転勤の範囲を求人票にどう書けば食い違いが減るか
人事ノート「転勤なし」と書いたのに、入社後に片道90分の現場へ配属して揉めた。「全国転勤あり」と書いたために、実際はエリア内異動しかないのに応募が集まらない。どちらも建設業の採用でよく起きます。
2024年4月の労働条件明示のルール変更で、就業場所と業務について「変更の範囲」を示すことが求められるようになりました。これは法令対応の話にとどまらず、入社後の食い違いを減らす道具として使えます。この記事では、区分の決め方、求人票への書き方、社内の手順を整理します。
まず押さえる:どの場面で何を明示するか
明示のルールは、募集の段階(職業安定法)と、労働契約を結ぶ段階(労働基準法)の二段構えです。2024年4月から、どちらにも「変更の範囲」が加わりました。
| 場面 | 主な根拠 | 就業場所・業務についての明示 |
|---|---|---|
| 求人の申込み、募集広告、自社サイトでの募集 | 職業安定法の労働条件等の明示 | 就業場所と業務内容に加えて、それぞれの「変更の範囲」 |
| 労働契約の締結時(内定時・入社時) | 労働基準法の労働条件明示 | 雇入れ直後の就業場所・業務と、「変更の範囲」 |
| 有期契約の更新時 | 同上 | 更新のたびに同じ内容を明示 |
| 募集内容を途中で変更したとき | 職業安定法の変更明示 | 変更した内容を、応募者に速やかに明示 |
ポイントは三つです。第一に、「変更の範囲」は将来の配置転換の可能性を示すものであり、雇入れ直後の勤務地だけを書けば足りるわけではありません。第二に、募集段階と契約段階で内容がずれると、そのずれ自体が説明を求められます。第三に、人材紹介会社へ出す求人票も募集の一部です。自社の求人ページだけ直して、紹介会社に渡した書式が古いままだと食い違いが生まれます。
なお、一時的な出張や研修は「就業場所の変更の範囲」には含まれないという考え方が示されています。反対に、テレワークが通常想定される場合は就業場所として扱う整理があります。個別の当てはめに迷うときは、厚生労働省の公表資料とQ&Aで必ず確認してください。
建設業で判断が割れる四つの形態
建設業は、勤務地の動き方が他業種より複雑です。まず社内で言葉の意味をそろえます。
| 形態 | 具体例 | 考え方 | 求人票での扱い |
|---|---|---|---|
| 現場異動 | 竣工に伴い、次の施工現場へ配属替え | 通常想定される就業場所の移動。範囲として書く必要が高い | 「当社が施工する現場」を範囲に含め、地理的な広がりを示す |
| 転勤(拠点異動) | 本社から支店へ、所属を移す | 就業場所の変更そのもの | 支店の所在地または対象エリアを書く |
| 応援・派遣的な支援 | 繁忙期に他支店の現場を数週間手伝う | 期間と指揮命令の実態で判断が分かれる | 恒常的にあるなら範囲に含め、面接でも説明する |
| 出張 | 打合せ、検査立会いで数日間他県へ | 一時的なものは変更の範囲には含まれない整理 | 範囲としてではなく、頻度を業務内容の説明で伝える |
出向やJV(共同企業体)への派遣がある会社は、この四つに加えて扱いを決めておきます。出向は労働契約の相手方が変わる話が絡むため、求人票の一行で済ませず、就業規則や出向規程との整合を確認してください。
変更の範囲は四つの型に整理する
職種ごとに、次のどれに当たるかを決めます。全職種を一つの文言で済ませようとすると、実態と合わなくなります。
| 型 | どんな会社・職種に合うか | 記載例 |
|---|---|---|
| 拠点限定型 | 事務、経理、内勤の技術管理。転勤も現場常駐もない | 変更の範囲:本社(東京都◯◯区)内の各部署 |
| エリア限定型 | 地域密着の施工管理。通勤圏内の現場のみ | 変更の範囲:当社◯◯支店および同支店が施工する現場(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県) |
| 全国型 | 大型土木、プラント、全国に支店を持つ会社 | 変更の範囲:当社の国内全ての事業所および当社が施工する全ての現場 |
| 原則限定・例外あり型 | 原則はエリア内だが、大型案件で例外が出る | 変更の範囲:原則として◯◯支店管内。ただし本人の同意を得た場合は、当社の国内全ての事業所および現場 |
「原則限定・例外あり型」は実務で使いやすい一方、例外の発動条件を社内で決めておかないと運用が崩れます。「本人の同意を得た場合」と書いたなら、同意を書面で取る手順まで決めてください。口頭の内示だけで遠隔地へ動かすと、書いた内容と運用が食い違います。
「会社の定める場所」だけで終わらせない
変更の範囲を「会社の定める場所」の一文で済ませる例を見かけます。形式上は範囲を示していますが、応募者には何も伝わりません。結果として、面接で毎回同じ質問が出て、入社後に「聞いていない」が起きます。少なくとも、都道府県名、支店名、「当社が施工する現場」という三つの要素のどれかで、地理的な広がりが読み取れる形にしてください。
現場常駐を隠さない
施工管理の求人で「勤務地:本社」とだけ書き、実態は現場常駐というケースは、入社後3か月以内の離職につながりやすい書き方です。雇入れ直後の就業場所と、変更の範囲を分けて書けば整理できます。たとえば「雇入れ直後:◯◯現場(千葉県◯◯市)/変更の範囲:当社が施工する現場および◯◯支店(関東1都3県)」のように、配属先が現場であることを最初に示します。
明日から動く手順
- 過去3年の異動実績を棚卸しする(人事、2週間)。誰が、どこからどこへ、何回動いたかを一覧にします。実績のない範囲を広く書くと応募が減り、実績のある範囲を書き漏らすと食い違いが起きます。判断の材料は実績です。
- 就業規則の配転条項を確認する(人事、1週間)。求人票の「変更の範囲」が就業規則より広いと、根拠のない範囲を示すことになります。狭すぎる場合も、実際の異動運用と合いません。
- 職種ごとに型を割り当てる(人事と各部門長、1週間)。前章の四つの型のどれかを、職種と等級の単位で決めます。決めた内容は一覧表にして残します。
- 文言集を作る(人事)。型ごとに、そのまま貼り付けられる文章を用意します。担当者が毎回書き起こすと表現がぶれます。
- すべての募集経路に反映する(人事、1週間)。自社の採用ページ、求人媒体、人材紹介会社へ渡す求人票、ハローワークの求人。反映漏れが起きやすいのは紹介会社向けの書式です。更新日を記録しておきます。
- 面接での説明手順を決める(人事と面接官)。一次面接で範囲を口頭でも伝え、確認した事実を記録に残します。誰が説明したかまで残すと、後の確認が早くなります。
- 労働条件通知書の文言を求人票とそろえる(人事)。範囲を狭める方向の変更であっても、募集時と内容が違えば変更明示の対象になります。
- 入社後の内示手順を決める(人事と部門長)。何か月前に、誰が、どの様式で伝えるか。ここが決まっていないと、書いた範囲が正しくても運用でつまずきます。
よくあるつまずき
求人票は直したが、紹介会社の求人票が古い。 経路ごとに更新責任者と更新日を管理してください。応募者は複数の経路を見比べています。
「転勤なし」と書き、現場異動の説明を落とす。 拠点は変わらなくても、現場は変わります。「転勤なし(ただし当社施工現場への配属替えあり/通勤時間の目安:片道◯分以内)」のように、二段で書くと誤解が減ります。
全国型と書いたまま、実態は地域内。 応募が集まらない原因として見落とされがちです。実績を棚卸しすると、「全国転勤あり」が過去の名残であるケースは珍しくありません。
限定して書いた後で、範囲を広げられない。 明示した範囲を超える異動をさせるには、就業規則の根拠と本人の合意の整理が必要です。狭く書くこと自体は問題ありませんが、将来の運用を見越して型を選んでください。判断が難しい事案は、社会保険労務士や弁護士に相談することをおすすめします。
単身赴任や住宅の扱いを書いていない。 全国型やエリアの広い会社では、赴任旅費、社宅、単身赴任手当の有無が応募判断に直結します。これらは明示義務の項目とは別ですが、書かないと面接で必ず聞かれます。
家族の事情を面接で深掘りしすぎる。 転勤の可否を確認したいあまり、家族構成や配偶者の就業状況を細かく聞くと、業務との関連性を欠く質問になりかねません。確認するのは「示した範囲での勤務が可能かどうか」に絞ります。
有期契約の更新時に明示し直していない。 更新のたびに明示が必要です。契約更新の事務手順に、就業場所・業務の変更の範囲の欄を入れておきます。
社内チェックリスト
募集を出す前に、次を確認してください。
- 雇入れ直後の就業場所と、変更の範囲を分けて書いているか
- 変更の範囲から、地理的な広がりが読み取れるか
- 現場常駐がある職種で、そのことが求人票から分かるか
- 業務内容についても「変更の範囲」を書いているか
- 就業規則の配転条項と矛盾していないか
- 過去3年の異動実績と、書いた範囲が大きくずれていないか
- すべての募集経路で同じ文言になっているか
- 労働条件通知書の様式に、変更の範囲の欄があるか
- 有期契約の更新事務に、明示の手順が組み込まれているか
- 例外を設けた場合、その発動条件と同意の取り方を決めているか
求人票を直すと、面接の質が上がる
転勤の範囲を書き直す作業は、法令対応であると同時に、自社の異動運用を言語化する作業です。実績を棚卸しすると、「なんとなく全国転勤ありにしていた」「支店ごとに運用が違っていた」といったことが見えてきます。
範囲を先に示しておけば、面接では勤務地の確認に時間を使わず、経験や志向の確認に集中できます。入社後の内示も、あらかじめ示した範囲の中での話になり、説明が通りやすくなります。
明示すべき項目の詳細や、出張・テレワークの扱いについては、厚生労働省の公表資料で最新の内容を確認してください。自社の配転条項の見直しを伴う場合は、就業規則の変更手順とあわせて検討することをおすすめします。
出典
- 厚生労働省「労働条件明示のルール変更」
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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