内定辞退を減らす 内定から入社までの人事の実務
人事ノート内定を出した時点で採用活動は終わりません。建設・不動産の中途採用では、内定通知から入社日までに数週間から数か月の空白ができます。この期間に、現職の慰留、他社の選考結果、家族の反対、配属先への不安が重なります。人事がこの期間に何をどの順で動かすかで、入社率は変わります。
この記事では、内定から入社までを4つの区間に分け、区間ごとに「何を・いつまでに・誰が」を決める形で整理します。あわせて、厚生労働省「公正な採用選考の基本」の考え方に照らして、内定後のやり取りで越えてはいけない線も確認します。
まず、自社のどこで辞退が起きているかを特定する
対策を打つ前に、辞退の発生地点を分けて数えます。地点が違えば打ち手が違うためです。過去1年分の内定者名簿に、次の区分を1列足すだけで始められます。
| 発生地点 | 典型的な状況 | 主な原因として疑うもの |
|---|---|---|
| 内定通知から承諾前 | 返答期限を延ばしたい、連絡が途切れる | 他社の選考が進行中、条件の詰めが不十分 |
| 承諾直後(おおむね2週間以内) | 承諾後すぐに撤回の連絡 | 現職の慰留、家族の反対、条件の理解違い |
| 退職交渉の期間中 | 退職日が決まらない、入社日の延期要請 | 引継ぎの長期化、就業規則上の退職手続 |
| 入社日の直前 | 直前の辞退、当日不着 | 空白期間の放置、配属先への不安 |
区分ごとに件数を出すと、優先して直す場所が見えます。承諾前の離脱が多ければ条件提示と意思決定支援の問題です。承諾後の離脱が多ければ、連絡設計と配属情報の開示が足りていない可能性があります。
内定通知から入社日までの標準スケジュールを決める
担当者ごとにやり方が違うと、辞退の原因が分析できません。次の形で社内の標準を1枚に決めます。日数は自社の平均的な入社までの期間に合わせて調整してください。
| 区間 | 期間の目安 | 人事が行うこと | 主担当 |
|---|---|---|---|
| 第1区間 内定通知 | 最終面接後3営業日以内 | 電話で通知、書面を送付、返答期限を合意 | 採用担当 |
| 第2区間 承諾まで | 通知から7日程度 | 条件の質問対応、現場見学、配属予定の説明 | 採用担当と配属部門長 |
| 第3区間 退職交渉 | 承諾から30日程度 | 退職手続の相談、入社日の確定、書類案内 | 採用担当 |
| 第4区間 入社準備 | 入社日まで | 初日の案内、必要資格と教育の確認、備品手配 | 人事と配属部門 |
区間ごとに「この区間の終わりに何が確定していれば正常か」を決めます。第1区間の終わりは返答期限の合意、第2区間の終わりは承諾書の受領、第3区間の終わりは退職日と入社日の確定、第4区間の終わりは初日の集合場所と持ち物の連絡完了です。確定していない内定者を毎週の会議で拾います。
第1区間 内定通知でそろえる書面
口頭の内定通知だけで数日置くと、その間に他社が書面を出します。通知の当日か翌営業日には書面を届けます。
書面は用途が違うものを混ぜないことが大切です。
| 書面 | 目的 | 押さえる点 |
|---|---|---|
| 内定通知書 | 採用の意思を伝える | 入社予定日、返答期限、取消事由の有無 |
| 労働条件の明示書面 | 契約内容を確定させる | 業務内容、就業場所、労働時間、賃金、契約期間などを法令に沿って明示 |
| 内定承諾書 | 本人の意思を残す | 署名日、提出先、提出期限 |
労働条件の明示は法令で必要な事項が定められています。明示すべき事項は改正されることがあるため、自社の様式が最新かどうかを、公表資料で確認してください。特に就業場所と業務の変更の範囲は、建設業では現場異動が前提となるため、記載の粒度を社内で統一しておく必要があります。
なお、内定は裁判例において労働契約が成立したものと扱われる場合があります。企業側からの取消しは自由にはできないと考えるのが安全です。取消事由を書面に書く場合も、実際に取消しを検討する場面では、個別に専門家へ相談してください。
第2区間 承諾までの7日間の動かし方
この区間は、本人が他社と比較し、家族と話す期間です。人事の仕事は説得ではなく、判断材料を過不足なく渡すことです。次の順序で進めます。
- 通知の電話で、返答期限を本人と合意します。一方的に指定せず、「いつまでなら判断できますか」と聞き、日付を決めます。
- 書面の送付後、到着確認の連絡を入れます。ここで賃金の内訳、賞与の考え方、残業代の計算方法について、質問がないかを尋ねます。
- 配属予定の部門長との面談を設定します。所要30分で構いません。誰の下で働くかが分かることが、入社後の想像につながります。
- 可能であれば現場見学を提案します。稼働中の現場が難しい場合は、事務所と、直近で担当する工種の写真や工程表で代替します。
- 家族の同意が必要そうな場合は、持ち帰って説明できる資料を渡します。勤務地、休日、転勤の可能性、住宅補助の有無を1枚にまとめた資料が有効です。
- 期限日の前日までに、返答の見込みを確認します。迷っている場合は理由を聞き、条件の再検討が必要か、社内で判断します。
- 承諾を受けたら、その場で次の連絡日を伝えます。空白を作らないためです。
条件の再提示は「いつ・誰が決めるか」を先に決める
迷っている理由が賃金の場合、その場で担当者が答えられないと、判断が数日遅れます。あらかじめ「基本給の上限」「決裁者」「回答までの日数」を決めておきます。上限を超える要望には、超えられない理由と、代わりに提示できるもの(資格手当、昇給の時期、住宅の支援など)を用意します。
第3区間 退職交渉を支える
建設・不動産では、担当している現場の区切りまで退職を認めないという慰留がよく起こります。ここで入社日が遅れ、そのまま辞退につながります。
人事ができることは3つです。
- 退職の申し出は書面で行い、控えを残すよう案内します。口頭のみだと、後で言った言わないになります。
- 就業規則上の退職の申し出期限を、本人に確認してもらいます。会社ごとに定めが違うため、期日から逆算して申し出日を決めます。
- 入社日に幅を持たせられるなら、あらかじめ許容範囲を伝えます。「最大で1か月まで調整可能」と示すと、本人が交渉しやすくなります。
引継ぎの長期化を理由に入社日が動く場合は、変更後の入社日を書面で確定させます。あいまいなまま放置すると、次の連絡のきっかけを失います。
第4区間 入社日までの連絡設計
承諾から入社までが長いほど、辞退は増えます。連絡の頻度と担当を先に決め、担当者の気分に任せないことが要点です。
| 時期 | 連絡の内容 | 手段 | 担当 |
|---|---|---|---|
| 承諾の翌日 | 承諾の礼、今後の予定の共有 | 電話 | 採用担当 |
| 承諾から1週間 | 提出書類の案内、退職手続の状況確認 | 電子メール | 採用担当 |
| 入社1か月前 | 配属先の確定、上長の氏名、初日の流れ | 電話 | 配属部門長 |
| 入社2週間前 | 集合場所、持ち物、服装、保護具の準備 | 書面と電子メール | 人事 |
| 入社3日前 | 最終確認、当日の連絡先 | 電話 | 採用担当 |
建設業で先回りしておきたい確認事項
- 保有資格と免許の写しを早めに受け取り、配属先の要件と照合します。不足があれば、入社後の取得計画を伝えます。
- 現場入場に必要な健康診断や安全衛生教育の要否を、配属先と確認します。入社初日に現場へ入れないと、本人の不安が増します。
- 技能者としての採用の場合は、CCUS の登録状況を確認します。未登録なら、入社後の手続の担当者を決めておきます。
- 社有車の運転が必要な職種では、免許の有無と条件を確認します。
- 転居を伴う場合は、住居の手配時期と費用負担の範囲を、承諾の段階で文書にします。
公正な採用選考の観点で越えてはいけない線
内定後は距離が近くなり、雑談の延長で立ち入った質問が出やすくなります。厚生労働省「公正な採用選考の基本」では、本人に責任のない事項や、本来自由であるべき事項を採用の判断に用いないという考え方が示されています。内定後のやり取りでも、この線は変わりません。
- 家族の職業や収入、家庭環境を尋ねない。転居の相談は、本人の希望と会社の支援内容の話にとどめます。
- 本籍や出生地、生活環境を尋ねない。
- 思想、信条、宗教、支持政党、労働組合に関することを尋ねない。
- 健康に関する情報は、業務上の必要性の範囲で、目的を伝えたうえで扱います。安易に病歴を聞き出さないでください。
入社準備の書類で家族の情報が必要になる場合(扶養の手続など)は、目的を明示し、入社が確定した後の手続として案内します。選考や内定の判断材料ではないことを、本人にも担当者にも明確にしてください。
よくあるつまずき
通知の電話だけで書面を出さない。 数日以内に他社が書面を出すと、比較の土俵に載りません。通知と書面はセットで動かします。
返答期限を一方的に短く切る。 期限が短いほど承諾が早まるとは限りません。判断を急がされたという印象が残り、承諾後の撤回につながります。期限は合意で決めます。
配属先が入社直前まで決まらない。 「入ってから決めます」は、本人にとって最も不安な回答です。確定できない場合でも、候補となる現場の種類、規模、勤務地の範囲、上長の候補までは伝えます。
承諾後に連絡が途切れる。 採用担当が次の選考で忙しくなり、1か月連絡がない状態が起きます。連絡日を採用管理の予定に登録し、担当を割り当てます。
現場側と人事で説明が食い違う。 残業の実態、休日、転勤の可能性について、人事の説明と現場の説明がずれると、一気に信頼を失います。説明する内容を1枚にまとめ、面談に出る全員が同じものを見ます。
入社初日の段取りが決まっていない。 初日に受け入れ担当が不在、席がない、保護具がないといった状態は、早期離職の引き金になります。前日までに受け入れ側の準備状況を人事が確認します。
明日から使えるチェックリスト
- 過去1年の辞退を、発生地点の4区分で数える。
- 内定通知書、労働条件の明示書面、内定承諾書の3点を最新の様式にそろえる。
- 通知は最終面接後3営業日以内、電話と書面の両方で行うと決める。
- 返答期限は本人との合意で決め、記録に残す。
- 承諾までに、配属予定の部門長との面談を必ず1回入れる。
- 勤務地、休日、転勤の可能性、住宅の支援をまとめた1枚の資料を作る。
- 承諾から入社日までの連絡日を、日付と担当者つきで表にする。
- 資格、健康診断、安全衛生教育、CCUS の登録状況を、入社1か月前までに確認する。
- 入社2週間前に、集合場所、持ち物、服装、当日の連絡先を書面で送る。
- 面談に出る全員に、公正な採用選考の考え方と、尋ねてはいけない事項を共有する。
効果をどう測るか
施策の良し悪しは、感覚ではなく数字で見ます。次の3つを月次で記録すれば足ります。
| 指標 | 計算のしかた | 見るポイント |
|---|---|---|
| 内定承諾率 | 承諾者数 ÷ 内定者数 | 第1区間と第2区間の設計が効いているか |
| 承諾後の辞退率 | 承諾後の辞退者数 ÷ 承諾者数 | 第3区間と第4区間の連絡設計が効いているか |
| 内定から入社までの日数 | 入社日 − 内定日の平均 | 長い場合は連絡の回数を増やす必要があるか |
数字が動かないときは、辞退した本人に理由を尋ねる短い連絡を入れます。責める形にならないよう、「今後の改善のために」と前置きし、答えたくなければ答えなくてよいと伝えます。集まった理由は区分ごとに集計し、翌四半期の設計に反映します。
内定辞退の対策は、特別な施策ではなく、区間ごとの段取りの積み上げです。誰が担当しても同じ手順で動く状態を作ることが、最も効きます。なお、内定の取消しや入社日の変更など、契約に関わる判断が必要な場面では、個別の事情によって結論が変わります。判断に迷う場合は、社会保険労務士や弁護士に相談してください。
出典
- 厚生労働省「公正な採用選考の基本」
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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