採用選考で尋ねてはいけない事項と面接の設計
人事ノート採用面接で「ご家族はどんなお仕事ですか」「実家は持ち家ですか」と尋ねてしまう。悪意はなく、場を和ませるつもりだった。それでも、これらは就職差別につながるおそれがある事項として、厚生労働省「公正な採用選考の基本」が明確に挙げているものです。
建設業では、現場配属や転勤、夜勤、高所作業といった条件があるため、応募者の生活状況や体力に踏み込みたくなる場面が多くあります。だからこそ、聞いてよいことと聞いてはいけないことの線を、面接官全員で共有しておく必要があります。この記事では、公表資料に示された考え方を、選考の実務手順に並べ替えて整理します。
採用選考の出発点にある2つの原則
厚生労働省「公正な採用選考の基本」は、採用選考にあたっての基本的な考え方として、次の2点を挙げています。
- 応募者の基本的人権を尊重すること
- 応募者の適性・能力のみを基準として選考を行うこと
この2点から逆算すると、判断の順序は単純になります。**「その質問で得られる情報は、当社の仕事を遂行する適性・能力の判断に使えるか」**を先に考えます。使えないのであれば、尋ねる必要がありません。そして、適性・能力の判断に使えない情報を集めることが、結果として応募者の人権を侵すことにつながります。
また、募集・採用に関する個人情報は、業務の目的の達成に必要な範囲で収集し、その範囲で保管・使用することが職業安定法で求められています。社会的差別の原因となるおそれのある事項や、思想・信条、労働組合への加入状況は、原則として収集してはならないものとして扱われます。条番号や細かい文言は、厚生労働省の公表資料で確認してください。
尋ねてはいけない事項を3つに分けて把握する
「公正な採用選考の基本」では、就職差別につながるおそれがある事項が具体的に列挙されています。大きくは、本人に責任のない事項、本来自由であるべき事項、そして選考の方法そのものに分かれます。
| 区分 | 具体的な事項 | 面接や書類で出やすい形 |
|---|---|---|
| 本人に責任のない事項 | 本籍・出生地に関すること | 「ご出身はどちらですか」「本籍はどこですか」 |
| 本人に責任のない事項 | 家族に関すること(職業、続柄、健康、病歴、地位、学歴、収入、資産など) | 「お父様のお仕事は」「ご家族に建設業の方は」 |
| 本人に責任のない事項 | 住宅状況に関すること(間取り、部屋数、住宅の種類、近隣の施設など) | 「持ち家ですか」「一人暮らしですか」 |
| 本人に責任のない事項 | 生活環境・家庭環境に関すること | 「家庭はどんな雰囲気でしたか」 |
| 本来自由であるべき事項 | 宗教に関すること | 「信仰している宗教はありますか」 |
| 本来自由であるべき事項 | 支持政党に関すること | 「選挙はどの党に入れますか」 |
| 本来自由であるべき事項 | 人生観、生活信条に関すること | 「座右の銘は」「人生で大切にしていることは」 |
| 本来自由であるべき事項 | 尊敬する人物に関すること | 「尊敬する人は誰ですか」 |
| 本来自由であるべき事項 | 思想に関すること | 「社会の仕組みについてどう考えますか」 |
| 本来自由であるべき事項 | 労働組合・学生運動など社会運動に関すること | 「組合活動の経験はありますか」 |
| 本来自由であるべき事項 | 購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること | 「どんな本を読みますか」「愛読書は」 |
| 選考の方法 | 身元調査などの実施 | 近隣や前職への無断照会 |
| 選考の方法 | 合理的・客観的に必要性が認められない健康診断の実施 | 全応募者への一律の検査 |
| 選考の方法 | 定められた応募書類以外の書類の使用(新規学卒者の採用など) | 独自様式で家族欄を設ける |
「本籍」と「現住所」は別物として扱う
通勤の可否や通勤手当の算定のために、現住所を確認することはあります。一方で、本籍や出生地は適性・能力とは無関係です。戸籍謄本や、本籍が記載された住民票の写しを提出させることは、選考の場面では不適切な取り扱いにあたります。入社手続きに必要な書類は、採用が決まった後に、必要な範囲で求めます。
「座右の銘」「愛読書」は雑談でも避ける
人生観や愛読書は、面接官が緊張をほぐすつもりで口にしやすい話題です。しかし、これらは思想・信条にかかわる領域として明確に挙げられています。雑談だから許される、という区分はありません。アイスブレイクの話題は、天候、交通手段、直近の現場の工種など、業務に関わる話に固定しておくと安全です。
建設業で出やすい質問を、適性・能力の確認に言い換える
聞いてはいけない事項を避けるだけでは、必要な確認が抜けてしまいます。大切なのは、知りたい理由を業務条件に置き換えて、条件を提示してから可否を確認することです。
| 避けたい聞き方 | なぜ問題か | 言い換えの例 |
|---|---|---|
| 「ご家族は転勤に賛成していますか」 | 家族に関する事項の確認になる | 「当社は◯◯支店と△△営業所の間で異動があります。応募条件として、異動が可能かをお聞かせください」 |
| 「小さいお子さんがいると夜勤は難しいですよね」 | 家庭環境を理由に選考している | 「この職種は月◯回の夜間工事対応があります。従事は可能でしょうか」 |
| 「体力に自信はありますか」「健康状態は」 | 必要性の説明がない健康の確認になりやすい | 「高所作業と炎天下での立会いが日常業務です。業務遂行にあたって、事前に配慮が必要な事情があればお知らせください」 |
| 「持ち家ですか、社宅は必要ですか」 | 住宅状況の確認になる | 社宅・住宅手当の制度内容を先に説明し、希望の有無だけを聞く |
| 「なぜこの地域に住んでいるのですか」 | 出生地や生活環境の確認につながる | 通勤時間と通勤手段のみを確認する |
| 「前の会社に評判を聞いてもいいですか」 | 本人の同意のない身元調査になりうる | 職務経歴の内容を本人への質問で具体的に確認する |
業務条件を先に示す形にすると、応募者は条件を理解した上で回答できます。入社後の食い違いも減ります。夜勤の回数、出張の頻度、異動の範囲、担当する工種は、求人票と面接台本の両方に同じ文言で書いておきます。
健康や体力の確認は「必要性」を先に整理する
健康診断の実施は、合理的・客観的な必要性が認められない場合には不適切な選考方法として挙げられています。建設業では法令上の健康診断や、特定の業務に伴う検査があります。選考段階で何を確認するのかは、業務内容と法令上の必要性から先に整理し、全応募者へ同じ手順で行います。個別の判断に迷う場合は、産業医や社会保険労務士に相談してください。
選考プロセスの整え方(担当と期限)
面接官の心構えだけに頼ると、必ず抜けが出ます。仕組みで防ぎます。
- 募集の設計時(求人公開の2週間前まで/人事) 応募書類の様式を点検します。家族欄、本籍欄、住宅の種類欄、通勤経路の詳細図などが残っていないかを確認し、削除します。新規学卒者の採用では、定められた様式を使います。
- 面接台本の作成(求人公開前まで/人事) 評価項目を先に決め、項目ごとに質問文を用意します。評価項目は、職務に必要な知識、資格、経験、行動の4つ程度に絞ると運用しやすくなります。
- 面接官の事前研修(初回面接の1週間前まで/人事) 尋ねてはいけない事項の一覧を配り、言い換え表を読み合わせます。現場の所長が面接に入る場合ほど、この工程を省かないでください。
- 面接の実施(各面接時/面接官) 台本の質問を基本とし、深掘りは応募者の回答した事実の範囲で行います。台本外の質問をした場合は、記録に残します。
- 記録の作成(面接当日中/面接官) 評価項目ごとに、根拠となった事実を書きます。「明るい家庭で育っている」「持ち家で生活が安定している」といった記載は、選考基準として使えません。
- 振り返り(選考期間の終了後/人事) 台本外の質問と、応募者からの指摘を集約し、次回の台本を直します。
よくあるつまずき
- 現場面接だけ台本が守られない。二次面接を現場事務所で行い、所長が単独で対応するケースで起こりがちです。同席者を1名つけるか、質問票を紙で持たせる運用にします。
- 応募者本人が家族の話をしたので深掘りしてしまう。本人が話したからといって、選考の判断材料にはできません。話題として受け止め、評価記録には書きません。
- リファラル採用で紹介者に応募者の事情を聞く。紹介者から家族構成や生活状況を聞き出す行為は、身元調査に近い性質を持ちます。紹介者から得るのは職務上の事実に限ります。
- CCUSや過去の取引先の情報を本人の同意なく参照する。就業履歴などの情報は、収集の目的と本人の同意の範囲を確認してから扱います。
- 面接後の雑談や送別の会話で聞いてしまう。評価の場が終わったつもりでも、応募者から見れば選考の一部です。建物を出るまでが面接だと周知します。
- 不採用理由の説明で不適切な事項に触れる。理由を伝える場合は、募集職種に必要な経験や資格との関係に限って説明します。
運用を続けるための最小限の備え
面接官が交代するたびに、質問の基準は揺れます。次の3点を年度単位で更新しておくと、揺れが小さくなります。
- 尋ねてはいけない事項の一覧と、自社版の言い換え表(1枚に収める)
- 職種ごとの業務条件の記載(夜勤、出張、異動範囲、作業環境)
- 面接評価シート(評価項目と、根拠を書く欄のみ)
応募者から質問の適否について指摘を受けた場合は、その場で取り消し、記録に残し、人事へ報告する経路も決めておきます。個別の事案の対応判断は、社内で抱え込まず、労働局の窓口や社会保険労務士など専門家に相談してください。
本記事は2026年9月8日時点で確認できる公表資料に基づいています。列挙されている事項の詳細や最新の記載は、厚生労働省の公表資料で確認してください。
出典
- 厚生労働省「公正な採用選考の基本」
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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