副業・兼業の可否判断と労働時間の通算実務
人事ノート現場を抱える会社では、社員から「休日に知人の会社を手伝いたい」「週末だけ別の現場に入りたい」という相談が出てきます。建設業は時間外労働の上限規制の対象になっており、安全配慮の観点からも、副業・兼業を感覚で許可するわけにはいきません。
この記事は、厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」に書かれている範囲を、人事の実務の順序に並べ替えたものです。自社の規程づくりと、申請を受けたときの判断手順に使ってください。
まず押さえる前提 原則は認める方向で考える
ガイドラインは、裁判例を踏まえて、労働者が勤務時間外にどのように時間を使うかは基本的に労働者の自由であるという考え方を示しています。そのうえで、例外的に制限できる場合を挙げています。
実務では「禁止か許可か」ではなく、「どういう場合に制限するかを先に決めておき、それ以外は届出で受ける」という組み立てにすると運用が安定します。
制限や禁止が認められうる場面
| 区分 | 内容 | 建設・不動産での例 |
|---|---|---|
| 労務提供上の支障 | 副業により本業の労務提供に支障が生じる場合 | 深夜の副業が続き、翌朝の現場で安全確保が難しい |
| 業務上の秘密漏洩 | 自社の業務上の秘密が漏れるおそれがある場合 | 設計図書や見積条件を扱う立場で、同種業務を他社で行う |
| 競業による利益侵害 | 競業により自社の正当な利益が侵害される場合 | 同一エリアで同種工事を受注する会社での就労 |
| 信用・名誉の毀損 | 自社の名誉や信用を損なう行為、信頼関係を破壊する行為 | 取引先との関係を損なう形での営業活動 |
就業規則では、これらに当たる場合に禁止または制限できる旨を定め、それ以外は届出制とするのが現実的です。全面禁止の条項だけを置いたまま運用すると、実態とずれて形骸化します。
誰が何をいつまでに決めるか
- 人事部門が、就業規則に副業・兼業の条項があるかを確認します。無ければ条項案を作ります。
- 経営層が、制限する範囲(競業の定義、秘密を扱う職位)を決めます。ここを曖昧にすると現場判断がぶれます。
- 就業規則の変更は、労働者代表の意見を聴いたうえで、所轄労働基準監督署に届け出ます。
- 届出様式と判断フローを人事が作り、支店・営業所の管理職へ周知します。
届出で何を確認するか
ガイドラインは、副業・兼業の内容を労働者からの申告等によって把握することを求めています。会社が判断するためにも、通算管理のためにも、申告項目を固定した様式が要ります。
申告してもらう項目
| 項目 | 確認の目的 |
|---|---|
| 相手先の事業者名・所在地・事業内容 | 競業に当たるかの判断 |
| 従事する業務内容 | 秘密漏洩や安全上の支障の判断 |
| 契約の形態(雇用か、請負・委託か) | 労働時間の通算が必要かの切り分け |
| 労働契約の期間 | 更新時の再確認の時期 |
| 所定労働日・所定労働時間・始業終業時刻 | 通算の基礎になる数字 |
| 見込まれる所定外労働の有無と時間数 | 上限の管理 |
| 通勤・移動の時間帯 | 健康確保措置の判断材料 |
契約形態の欄はとくに重要です。労働基準法上の労働時間の通算が必要になるのは、本業・副業のいずれも「労働者として雇用される」場合です。個人事業主として請け負う場合や、自営の形で行う場合は、労働時間の通算の対象になりません。ただし健康確保の観点からは、就労実態を把握しておく必要があります。
届出を受けてからの手順
- 受付日を記録します。回答期限を社内で決めておきます(例 受付から2週間)。
- 人事が、制限事由に当たるかを確認します。判断に迷う競業事案は、経営層へ上げます。
- 雇用の副業であれば、通算後の時間外労働の見込みを計算します。
- 許可・条件付き許可・不許可を書面で通知します。条件付きの場合は、条件(例 深夜の就労は行わない、月の副業時間の上限)を明記します。
- 許可後も、申告内容が変わったときは速やかに再申告させる旨を通知に書きます。
労働時間の通算の考え方
労働基準法は、労働時間について、事業場を異にする場合も通算すると定めています。これは事業主が異なる場合も含むとされています。したがって、二つの会社で雇用されて働く社員については、両方の労働時間を足して法定労働時間や時間外労働の上限を見る必要があります。
通算する時間と通算しない時間
| 働き方 | 労働時間の通算 | 補足 |
|---|---|---|
| 本業・副業とも雇用契約 | 通算する | 割増賃金の負担先の判断が必要 |
| 副業が請負・委託・自営 | 通算しない | 健康確保の観点では実態把握が望ましい |
| 副業が役員・顧問などで労働者に当たらない場合 | 通算しない | 実態が労働者であれば通算の対象 |
請負か雇用かの区別は、契約書の名称ではなく実態で判断されます。指揮命令を受けて働いているなら、名称が業務委託でも労働者と判断されることがあります。判断に迷う場合は、公表資料で確認し、必要に応じて専門家に相談してください。
通算の順序
ガイドラインは、原則的な方法として次の考え方を示しています。
- まず、本業・副業それぞれの所定労働時間を、労働契約を締結した順に通算します。
- 通算して法定労働時間を超える部分がある場合、その超える部分を時間外労働として扱います。
- 次に、所定外労働が発生したときは、実際に労働した順に通算します。
- 時間外労働の割増賃金は、自社の労働時間制度に基づいて、自社で発生させた時間外労働について支払います。
後から契約した側は、自社の所定労働時間の全部または一部が、通算すると法定時間を超える位置に入ることがあります。この点を知らずに副業先を引き受けると、想定外の割増賃金が生じます。採用の場面では、応募者に他社での雇用の有無を確認しておく必要があります。
上限規制との関係
時間外労働と休日労働の合計で単月100時間未満、複数月平均80時間以内という基準は、通算して管理する必要があるとされています。一方、いわゆる36協定の限度時間や年間の上限については、各事業場ごとの協定の範囲で管理する部分があります。ここは誤解が起きやすいところです。自社の運用を決める前に、ガイドラインと関係する公表資料で確認してください。
建設業は時間外労働の上限規制の適用を受けており、現場の繁忙期に時間外が積み上がります。副業の申請を受ける時期が繁忙期と重なると、通算後に基準を超える見込みになることがあります。許可の条件として、月単位の副業時間の上限を設定する運用が現実的です。
管理モデルという簡便な方法
原則的な通算は、他社の実労働時間を毎月把握する必要があり、事務負担が重くなります。ガイドラインは、簡便な方法として「管理モデル」を示しています。
仕組み
- 先に労働契約を結んでいる会社(本業側)が、自社の法定外労働時間の上限をあらかじめ設定します。
- 後から契約する会社(副業側)が、自社の労働時間の上限をあらかじめ設定します。
- 両者の上限の合計が、単月100時間未満・複数月平均80時間以内の範囲に収まるようにします。
- 各社は、設定した上限の範囲内で労働させます。
- 本業側は自社の法定外労働時間について、副業側は自社の労働時間について、それぞれ割増賃金を支払います。
この方法をとると、各社は相手方の実労働時間を把握しなくても、自社の上限を守ることで基準の範囲に収まります。導入は、本業側が社員を通じて副業先に提案し、副業先が応じることで成立します。
管理モデルを使うときの実務
| 決めること | 誰が | いつまでに |
|---|---|---|
| 自社側の法定外労働時間の上限(月) | 人事と所属長 | 届出受付から2週間以内 |
| 副業先の労働時間の上限(月) | 本人経由で副業先と調整 | 就労開始前 |
| 上限を超えそうなときの連絡経路 | 人事 | 規程に明記 |
| 繁忙期の上限見直し | 所属長と人事 | 四半期ごと |
よくあるつまずきは、上限を決めたものの、現場の所属長がそれを知らず、通常どおり残業を指示してしまう例です。許可通知の写しを所属長にも渡し、勤怠システム側でも上限に近づいたら警告が出る設定にしておきます。
健康確保措置と安全配慮
ガイドラインは、使用者が労働者の健康に配慮する義務を負うことを前提に、健康確保措置を求めています。建設業では、睡眠不足のまま現場に立つことが事故に直結します。ここは形式ではなく実質で運用する必要があります。
実務として入れておくこと
- 許可の条件に、十分な休息が取れる働き方であることを入れます。前日の副業終了時刻と翌日の始業時刻の間隔について、目安を規程に書きます。
- 本人に、体調と睡眠時間を定期的に自己申告させます。月1回の勤怠確認と合わせると負担が少なくて済みます。
- 所属長が、現場での様子(遅刻、集中力の低下、ヒヤリハットの増加)を確認し、気になる点があれば人事へ連絡します。
- 健康診断やストレスチェックの結果を踏まえ、必要なら副業の条件を見直します。見直しの可能性があることは、許可時に本人へ伝えておきます。
- 高所作業や重機の操作、車両の運転を伴う業務に就いている社員については、とくに慎重に判断します。
よくあるつまずき
- 届出を受けたまま放置し、半年後に本人が倒れてから実態を知るケースです。許可には有効期間(例 1年)を設け、更新時に再確認します。
- 本人が「請負なので関係ない」と言い、実態は雇用に近いケースです。契約書の写しを提出させ、指揮命令の有無を確認します。
- 副業先が同じ元請の別の下請だったケースです。現場の重層構造の中で起きやすく、安全管理上も問題になります。相手先の事業者名を必ず申告させます。
労災保険・雇用保険・社会保険の扱い
副業・兼業に関わる保険の扱いは、制度ごとに考え方が異なります。概要は次のとおりです。細かい要件は制度改正があり得るため、手続きの前に公表資料で確認してください。
| 制度 | 考え方 |
|---|---|
| 労災保険 | 複数の事業で働く人について、休業補償等の給付基礎日額は、複数の就業先の賃金額を合算して算定する仕組みがあります。また、複数の就業先の業務上の負荷を総合的に評価して労災認定を行う仕組みもあります |
| 雇用保険 | 原則として、主たる賃金を受ける一の雇用関係について適用されます。一定の年齢以上の人について、複数の事業所の労働時間を合算して適用を受けられる仕組みがあります |
| 厚生年金・健康保険 | それぞれの事業所ごとに加入要件を判断します。2つ以上の事業所で要件を満たす場合は、届出により保険者をまとめ、報酬を合算して保険料を按分します |
実務では、副業先でも社会保険の加入要件を満たすかどうかを本人に確認させ、該当する場合は所定の届出が必要になる旨を許可通知に書いておくと、後の混乱が減ります。
社内規程に落とすときの構成
規程は長くする必要はありません。次の順で書くと、現場で使えます。
- 目的と適用範囲(対象となる社員の範囲を明記)
- 届出の義務と様式、提出先、提出期限
- 会社が制限・禁止できる場合の列挙
- 許可の手続きと通知の方法、有効期間
- 労働時間の申告義務と、管理モデルを採用する場合の取扱い
- 健康確保のための措置と、条件変更・取消しの要件
- 秘密保持と競業に関する確認事項
あわせて、採用時の労働条件明示や入社手続きの中で、他社での雇用の有無を確認する欄を設けておきます。入社後に判明すると、通算の計算をさかのぼって行う必要が生じます。
よくある質問
Q. 副業を全面的に禁止する就業規則のままでも問題ありませんか
ガイドラインは、勤務時間外の時間の使い方は基本的に労働者の自由であるという裁判例の考え方を示しており、全面禁止の条項をそのまま適用することには無理があります。労務提供上の支障、秘密漏洩、競業、信用毀損といった制限できる場面を具体的に定め、それ以外は届出制とする形に見直すことをおすすめします。個別の事案で禁止や懲戒の可否が問題になる場合は、専門家に相談してください。
Q. 社員が週末に個人事業主として現場を手伝う場合も、労働時間を通算しますか
労働基準法上の労働時間の通算は、本業・副業のいずれも労働者として雇用される場合に必要になります。請負や業務委託として行う場合は通算の対象になりません。ただし契約の名称ではなく実態で判断されるため、指揮命令を受けて働いているなら雇用と評価される可能性があります。健康確保の観点からは、通算の対象外であっても就労時間を申告させて把握しておくべきです。
Q. 副業先の実労働時間を毎月もらうのは現実的ではありません。どうすればよいですか
ガイドラインが示す管理モデルを使うと、各社があらかじめ自社側の労働時間の上限を設定し、その範囲内で働かせることで、相手方の実労働時間を把握しなくても基準の範囲に収まります。本人を通じて副業先に提案し、合意できれば運用を始められます。採用する場合は、設定した上限を所属長と勤怠システムの両方に反映させてください。
Q. 副業を認めた社員が過労で体調を崩した場合、会社の責任はどうなりますか
使用者は労働者の健康に配慮する義務を負うため、副業を認めたこと自体で責任を免れるわけではありません。届出内容の把握、休息時間の確保、体調の定期的な確認といった健康確保措置を実際に行い、記録に残しておくことが重要です。責任の有無は個別の事情によって判断されるため、具体的な事案は専門家に相談してください。
Q. 許可を出したあと、どのタイミングで見直せばよいですか
許可に有効期間を設け、更新時に申告内容を再確認する運用が実務的です。あわせて、副業先の労働時間や業務内容が変わったとき、健康診断やストレスチェックで気になる結果が出たとき、本業の繁忙期に入るときを見直しの契機として規程に書いておきます。見直しや条件変更の可能性があることは、最初の許可通知の段階で本人に伝えておいてください。
出典
- 厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
‹ 定着・育成の記事一覧に戻る