試用期間とは 採用時に説明しておく実務
人事ノート試用期間は、多くの会社が就業規則に置いている仕組みです。ところが「試しに雇っている期間だから、合わなければ辞めてもらえる」という理解のまま運用している会社が少なくありません。実際には、試用期間中であっても労働契約は成立しています。ここを誤解したまま採用を進めると、本採用を見送る場面でもめます。
この記事は、建設・不動産会社の人事担当者が、採用の入口で何を決め、何を説明しておくべきかを整理したものです。制度の根拠は労働基準法と労働契約法にありますが、条文の細部や個別事案の判断は、公表資料の確認と専門家への相談をおすすめします。
試用期間とは何か
試用期間は、採用した人の適性や能力を、実際に働いてもらいながら見極めるために設ける期間です。法律に「試用期間」という独立した章があるわけではありません。会社が就業規則や労働契約で定めることで成り立つ仕組みです。
押さえておきたい点は次の3つです。
- 試用期間中も労働契約は成立しています。期間の定めのない契約で採用したなら、初日から正社員としての契約です。
- 試用期間は「解約権が留保された労働契約」と理解されています。会社には通常の雇用より広い範囲で契約を解約する余地がある、という整理です。ただし広いというだけで、自由ではありません。
- 本採用を見送る行為は、法的には解雇にあたります。解雇として扱われる以上、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められます。
つまり試用期間は「お試し」ではなく、「見極めの余地が少し広い雇用」です。この認識を社内で共有しておくことが出発点になります。
有期の契約期間との違い
現場や営業の未経験者を採用する際、「まず6か月の有期契約で、問題なければ正社員」という設計をする会社もあります。これは試用期間とは別の仕組みです。
| 項目 | 試用期間 | 有期労働契約 |
|---|---|---|
| 契約の形 | 期間の定めのない契約の一部 | 期間の定めのある契約 |
| 終了のさせ方 | 本採用見送りは解雇にあたる | 契約期間満了での終了がありうる |
| 更新の扱い | 更新という概念はない | 更新の有無と基準の明示が必要 |
| 求職者への見え方 | 正社員として入社した扱い | 正社員ではない期間がある扱い |
どちらを使うかは、採用の目的と求職者への伝え方で決めます。有期契約を挟む設計は、求職者側から見ると「正社員採用ではない」と受け取られます。応募を集めたい職種では不利に働くことがあります。逆に、適性の見極めに時間がかかる職種では、有期契約のほうが双方にとって明確な場合もあります。
期間の長さと延長の考え方
試用期間の長さに、法律上の一律の上限はありません。実務では3か月から6か月で設定する会社が多く見られます。長すぎる期間は、労働者を不安定な地位に置くものとして問題になりうるため、見極めに必要な範囲にとどめます。
期間を決めるときは、次の順で考えると整理しやすくなります。
- その職種で、適性を判断するのに実際に何か月かかるかを洗い出します。施工管理であれば、1つの工程を一通り経験するまでの期間が目安になります。
- 評価の面談をいつ行うかを決めます。期間の中間と終了前の2回は最低限置きます。
- 延長の可能性を残すかを決めます。残すなら、就業規則に延長の事由と上限期間を書いておきます。
- 決めた内容を就業規則に反映し、労働条件通知書にも記載します。
延長するときの注意
就業規則に延長の定めがないまま、口頭で「もう3か月見ます」と伝えるのは避けます。延長は労働者の地位を不安定にする行為なので、根拠が必要です。
延長する場合の手順は次のとおりです。
- 就業規則の延長規定を確認します。事由と上限期間が定められているかを見ます。
- 延長する理由を具体的に書き出します。「協調性に欠ける」といった評価語ではなく、どの業務で何が不足しているかを書きます。
- 本人に面談で説明し、延長期間と、その間に何ができるようになれば本採用とするかを伝えます。
- 書面で通知し、本人の確認を得ます。
延長を繰り返すのは避けます。見極めがつかないまま期間だけ伸びる状態は、会社側の評価設計に問題があるサインです。
試用期間中の労働条件
試用期間中も労働契約が成立している以上、労働基準法の適用があります。社会保険や労働保険の扱いも、通常の労働者と同じ考え方になります。
| 項目 | 試用期間中の扱い |
|---|---|
| 賃金 | 労働した分の支払いが必要。最低賃金を下回ることはできない |
| 労働時間・休日 | 法定の上限や休日の規定が適用される |
| 割増賃金 | 時間外・休日・深夜の割増が必要 |
| 社会保険 | 加入要件を満たせば入社日から加入手続が必要 |
| 労働保険 | 労災保険は雇用した時点から適用される |
| 年次有給休暇 | 継続勤務期間の起算は入社日から。試用期間は除外されない |
| 安全衛生教育 | 雇入れ時教育は試用期間中でも実施が必要 |
建設業では、雇入れ時の安全衛生教育と、現場に入る前の手続が試用期間と重なります。試用期間だからといって教育を後回しにすることはできません。むしろ入社直後が最も事故のリスクが高い時期です。
試用期間中の賃金を本採用後より低く設定すること自体は、就業規則に定めがあれば可能です。ただし最低賃金を下回らないことと、求人票および労働条件通知書に明記することが前提です。求人票に本採用後の賃金だけを書き、入社後に「試用期間中は別の金額」と伝えるのは、食い違いの典型です。
本採用を見送る場合の手順
本採用の見送りは解雇にあたります。感覚ではなく、記録に基づいて判断します。
解雇予告との関係
労働基準法には、解雇の予告に関する定めがあります。原則として、解雇するには30日前の予告か、予告に代わる手当の支払いが必要です。
一方で、試用期間中の者については、適用除外の定めがあります。ただしこの除外は、雇い入れてから14日を超えて引き続き使用されるに至った場合には適用されません。つまり、入社から14日を超えて働いている人を解雇する場合は、通常どおり予告か予告手当が必要になります。
実務では「試用期間中だから予告はいらない」という誤解が多く見られます。14日という区切りがある点を社内で共有してください。条文の正確な表現と、除外の対象となる範囲については、労働基準法の条文を直接確認することをおすすめします。
判断までの手順
- 試用期間の開始時に、評価項目と到達基準を本人に書面で示します。ここが抜けると、後の判断の根拠が作れません。
- 期間中、指導した内容と本人の反応を記録に残します。日付、場面、指導者、具体的な事実を書きます。
- 中間面談で、不足している点を本人に伝えます。伝えていない事項を理由に見送ることはできません。
- 改善の機会を与えます。何をどこまで改善すれば本採用とするかを明示します。
- 期間終了前に、記録を基に判断します。判断は複数名で行い、議事を残します。
- 見送る場合は、14日を超えているかを確認し、予告または予告手当の処理を行います。
- 本人に面談で理由を説明します。書面で理由を示すことも検討します。
見送りが認められにくい例
- 入社後に伝えた指導の記録が一切なく、期間終了直前に「合わない」とだけ伝える場合
- 求人票や面接で説明していなかった業務ができないことを理由にする場合
- 健康状態や私生活上の事情を理由にする場合
- 必要な教育を会社が行っていないのに、技能の不足を理由にする場合
建設業では、未経験者を採用して現場に配属した後、教育担当が多忙で指導が行き届かないまま期間が過ぎることがあります。この状態で見送りを判断すると、会社側の教育不足が問われます。
採用時に説明しておくこと
試用期間をめぐるもめごとの多くは、入口の説明不足から起きます。次の項目は、内定の段階で文書にして伝えます。
| 説明する項目 | 伝える内容 | 伝える時期 |
|---|---|---|
| 試用期間の有無と長さ | 何か月か。起算日はいつか | 求人票および内定通知の時点 |
| 延長の可能性 | 延長の事由と上限期間 | 内定通知の時点 |
| 試用期間中の賃金 | 本採用後と差があるか。ある場合は金額 | 求人票および労働条件通知書 |
| 評価の項目 | 何を見るか。到達基準は何か | 入社initial日の受け入れ時 |
| 面談の時期 | 中間と終了前にいつ行うか | 入社日の受け入れ時 |
| 本採用の判断方法 | 誰が、何に基づいて判断するか | 入社日の受け入れ時 |
労働条件の明示は、書面での交付が求められる事項があります。試用期間に関する事項をどこまで書面に入れるかは、自社の就業規則と合わせて確認してください。
現場配属の職種で特に伝えること
建設業では、入社後すぐに現場に配属されるケースがあります。この場合、次の点を事前に伝えておくと食い違いが減ります。
- 配属先の現場がどこか。期間中に変わる可能性があるか
- 移動時間の扱いと、直行直帰の可否
- 保護具や作業服の支給範囲と、本人負担の有無
- 資格取得の支援があるか。試用期間中も対象か
- 試用期間中に現場の手当がつくか
不動産の営業職であれば、歩合給の対象が試用期間中からかどうかが論点になります。本採用後からとする場合は、その旨を明記します。
よくあるつまずき
就業規則に試用期間の定めがないまま運用している
労働条件通知書にだけ「試用期間3か月」と書き、就業規則に記載がない会社があります。この場合、本採用見送りの根拠が弱くなります。就業規則の整備を先に行ってください。
試用期間の起算日があいまい
入社日からなのか、現場配属日からなのかが決まっていないと、終了日の計算でもめます。入社日起算が基本です。
評価者が現場の職長だけになっている
現場で見ている人の評価は重要ですが、その人だけの印象で判断すると、相性の問題が能力の問題として扱われます。人事と現場の双方が関わる形にします。
本採用の通知を出していない
試用期間が終わっても何も通知せず、そのまま働き続けている会社があります。本人が自分の立場を把握できません。期間満了時に本採用の通知を出す運用にします。
試用期間中の退職を引き止めない
入社直後の退職は、受け入れ体制に原因があることが多いものです。本人に理由を聞き、記録に残してください。同じ理由が続くなら、採用時の説明か受け入れ手順を見直す必要があります。
社内で整えておく書式
次の4つを用意しておくと、担当者が変わっても運用が揺れません。
- 試用期間の評価シート。評価項目と到達基準を職種別に書いたもの
- 中間面談の記録様式。指導内容と本人の反応を書く欄を設けたもの
- 本採用通知書。期間満了時に交付するもの
- 試用期間延長通知書。延長の事由と期間、本採用の条件を書くもの
これらは一度作れば使い回せます。採用人数が少ない会社ほど、属人的な運用になりがちです。書式を作ることが、判断のばらつきを防ぐ一番の近道です。
よくある質問
Q. 試用期間中に本人から辞めたいと言われました。即日で退職させてよいですか
本人からの退職の申出は、試用期間中でも通常の退職と同じ扱いになります。就業規則に退職の申出期間の定めがあれば、それに従うのが原則です。ただし、無理に引き止めると別の問題を生むため、引き継ぎの範囲を確認したうえで合意による退職として処理するのが実務的です。離職票や社会保険の喪失手続は通常どおり必要です。
Q. 試用期間を6か月にしたいのですが、長すぎますか
法律で一律の上限は定められていません。6か月とする会社は実際にあります。ただし、見極めに必要な範囲を超えて長く設定すると、相当性が問われる可能性があります。職種ごとに「何を見るためにこの長さが必要か」を説明できる形にしておき、設定の妥当性に不安がある場合は専門家に相談してください。
Q. 入社から10日で本採用しないと決めました。解雇予告は不要ですか
労働基準法には試用期間中の者に関する解雇予告の適用除外の定めがありますが、14日を超えて引き続き使用された場合は除外されません。入社から10日の時点であれば除外の対象となる可能性がありますが、予告が不要であることと、解雇そのものが有効であることは別の話です。解雇として合理的な理由が必要な点は変わらないため、条文の確認と専門家への相談をおすすめします。
Q. 試用期間中の人も建設キャリアアップシステムに技能者登録させるべきですか
現場に入って作業を行うのであれば、就業履歴の蓄積は試用期間中から始まります。元請の運用で登録が求められる現場もあります。試用期間かどうかで扱いが変わるものではないため、配属が決まった段階で登録と事業者への技能者の紐づけを進めるのが実務的です。現場ごとの運用要件は、元請の指示と公表資料で確認してください。
Q. 試用期間中に有給休暇の請求がありました。応じる必要がありますか
年次有給休暇の権利は、継続勤務期間と出勤率の要件を満たした時点で発生します。継続勤務期間の起算は入社日からであり、試用期間は除外されません。したがって、入社から6か月の時点で要件を満たせば、試用期間が続いていても権利は発生します。要件の詳細は労働基準法の規定を確認してください。
出典
- 労働基準法
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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