有効求人倍率とは 建設業の数字の読み方と使い方
人事ノート採用がうまくいかないとき、経営会議で「市場が厳しいから」と説明する場面があります。その根拠としてよく使われるのが有効求人倍率です。ただし、どの区分の数字を持ってきたかで意味がまったく変わります。ここでは定義と、建設業の採用担当者が実務で使うときの手順を整理します。数値そのものは毎月更新されるため、本記事では具体的な数値を示さず、厚生労働省「一般職業紹介状況」で確認する前提で書きます。
有効求人倍率とは何か
有効求人倍率は、公共職業安定所(ハローワーク)が取り扱った求人と求職をもとに計算される指標です。計算式は次のとおりです。
- 有効求人倍率 = 月間有効求人数 ÷ 月間有効求職者数
分子は、その月にハローワークが有効に保有していた求人の数です。求人は「件数」ではなく採用予定人数に相当する数で数えられます。1件の求人で3名の募集なら、分子には3が乗る形です。分母は、その月に有効な求職申込みをしていた人の数です。
「有効」というのは、申込みが期限内で生きている状態を指します。求人票も求職申込みも、受け付けた月の後しばらくの期間は有効として扱われ、前月からの繰越分が当月の数字に含まれます。有効期間の具体的な取扱いは制度上の定めがありますので、細かい点は公表資料の用語解説で確認してください。
重要なのは、この指標がハローワークで扱った分だけを対象にしている点です。民間の求人媒体、人材紹介、自社採用ページ、リファラルの動きは含まれません。建設業は民間媒体や紹介の利用も多いため、有効求人倍率は「市場全体の体温計のひとつ」であって、自社が戦っている母集団そのものではありません。ここを混同すると、社内の説明がずれます。
似た指標との違い
一般職業紹介状況には、有効求人倍率のほかにも倍率が載っています。用途が違うので、使い分けます。
| 指標 | 計算式 | 性格と使いどころ |
|---|---|---|
| 有効求人倍率 | 月間有効求人数 ÷ 月間有効求職者数 | 繰越分を含む。需給の水準を見る。社内報告の基本線 |
| 新規求人倍率 | 新規求人数 ÷ 新規求職申込件数 | その月に新しく出た分だけ。動きが早く、潮目の変化に気づきやすい |
| 正社員有効求人倍率 | 正社員の有効求人数 ÷ 正社員の有効求職者数 | パートを除いた常用のうち正社員が対象。正社員採用の判断に近い |
施工管理や技術者の正社員採用を検討しているなら、総数の有効求人倍率より、正社員の区分と後述する職業別の数字を合わせて見るほうが実態に近づきます。
どの区分を選ぶかで数字は変わる
同じ月の数字でも、選ぶ区分で見え方が変わります。社内で使う区分をあらかじめ決めておき、毎回同じ区分で追うことが前提です。
| 区分 | 選択肢 | 建設業の人事での目安 |
|---|---|---|
| 季節調整の有無 | 季節調整値 / 原数値 | 前月と比べるなら季節調整値。前年同月と比べるなら原数値 |
| 地域 | 就業地別 / 受理地別 | 勤務地の需給を見るなら就業地別。ハローワークの受理窓口ベースが受理地別 |
| 雇用形態 | 常用(含パート) / 常用(除パート) / 正社員 | 技術者の正社員採用は正社員区分を優先 |
| 職業 | 大分類 / 中分類 | 「建設・採掘の職業」で止めず、中分類まで下りる |
就業地別と受理地別の違いは、建設業では特に効いてきます。本社が県外にあり、現場が自県にあるような求人は、受理地と就業地が一致しません。地域の採用環境を説明したいなら就業地別が実態に近くなります。
建設業はどの職業分類に入るか
建設業の採用で最も多い読み違いが、職業分類です。自社の職種がどこに集計されているかを先に押さえます。
| 自社での呼び方 | 主に集計される職業分類 |
|---|---|
| 施工管理、設計、測量、積算 | 専門的・技術的職業のうち建築・土木・測量技術者 |
| 鉄筋工、型枠大工、とび | 建設・採掘の職業のうち建設躯体工事の職業 |
| 内装、左官、配管、塗装など | 建設・採掘の職業のうち建設の職業(建設躯体工事を除く) |
| 電気工事 | 建設・採掘の職業のうち電気工事の職業 |
| 土木作業 | 建設・採掘の職業のうち土木の職業 |
| 重機オペレーター | 運搬・清掃等や建設・採掘など、作業内容により分かれる |
| 不動産営業、建材営業 | 販売の職業 |
| 工務・総務・経理 | 事務的職業 |
施工管理は「建設・採掘の職業」ではなく技術者側に入ります。ここを取り違えると、技能者の需給の数字で施工管理の採用難を説明してしまい、話がかみ合いません。分類の細目は公表資料の職業分類にしたがって確認してください。
毎月の確認手順
社内で担当者が替わっても同じ数字が出るように、手順を固定します。
- 公表月と対象月を確認します。一般職業紹介状況は毎月公表され、対象は前月分です。公表日程は厚生労働省の公表予定で確認してください。
- 全国の総数(季節調整値)を控えます。経営報告の前置きに使う一行です。
- 自社の主要勤務地の都道府県を、就業地別で控えます。複数県で展開しているなら、現場の多い順に3県程度にしぼります。
- 職業別(中分類)を控えます。技術者と技能者は別の行として記録します。
- 新規求人倍率を同じ区分で控えます。有効求人倍率が横ばいでも新規側が動いていれば、潮目が変わりかけています。
- 自社の数字(応募数、書類通過数、内定承諾数)を同じ月で並べます。市場が動いていないのに自社の応募が落ちているなら、原因は求人票や条件の側にあります。
- 12か月分をひとつの表に積み上げ、毎月1行ずつ追加します。年に1回の確認では判断に使えません。
よくあるつまずき
- 総数だけで語ってしまう。全国の総数は、飲食、介護、事務など全職業の平均です。建設の技術者の需給とは水準が違います。必ず職業別まで下ります。
- 季節調整値と原数値を混ぜる。前年同月比を原数値で取り、前月比を季節調整値で取るのが基本です。年度をまたいで混ぜた表を作ると、動きを読み違えます。
- 倍率の動きだけを見て、分子と分母を見ない。倍率が下がったとき、求人が減ったのか求職者が増えたのかで打ち手が逆になります。求人数と求職者数の実数も一緒に控えます。
- 月次の小さな振れを過大に読む。1か月の増減で採用計画を変えないこと。3か月移動の傾向か、前年同月との比較で判断します。
- ハローワーク外の動きを無視する。民間媒体や紹介の反応が鈍いのに有効求人倍率が落ち着いていることはあります。自社の応募データと必ず並べます。
- 求人を出していない期間の数字で判断する。自社が募集していない月の応募ゼロは、市場の問題ではありません。
社内での使いどころ
有効求人倍率は、単体で結論を出す数字ではありません。次のような場面で、ほかの材料と組み合わせて使います。
- 採用予算の説明。職業別の需給が高止まりしている状況を示し、媒体費や紹介手数料の見通しを立てる材料にします。ただし「倍率が高いので予算を増やす」だけでは通りません。自社の応募単価の推移を添えます。
- 募集時期の検討。新規求人倍率と新規求職申込件数の季節の動きを見て、求職者が動く時期に募集が重なるよう前倒しします。
- 条件見直しの判断。需給がひっ迫している職種で、自社の提示条件が据え置きのままなら、賃金や休日の見直しを検討する入口になります。賃金水準そのものは賃金に関する統計で別途確認します。
- 現場への説明。「人が採れない」という感覚論を、職種別の需給という共通の言葉に置き換えます。感覚の差を埋めるのに役立ちます。
数字は、社内の判断を一本化するための共通言語として使うのが実用的です。毎月同じ区分で記録を残しておけば、翌年の採用計画を立てるときに説得力のある材料になります。
よくある質問
Q. 自社の採用がハローワーク中心ではありません。それでも見る意味はありますか。
意味はあります。有効求人倍率はハローワークの取扱分だけを対象にしていますが、地域や職種の労働需給の方向を月単位で追える公的な指標は多くありません。自社の応募数の増減が市場全体の動きによるものか、自社の求人票や条件によるものかを切り分ける基準として使えます。ただし応募単価や内定承諾率の代わりにはならないため、自社データと必ず並べて見てください。
Q. 施工管理の有効求人倍率を単体で知りたいのですが、公表されていますか。
職業分類は中分類までの集計が中心で、「施工管理」という単位での公表は想定されていません。施工管理は建築・土木・測量技術者に含まれる形になるため、設計や測量を含んだ技術者全体の数字として読むことになります。どの範囲までが公表されているかは、厚生労働省「一般職業紹介状況」の公表資料で確認してください。
Q. 倍率が1倍を超えていれば採用しやすい、下回れば難しいという理解で合っていますか。
方向としては合っていますが、1倍という境目で判断するのは危険です。求人1人分に対して求職者が1人いるという計算上の関係であって、勤務地、資格、経験年数、賃金条件が合う人が1人いるという意味ではありません。建設業の技術者のように条件の合う人が限られる職種では、倍率の水準そのものより、前年同月と比べた動きと自社の応募データの変化を重視してください。
Q. 就業地別と受理地別のどちらを社内資料に載せるべきですか。
勤務地ごとの採用環境を説明したいなら就業地別が適しています。本社所在地のハローワークでまとめて求人を出している会社では、受理地別は実際の現場の所在地と一致しないためです。どちらを使うかを社内で先に決め、毎月同じ区分で記録してください。途中で区分を入れ替えると、前年との比較ができなくなります。
Q. 数字が前月から大きく動いたとき、採用計画を見直すべきですか。
1か月の変動だけで計画を変えないことをおすすめします。月次の数字には振れがあり、季節調整値でも単月の動きは小さくありません。前年同月との比較、3か月程度の傾向、新規求人倍率の方向、自社の応募数の4つがそろって同じ方向を向いたときに、募集時期や条件の見直しを検討するのが現実的です。
出典
- 厚生労働省「一般職業紹介状況」
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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