監理技術者の専任義務と兼務が認められる場合
人事ノート技術者の配置は工事部門の仕事と思われがちですが、資格者証の有効期限管理、講習の受講手配、雇用関係の証明は人事の担当範囲に入ります。配置できる人がいないという事態は、採用や異動の判断が遅れたときに起きます。ここでは国土交通省「監理技術者制度運用マニュアル」に示された考え方を、配置を決める順序に並べて整理します。
「専任」は常駐と同じ意味ではない
建設業法は、公共性のある施設または多数の者が利用する施設に関する重要な工事について、工事現場ごとに専任の技術者を置くことを求めています。運用マニュアルでは、専任とは他の工事現場の職務を兼務せず、常時継続的にその工事現場の職務にのみ従事することとされています。
ここで誤解が起きやすいのが、専任と常駐の違いです。運用マニュアルは、専任であっても現場への常駐を常に求めるものではないという考え方を示しています。発注者との打合せ、資機材や施工体制の調整、技術研鑽のための研修、休暇の取得など、合理的な理由がある場合は現場を離れることがあり得ます。ただし、その場合でも現場との連絡体制を確保し、必要に応じて速やかに対応できる状態にしておくことが前提です。
人事の側から見ると、次の2点が実務の分かれ目になります。
- 休暇や研修で現場を離れること自体は、専任の否定にはならない。連絡体制と代行者をどう決めるかを社内で定めておく。
- 他の工事現場の職務を兼ねた時点で、専任ではなくなる。社内の兼務発令は、技術者配置の確認を経てから出す。
専任が求められるかを判断する順序
配置の検討は、次の順序で進めると漏れが出にくくなります。
- その工事が、公共性のある施設または多数の者が利用する施設に関する重要な工事に当たるかを確認します。民間工事でも、多数の者が利用する建築物であれば対象になり得ます。
- 請負代金の額が、専任を求める政令の基準に達しているかを確認します。金額の基準は政令で定められ、過去に改正されています。現時点の金額は国土交通省の公表資料で確認してください。
- 元請の場合は、下請契約の総額が監理技術者の配置を要する金額に達しているかを確認します。達していなければ主任技術者の配置となります。
- 専任が必要な場合は、資格者証と講習修了の要件を満たす候補者を選びます。
- 兼務の特例を使うかどうかを決め、使う場合は補佐の配置や発注者との協議など、必要な手当てを行います。
| 確認項目 | 見るところ | 担当 |
|---|---|---|
| 工事の種類 | 契約書・設計図書。施設の用途 | 工事部門 |
| 請負代金の額 | 契約書(税込か税抜かの扱いに注意) | 工事部門 |
| 下請契約の総額 | 施工体制台帳・下請契約書 | 工事部門 |
| 資格者証の有効期限 | 社内の技術者名簿 | 人事 |
| 講習の修了状況 | 修了履歴と次回受講時期 | 人事 |
| 雇用関係 | 雇用契約書・健康保険被保険者証など | 人事 |
専任を要しない期間がある
契約工期の全期間にわたって専任が必要になるわけではありません。運用マニュアルは、発注者と協議したうえで、次のような期間は専任を要しないという考え方を示しています。配置計画を組むときに見落とされやすい部分です。
| 期間の区分 | 内容の例 |
|---|---|
| 契約締結から現場着手まで | 現場事務所の設置、資機材の調達、人員配置の計画などを行っている期間 |
| 工事を全面的に一時中止している期間 | 用地の確保が終わっていない、設計変更の協議中など |
| 工場製作のみを行っている期間 | 橋梁、ポンプ、ゲートなどの工場製作が中心で、現場施工がない期間 |
| 完成検査が終わった後 | 事務手続きや後片付けのみが残っている期間 |
完成後の取扱いについては、発注者の都合で検査が遅れた場合の起算日の考え方が運用マニュアルに示されています。日数の扱いは個別の契約で争点になりやすいため、適用する前に運用マニュアルの該当箇所を確認し、発注者と書面で確認してください。
兼務が認められる場面の整理
兼務が認められる場面は、性質の違う複数の仕組みに分かれています。まとめて「兼務ができる」と理解すると誤用につながります。
| 類型 | 対象 | 主な条件 |
|---|---|---|
| 特例監理技術者 | 監理技術者 | 各現場に監理技術者補佐を専任で置く。兼務できるのは2現場まで |
| 近接した現場の兼務 | 主任技術者 | 同一の建設業者が、密接な関連のある2以上の工事を同一または近接した場所で施工する場合 |
| 情報通信技術を活用した兼任 | 近年の法改正で設けられた仕組み | 現場の状況を把握できる体制など、定められた要件を満たすこと |
特例監理技術者と監理技術者補佐
監理技術者を専任で置くべき工事でも、その現場に監理技術者補佐を専任で置けば、監理技術者は2つの現場まで兼務できます。この監理技術者を特例監理技術者と呼びます。監理技術者補佐は、主任技術者の要件を満たす者のうち、1級の第一次検定に合格した技士補などが想定されています。
人事の実務では、次の点が計画に直結します。
- 補佐を置く現場ごとに専任が必要です。1人の補佐が2現場を掛け持ちすることはできません。
- 1級第一次検定の合格者を社内で把握しておくと、補佐の候補者が見えます。受検の勧奨と受検費用の扱いを社内規程で決めておくと動きやすくなります。
- 兼務は2現場までです。3現場目の受注が見えた時点で、別の監理技術者の手当てが必要になります。
主任技術者の近接現場の兼務
密接な関連のある2以上の工事を、同一の建設業者が同一または近接した場所で施工する場合、1人の専任の主任技術者がこれらを管理できる取扱いがあります。工事の相互の関連性や現場間の距離について、運用マニュアルに目安が示されていますので、適用前に該当箇所を確認してください。これは主任技術者についての取扱いであり、監理技術者にそのまま当てはめることはできません。
情報通信技術を活用した兼任
近年の建設業法改正により、情報通信技術を活用して各現場の状況を把握できることなどを条件に、一定の範囲で技術者の兼任を認める仕組みが設けられています。対象となる工事の規模、必要な体制、施行の時期については、国土交通省の公表資料で最新の内容を確認してください。社内で運用する場合は、通信環境、現場に常駐する者の配置、記録の残し方を手順書にしておく必要があります。
人事が持つべき管理項目
専任の監理技術者には、資格や雇用関係の要件が重なります。配置の直前に確認すると間に合いません。
- 監理技術者資格者証:専任の監理技術者は、資格者証の交付を受けた者から選任します。現場では携帯が求められ、発注者から請求があれば提示します。有効期限を名簿で管理します。
- 監理技術者講習:一定の期間ごとに受講が必要です。受講の周期と有効期間の起算方法は公表資料で確認し、期限の数か月前に受講を手配します。
- 直接的かつ恒常的な雇用関係:公共性のある工作物に関する重要な工事の専任の監理技術者は、所属する建設業者と直接的かつ恒常的な雇用関係にあることが求められます。在籍出向者や派遣労働者をこれに充てることは原則として認められません。恒常的な雇用関係の判断には、入札前の一定期間の雇用実績という考え方が運用マニュアルに示されていますので、中途採用者を配置する際は必ず確認してください。
中途採用した1級技術者を、入社直後に公共工事の専任監理技術者として配置する計画は、この雇用期間の要件でつまずくことがあります。採用の決定時点で、配置予定の工事と入札時期を工事部門と共有しておくことが実務上の対策になります。
よくあるつまずき
- 兼務の特例を監理技術者と主任技術者で取り違える:近接現場の取扱いは主任技術者の話です。監理技術者を2現場で兼務させるには、各現場に補佐を専任で置く必要があります。
- 補佐を1人で2現場に置こうとする:補佐は現場ごとに専任です。ここを誤ると、特例そのものが成立しません。
- 講習の期限切れに気づかない:資格者証と講習は別物です。名簿では両方の期限を別の列で管理します。
- 出向者を専任に充てる:グループ会社からの在籍出向者を専任の監理技術者に予定してしまう例があります。採用・異動の段階で配置可否を確認します。
- 工期だけを見て専任期間を決める:工場製作のみの期間や一時中止の期間まで専任で拘束すると、技術者が不足します。発注者と協議して整理します。
- 専任を常駐と誤解して休暇を取らせない:専任であることを理由に休暇を認めない運用は、人材の定着を損ないます。連絡体制と代行者の決め方を社内で定めます。
社内で整える手順
- 技術者名簿に、資格の種類、資格者証の有効期限、講習の受講日と次回期限、入社日、現在の配置現場と工期を入れます。
- 受注見込みの案件を工期と重ねた配置計画表を作り、専任が必要な現場を色分けします。
- 専任が必要な現場について、兼務の特例を使うかどうかを工事部門と決めます。使う場合は補佐の候補者を名簿から選びます。
- 不足が見込まれる時期を特定し、採用、育成、受検勧奨のどれで埋めるかを決めます。採用で埋める場合は、雇用期間の要件を踏まえて逆算します。
- 四半期ごとに名簿と配置計画を更新し、期限が近い資格者証と講習を洗い出します。
金額の基準や制度の細目は改正があり得ます。個別の工事で判断に迷う場合は、運用マニュアルの該当箇所を確認したうえで、発注者または許可行政庁に確認してください。
よくある質問
Q. 専任の監理技術者が、本社の会議や研修で現場を離れても問題ありませんか。
運用マニュアルは、専任であっても常に現場に常駐していることまでを求めるものではないという考え方を示しています。技術研鑽のための研修や休暇の取得などの合理的な理由がある場合は、現場を離れることがあり得ます。ただし、現場との連絡体制を確保し、必要なときに速やかに対応できる状態にしておくことが前提です。他の工事現場の職務を兼ねる場合は専任ではなくなるため、社内の兼務発令は配置の確認を経てから出してください。
Q. 特例監理技術者が2現場を兼務するとき、監理技術者補佐は1人で足りますか。
足りません。監理技術者補佐は、兼務する各工事現場に専任で置く必要があります。2現場を兼務するなら補佐も2人必要になります。1級の第一次検定合格者などの候補者を社内で把握し、受検の勧奨を含めて計画的に増やしておくことが実務上の備えになります。
Q. グループ会社から出向している1級技術者を、公共工事の専任の監理技術者にできますか。
公共性のある工作物に関する重要な工事の専任の監理技術者には、所属する建設業者との直接的かつ恒常的な雇用関係が求められます。在籍出向者や派遣労働者を充てることは原則として認められません。転籍などで雇用関係を整える場合も、恒常的な雇用関係とみなされるまでの期間の考え方がありますので、運用マニュアルで確認し、必要に応じて許可行政庁に相談してください。
Q. 請負代金がいくらから専任が必要になりますか。
金額の基準は政令で定められており、過去に改正されています。本記事では確かな現行額を示しませんので、国土交通省の公表資料で現時点の金額を確認してください。確認の際は、税込か税抜きか、同一の発注者が分割して発注した工事をどう合算するか、元請として監理技術者を要する下請契約の総額の基準はいくらか、という3点をあわせて見ておくと判断を誤りにくくなります。
Q. 工期が重なる2つの小規模な工事に、同じ人を主任技術者として置けますか。
専任が必要ない規模の工事であれば、複数の現場で主任技術者を兼ねる余地があります。専任が必要な工事であっても、密接な関連のある工事を同一または近接した場所で施工する場合は、1人の専任の主任技術者が管理できる取扱いがあります。関連性や距離の目安は運用マニュアルに示されていますので、適用前に該当箇所と発注者の了解を確認してください。
出典
- 国土交通省「監理技術者制度運用マニュアル」
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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