#労務・法改正2026.08.03 公開2026.09.08 更新読了 約9建設タレントサーチ 人事ノート 編集部

割増賃金の基礎に入る手当と入らない手当

割増賃金の単価に算入する手当と、除外できる手当は法律で限定されています。手当の名称ではなく実質で判断する必要があり、建設業でよくある現場手当や資格手当は原則として算入対象です。単価の出し方、割増率の重なり方、賃金規程の見直し手順まで実務の順序で整理します。

情報の基準日
2026.09.08
労務・法改正

割増賃金の基礎に入る手当と入らない手当

人事ノート

割増賃金は「単価 × 割増率 × 時間数」で決まります。このうち人事の実務で最も間違いが起きやすいのが、いちばん左の「単価」です。単価の計算に入れる手当と、入れなくてよい手当の区別を誤ると、毎月すべての時間外労働で不足が出ます。しかも未払いは遡って積み上がります。

この記事では、労働基準法が定める割増賃金の枠組みを、賃金規程を点検する順序に並べ替えて整理します。判断が分かれる論点や個別事案は、社内で結論を出す前に労働基準監督署や社会保険労務士など専門家に確認してください。

割増賃金の全体像を先に押さえる

労働基準法第37条は、時間外労働、休日労働、深夜労働について、通常の労働時間の賃金に一定率以上を上乗せして支払うことを使用者に義務づけています。実務では次の3つを分けて考えると整理しやすくなります。

  1. 単価:1時間当たりの通常の賃金。どの手当を含めるかがここで決まります。
  2. 割増率:時間外、休日、深夜のどれに当たるか。重なる場合は率を足します。
  3. 時間数:法定労働時間を超えた時間、法定休日に働いた時間、深夜帯に働いた時間。

建設業では、現場ごとに手当の種類が増えやすく、日給と月給が混在することもあります。単価の計算式が現場実態から離れていないか、年に一度は点検する必要があります。

単価から除外できる賃金は限定列挙

労働基準法第37条第5項と、これを受けた厚生労働省令は、割増賃金の基礎から除外できる賃金を挙げています。ここが重要な点で、この列挙は限定列挙です。列挙されていない手当は、名称が何であっても単価に算入します。

除外できるのは次のものです。

除外できる賃金除外が認められる条件の考え方
家族手当扶養家族の人数や家族の有無に応じて額が変わるもの
通勤手当通勤距離や実際の通勤費用に応じて額が変わるもの
別居手当単身赴任など、別居の実態に応じて支給されるもの
子女教育手当子の教育費の負担に応じて支給されるもの
住宅手当住宅に要する費用に応じて額が変わるもの
臨時に支払われた賃金支給事由の発生が不確定で、まれに支払われるもの
1か月を超える期間ごとに支払われる賃金賞与など、支給期間が1か月を超えるもの

注意すべきは、手当の名称ではなく支給実態で判断するという点です。次の3つは特に誤りが多いところです。

  • 一律定額の家族手当:扶養家族の有無にかかわらず全員に月1万円を支給している場合、家族手当という名称でも除外できません。
  • 一律定額の住宅手当:持ち家か賃貸かを問わず全員に同額を支給している場合や、賃貸なら一律2万円のように費用と連動しない場合は、除外できないと扱われます。住宅費用に応じて段階的に変わる設計であれば除外の余地があります。
  • 一律定額の通勤手当:距離や実費と無関係に全員へ同額を支給している場合は、除外できません。

賞与と年俸制の落とし穴

賞与は「1か月を超える期間ごとに支払われる賃金」として除外できます。ただし、支給額があらかじめ確定していて毎月分割して支払われる場合は、実質的に毎月の賃金であり、除外できないと判断される可能性があります。年俸制で、年俸額を16分割して4か月分を賞与として支給するような設計は、この論点に直接触れます。年俸制を導入している場合は、賞与部分の確定性と支給時期を必ず確認してください。

建設業でよくある手当の取扱い

建設業の賃金規程には、現場運営に紐づいた手当が並びます。これらは除外リストに載っていないため、原則として単価に算入します。

手当の例単価への算入補足
現場手当、出向現場手当算入する除外列挙にない
資格手当(施工管理技士、電気工事士など)算入する除外列挙にない
役職手当、職務手当算入する除外列挙にない
皆勤手当、精勤手当、無事故手当算入する除外列挙にない
危険作業手当、高所作業手当算入する除外列挙にない
寒冷地手当、地域手当算入する除外列挙にない
出張旅費、宿泊費の実費精算算入しないそもそも賃金に当たらない実費弁償
車両手当実態で判断実費弁償なら賃金でない。定額支給で燃料費等と無関係なら賃金として扱われる可能性がある
固定残業代算入しない割増賃金そのものであり、単価の基礎には入れない

実費弁償かどうかは、支給根拠と精算方法で決まります。領収書や走行距離をもとに精算しているのか、それとも一律の定額を渡しているのか。給与明細上の項目名だけでは判断できません。支給根拠を規程と運用の両面で確認してください。

1時間当たりの単価を出す

単価の計算方法は、賃金形態ごとに決まっています。複数の形態が組み合わさっている場合は、それぞれ計算して合算します。

賃金形態1時間当たりの単価
月給月によって定められた賃金 ÷ 1か月平均所定労働時間数
日給日によって定められた賃金 ÷ 1日の所定労働時間数
週給週によって定められた賃金 ÷ 1週の所定労働時間数
時間給その金額
出来高払制その賃金算定期間の総額 ÷ 総労働時間数

1か月平均所定労働時間数の出し方

月給者の単価計算で使う分母は、次の式で求めます。

(年間の暦日数 − 年間所定休日数)× 1日の所定労働時間数 ÷ 12

ここでのつまずきは、この数字を一度決めたまま更新していないことです。週休2日制へ移行して年間所定休日を増やしたのに、分母を以前のままにしていると、単価が実際より低く計算されます。年間カレンダーを改定したら、必ず同じタイミングで分母を計算し直してください。うるう年の扱いも社内ルールとして決めておくと、毎年の判断が要りません。

割増率と、重なったときの扱い

割増率は労働基準法第37条に定められています。深夜労働は原則として午後10時から翌午前5時までの労働を指します。

区分割増率
法定時間外労働2割5分以上
1か月60時間を超える法定時間外労働5割以上
法定休日労働3割5分以上
深夜労働2割5分以上
法定時間外労働と深夜労働が重なる5割以上
60時間超の時間外労働と深夜労働が重なる7割5分以上
法定休日労働と深夜労働が重なる6割以上

押さえておきたい点が2つあります。

1つ目は、1か月60時間を超える時間外労働の5割以上という割増率について、中小企業に認められていた猶予措置は2023年4月1日に終了していることです。企業規模にかかわらず適用されます。なお、60時間を超えた部分について、労使協定を結んだうえで有給の休暇(代替休暇)を与え、引上げ分の支払いに代える仕組みも法律上用意されています。

2つ目は、法定休日労働には時間外労働の概念が重ならないことです。法定休日に10時間働いても、3割5分以上の率で計算します。時間外労働の2割5分を上乗せするわけではありません。その代わり、就業規則で法定休日をどの曜日にするかを定めていないと、どちらの休日が法定休日か判断できず、計算が固まりません。

端数処理と、賃金台帳への記載

計算の途中で1円未満や1時間未満の端数が出ます。事務を簡便にするための端数処理は、労働者に不利にならない範囲で行政解釈により認められています。一般に知られているのは次の取扱いです。

  • 1か月における時間外労働、休日労働、深夜労働のそれぞれの時間数の合計に1時間未満の端数がある場合、30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げる。
  • 1時間当たりの賃金額や割増賃金額に円未満の端数が生じた場合、50銭未満を切り捨て、50銭以上を1円に切り上げる。

日ごとに切り捨てる運用は認められません。「15分未満は切り捨て」といった日々の丸めは、労働時間の切り捨てそのものになります。取扱いの詳細は公表資料で確認したうえで、賃金規程に明記してください。

また、賃金台帳には労働時間数、時間外労働時間数、休日労働時間数、深夜労働時間数を記載する必要があります。給与計算システムの出力がこれらを分けて表示しているか確認してください。

固定残業代を採用している場合の確認点

建設業では、月20時間分などの固定残業代を組み込んだ賃金設計が広く使われています。制度そのものが直ちに違法になるわけではありませんが、実務上は次の3点が問われます。

  1. 通常の労働時間の賃金部分と、割増賃金部分が判別できること。基本給と固定残業代が金額として分かれているか。
  2. 固定残業代が何時間分に相当するかが明示されていること。求人票、労働条件通知書、賃金規程の3つで数字が一致しているか。
  3. 相当時間数を超えた月に、差額を追加で支払っていること。この差額精算が運用されていないケースが最も多く見られます。

この領域は裁判例の蓄積があり、設計と運用の両面が問われます。自社の制度に不安がある場合は、個別に専門家へ相談してください。

賃金規程を点検する手順

社内でそのまま使える順序にまとめます。担当は人事・給与担当者、確認者は労務責任者を想定しています。

  1. 手当の棚卸し(人事担当・1週間) 賃金規程と直近3か月の賃金台帳を突き合わせ、支給実績のある手当をすべて書き出します。規程にないのに支給されている手当、規程にあるのに使われていない手当を洗い出します。
  2. 除外可否の判定(人事担当・1週間) 手当ごとに、除外列挙の7項目に当たるかを判定します。当たる場合も、支給実態が条件を満たすか(家族数に連動しているか、住宅費用に連動しているかなど)を確認します。判定結果は一覧表にして残します。
  3. 単価計算式の再確認(人事担当・3日) 年間所定休日数と1日の所定労働時間から、1か月平均所定労働時間数を計算し直します。給与計算システムに登録されている数値と一致するか確認します。
  4. 割増率の設定確認(人事担当・3日) 時間外、深夜、法定休日、60時間超の各区分について、システムの設定率を確認します。法定休日を就業規則でどう定めているかも合わせて確認します。
  5. 固定残業代の点検(労務責任者・1週間) 相当時間数の明示と差額精算の実績を、直近1年分で確認します。
  6. 差異が見つかった場合の対応方針決定(経営者・労務責任者) 不足が判明した場合の遡及精算の範囲と時期を決めます。ここは判断が難しいため、専門家を交えてください。
  7. 規程改定と周知(人事担当) 賃金規程を改定する場合は、就業規則の変更手続きに沿って進めます。労働条件通知書と求人票の記載も同時に直します。

よくあるつまずき

  • 手当を新設したときに、単価計算式へ反映していない。 現場手当や資格手当を新設したのに、給与計算システムの割増賃金の基礎項目に追加していないケースです。手当の新設と単価設定は、同じ稟議で必ずセットにしてください。
  • 「除外できる手当」を広く解釈している。 除外は限定列挙です。福利厚生的な性格があるという理由だけでは除外できません。
  • 住宅手当を一律定額で払いながら除外している。 建設業では社宅や住宅補助の設計が会社ごとに異なります。費用に連動しない定額支給は算入対象と考えて点検してください。
  • 年間カレンダー改定後に分母を更新していない。 週休2日制の推進で所定休日を増やした年は、特に注意が必要です。
  • 法定休日を就業規則で特定していない。 どちらの休日が法定休日か決まっていないと、3割5分と2割5分のどちらで計算すべきかが確定しません。
  • 日給者の1日の所定労働時間があいまい。 日給制の単価は1日の所定労働時間で割ります。この時間数が規程に書かれていないと、単価そのものが決まりません。
  • 出来高払部分を単価に入れていない。 出来高や歩合の要素がある場合、その部分についても割増賃金の計算が必要です。

採用実務への影響

単価の考え方は、求人票の年収表示にも直結します。固定残業代を含む月額を提示する場合、相当時間数と、超過分を別途支給する旨の記載が求められます。入社後に「聞いていた金額と違う」という食い違いが起きる原因の多くは、この記載と実際の計算方法のずれです。

賃金規程を点検したら、その結果を求人票と労働条件通知書の記載にも反映してください。採用と労務は、割増賃金の計算式で確実につながっています。

出典

  • 労働基準法

本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

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