所定内給与と所定外給与 統計の賃金の読み方
人事ノート統計の賃金水準を見て「自社は高い」「低い」と判断する場面は、賃上げの検討でも求人票の賃金設定でも出てきます。ところが、統計の「賃金」が何を指しているかを取り違えたまま比べると、結論が逆になることがあります。もっとも多い取り違えが、所定内給与と基本給を同じものとして扱ってしまう例です。
この記事では、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」で使われる賃金の区分を整理し、自社の給与明細の項目をどう仕分けて比較するかを、手順の形でまとめます。
統計の「賃金」は基本給ではない
賃金構造基本統計調査が集計している賃金は、調査対象月に実際に支給された現金給与額です。基本給だけを抜き出した数字ではありません。この調査は毎年6月分の賃金を対象としており、賞与は別枠で前年1年間の実績を集計します。
つまり、よく引用される「所定内給与額」には、基本給のほかに各種の手当が含まれています。一方で、賞与や時間外手当は含まれていません。何が入り、何が入らないのかを先に押さえることが、比較の出発点になります。
用語の区分を押さえる
主な区分は次のとおりです。細かな定義や、どの手当をどこに入れるかの取り扱いは、調査の用語解説と記入要領に示されています。自社で回答する場合や、境界の判断に迷う場合は、公表資料で確認してください。
| 用語 | 何を指すか | 主に含まれるもの |
|---|---|---|
| きまって支給する現金給与額 | 労働契約、労働協約、就業規則などであらかじめ定められた支給条件と算定方法により、調査対象月分として支給された現金給与額。税や社会保険料を控除する前の額 | 基本給、諸手当、超過労働給与額 |
| 所定内給与額 | きまって支給する現金給与額から、超過労働給与額を差し引いた額 | 基本給、職務手当、資格手当、通勤手当、家族手当など |
| 超過労働給与額 | 所定労働時間を超える労働など、所定外の労働に対して支給される給与 | 時間外勤務手当、深夜勤務手当、休日出勤手当、宿日直手当、交替手当など |
| 年間賞与その他特別給与額 | 前年1年間に支給された、賞与や期末手当など特別に支払われた給与 | 賞与、一時金など |
あわせて、労働時間についても所定内実労働時間数と超過実労働時間数が集計されています。賃金額だけを見て判断せず、時間数とセットで見ると、賃金水準の意味が変わってきます。
所定内給与に通勤手当が入ることの意味
所定内給与には通勤手当が含まれます。ここが実務で効いてきます。遠方からの通勤者が多い会社と、現場近くに社宅を置いている会社では、同じ基本給でも所定内給与の見え方が変わります。
自社の数字を統計と並べるときは、基本給だけを取り出して比べないでください。手当を含めた、毎月決まって支給している額に揃える必要があります。
自社の給与項目を仕分ける
給与明細の支給項目を、統計の区分に合わせて仕分けます。仕分けの例は次のとおりです。自社の手当の性格によって結論が変わる項目があるため、就業規則と賃金規程の定めを確認しながら進めてください。
| 自社の支給項目 | 原則の仕分け | 確認したい点 |
|---|---|---|
| 基本給 | 所定内 | 月給制か日給月給制かで月ごとの変動が出る |
| 職務手当、資格手当、役職手当 | 所定内 | 支給条件が規程に定められているか |
| 通勤手当 | 所定内 | 実費精算分と定額支給分の区分 |
| 家族手当、住宅手当 | 所定内 | 支給要件の有無で対象者が変わる |
| 現場手当、現場間の移動に対する手当 | 支給条件が定められていれば所定内の性格 | 実費弁償にあたる部分は賃金と切り分ける |
| 時間外手当 | 所定外 | 単価の算定基礎が正しいか |
| 深夜手当、休日出勤手当 | 所定外 | 法定休日と所定休日の区分 |
| 固定残業代 | 時間外労働の対価として定めた部分は所定外の性格 | 対価部分と基本給部分が規程上分かれているか |
| 賞与、決算賞与 | 年間賞与その他特別給与額 | 毎月の給与に混ぜない |
固定残業代の扱いは、仕分けでもっとも迷うところです。時間外労働の対価として明確に区分されている部分は所定外の性格を持ちますが、区分が不明確なまま一括で支給している場合、自社の中でも整理がついていない可能性があります。統計との比較の前に、まず規程上の区分を確かめてください。調査票への記入方法については、記入要領で確認してください。
比較するときの手順
社内で賃金水準を検討する際の進め方です。担当は人事とし、賃上げ原資の検討時期に合わせて実施します。
- 比較対象を決めます。職種、年齢層または経験年数、企業規模、地域のうち、どの区分で比べるかを先に決めます。区分を揃えないまま全体平均と比べても、判断材料になりません。
- 統計側の数値を取り出します。所定内給与額、きまって支給する現金給与額、年間賞与その他特別給与額、所定内実労働時間数、超過実労働時間数を、同じ区分で揃えて控えます。
- 自社側の数値を同じ定義で作ります。6月分の給与データを使い、前の章の仕分けに従って所定内と所定外に分けます。前年1年間の賞与支給額も別途集計します。
- 対象者の範囲を揃えます。統計は一般労働者と短時間労働者を分けて集計しています。自社側も、短時間勤務者や再雇用者を混ぜるかどうかを決め、記録に残します。
- 年収の目安をそろえます。きまって支給する現金給与額を12倍し、年間賞与その他特別給与額を加えるのが簡便な方法です。ただし6月分が年間の平均的な月とは限らないため、あくまで目安として扱います。
- 時間数と並べて読みます。所定外給与が高い場合、賃金水準が高いのか、労働時間が長いのかを超過実労働時間数で切り分けます。
- 判断と根拠を1枚にまとめます。使った区分、集計対象、計算式を明記し、翌年も同じ方法で再現できるようにします。
求人票の賃金欄に落とし込むとき
求人票に書く月給は、通常、残業代を除いた額か、固定残業代を明示した額になります。統計の所定内給与額は残業代を含まない額ですから、求人票の月給と対応させやすい区分です。
ただし、次の点は食い違いの原因になります。
- 統計の所定内給与額には通勤手当が含まれます。求人票の月給に通勤手当を含めていない会社では、統計の数字の方が構造的に大きく出ます。
- 固定残業代を含めた額を求人票に書いている場合、その額は統計の所定内給与額とは比較できません。固定残業代部分を外してから比べます。
- 賞与は別枠です。賞与込みの年収で比べたい場合は、きまって支給する現金給与額を基礎にした年収換算で揃えます。
よくあるつまずき
- 基本給だけを取り出して統計と比べ、自社が低いと結論づけてしまう例です。手当を含めた所定内給与の定義に揃えてください。
- 全産業の平均値と自社を比べてしまう例です。職種、年齢、企業規模、地域のどれかが大きく違えば、差の意味が読めません。
- 残業が多い職場で、きまって支給する現金給与額が高く出ているのを「賃金水準が高い」と読んでしまう例です。超過実労働時間数を必ず並べます。
- 6月分の数字であることを忘れ、年間を通じた平均と考えてしまう例です。繁忙期の偏りがある会社ほど注意が必要です。
- 短時間労働者を混ぜて自社平均を出し、一般労働者の統計値と比べてしまう例です。対象者の範囲を先に決めてください。
- 集計方法を担当者の手元だけで管理し、翌年に再現できなくなる例です。手順を文書に残します。
賃金制度の見直しにつなげる
区分を揃えて比較すると、課題の所在が見えやすくなります。所定内給与が低く所定外給与が高い場合は、時間外労働への依存が賃金構成に表れています。この状態で残業削減だけを進めると、手取りが減って離職につながりかねません。所定内の水準をどう引き上げるかを同時に検討する必要があります。
逆に所定内給与が同水準で賞与に差がある場合は、年間の支給総額で見れば差が小さいこともあります。どの区分で差が出ているかを特定してから、手当の新設、基本給の改定、賞与原資の配分のどれで対応するかを決めてください。
個別の賃金規程の変更や不利益変更にあたるかどうかの判断は、法的な論点を含みます。制度を変える前に、社会保険労務士や弁護士などの専門家に相談してください。
よくある質問
Q. 統計の所定内給与額と、求人票に書いている月給は同じものとして比べてよいですか。
そのままでは比べられません。所定内給与額には通勤手当や家族手当などが含まれるため、求人票の月給にこれらを含めていない場合は定義が揃っていません。比較する際は、自社側も毎月決まって支給している手当を加えた額に直してください。固定残業代を含めた月給を表示している場合は、その部分を外してから比べます。
Q. 固定残業代は所定内と所定外のどちらに入れて集計すればよいですか。
時間外労働の対価として規程上明確に区分されている部分は、所定外の性格を持ちます。社内比較の集計では、この部分を所定外に寄せて計算すると統計の定義に近づきます。ただし対価部分と基本給部分の区分が規程上あいまいな場合は、まず規程の整理が先になります。調査票に記入する際の具体的な取り扱いは、調査の記入要領で確認してください。
Q. 残業の多い部署は所定内給与で比べると低く見えます。どう扱えばよいですか。
所定内給与額と超過実労働時間数を必ず並べて見てください。所定外給与で賃金総額が補われている構造であれば、残業削減を進めたときに手取りが大きく下がる可能性があります。その場合は、所定内の水準を引き上げる余地があるかを、賃金原資の検討と合わせて確認します。
Q. 6月分の数字だけで年収水準を判断してよいですか。
目安としては使えますが、断定はできません。きまって支給する現金給与額を12倍し、年間賞与その他特別給与額を加えるのが簡便な換算方法ですが、繁忙期の偏りがある会社では6月が平均的な月とは限りません。自社側も同じ前提で換算し、換算方法を記録に残したうえで読んでください。
Q. 自社に該当する区分が統計に見当たらない場合はどうすればよいですか。
職種や企業規模の区分が細かくなるほど、集計対象が少なくなって数値が不安定になることがあります。該当する区分が見つからない、または数値のばらつきが大きいと感じる場合は、ひとつ上の区分で傾向を見るか、複数年の推移で読む方法に切り替えてください。各区分の集計対象や公表の有無は、公表資料で確認してください。
出典
- 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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