障害者雇用の合理的配慮 採用時の実務手順
人事ノート障害のある人を採用するとき、事業主には「差別の禁止」と「合理的配慮の提供」が求められます。どちらも障害者雇用促進法に定めがあります。建設業では現場と事務で働き方が大きく異なるため、配慮の中身も分かれます。この記事では、募集から採用後までを実務の順序に並べ、社内で決めておくことを整理します。
事業主に求められることは大きく2つ
障害者雇用促進法は、事業主に対して次の2つを求めています。法定雇用率の達成義務とは別の、すべての事業主に関わる話です。
| 区分 | 内容 | 適用の場面 |
|---|---|---|
| 差別の禁止 | 障害があることを理由に、募集・採用、賃金、配置、昇進、教育訓練などで不当な差別的取扱いをしないこと | 募集・採用の段階と、採用後の雇用全般 |
| 合理的配慮の提供 | 障害の特性に配慮した措置を講じること。過重な負担にならない範囲で行う | 募集・採用の段階と、採用後の雇用全般 |
2つの違いを実務で押さえるなら、次のように考えると整理しやすくなります。差別の禁止は「やってはいけないこと」を決めるものです。合理的配慮は「やるべきこと」を決めるものです。前者は一律に守る義務ですが、後者は一人ひとりの状況に応じて中身が変わります。
差別の禁止で問題になりやすいのは、募集段階で障害があることだけを理由に応募を受け付けないこと、選考の対象から外すこと、同じ職務なのに障害があることだけを理由に賃金を下げることです。ここは「障害があること」以外に合理的な理由があるかどうかが分かれ目になります。職務遂行上どうしても必要な能力を基準に判断しているのであれば、その基準を説明できるようにしておきます。
合理的配慮は「募集・採用時」と「採用後」で手順が違う
合理的配慮は、いつ、誰が言い出すのかが段階によって異なります。ここを混同すると社内の動きが止まります。
募集・採用の段階
この段階では、配慮を必要とする本人からの申出が起点になります。事業主の側が障害の有無や内容を把握していないことが多いためです。
実務では次の順序で進めます。
- 求人票と応募受付のページに、配慮の申出ができる旨と申出先を書いておきます。書いていないと申出そのものが起きません。
- 申出を受けたら、選考日程を決める前に内容を確認します。面接日の2〜3日前に申出が届くと、会場や機材の手配が間に合わないことがあります。
- 申出の内容が具体的でないときは、本人に確認します。「配慮が必要」だけでは手配できません。何が困るのか、どうすれば解消されるのかを聞きます。
- 手配できる内容と、できない内容を本人に伝えます。できない場合は理由を説明し、代わりの方法を一緒に探します。
- 実施した配慮の内容を記録に残します。採用後の配慮を考えるときの出発点になります。
採用後の段階
採用後は、事業主の側から確認する場面が出てきます。職務内容や勤務場所が変われば、必要な配慮も変わるためです。入社時、配置転換時、現場が変わるときが確認のタイミングになります。
本人から申出がなくても、業務に支障が出ていると見えるときは、上司から声をかけて状況を聞く形が現実的です。ただし、障害の内容を本人の意に反して聞き出すことは避けます。あくまで業務上の困りごととして話を始めます。
建設業で想定される配慮の例
配慮の中身は、障害の種類と職務内容の組み合わせで決まります。同じ障害でも、現場常駐と内勤では必要な措置が変わります。次の表は考える手がかりとして整理したものです。実際には一人ひとりと話し合って決めます。
| 場面 | 想定される困りごと | 配慮の方向 |
|---|---|---|
| 選考(面接) | 音声でのやり取りが難しい | 筆談の併用、文字によるやり取り、手話通訳の同席を認める |
| 選考(会場) | 移動に制約がある | 1階の会議室を使う、来社によらない方法を認める |
| 選考(試験) | 読み書きに時間がかかる | 試験時間の延長、問題文の読み上げ、拡大した用紙 |
| 内勤(事務・積算) | 画面の文字が読みづらい | 画面読み上げの導入、拡大表示、照明の調整 |
| 内勤(設計・CAD) | 長時間の連続作業が難しい | 休憩の取り方を柔軟にする、作業の分割 |
| 現場(施工管理) | 移動や立ち作業に制約がある | 巡回の範囲を調整する、事務所での業務との組み合わせ、休憩場所の確保 |
| 現場(安全) | 音による警報に気づきにくい | 光や振動による合図の併用、合図者の配置、朝礼での周知方法の変更 |
| 通勤 | 混雑時の移動が難しい | 出退勤時刻の調整、直行直帰の運用 |
| 情報伝達 | 口頭の指示を覚えにくい | 指示を書面や画像で渡す、作業手順の掲示 |
現場での配慮は、安全衛生の管理と切り離せません。特に警報や合図に関わる部分は、本人への配慮であると同時に現場全体の安全に関わります。元請の現場に入る場合は、事前に元請側と調整が必要になることがあります。誰がいつ調整するのかを社内で決めておきます。
過重な負担の判断をどう進めるか
合理的配慮は、事業主にとって過重な負担となる場合まで求められるものではありません。ただし「費用がかかるから無理」と一言で終わらせると、説明のつかない拒否になります。判断の過程を残すことが大切です。
実務では、次の順序で検討します。
- 申し出られた配慮が、業務の遂行にどう必要なのかを確認します。
- その配慮を実施した場合の費用、体制への影響、他の従業員の業務への影響を書き出します。
- 実施できない場合、代わりになる方法がないかを検討します。費用の安い方法、一部だけ実施する方法、時期をずらす方法などです。
- 検討した内容を本人に説明し、話し合います。結論だけでなく、なぜその結論になったのかを伝えます。
- 話し合いの経過と決めた内容を記録に残します。
何をもって過重な負担とするかの具体的な線引きは、公表されている指針や資料で確認してください。会社の規模や事業への影響など複数の要素で判断するものであり、金額だけで一律に決まるものではありません。
社内で先に決めておく5つのこと
申出があってから考え始めると、対応が遅れます。次の5点は採用活動を始める前に決めておきます。
- 申出の受付先:誰が受けるかを決めます。人事部門の担当者名か、部署の窓口を1つに絞ります。現場の職長が個別に判断する形は避けます。
- 検討の主体:受け付けた後、誰が検討するかです。人事、配属予定部署の責任者、安全衛生の担当者が関わる形が現実的です。
- 決定までの目安日数:本人が次の予定を組めるよう、いつまでに回答するかを決めます。選考中であれば数日以内が望ましい場面もあります。
- 記録の様式:申出の内容、検討した内容、決めた内容、実施日を1枚にまとめる様式を用意します。
- 相談窓口:採用後に困りごとが出たときの相談先です。事業主には相談に応じる体制の整備が求められます。窓口を置くだけでなく、従業員に周知しなければ機能しません。
相談窓口については、就業規則や社内通知で周知し、新入社員への説明にも入れます。プライバシーへの配慮も必要です。相談内容が本人の同意なく現場に伝わると、二度と相談が来なくなります。
よくあるつまずき
実際に起きやすい問題を挙げます。
- 求人票に申出先を書いていない:応募者は、どこに言えばよいか分からず申し出ません。結果として選考の場で困りごとが表面化し、双方が準備できていない状態になります。
- 配慮の内容を本人に聞かずに決める:善意で先回りしても、本人が必要としていない配慮になることがあります。過剰な配慮は本人の負担になります。必ず本人と話します。
- 配置予定の現場に伝えていない:人事だけが把握していて、現場の職長や安全担当が知らないケースです。安全に関わる配慮は特に問題になります。本人の同意を得た上で、必要な範囲を必要な人に伝えます。
- 入社時に決めたきりで見直さない:現場が変われば必要な配慮も変わります。配置転換や現場の切替のタイミングで確認する運用にします。
- 記録が残っていない:担当者が異動すると、なぜその配慮をしているのかが分からなくなります。配慮を続ける理由も、続けない理由も、記録がなければ説明できません。
- 「障害者雇用だから業務を軽くする」と考える:合理的配慮は、同じ土俵で働けるようにするための調整です。職務の内容や評価の基準を一律に下げることは、本人の処遇にも影響します。何を調整し、何を調整しないのかを分けて考えます。
採用担当者のチェックリスト
募集を出す前に、次の項目を確認します。
- 求人票に、配慮の申出先と申出方法を書いたか。
- 応募受付から面接までの日程に、配慮を手配する余裕があるか。
- 選考基準が、職務に必要な能力に基づいて説明できる形になっているか。
- 面接担当者に、聞いてはいけないことを共有したか。障害の有無そのものを詮索する質問は避けます。必要なのは、業務の遂行に必要な配慮の内容です。
- 内定を出した後、配属予定部署と配慮の内容を調整する担当者を決めたか。
- 入社後の相談窓口を、本人に伝える段取りができているか。
個別の事案で判断に迷うときは、公表されている指針を確認し、必要に応じて労働局や専門の支援機関、社会保険労務士に相談してください。
よくある質問
Q. 面接で障害の内容を聞いてもよいのでしょうか
障害があること自体を詮索する質問は避けます。確認すべきなのは、業務を行う上でどのような配慮が必要かという点です。本人が配慮を申し出た場合に、その内容を具体的にするための確認は必要な範囲で行えます。聞いた内容は選考の合否判断ではなく、配慮の手配のために使うことを本人に伝えると、行き違いが減ります。
Q. 本人の申出がないのに、会社から配慮を持ちかけてよいですか
採用後については、職務内容や勤務場所が変わる場面で会社から状況を確認することが想定されます。ただし障害の内容を本人の意に反して聞き出すことは避けます。業務上の困りごととして話を始め、本人が話したい範囲で聞く形にしてください。募集・採用の段階では本人からの申出が起点になるため、申出先を求人票に明記しておくことが実務上の要になります。
Q. 費用が大きい配慮を断ると違法になりますか
合理的配慮は過重な負担となる場合まで求められるものではありません。ただし検討せずに断ると、説明のつかない拒否になります。費用や体制への影響を書き出し、代わりになる方法を探し、その過程を本人に説明して記録に残してください。何をもって過重な負担とするかの判断要素は、公表されている指針や資料で確認してください。
Q. 配慮の内容を配属先の現場に伝えてよいですか
本人の同意を得た上で、必要な範囲を必要な人に伝えます。安全に関わる配慮は、職長や安全衛生の担当者が知らないと現場で機能しません。一方で、障害の診断名など業務に不要な情報まで広げるとプライバシーの問題になります。誰に何を伝えるかを本人と事前に確認し、その内容を記録に残す運用にしてください。
Q. 派遣や下請の作業員についても、当社に合理的配慮の義務がありますか
合理的配慮の提供義務は雇用関係を前提とするため、自社が雇用する従業員が基本の対象です。ただし建設現場では、元請が現場全体の安全衛生を統括する立場にあります。下請の従業員に配慮が必要な場合、現場の運用として元請と下請が調整する必要が出てきます。契約関係と現場での役割分担で判断が分かれるため、個別の事案は労働局や専門家に相談してください。
出典
- 障害者雇用促進法
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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