#データ・市況2026.07.24 公開2026.09.08 更新読了 約8建設タレントサーチ 人事ノート 編集部

設計労務単価の改定を賃上げ判断にどう使うか

国土交通省が公表する公共工事設計労務単価は、公共工事の積算に使う単価であり、企業が支払うべき賃金額そのものではありません。単価に含まれる範囲、自社賃金と比べるための換算手順、賃上げの意思決定に落とし込む流れを、人事・経営の実務の順序で整理します。

情報の基準日
2026.09.08
データ・市況

設計労務単価の改定を賃上げ判断にどう使うか

人事ノート

公共工事設計労務単価(以下、労務単価)が改定されると、社内でも「うちの賃金は上げるべきか」という話が出ます。ところが、労務単価は企業が支払うべき賃金額を定めたものではありません。性格を取り違えたまま比較すると、根拠のない賃上げか、逆に「うちは足りている」という誤った安心につながります。

この記事は、労務単価の位置づけを確認したうえで、自社の賃金水準と比べるための換算手順、賃上げの社内決定に落とし込む段取りを、担当者が実務で使える順序に並べ替えたものです。数値そのものは毎年の公表資料に載っていますので、本文では手順と確認先を示します。

労務単価とは何か

労務単価は、国土交通省が公共工事の予定価格を積算するために用いる、職種別・都道府県別の単価です。次の性格を押さえておくと、社内での説明がぶれません。

  • 積算用の単価です。 発注者が工事費を積み上げるときに使うもので、元請から下請、あるいは会社から労働者へ支払う賃金額を指定するものではありません。国土交通省の公表資料でも、この点は繰り返し注意喚起されています。
  • 実態調査に基づいています。 公共工事に従事した労働者の賃金の支払い実態を調べた結果をもとに算定されます。将来の目標額ではなく、直近の支払い実績を反映した数字です。
  • 1日8時間当たりの単価です。 所定労働時間8時間分に対応する額として示されます。月額でも年額でもありません。
  • 職種と都道府県の組み合わせで決まります。 同じ職種でも地域によって額は異なります。全国平均だけを見て自社と比べると、判断を誤ります。

公表と適用の時期は例年、年度の替わり目に設定されています。正確な公表日と適用開始日は、その年の公表資料で必ず確認してください。適用開始日を誤って社内資料に書くと、後の説明が全部ずれます。

単価に含まれるもの、含まれないもの

自社賃金と比較するときに、最も間違いが起きるのがこの点です。公表資料には、単価に含まれる範囲と含まれない範囲が明示されています。考え方は次のとおりです。

区分主な内容比較時の扱い
含まれる基本給に相当する額自社の基本給と対応させます
含まれる基準内手当に相当する額職務手当など、所定労働に対応する手当を対応させます
含まれる臨時に支払われる給与(賞与など)年間支給額を日額に按分して加えます
含まれる実物給与(食事の現物支給など)自社に該当があれば加えます
含まれない時間外・休日・深夜労働の割増賃金自社側から除いて比較します
含まれない事業主が負担する法定福利費自社側から除いて比較します
含まれない現場管理費に相当する経費(労務管理費、安全管理費、宿舎・送迎に関する費用など)賃金の比較対象に入れません

区分の細目は年によって説明が加わることがあります。社内資料を作る前に、その年の公表資料の注記を読み直してください。

とくに落とし穴になるのが割増賃金です。残業の多い現場の従業員は、支給総額で見ると労務単価を大きく上回ります。しかし労務単価に割増賃金は含まれないため、「総額で上回っているから賃上げは不要」という結論は成り立ちません。比較は必ず、所定労働に対応する部分どうしで行います。

自社賃金を日額に換算する手順

労務単価は1日8時間当たりの額です。自社の賃金は月額と賞与で組み立てられているのが普通ですから、そのままでは比べられません。次の順序で換算します。

  1. 対象者を職種で切り分けます。労務単価は職種別ですので、社内の職種区分と対応づけます。対応する職種が見当たらない場合は、近い職種を選び、選んだ理由をメモに残します。
  2. 年間の所定労働日数を確定します。就業規則と年間カレンダーから、休日を除いた日数を出します。年次有給休暇の取得予定日数は差し引きません。
  3. 所定労働に対応する年間賃金額を出します。基本給と基準内手当の年額に、賞与など臨時の給与の年額を足します。
  4. 割増賃金と、事業主負担の法定福利費を除きます。固定残業代を採用している場合は、その部分を除きます。
  5. 3の額を2の日数で割り、1日当たりの額を出します。
  6. 所定労働時間が8時間でない場合は、8時間相当に補正します。例えば所定7時間30分であれば、8時間分に換算したうえで比べます。
  7. 該当する都道府県・職種の労務単価と並べ、差額と比率を出します。

この計算は個人単位ではなく、職種ごとに複数名の分布で見てください。平均値だけを見ると、経験年数の偏りが隠れます。最低値、中央値、最高値の三つを出すと、社内の議論が具体的になります。

比較結果を賃上げの判断につなげる

差額が出たからといって、即座に同額へ引き上げる話にはなりません。判断は次の順序で整理します。

段階1 差の性質を分ける

差が生じる理由は、いくつかに分解できます。

  • 経験や保有資格が、単価の想定より浅い場合
  • 公共工事の比率が低く、民間工事中心で価格の構造が異なる場合
  • 地域内でも、自社の営業エリアが単価の想定と離れている場合
  • 手当の設計が古く、実態に合っていない場合
  • 単純に賃金水準が低い場合

最後の一つだけが「賃上げで解く問題」です。前の四つは、等級の見直し、受注構成の見直し、手当の再設計で扱う問題です。ここを分けずに議論すると、原資の話に一足飛びに進んでしまいます。

段階2 影響額を試算する

引き上げ案ごとに、次を出します。

  • 対象人数と年間の増加額
  • 割増賃金の単価が上がることによる増加額
  • 賞与への波及額
  • 社会保険料の事業主負担の増加額
  • 退職金制度がある場合の債務への影響

基本給を上げると、割増賃金と賞与と社会保険料に連動します。基本給の増加額だけで試算すると、実際の負担を小さく見積もることになります。

段階3 見積・契約への反映を確認する

人事の判断だけで完結させないでください。賃金を上げるなら、見積の労務費の考え方も同時に見直す必要があります。積算部門・工事部門と、次の点をすり合わせます。

  • 見積で用いている労務費の単価を、いつ、どの水準に更新するか
  • 継続中の契約で、単価の改定を反映できる余地があるか
  • 下請への支払いに、どのように反映するか

近年は、請負契約における労務費の取扱いについて制度面の整備も進んでいます。最新の内容は所管省庁の公表資料で確認してください。

段階4 決定と周知

改定内容、適用月、対象者、改定しない職種とその理由を文書にします。改定しない職種の理由を書いておくと、翌年の議論の出発点になります。

年間の運用に落とし込む

労務単価の改定は毎年あります。その都度ゼロから検討するのではなく、社内の賃金改定サイクルに組み込みます。

時期の目安誰が何をするか
公表直後人事該当都道府県・職種の単価を抜き出し、前年からの変化を一覧にする
公表後2週間以内人事職種別の自社日額を算出し、差額表を作る
賃金改定の検討期人事・経営差の性質を分解し、引き上げ案と影響額を試算する
同時期積算・工事見積単価の更新方針と、下請支払いへの反映方針を確認する
決定後人事賃金規程・賃金テーブルを改定し、労働条件の変更を通知する
決定後人事求人票の賃金欄と、内定者への提示条件を更新する
通年人事中途採用の内定提示額を、職種別の差額表と照らして決める

担当者が変わっても回るように、差額表の様式と算出根拠を保存しておいてください。翌年、同じ様式で更新するだけで済みます。

採用の場面での使い方

労務単価は、採用の意思決定でも使えます。ただし、使いどころを限定してください。

  • 提示額の下限を点検する材料になります。 職種別・地域別の単価と自社の提示額を比べ、著しく低い職種がないかを確認します。応募が集まらない職種は、この点検で説明がつくことがあります。
  • 地域間の差を説明する材料になります。 支店ごとに賃金が異なる理由を社内で説明するとき、地域別に単価が設定されている事実は使えます。
  • 求人票にそのまま書くものではありません。 労務単価は積算用の数字です。求人票には自社が実際に支払う賃金を、労働条件明示のルールに沿って書きます。単価を引用して「業界水準」と表示する使い方は避けてください。

面接で候補者から前職の賃金水準を聞くときも、労務単価を基準に善し悪しを論じないほうが無難です。あくまで社内の検討材料として使います。

よくあるつまずき

全国平均だけで比べてしまう。 労務単価は都道府県別です。営業エリアの都道府県で見ないと、差額の大小が逆転することがあります。複数県で施工している場合は、県ごとに表を作ります。

残業代込みの支給総額と比べてしまう。 労務単価に割増賃金は含まれません。総額で比べると、残業が多い人ほど「足りている」ように見えます。所定労働に対応する部分だけを取り出してください。

賞与を計算から落としてしまう。 労務単価には臨時の給与に相当する額が含まれます。月例賃金だけを日額換算すると、自社側が過小に出ます。

社会保険料の事業主負担を自社側に足してしまう。 法定福利費は単価に含まれません。人件費総額の感覚で足すと、自社側が過大に出ます。

職種の対応づけを毎年変えてしまう。 社内職種と単価の職種の対応表を固定しないと、前年との比較ができなくなります。対応表を文書化し、変更するときは変更履歴を残します。

単価が上がったことを、そのまま従業員に「賃上げの約束」として伝えてしまう。 労務単価の改定と自社の賃金改定は別の意思決定です。検討中の段階で数字が独り歩きすると、決定後の説明が難しくなります。社内周知は、決定した内容と適用月をそろえてから行ってください。

適用開始日を推測で書いてしまう。 社内資料や取引先への説明文に日付を書くときは、その年の公表資料で確認してから記載します。

社内で用意しておく資料

毎年の作業を軽くするために、次の三つを様式として持っておくと運用が安定します。

  1. 職種対応表:社内の職種区分と、労務単価の職種名の対応。対応づけの根拠を一行で添えます。
  2. 日額換算シート:年間所定労働日数、基本給・基準内手当・賞与の年額、除外する割増賃金の額、換算後の日額を並べた表。職種ごと、地域ごとに作ります。
  3. 差額サマリー:職種別・地域別に、自社日額、労務単価、差額、比率、対象人数を並べた一枚。経営会議はこの一枚で議論できます。

労務単価は、賃金の正解を示すものではありません。自社の賃金がどの位置にあるかを、毎年同じものさしで確かめるための材料です。ものさしとして使うには、比較の前提をそろえることが欠かせません。前提のそろえ方を社内で固定できれば、毎年の賃金改定の議論は短くなります。

個別の契約や賃金制度の変更に伴う法的な論点については、社会保険労務士など専門家に相談してください。単価の具体的な数値、職種の一覧、含まれる費用の細目は、その年の公表資料で確認してください。

出典

  • 国土交通省「公共工事設計労務単価」

本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

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