採用計画を立てる時期と年度内の組み立て方
人事ノート採用計画は「作った日」ではなく「決裁が下りた日」から動く
採用計画は、期の始まりに合わせて作るものだと考えられがちです。ただ実務では、計画を作った日よりも、決裁が下りた日のほうが効きます。決裁が下りるまで、求人媒体の契約も、人材紹介会社への依頼も、求人票の書き直しも動かせないからです。
そこで最初に決めるのは採用人数ではありません。決裁が下りる日を先に置き、そこから逆算します。4月入社を狙うのに、2月に決裁を取っていては間に合いません。この記事は、年度単位で採用計画を組み立てる手順を、月ごとの動きに落として説明します。市場の動きを確かめる材料としては、厚生労働省「雇用動向調査」を使います。
前提として押さえる三つの周期
採用計画は、性質の違う三つの周期の上に載っています。この三つがずれていることを理解しないまま計画を作ると、「計画どおり募集したのに人が採れない」という結果になります。
1. 会社の年度
事業計画、予算、決裁、人事評価、昇給がこの周期で回ります。3月決算であれば、事業計画の素案は前年の秋には固まり始めます。採用計画は事業計画の一部として決裁を受ける会社が多く、事業計画の素案が出た時点で人事が関与できないと、後から人数を足す交渉になります。
2. 現場の繁忙
建設業では、年度末に向けて工期が集中する現場が少なくありません。繁忙期は、面接官である現場責任者の時間が取れません。受け入れ側の教育工数も取れません。つまり、繁忙期に入社日を設定すると、採用はできても定着で失敗します。自社の過去の工程表から、面接官が動ける月と、受け入れに手が回る月を先に洗い出しておきます。
3. 労働市場の動き
人がいつ動くかは、自社の都合とは無関係です。厚生労働省「雇用動向調査」は、産業別の入職者数と離職者数を調べた統計で、暦年を上半期と下半期に分けた集計も含まれます。転職入職者がどの経路で入職したかの集計もあります。
使い方は次のとおりです。
- 建設業の入職と離職が、上半期と下半期のどちらに寄っているかを確かめる。自社の募集開始時期がその動きとずれていないかを見る
- 転職入職者の入職経路の構成を見て、自社が使っている手法の配分が市場の動きから大きく外れていないかを確かめる
- 離職理由の構成を見て、自社の退職見込みを立てるときの参考にする
注意点があります。この調査は暦年で区切られています。4月始まりの年度とはずれます。そのまま自社の年度計画に貼り付けず、「上半期」「下半期」がいつからいつまでを指すのかを、公表資料の定義で必ず確認してください。数値を引用するときは、調査年と表番号まで控えておくと、社内で聞かれたときに説明できます。
年度カレンダー 何を、いつまでに、誰が
3月決算・4月起点の会社を例にした標準形です。自社の決算月に合わせて月をずらして使ってください。
| 時期 | 人事がやること | 主に決める人 |
|---|---|---|
| 前年10〜11月 | 事業計画の素案を入手し、職種別の要員の粗い見立てを作る | 経営企画・人事 |
| 前年12月 | 部門ヒアリング。欠員補充と増員を切り分ける | 人事・各部門長 |
| 前年1月 | 採用計画案と予算案を作成。手法別の配分を決める | 人事 |
| 前年2月 | 経営会議で決裁。媒体・紹介会社との契約条件を確認 | 経営 |
| 前年3月 | 求人票を書き直す。面接官の日程枠を押さえる。入社受け入れ準備 | 人事・部門長 |
| 4〜6月 | 募集開始。第1四半期の実績を月次で追う | 人事 |
| 7月 | 第1四半期の振り返り。歩留まりを実績値に置き換える | 人事・部門長 |
| 8〜9月 | 下半期の目標と手法配分を修正。追加予算が要るなら申請 | 人事・経営 |
| 10〜12月 | 下半期の募集。並行して翌年度の素案づくりに入る | 人事 |
| 1〜3月 | 年度末の繁忙を考慮し、入社日と受け入れ担当を確定させる | 人事・部門長 |
この表で大事なのは、10月から3月までの列が二重になっている点です。当年度を回しながら翌年度を作ります。片方だけを見ていると、毎年2月に慌てて計画を作ることになります。
採用計画を作る八つの手順
- 期首在籍と退職見込みを職種別に出します。 定年到達者、既に申し出のある退職者、更新期限のある契約社員を先に確定させます。そのうえで、過去3年の自社の離職実績から見込みを置きます。ここは推計になるので、幅を持たせて上限と下限の2本立てにします。
- 事業計画から必要人員を職種別に出します。 受注予定の工事件数、稼働現場数、必要な配置技術者数から積み上げます。施工管理であれば、専任配置が必要な現場の数が効きます。
- 欠員補充と増員を分けます。 欠員補充は「いつ欠員が出るか」で入社時期が決まります。増員は「いつ現場が始まるか」で決まります。この二つは締切が違うので、必ず別の行に書きます。
- 採用以外で埋まる分を引きます。 配置転換、社内育成、外注、業務の見直しで埋められる分を先に引きます。この工程を飛ばすと、採用人数が過大になり、決裁で削られます。
- 残った数を月次に割ります。 年度合計だけの計画は使えません。「上期3名、下期4名」でも粗すぎます。入社月ベースで月次に割り、そこから選考期間を戻して募集開始月を書きます。
- 手法別に配分し、費用を積みます。 媒体、人材紹介、リファラル、ハローワーク、学卒など、手法ごとに何名を担当させるかを決めます。費用は掲載料や手数料だけでなく、後述の周辺費用も入れます。
- 選考体制を確認します。 面接官が誰で、月に何枠出せるかを数えます。面接枠が足りなければ、計画人数は達成できません。ここは人数計画と同じ重みで確認します。
- 決裁と、見直しの条件を書きます。 「第1四半期の内定承諾が計画比◯%を下回ったら、手法配分を組み替える」といった条件を、計画書の中に先に書いておきます。
計画書に必ず書く項目
1枚で決裁が通る形にします。細かい分析は別紙にします。
| 項目 | 書き方 | 期限の目安 |
|---|---|---|
| 職種別の採用人数 | 欠員補充と増員を分けて記載 | 決裁の1か月前まで |
| 入社月 | 月ごとの人数。年度合計だけにしない | 同上 |
| 募集開始月 | 入社月から選考期間を戻した月 | 同上 |
| 手法別の配分 | 手法ごとの担当人数と想定単価 | 同上 |
| 予算総額 | 媒体費・紹介手数料・周辺費用の合計 | 予算申請の締切まで |
| 選考体制 | 面接官名と月あたりの提供枠数 | 決裁前に部門長と合意 |
| 歩留まりの前提 | 応募から入社までの各段階の想定通過率 | 実績があれば実績値を使う |
| 見直しの条件 | 何を下回ったら何を組み替えるか | 決裁時に明記 |
| 責任者 | 各職種の採用責任者を1名指名 | 決裁時 |
歩留まりの前提は、自社の過去実績を使ってください。実績がない場合は、数値を置かずに「初年度は実績収集を目的とし、第1四半期末に前提を置き直す」と書くほうが安全です。根拠のない通過率を置くと、達成できなかったときに計画全体の信頼が落ちます。
四半期ごとの見直しで見る数字
年度計画は、四半期で必ず見直します。見るのは次の段階別の数です。
- 応募数
- 書類選考通過数
- 面接実施数
- 内定数
- 内定承諾数
- 入社数
- 入社3か月時点の在籍数
応募数だけを見ないでください。応募が計画どおりでも、面接実施数が伸びていなければ、日程調整か書類基準に問題があります。内定は出ているのに承諾が少なければ、条件提示か選考中の情報提供に原因があります。どの段階で落ちているかで、打つ手がまったく変わります。
入社3か月時点の在籍数を入れているのは、早期離職が出ると、その分の再募集が下半期の計画にそのまま乗ってくるからです。採用計画は、定着の状況と切り離しては回りません。
よくあるつまずき
年度合計だけの計画を作ってしまう。 「今年度は施工管理7名」とだけ決めた計画は、遅れが見えません。9月になって初めて「まだ2名」と気づきます。月次に割ってあれば、6月時点で遅れが分かります。
欠員補充を計画に入れていない。 増員だけを計画に書き、退職が出るたびに都度決裁を取る運用です。これをやると、募集開始が毎回1か月遅れます。過去実績から欠員補充の枠をあらかじめ計画に持たせ、決裁を先に取っておく形にします。
面接官の稼働を見込んでいない。 建設業では現場責任者が面接官を兼ねることが多く、繁忙期はほぼ動けません。計画人数と面接枠が釣り合っているかを、決裁前に部門長と数字で確認してください。
予算が媒体費だけになっている。 実際には、人材紹介の手数料、応募者の交通費、入社時の健康診断、安全衛生教育、貸与品、資格取得の費用など、採用に付随する支出があります。これらを別部門の予算に散らしたままにすると、1人あたりいくらかかっているのかが分からなくなります。
暦年と年度を混同する。 「雇用動向調査」の上半期は暦年の区切りです。4月始まりの自社年度の上半期とは重なりません。社内資料に転記するときは、期間の定義を必ず併記してください。
求人票の更新が計画に入っていない。 計画が決裁されても、求人票が去年のままでは応募は増えません。募集開始月の前月に、求人票の見直しを工程として入れます。労働条件の明示に関わる記載は、法令の求める事項を満たしているかを公表資料で確認したうえで更新してください。
見直しの条件を決めていない。 条件を書いていないと、遅れていても「もう少し様子を見よう」で下半期に入ります。判断の基準を計画書に先に書いておけば、感情の入らない議論ができます。
決裁を通すための社内の進め方
- 事業計画の素案が出た段階で、要員の粗い見立てを部門長に共有します。ここで温度差を潰しておきます。
- 部門ヒアリングでは「何名ほしいか」ではなく「どの現場に、いつから、どの役割で必要か」を聞きます。理由が書けない人数は、決裁で必ず削られます。
- 予算は上限案と抑制案の2案を作ります。1案だけだと、金額の議論になって人数の議論に入れません。
- 経営会議には1枚で出します。前掲の項目表がそのまま1枚になります。
- 決裁後、部門長に「面接枠の提供」を文書で依頼します。口頭合意は繁忙期に消えます。
明日から使えるチェックリスト
- 自社の決裁スケジュールを書き出し、採用計画の決裁日を確定した
- 期首在籍と退職見込みを職種別に出した
- 欠員補充と増員を別の行に分けた
- 採用以外で埋まる分を差し引いた
- 入社月ベースで月次に割り、募集開始月を逆算した
- 手法別の配分と、周辺費用を含む予算を積んだ
- 面接官ごとの月間提供枠を数字で確認した
- 見直しの条件を計画書に書いた
- 「雇用動向調査」で建設業の入職・離職の時期の傾向を確認し、期間の定義を控えた
- 募集開始月の前月に求人票見直しの工程を入れた
計画は、当てるためではなく、ずれに早く気づくために作ります。月次に割り、四半期で見直す形にしておけば、年度の途中でも打ち手が残ります。なお、労働条件の明示や労働時間に関わる個別の取り扱いは、事案ごとに判断が分かれます。判断に迷う場合は、社会保険労務士などの専門家に相談してください。統計の数値を社内資料に載せるときは、必ず公表資料そのものを開いて確認してください。
出典
- 厚生労働省「雇用動向調査」
出典
- 厚生労働省「雇用動向調査」
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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