キャリアアップ助成金 正社員化コースの実務
人事ノート有期契約で採用した作業員や施工管理補助を、数年かけて正社員にしている会社は多いと思います。その転換に使えるのがキャリアアップ助成金の正社員化コースです。ただし、この助成金は「転換してから申請する」だけでは足りません。転換の前にやっておくことが決まっているため、順番を間違えると同じ転換をしても対象になりません。この記事では、社内の手順に落とし込める形で流れを整理します。
なお、支給額、賃金の増額割合、加算の要件、1年度あたりの上限人数といった数値は、年度ごとに見直されています。この記事では数値を書きません。申請の直前に、厚生労働省「キャリアアップ助成金」のパンフレットと支給要領で必ず確認してください。
正社員化コースは何に対する助成か
キャリアアップ助成金は、有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者(あわせて有期雇用労働者等といいます)の企業内でのキャリアアップを進めた事業主に支給されるものです。いくつかのコースがあり、そのうち雇用区分の転換に使うのが正社員化コースです。
実務で押さえる前提は次の3つです。
- 雇用保険の適用事業所の事業主であること。役員だけの会社や、雇用保険に入っていない事業所は土台から外れます。
- キャリアアップ管理者を事業所ごとに置くこと。有期雇用労働者等のキャリアアップに取り組む責任者です。
- キャリアアップ計画を作り、労働局(ハローワーク経由の場合もあります)に提出すること。
この助成金は「制度を作って、実際に運用した」ことに対して出ます。就業規則などに転換制度を定めていない状態で、個別の話し合いだけで正社員にした場合は対象になりません。ここが最もよくある取りこぼしです。
「無期にする」と「正社員にする」は同じではない
建設業では、まず契約期間の定めをなくし、しばらく様子を見てから賞与や手当を正社員と同じにする、という二段階の運用がよくあります。助成金の対象になるかどうかは、到達点がどこかで変わります。
| 転換のかたち | 到達点 | 実務上の確認点 |
|---|---|---|
| 有期から無期(処遇は有期のときのまま) | 契約期間の定めがなくなるだけ | この形が支給区分として設けられているかは年度によって異なります。最新の支給要領で確認してください |
| 有期から正規雇用労働者 | 就業規則上の正社員 | 期間の定めがないことに加え、正社員としての位置づけと、賞与・退職金・昇給などの処遇の適用状況で判断されます |
| 無期から正規雇用労働者 | 就業規則上の正社員 | 転換前の「無期契約社員」という区分が、就業規則に定められていることが前提です |
自社で「無期転換します」と言っているものが、助成金の言う正規雇用労働者に当たるとは限りません。就業規則に正社員とは別の無期の区分を置き、賞与も退職金も昇給も適用していないなら、それは正社員とは別の区分です。転換先の区分が就業規則でどう定義されているかを、申請前に読み返してください。
また、労働契約法の無期転換ルール(通算5年を超えた有期契約労働者からの申込みによる無期転換)は、法律上当然に発生するものです。事業主が制度として行う転換とは性質が異なります。この場合の取扱いは、労働局に個別に確認してください。
着手前に決める3つのこと
1. 誰を、いつ、どの区分に転換するか
転換の対象者には、転換前に有期雇用労働者等として一定期間雇用されていることなどの要件があります。入社直後の転換や、もともと正社員として雇っていた人を形式的に有期に落としてから戻す運用は対象外です。次の人は対象にならない、または確認が必要です。
- 事業主または取締役の一定の範囲の親族
- 過去に同じ事業所で正規雇用労働者として雇用されていた人
- 転換前から実態として正社員と同じ働き方をしていた人
2. 転換後の賃金をいくらにするか
正社員化コースには、転換前6か月と転換後6か月の賃金を比べ、一定割合以上増えていることを求める要件があります。割合は改定されているため、必ず最新の資料で確認してください。
比較の対象に含める賃金の範囲も決まっています。時間外手当のように月ごとに変動するものの扱いには注意が必要です。現場の繁閑で残業が大きく上下する建設業では、ここを取り違えると「増額していない」と判断されることがあります。算定方法は、パンフレットと申請様式の記載例で確認してください。
3. 就業規則をどう直すか
転換制度を就業規則(または労働協約)に定めます。10人未満の事業所で就業規則を作っていない場合も、転換制度を定めた規程を作り、労働者に周知した事実を残す必要があります。規程には、転換の対象者、転換の時期、試験や面接などの手続、転換後の労働条件を書きます。
申請までの順序
次の順序を崩さないでください。特に1と3の前後関係が重要です。
- キャリアアップ管理者を決める。
- キャリアアップ計画を作り、労働局に提出する。計画の対象期間には上限があります。
- 就業規則などに転換制度を定め、労働者に周知する。
- 規程に沿って転換の手続(面接、試験、通知)を行い、転換日を確定する。
- 転換後の労働条件通知書を本人に交付する。
- 転換後6か月分の賃金を支払う。
- 定められた期間内に支給申請を行う。
| 時点 | やること | 担当 | 期限の考え方 |
|---|---|---|---|
| 転換の前 | キャリアアップ計画の提出 | 人事 | 転換などの措置を行う前日までに提出が必要です。日付の前後は必ず確認してください |
| 転換の前 | 転換制度の規定と周知 | 人事・総務 | 規定した日より後に転換を実施します |
| 転換日 | 労働条件通知書の交付、社会保険の区分確認 | 人事 | 転換日は辞令と規程の手続で裏づけます |
| 転換後6か月 | 賃金の支払い、賃金台帳と出勤簿の整備 | 経理・現場管理 | 6か月分がそろうまで申請できません |
| 6か月経過後 | 支給申請 | 人事 | 6か月分の賃金を支払った日の翌日から一定期間内です。期限は短いため、あらかじめ社内の締切を入れてください |
申請時に必要な書類は、転換前後の雇用契約書または労働条件通知書、就業規則と周知の記録、賃金台帳、出勤簿またはタイムカード、転換の手続を示す書類などです。細目は年度の様式で確認してください。
建設業でつまずきやすい点
| つまずき | 何が起きるか | 先回りの対応 |
|---|---|---|
| 就業規則が本社にしかなく、現場作業員に周知されていない | 制度を定めたことの証明ができない | 周知の方法(掲示、書面交付、共有フォルダ)と実施日を記録に残す |
| 出勤簿が現場の日報しかない | 労働時間の確認ができず申請が止まる | 転換前の6か月分からさかのぼって整備する |
| 日給月給で、欠勤や天候で支給額が動く | 転換前後の賃金比較が判定しにくい | 月例賃金の構成を洗い出し、変動部分と固定部分を分けて表にする |
| 転換と同時に手当の名称や構成を大きく変えた | 比較対象が変わり、増額の確認が難しくなる | 賃金表の新旧対応表を作り、どの手当がどこに移ったかを残す |
| 会社都合の離職を出している | 助成金全体に共通する不支給要件に触れる可能性がある | 転換の前後で離職の理由区分を確認する |
| 一人親方に近い働き方の人を転換した | 雇用契約であること自体が問われる | 指揮命令、時間管理、報酬の決め方を整理し、雇用として運用する |
もうひとつ、社会保険の取扱いを忘れないでください。転換によって所定労働時間や雇用の見込みが変われば、健康保険と厚生年金の被保険者資格に影響します。助成金の要件としても、社会保険の適用状況は確認されます。転換日に合わせて、資格取得の手続を漏らさないようにしてください。
採用計画とあわせて考える
正社員化コースは、すでに雇っている有期契約の社員を正社員にするための助成です。採用の段階から「試用的に有期で採り、半年から1年で正社員に転換する」という道筋を求人票に書けるようになると、応募段階の不安が減ります。ただし、求人票に「必ず正社員になれる」と書くと、転換の判断ができなくなります。規程に定めた条件(勤務成績、資格の取得、面接など)をそのまま書くのが安全です。
年度の途中で要件や金額が変わることがあります。年度末に一斉に転換する運用にしていると、改定の影響をまとめて受けます。転換の時期を分散させるか、年度ごとに要件を確認してから転換日を決める運用にしてください。
よくある質問
Q. 労働契約法の無期転換ルールで無期になった社員を、そのあと正社員にした場合は対象になりますか。
無期になった時点と、正社員になった時点が分かれます。助成の対象は、事業主が定めた転換制度に基づいて行った転換です。無期の区分が就業規則に定められていて、そこから正規雇用労働者へ転換した形になっているかで判断が変わりますので、転換日を決める前に労働局へ個別に確認してください。
Q. キャリアアップ計画を出す前に転換してしまいました。あとから計画を出せば間に合いますか。
計画は転換などの措置を行う前に提出することが求められています。後から出して過去の転換をさかのぼって対象にすることは、原則としてできないと考えてください。すでに転換した人は難しくても、これから転換する人のために、今すぐ計画を提出しておくことをおすすめします。
Q. 転換後の賃金をいくら上げれば要件を満たしますか。
増額の割合は定められていますが、年度ごとに見直されています。この記事では数値を書きません。厚生労働省「キャリアアップ助成金」の最新のパンフレットと支給要領で確認してください。あわせて、比較に含める手当の範囲も様式の記載例で確認し、時間外手当のように変動するものの扱いを誤らないようにしてください。
Q. 転換した社員が6か月経つ前に辞めてしまいました。申請はできますか。
支給申請には、転換後の一定期間分の賃金を支払ったことが必要です。その期間の途中で離職した場合、その人については申請できないと考えてください。離職の理由区分によっては、他の対象者の申請に影響することもあります。判断に迷う場合は、申請期限が来る前に労働局へ相談してください。
Q. 外国人技能実習生や特定技能の外国人も対象になりますか。
在留資格によって、そもそも無期または正社員としての雇用ができるかが変わります。助成金の要件以前に、在留資格の範囲で認められる働き方かどうかを先に確認してください。そのうえで、対象者としての取扱いは公表資料と労働局への確認で判断してください。
出典
- 厚生労働省「キャリアアップ助成金」
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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