必要 | 所定労働時間の起点と、移動時間の扱いを書く |
| 資格取得支援あり | 費用負担の条件(合格時のみ、在籍年数など)が不明 | 対象資格、負担割合、条件を書く |
| 大手ゼネコンの案件多数 | 取引実態と異なる、または常駐先を自社案件のように見せている | 元請、下請、常駐のいずれかを明示する |
書き換えの考え方は共通しています。**幅のある数字は前提を書く。含んでいるものは中身を分ける。例外があるものは例外を書く。**この三つです。
募集を行う企業の名称を明らかにしないまま条件だけを掲載する形も、応募者に誤解を与えます。求人媒体の仕様上、社名非公開で出す場合は、少なくとも社内で「どの募集がどの条件で出ているか」を突き合わせられる状態にしておいてください。
属性による絞り込みは書かない
応募者の属性に触れる表現は、職業安定法の均等待遇に加え、年齢や性別については別の法律でも規制があります。年齢制限は原則として禁止され、限られた例外事由に該当する場合のみ認められます。性別による募集の制限も、原則として認められません。例外の範囲は所管省庁の公表資料で確認してください。ここでは求人票の書き方だけを示します。
| 求人票の記載 | なぜ問題になり得るか | 代わりに書けること |
|---|---|---|
| 若手が活躍中の職場、20代中心 | 年齢による絞り込みと受け取られる | 平均年齢を事実として書くにとどめ、応募資格には年齢を書かない |
| 体力に自信のある方 | 年齢や性別の絞り込みの言い換えと見られる恐れ | 実際の作業内容(1回◯kgの資材運搬あり、高所作業ありなど)を書く |
| 男性が活躍する現場です | 性別による絞り込みと受け取られる | 更衣室や仮設トイレの整備状況など、事実の設備情報を書く |
| 日本語ネイティブの方 | 国籍による絞り込みと見られる恐れ | 業務上必要な日本語能力を、場面で示す(施工図の読解、元請との打合せなど) |
| 世帯主の方、扶養家族のいない方 | 社会的身分や性別の絞り込みにつながる | 記載しない |
| 前職が同業の方限定 | 従前の職業による取扱いにあたる恐れ | 必要な経験を業務内容で書く(RC造の施工管理経験3年以上など) |
応募資格に書けるのは、業務の遂行に必要な資格、免許、経験です。建設であれば施工管理技士の級、玉掛けや足場の特別教育・技能講習の修了、車両系建設機械の資格、運転免許の種類などが該当します。不動産であれば宅地建物取引士の登録の有無などです。CCUS の技能者レベルを応募条件に使う場合は、レベルの数字だけを書くと応募者が判断できません。「レベル3以上、または同等の実務経験」といった形で、代替の判断基準を添えてください。
情報を正確かつ最新の内容に保つ
的確な表示の義務には、掲載後の管理も含まれます。公開したまま放置された求人票は、それ自体が誤解を生む表示になります。
実務では次の運用を決めておいてください。
- 募集を終了したら、速やかに掲載を終了する。自社サイト、求人媒体、紹介会社への依頼のすべてが対象です。担当者を一人決め、終了の連絡先一覧を作っておきます。
- 労働条件を変更したら、掲載中の求人票を更新する。賃金改定、休日数の変更、就業場所の追加はすべて対象です。
- 掲載を続ける求人には、いつ時点の情報かが分かる状態を保つ。媒体側に更新日の表示機能がある場合は使います。
- 求人票の版を社内で管理する。どの版をいつ、どこに出したかを記録します。応募者から「掲載内容と違う」と指摘されたとき、確認できるようにするためです。
公開前チェックの手順
社内でそのまま使える形にすると、次の順序になります。
- 原案作成(採用担当、公開希望日の10営業日前まで):募集する部署から、業務内容、就業場所、想定年収、休日、残業の実績値を聞き取ります。聞き取りは口頭で終わらせず、書面またはメールで残します。
- 数字の裏取り(人事、7営業日前まで):月給の内訳、固定残業代の時間数、年間休日数、直近6か月の時間外労働の実績を、給与データと勤怠データで確認します。募集部署の体感値をそのまま載せないことが要点です。
- 表現の点検(人事、5営業日前まで):本記事の二つの表を使い、誤解を生じさせる表現と属性による絞り込みを潰します。
- 決裁(部門長・役員、3営業日前まで):待遇の記載は人件費に直結します。決裁者を明確にしておきます。
- 媒体への入稿と控えの保存(採用担当、公開日):入稿後の実際の表示画面を保存します。媒体側の文字数制限で語尾が削られ、意味が変わることがあるためです。
- 公開後の棚卸し(採用担当、毎月1回):掲載中の全求人について、条件の変更と募集終了の有無を確認します。
よくあるつまずき
現場ごとに条件が違うのに、求人票を1本に束ねる。 施工管理の募集で、A現場は月20時間、B現場は月45時間の残業という状態を「月平均30時間程度」とだけ書くと、配属先によって実態が大きく違います。幅で書き、配属によって差があることを明示してください。
固定残業代の時間数を書かない。 金額だけを書き、対応する時間数と、超過分を別途支給する旨を落とすケースが多く見られます。三点セットで書くことを社内ルールにしてください。
協力会社への常駐を自社勤務のように書く。 就業場所とその変更の範囲は、応募者にとって重要な判断材料です。常駐や出向がある場合は、その可能性を書きます。契約形態そのものの適法性は別問題ですので、判断に迷う場合は専門家に相談してください。
求人票と労働条件通知書の条件がずれる。 面接での交渉結果を反映するのは問題ありませんが、求人票の内容より不利な条件で通知する場合は、その理由と変更点を応募者に説明し、記録を残してください。
紹介会社や媒体の担当者が作った原稿をそのまま承認する。 表示の義務を負うのは募集を行う企業です。原稿を作ったのが社外でも、責任は自社に残ります。承認前に必ず人事が数字を確認してください。
過去の求人票を複製して日付だけ変える。 賃金改定や休日数の変更が反映されないまま公開される典型例です。複製は禁止し、必ず最新データで作り直す運用にしてください。
社内の役割分担
| 役割 | 担当 | 主な作業 |
|---|---|---|
| 実務内容の提供 | 募集部署の管理職 | 業務内容、必要資格、配属先の候補を書面で提出 |
| 数字の確定 | 人事・給与担当 | 賃金内訳、固定残業代、年間休日、残業実績の確認 |
| 表現の点検 | 人事・採用担当 | 誤解を生む表現と属性表現の点検、控えの保存 |
| 決裁 | 部門長・役員 | 待遇と募集人数の承認 |
| 掲載後の管理 | 採用担当 | 月次の棚卸し、募集終了時の掲載停止 |
違反した場合に想定されること
職業安定法には、行政による指導や助言、必要な場合の措置、および虚偽の広告や虚偽の条件提示に対する罰則の定めがあります。具体的な要件と内容は条文で確認してください。個別の事案が違反にあたるかどうかの判断は、労働局や弁護士など専門家に相談することをおすすめします。
実務上の損失は、法的な制裁だけではありません。求人票と実態の差は、入社後の早期離職として跳ね返ります。建設・不動産の採用は紹介会社や現場の口コミを通じた人の流れが大きく、一度「条件が違う会社」と受け取られると、その後の採用単価に長く影響します。求人票の表現を正確にすることは、法令対応であると同時に、採用コストの管理でもあります。
出典
- 職業安定法
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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