評価制度が形だけで終わる会社の共通点と直し方
人事ノート「制度はある」のに機能していない状態とは
評価制度そのものが無い会社は、実はそれほど多くありません。多いのは、評価シートは存在するのに、次のような状態になっている会社です。
- 期末に一斉に配られ、締切直前に上司がまとめて記入している
- 評価結果が本人に伝わっていない、または点数だけ口頭で伝えられる
- 評価と昇給・賞与の関係が誰にも説明できない
- 現場所長によって甘辛の差が大きく、社員の間で不公平感がある
- 数年前に作った評価項目が、今の工事内容や役割と合っていない
この状態は、制度が無いよりも悪い影響を与えることがあります。社員は「評価されている」と思って行動を変えたのに、処遇が変わらなかったという体験をするからです。期待を持たせて裏切る形になるため、定着にはマイナスに働きます。
建設業では、評価対象者が本社ではなく現場に散っている点が難しさを増やします。評価者である所長や工事長は、自分の工程管理で手一杯です。評価を「本社から降ってくる事務作業」と受け取られた時点で、形だけの運用になります。
機能している会社が押さえている4つの要素
形だけの制度と機能する制度の差は、複雑さではありません。次の4つが揃っているかどうかです。
| 要素 | 機能している状態 | 形だけの状態 |
|---|---|---|
| 評価項目 | 職種と等級ごとに、現場で観察できる行動で書かれている | 「協調性」「積極性」など抽象語だけが並ぶ |
| 評価者 | 誰が一次・二次評価者かが明文化され、訓練を受けている | 直近の上司が何となく付けている |
| 処遇反映 | 評価結果と昇給額・賞与算定の関係が社内に開示されている | 評価と処遇の関係を人事しか知らない |
| 面談 | 期初の目標すり合わせと期末のふり返りが定例化している | 期末に結果を渡すだけ、または渡さない |
注目してほしいのは、4つのうち3つが「運用」に関するものだという点です。評価項目という設計物は1つだけで、あとは誰がいつ何をするかという段取りです。制度が形だけになる会社は、設計に時間をかけて運用の設計を省いています。
なお、賃金制度や賞与の支給状況、労働時間制度の導入割合などは、厚生労働省「就労条件総合調査」で産業別の傾向が公表されています。自社の水準が業界の中でどのあたりかを確かめたいときは、この調査の最新結果を確認してください。ここでは具体的な数値は挙げません。年によって集計項目が変わるため、必ず公表資料そのものに当たることをおすすめします。
導入・立て直しの順序
評価制度を新しく作る場合も、既存の制度を立て直す場合も、順序は同じです。設計から入ると必ず途中で止まります。目的の合意から始めてください。
- 経営が評価制度に何をさせたいかを1枚にまとめる(担当:人事、期間:2週間)。定着率を上げたいのか、若手の育成速度を上げたいのか、賃金の納得感を高めたいのか。目的が3つ以上あると設計が破綻します。多くても2つに絞ります。
- 現行の賃金決定の実態を洗い出す(担当:人事、期間:3週間)。昇給額が過去3年でどう決まっていたかを個人別に並べます。多くの会社で「実は勤続年数と資格でほぼ決まっていた」ことが分かります。ここを見ずに評価制度を作ると、評価結果と実際の昇給が矛盾します。
- 等級と役割を定義する(担当:人事+役員、期間:1か月)。施工管理なら「担当」「主任」「所長補佐」「所長」といった段階です。各段階で任せる工事規模や責任範囲を文章にします。評価項目はこの後に作ります。
- 職種別の評価項目を作る(担当:人事+現場の中堅、期間:1か月)。ここは人事だけで作らないでください。現場の中堅社員3〜5名に入ってもらい、実際の行動レベルの言葉に直します。
- 処遇への反映ルールを決める(担当:役員、期間:2週間)。評価がどの区分なら昇給がいくら、賞与の係数がいくつになるのかを決めます。ここが決まらないまま試行に入ると、社員に説明できません。
- 評価者訓練を実施する(担当:人事、期間:半日×2回)。
- 1期間だけ試行し、処遇には反映しない(期間:半期)。試行結果のばらつきを見て評価項目を直します。
- 本運用を開始し、社員向け説明会を開く(担当:人事+役員)。
全体で半年から1年かかります。急ぐ会社ほど1と2を飛ばしますが、この2つを飛ばした制度はほぼ確実に形だけになります。
評価項目を「現場で見える行動」に落とす
抽象語のままの評価項目は、評価者が判断できません。判断できないものは印象で付けられ、甘辛の差になります。
書き換えの例
| 抽象的な項目 | 現場で観察できる書き方(施工管理・主任クラスの例) |
|---|---|
| 責任感がある | 工程の遅れを認識した時点で、当日中に上位者へ報告している |
| 安全意識が高い | 朝礼とKY活動で、その日の作業に固有の危険を自分の言葉で説明している |
| 協調性がある | 協力会社の職長と週1回以上、翌週の段取りを事前に確認している |
| 書類が正確 | 出来形管理の書類を、監督員の指摘なしで期限内に提出している |
| 後輩を育てている | 担当する若手に、月1回以上、図面の読み方を実地で指導している |
右側の書き方であれば、所長は「やっていた」「やっていなかった」を思い出せます。評価者が事実を思い出せる粒度まで下ろすことが、公平さの土台になります。
職種ごとに分けるかどうか
施工管理、設計、積算、営業、技能職では、求める行動が違います。全社共通の1枚で済ませようとすると、どうしても抽象語になります。目安として、10名以上いる職種は専用の評価表を作ります。数名の職種は共通表に職種別の項目を数個足す形で足ります。
項目数の目安
項目は10〜15個に収めます。20個を超えると、評価者が1人あたり30分以上かかるようになり、締切直前の一括処理を招きます。逆に5個以下だと、1項目の重みが大きすぎて点差が極端になります。
評価者訓練で必ず扱う4つのこと
評価者訓練を「制度説明会」で済ませている会社が多くあります。説明だけでは、付け方の癖は直りません。次の4つを実習形式で扱ってください。
- 評価誤差の種類を知る。全員を中央に寄せる、直近の出来事に引きずられる、ひとつの長所で全体を高く付ける、といった癖です。名前を知るだけでも自覚が働きます。
- 同じ事例に全員で点を付け、差を見る。架空の社員の1年間の行動を2ページ程度にまとめ、評価者全員がその場で採点します。点がばらついた項目こそ、評価項目の書き方に問題がある箇所です。
- 事実と解釈を分ける練習をする。「やる気が無い」は解釈です。「工程会議に3回遅刻した」が事実です。評価コメントは事実で書くよう徹底します。
- フィードバック面談のロールプレイをする。低い評価を伝える場面を必ず入れてください。ここが最も苦手な評価者が多く、実際には伝えずに終わってしまう原因になります。
訓練は半日×2回、初年度は全評価者必須にします。翌年以降も、新任の所長は必ず受講させます。現場が忙しい時期を避け、年間予定に先に入れておくことが実務上の要点です。
面談の設計
評価制度が定着に効くかどうかは、面談の質でほぼ決まります。点数だけを渡す運用では、社員の行動は変わりません。
| 時期 | 面談の名前 | 所要時間 | 話す内容 |
|---|---|---|---|
| 期初 | 目標すり合わせ | 30〜45分 | 今期の担当工事、伸ばす行動を2〜3個、必要な支援 |
| 期中 | 中間確認 | 20〜30分 | 進み具合、環境の変化、目標の修正 |
| 期末 | ふり返り | 45〜60分 | 評価結果と根拠、次期に向けた課題、本人の希望 |
年3回、1人あたり合計2時間程度です。所長が10名を見るなら年20時間になります。これを負担と見るか投資と見るかで、制度の行方が変わります。
面談で扱う「本人の希望」には、資格取得の予定、担当したい工事の種類、転勤の可否といった項目を含めます。ここで聞いた内容を人事が集約すると、翌年の配置や採用計画の材料になります。面談を評価の場だけにせず、情報収集の場としても設計してください。
面談の記録は必ず所定の様式に残します。口頭だけだと、翌期に「そんな話はしていない」というすれ違いが起きます。様式は1ページで足ります。話した内容、合意した目標、会社が行う支援の3項目です。
よくあるつまずきと対処
評価と昇給の関係を開示していない
「開示すると不満が出る」という理由で非開示にしている会社があります。しかし非開示の方が不満は大きくなります。社員は自分の昇給額を他人と比べる手段を持っており、説明が無ければ勝手な推測が広がるからです。少なくとも「どの評価区分ならいくらの範囲で昇給するか」という表は開示してください。
評価が甘い所長の部下ばかり昇格する
一次評価をそのまま使うと必ず起きます。二次評価者による調整会議を設けてください。所長が集まり、同じ等級の社員を横並びで見て、評価の根拠を出し合う場です。半期に1回、2時間程度で運営できます。この会議があるだけで、一次評価の段階で根拠を持って付けるようになります。
現場が忙しい時期に締切が重なる
決算期や年度末の追い込みと評価の締切が重なると、確実に形だけになります。工事の繁忙期をずらして評価時期を設定するか、評価対象期間の締めと提出期限の間を1か月以上空けてください。
評価項目を一度も見直していない
工事の内容も体制も変わるのに、評価項目だけが5年前のままという会社があります。年1回、評価者から「使いにくかった項目」を集める仕組みを作ってください。3年に1度は全面的に点検します。
中途入社者の初回評価の扱いが決まっていない
建設業は中途採用が中心です。期の途中で入社した社員をどう扱うかを決めていないと、現場任せになります。在籍月数が一定に満たない場合は評価を行わず処遇は据え置く、といったルールを規程に書いておきます。
評価制度と就業規則・賃金規程が食い違う
評価結果を昇給や賞与に反映させるなら、賃金規程との整合が必要です。制度変更が労働条件の不利益変更に当たるおそれがある場合は、手続きを誤ると効力が争われます。個別の事案は社会保険労務士や弁護士に相談してください。
人事が最初の1か月でやること
最後に、明日から動くための手順をまとめます。
- 現行の評価シートを印刷し、直近1期分の提出状況を数える(未提出、締切遅れの件数)
- 過去3年の昇給額を個人別に一覧化し、評価結果との相関を見る
- 評価者全員に「評価をつけるときに困ったこと」を記名で聞く(10分の記入で足ります)
- 社員から「評価結果を面談で説明されたか」を匿名で聞く
- 1〜4の結果を1枚にまとめ、経営会議に出す
この5つで、自社の制度が形だけかどうかが数字で分かります。作り直しの議論は、その後で始めてください。制度設計から入るのではなく、現状の把握から入ることが、機能する制度への近道です。
出典
- 厚生労働省「就労条件総合調査」
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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