#労務・法改正2026.08.21 公開2026.09.08 更新読了 約8建設タレントサーチ 人事ノート 編集部

労働条件の明示 書面交付の範囲と追加された事項

労働条件の明示は、どの事項を書面で渡し、どの事項は口頭でよいのかが分かれています。2024年4月からは就業場所と業務の変更の範囲、更新上限、無期転換に関する事項が加わりました。建設業の現場配属や有期契約を前提に、書式の整え方と運用手順を整理します。

施行日
2024.04.01
情報の基準日
2026.09.08
労務・法改正

労働条件の明示 書面交付の範囲と追加された事項

人事ノート

労働条件の明示は、入社手続きの書類仕事として片づけられがちです。しかし明示の範囲と方法は労働基準法とその施行規則で決まっており、書面で渡さなければならない事項と、定めがある場合に明示すればよい事項が分かれています。2024年4月1日からは明示事項が追加され、契約更新のたびに確認する項目も増えました。

建設業は現場が変わる、有期契約の技能者や定年後再雇用が多い、入場書類の作成に手が取られる、という事情が重なります。結果として、労働条件通知書の書式が古いまま使われている会社が少なくありません。ここでは、何を・いつ・誰が渡すのかという順序で整理します。

明示のタイミングは「締結時」と「更新時」

労働条件の明示は、労働契約を締結するときに行います。根拠は労働基準法第15条と、その具体的な事項を定めた労働基準法施行規則第5条です。

実務で押さえるべきタイミングは次の3つです。

  1. 新規入社時(正社員、有期契約、パート、定年後再雇用のいずれも対象)
  2. 有期労働契約を更新するとき(更新のたびに、明示が必要な事項をあらためて明示します)
  3. 無期転換の申込権が発生する更新のとき(申込機会と、転換後の労働条件を明示します)

注意したいのは、2の「更新のたび」です。1年契約を自動的に続けている運用では、初回だけ通知書を作って以降は何も渡していないことがあります。更新は新しい契約の締結ですので、明示が必要な事項は毎回明示します。

また、在職中の労働条件を後から変更する場合は、この明示義務とは別に、就業規則の変更や個別の合意という手続の問題になります。混同しやすいところですので、社内では「採用・更新時の明示」と「在職中の条件変更」を別の手順書に分けておくと安全です。

書面で渡す事項と、定めがある場合に明示する事項

施行規則第5条は、明示すべき事項を列挙し、そのうち一定の事項については書面の交付によらなければならないと定めています。区分を表にまとめます。号の番号や細かな文言は、実際の条文で確認してください。

事項位置づけ書面交付
労働契約の期間常に明示必要
有期契約を更新する場合の基準(通算契約期間または更新回数の上限を含む)有期契約で明示必要
就業の場所と従事すべき業務(変更の範囲を含む)常に明示必要
始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制の就業時転換常に明示必要
賃金の決定・計算・支払の方法、賃金の締切りと支払の時期常に明示必要
昇給に関する事項常に明示書面でなくてもよい
退職に関する事項(解雇の事由を含む)常に明示必要
無期転換の申込みができる機会、無期転換後の労働条件該当する更新時に明示必要
退職手当定めをする場合に明示書面でなくてもよい
臨時に支払われる賃金、賞与など定めをする場合に明示書面でなくてもよい
労働者に負担させる食費、作業用品など定めをする場合に明示書面でなくてもよい
安全および衛生定めをする場合に明示書面でなくてもよい
職業訓練定めをする場合に明示書面でなくてもよい
災害補償、業務外の傷病扶助定めをする場合に明示書面でなくてもよい
表彰および制裁定めをする場合に明示書面でなくてもよい
休職定めをする場合に明示書面でなくてもよい

表の下半分は書面交付が求められていない事項です。ただし、後で争いになりやすいのは退職手当、賞与、休職、制裁のあたりです。書面でなくてもよいという理由で口頭にとどめる利点はありません。就業規則に定めがあるなら、通知書に「就業規則第○章のとおり」と条項を特定して書き添える運用が現実的です。

なお、パートタイムや有期雇用の従業員には別の法律でも文書交付が求められる事項があります。短時間勤務者を多く雇う会社は、そちらの明示事項もあわせて公表資料で確認してください。

2024年4月に追加された事項

2024年4月1日から、明示事項に次のものが加わりました。建設業では、どれも実務に直結します。

追加事項明示する場面建設業での主な論点
就業場所と業務の変更の範囲締結時と更新時現場配属、支店間の異動、応援の扱い
更新上限(通算契約期間または更新回数の上限)有期契約の締結時と更新時工期に合わせた契約、定年後再雇用
無期転換の申込機会申込権が発生する更新時5年を超えて働く技能者、事務職
無期転換後の労働条件同上転換後の賃金、就業場所、業務

就業場所と業務の変更の範囲

従来は「雇入れ直後の就業場所と業務」を明示していました。追加されたのは、その後に変更される可能性のある範囲です。将来的に配置される可能性のある場所と業務を、契約締結の時点で分かる形にします。

建設業では、雇入れ直後の欄に本社や支店を書き、変更の範囲の欄に工事現場を書く形が実態に合います。書き方の例を挙げます。

  • 雇入れ直後の就業場所「○○支店」/変更の範囲「○○支店が施工する工事現場、および会社の全事業所」
  • 雇入れ直後の業務「建築工事の施工管理」/変更の範囲「施工管理、積算、安全管理、これらに付随する業務」

「会社が指定する場所」だけの記載は、範囲が読み取れないため避けます。逆に、転居を伴う異動を想定していないのに「全国」と書くと、求人票や面接での説明と食い違います。就業場所の考え方は転勤の範囲の記載とも重なりますので、募集段階の表現とそろえてください。

更新上限

有期契約に更新回数や通算契約期間の上限を設けている場合は、その上限を明示します。上限を設けていない場合は、その旨が分かるようにしておきます。

ここでのつまずきは、上限を決めずに運用していることです。工期に合わせて契約期間を切っているだけで、何回まで更新するのかを社内で決めていないと、明示すべき内容が定まりません。募集を出す前に、職種ごとに「上限なし」「通算○年まで」を決めておきます。

なお、更新上限を新たに設ける場合や短縮する場合には、あらかじめ理由を説明することが求められています。この点の根拠は施行規則とは別の基準にありますので、公表資料で確認してください。

無期転換の申込機会と転換後の労働条件

有期契約が通算で一定期間を超えると、無期労働契約への転換を申し込むことができます。追加されたのは、その申込みができる旨と、転換後の労働条件を、申込権が発生する更新のタイミングごとに明示することです。

実務では次の順序で準備します。

  1. 有期契約者の一覧を作り、通算契約期間を集計する
  2. 申込権が発生する更新月を、契約管理台帳に印を付ける
  3. 転換後の賃金、就業場所、業務、労働時間を決めておく
  4. 更新時の通知書に、申込機会と転換後の労働条件を記載して交付する

3を決めていないと、更新の直前に慌てます。転換後は無期になるだけで、賃金や職務を自動的に上げる必要はありません。ただし、転換後の労働条件を有期のときより不利に変える場合は、別の論点が生じます。個別の事案は社内で判断せず、専門家に相談してください。

定年後再雇用者については、無期転換の通算に関する特例が別の法律に置かれています。該当しそうな場合は、要件と手続を公表資料で確認してください。

渡し方 書面と電子的な方法

原則は書面の交付です。施行規則では、労働者が希望した場合に限り、ファクシミリや電子メールなどの電子的な方法で明示することが認められています。ただし、労働者が出力して書面を作成できるものに限られます。

運用で決めておくことは3点です。

  1. 希望の確認方法。口頭ではなく、申込書や採用手続の書式にチェック欄を設けます。
  2. 送り先。個人のメールアドレスなど、本人が確実に受け取れる宛先にします。社内グループウェアの掲示だけでは足りません。
  3. 到達の確認。送信記録と、本人からの受領連絡を保管します。

電子的な方法にしても、印刷できない形式で送ると要件を満たしません。押印を求めるかどうかは会社の判断ですが、押印の有無は明示義務の充足とは別の話です。

社内の実務手順

採用担当と現場の管理部門で分担できるよう、順序を固定します。

  1. 募集を出す前に、職種ごとの就業場所の範囲、業務の範囲、契約期間、更新上限を決める
  2. 求人票の記載と、通知書の記載を同じ言葉にそろえる
  3. 内定通知の段階で、通知書の案を作る(入社日当日に作り始めない)
  4. 入社日までに、書面または本人が希望した電子的な方法で交付する
  5. 交付した控えを、契約管理台帳と同じ場所に保管する
  6. 有期契約者は、更新月の1か月前に台帳を確認し、更新用の通知書を作る
  7. 申込権が発生する更新では、無期転換に関する記載を追加する

書式は1種類では回りません。最低限、正社員用、有期契約用、定年後再雇用用の3種類を用意し、有期契約用には更新上限と無期転換の欄を組み込んでおきます。

よくあるつまずき

  • 就業場所を「本社」とだけ書き、実際は入社初日から現場に配属している。変更の範囲の欄が空欄のままになっている。
  • 変更の範囲を「会社が指定する場所」とだけ書いている。範囲が特定できず、面接での説明とも照合できない。
  • 1年契約の技能者を何年も更新しているが、通知書は初回のものだけ。通算契約期間を誰も集計していない。
  • 現場の入場書類の準備に追われ、契約書と通知書が入社後に回っている。
  • 兼用書式に署名をもらったが、会社が原本を回収し、本人の控えを渡していない。
  • 電子的な方法で送ったが、本人が希望した記録がなく、到達も確認していない。
  • 昇給や賞与を「業績により決定」とだけ書き、就業規則の条項も示していない。制度がある会社ほど、後で説明を求められます。
  • 労働条件通知書と、建設キャリアアップシステムに登録した就業形態や職種の情報が食い違っている。

年に一度の点検項目

書式は作った時点で古くなります。次の項目を、年度替わりの前に点検してください。

点検項目見るところ担当
書式の版変更の範囲、更新上限、無期転換の欄があるか人事
記載の実態との一致就業場所の範囲が現在の施工エリアと合っているか人事と支店
契約管理台帳有期契約者の通算契約期間と次回更新月人事
交付記録控えの保管、電子的な方法の希望と送信記録人事
求人票との整合募集時の表現と通知書の表現が同じか採用担当

労働条件の明示は、入社時のトラブルを防ぐだけの手続ではありません。就業場所と業務の範囲を言葉にする作業は、配置の方針を社内で確定させる作業でもあります。募集の段階から同じ言葉を使えば、応募者との認識のずれが減り、入社後の早期離職も抑えられます。書式の点検を、採用計画づくりと同じ時期の作業に組み込んでください。

出典

  • 労働基準法施行規則

本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

労務・法改正の記事一覧に戻る

採用がうまく進まないときは、母集団の作り方から見直せます

建設・不動産業界に特化した人材紹介として、施工管理・建築士の有資格者を中心に建設・不動産業界の各職種の経験者をご紹介しています。