女性技術者が働き続けるための育児介護休業法の実務
人事ノート女性技術者の採用に力を入れても、育児期に働き方の選択肢がなければ在籍は続きません。育児・介護休業法は、事業主が用意すべき制度の最低線を定めています。まずはこの最低線を自社の就業規則と現場運用に落とし込むところから始めます。ここでは、法が定める制度を「妊娠の申出から復職後まで」の時系列に並べ替え、建設業の現場配置と結びつけて整理します。
なお、妊娠中の就業制限や母性健康管理の措置は労働基準法や男女雇用機会均等法にも定めがあります。本記事は育児・介護休業法の範囲を扱いますので、それ以外の部分は該当法令の公表資料で確認してください。
制度の全体像を一覧で押さえる
育児・介護休業法が定める主な制度は次のとおりです。日数や期間の細かな計算方法、除外できる労働者の範囲は条文と公表資料で確認してください。
| 制度 | 主な対象 | 内容の目安 | 申出期限の目安 |
|---|---|---|---|
| 育児休業 | 1歳未満の子を養育する労働者 | 分割して2回まで取得可能。保育所に入所できない等の事由があれば1歳6か月、2歳まで延長 | 原則1か月前 |
| 出生時育児休業(産後パパ育休) | 子の出生後8週間以内の期間 | 4週間まで、2回に分割可能。労使協定がある場合は休業中の就業も可能 | 原則2週間前 |
| 子の看護等休暇 | 小学校3年生修了までの子を養育する労働者 | 年5日(子が2人以上なら年10日)。時間単位で取得可能 | 当日の申出にも対応できる運用が必要 |
| 介護休業 | 要介護状態の対象家族を介護する労働者 | 対象家族1人につき通算93日、3回まで分割 | 原則2週間前 |
| 介護休暇 | 同上 | 年5日(対象家族が2人以上なら年10日)。時間単位で取得可能 | 当日の申出にも対応できる運用が必要 |
| 所定外労働の制限 | 小学校就学前の子を養育する労働者 | 所定労働時間を超える労働の免除 | 原則1か月前 |
| 時間外労働の制限 | 小学校就学前の子を養育する労働者 | 1か月24時間、1年150時間を超える時間外労働をさせない | 原則1か月前 |
| 深夜業の制限 | 小学校就学前の子を養育する労働者 | 深夜の時間帯の就業を免除 | 原則1か月前 |
| 所定労働時間の短縮措置 | 3歳未満の子を養育する労働者 | 1日6時間を原則とする短時間勤務 | 社内規程で定める |
| 柔軟な働き方を実現するための措置 | 3歳から小学校就学前の子を養育する労働者 | 定められた選択肢から事業主が2つ以上を措置し、労働者が1つを選んで利用 | 社内規程で定める |
所定外労働の制限は、以前は3歳未満の子が対象でしたが、小学校就学前まで対象が広がりました。育児期の技術者に「残業ができないなら現場は無理」と伝えてしまうと、法が求める免除の申出を拒む対応になりかねません。まず制度の対象年齢を人事と現場の双方で共有してください。
二段階で施行された改正内容
近年の改正は二段階で施行されています。すでに施行済みの内容ですので、未対応の項目がないか確認してください。
| 施行時期 | 主な内容 |
|---|---|
| 2025年4月1日 | 子の看護休暇の見直し(対象年齢の拡大、取得事由の追加、名称の変更)、所定外労働の制限の対象拡大、育児のためのテレワーク導入の努力義務、育児休業取得状況の公表義務の対象拡大、介護に直面した労働者への個別の周知と意向確認、介護に関する早期の情報提供、介護のための雇用環境整備、介護のためのテレワーク導入の努力義務 |
| 2025年10月1日 | 3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に対する柔軟な働き方を実現するための措置、妊娠・出産の申出時および子が3歳になる前の個別の意向聴取と配慮 |
育児休業取得状況の公表義務は、常時雇用する労働者が300人を超える事業主に広がりました。年1回、公表前の事業年度の状況を公表します。公表する項目と算定方法は決まりがありますので、集計を始める前に公表資料で確認してください。
柔軟な働き方を実現するための措置は、始業時刻等の変更、テレワーク等、保育施設の設置運営等、養育両立支援休暇、短時間勤務制度といった選択肢から、事業主が2つ以上を選んで措置します。労働者はそのうち1つを選んで利用します。措置を選ぶ際は過半数労働組合または過半数代表者からの意見聴取が必要です。テレワークや休暇には日数の要件がありますので、規程を作る前に公表資料で確認してください。
妊娠の申出から復職後までの流れ
制度を並べただけでは運用できません。誰が、いつ、何をするかを時系列で決めます。下表は社内の役割分担表の雛形として使えます。
| 時期 | やること | 担当 |
|---|---|---|
| 本人からの申出時 | 育児休業に関する制度、申出先、育児休業給付、休業期間中の社会保険料の取扱いを個別に周知し、取得の意向を確認する。あわせて勤務時間帯や勤務地などの意向を聴取する | 人事 |
| 申出から2週間以内 | 現場所長・工事部と情報を共有し、担当工事の引継ぎ時期と代替配置の候補を検討する | 人事・工事部 |
| 産前休業の開始前 | 休業期間、復職予定日、休業中の連絡方法、資格更新や講習の予定を書面で確認する | 人事 |
| 休業中 | 社内報や連絡便で情報を届ける。復職の3か月前を目安に面談日を設定する | 人事 |
| 復職の1〜2か月前 | 短時間勤務や所定外労働の制限の利用予定を確認し、配属先と勤務時間を決める | 人事・工事部 |
| 復職時 | 就業条件を書面で交付する。現場までの移動時間、直行直帰の可否、緊急時の連絡体制を明文化する | 人事・所属長 |
| 子が3歳になる前 | 柔軟な働き方を実現するための措置を個別に周知し、利用の意向を確認する。あわせて意向を聴取し、配慮する | 人事 |
意向の聴取は「聞いて終わり」ではありません。聴取した内容について配慮することが求められます。配慮の内容は事業主が判断しますが、聴取した記録と、それを踏まえてどう配置を決めたかの記録を残してください。記録がないと、後から「何も検討されなかった」という受け止めになります。
現場配置と工期に織り込む
建設業で運用が止まる原因は、制度そのものではなく現場配置です。次の三点を、受注段階から工事部と人事で共有します。
- 引継ぎの時期を工期の節目に合わせる。休業開始日から逆算して、着工前や中間検査の後など、区切りのよい時点で担当を交代させます。工期の途中で急に抜けると、本人が休業の申出をためらう原因になります。
- 代替の技術者をあらかじめ登録しておく。有資格者の一覧を持ち、誰がどの工事を引き継げるかを更新します。技術者の配置には建設業法上の要件がありますので、配置換えの可否は許可行政庁の公表資料や社内の技術管理部門で確認してください。
- 短時間勤務者を前提とした現場を選ぶ。移動時間が長い現場は、短時間勤務の実効性を下げます。所定労働時間を6時間に短縮しても、往復に2時間かかれば拘束は8時間に近づきます。近隣現場、内勤の設計・積算、施工図やBIMの作業、安全書類の取りまとめなど、配属の選択肢を複数持っておきます。
テレワークは、育児のための措置として導入が努力義務となっています。施工管理の全業務を在宅に移すことはできませんが、書類作成、写真整理、工程表の更新、発注者との調整といった業務は分離できます。業務を切り出して「この作業は在宅で行える」と一覧にしておくと、復職時の設計が早くなります。
就業規則と労使協定で決める範囲
法定の制度は、就業規則に書いていなくても労働者は申し出ることができます。とはいえ、手続きが定まっていないと現場で判断が割れます。次の項目を整備してください。
- 育児休業、出生時育児休業、子の看護等休暇、介護休業、介護休暇の各規定と申出様式
- 所定外労働・時間外労働・深夜業の制限の申出手続き
- 短時間勤務制度と、業務の性質上それが困難な場合の代替措置
- 柔軟な働き方を実現するための措置として自社が選んだ内容と、労働者が選択する手続き
- 時間単位で取得する休暇の給与計算方法と勤怠システムの設定
労使協定を結べば、継続雇用期間が短い労働者などを一部の制度の対象から除外できます。除外できる範囲は制度ごとに異なり、改正で見直された部分もあります。協定を結んでいないのに慣例で申出を断ると、法違反になります。協定の有無と有効期間を確認してください。
有期契約の技術者についても、一定の要件を満たせば育児休業を取得できます。契約期間が満了することが明らかであるかどうかが判断の分かれ目です。「契約社員だから対象外」という運用は誤りですので、要件を公表資料で確認してください。
介護との両立も同じ枠組みで備える
女性技術者の離職理由は育児だけではありません。40代以降は介護が重なります。改正により、介護に直面した旨の申出をした労働者への個別の周知と意向確認、介護に直面する前の早期の情報提供、雇用環境の整備が事業主に求められています。
早期の情報提供は、一定の年齢に達した労働者に対して行います。対象となる時期の定め方は公表資料で確認してください。実務としては、健康診断や年次の面談に合わせて、介護休業・介護休暇・所定外労働の制限などの一覧を配る方法が続けやすい形です。介護は突然始まりますので、制度を知らないまま退職を申し出るケースを減らすことが目的です。
よくあるつまずき
- 申出があってから制度を調べ始める。産前休業の開始まで時間がなく、引継ぎが間に合いません。妊娠・出産の申出を受けたら、その場で渡す資料一式を先に作っておきます。
- 短時間勤務を認めたが現場は変えない。所定を6時間にしても、担当工事がそのままなら実質的に残業が発生します。短時間勤務の承認と、担当工事の見直しは同時に決めます。
- 時間単位の休暇に給与計算が対応していない。子の看護等休暇と介護休暇は時間単位で取得できます。勤怠システムの設定と控除の計算方法を先に決めてください。
- 看護等休暇の対象年齢を古いままにしている。対象は小学校3年生修了までに広がり、取得事由も追加されました。規程の文言が旧内容のままになっていないか点検します。
- 所定外労働の制限を3歳未満だと思っている。小学校就学前まで対象です。現場の管理職が誤解していると、申出を受け付けない対応につながります。
- 意向聴取を口頭だけで済ませる。何を聴き、どう配慮したかの記録がないと、後日の説明ができません。様式を作って残します。
- 公表義務の対象かどうかを確認していない。常時雇用する労働者が300人を超える事業主は公表義務の対象です。数え方は公表資料で確認してください。
社内で進める手順
- 現行の就業規則と育児介護休業規程を、改正後の内容と突き合わせます。対象年齢、取得事由、時間単位取得、所定外労働の制限の範囲を確認します。
- 労使協定の有無と内容を確認し、除外できない範囲を除外していないか点検します。
- 柔軟な働き方を実現するための措置として自社が採る内容を決め、過半数労働組合または過半数代表者から意見を聴取します。
- 申出様式、個別周知の資料、意向聴取の様式を整えます。
- 工事部と、休業・短時間勤務時の配置替えの手順を決めます。代替技術者の一覧を作ります。
- 現場所長を含む管理職に、制度の内容と申出があったときの対応手順を説明します。
- 公表義務の対象であれば、集計の担当と時期を決めます。
- 年1回、利用実績と復職後の在籍状況を集計し、配置の設計を見直します。
制度を整えるだけでは在籍は続きません。復職後1年の在籍率、短時間勤務の利用者が担当した工事の種類、時間外労働の実績を数字で追い、配置の設計に戻すところまでが人事の仕事です。
よくある質問
Q. 現場に常駐している技術者から短時間勤務の申出がありました。工事の都合で断れますか。
3歳未満の子を養育する労働者への所定労働時間の短縮措置は事業主の義務ですので、工事の都合を理由に一律に断ることはできません。業務の性質上その措置が困難な場合に、労使協定により対象外とし代替措置を講じる仕組みはありますが、適用できる範囲は限られています。実務としては、担当工事の変更や内勤への配置替えを含めて検討してください。技術者の配置に関する建設業法上の要件は別の定めですので、社内の技術管理部門と許可行政庁の公表資料で確認してください。
Q. 契約期間が1年の有期契約で働く技術者は、育児休業の対象になりますか。
有期契約であっても、一定の要件を満たせば育児休業を取得できます。判断の中心は、子が所定の年齢に達する日までに労働契約期間が満了することが明らかでないかどうかです。契約更新の実態も踏まえて判断しますので、「有期だから対象外」と即断しないでください。個別の判断に迷う場合は、公表資料を確認したうえで労働局に相談することをおすすめします。
Q. 柔軟な働き方を実現するための措置は、一度決めた内容を後から変更できますか。
事業主が選んだ措置の内容を見直すことは可能ですが、変更する際も過半数労働組合または過半数代表者からの意見聴取が必要です。利用実績が乏しい措置を続けても意味がありませんので、年1回は利用状況を確認して見直してください。変更の手続きや周知の方法は公表資料で確認してください。
Q. 育児休業取得状況の公表義務がある会社かどうか、人数はどう数えますか。
常時雇用する労働者が300人を超える事業主が対象です。この人数には、雇用形態を問わず一定の要件を満たす労働者が含まれますので、正社員だけで判断しないでください。数え方の基準日や算定方法には決まりがありますので、集計を始める前に公表資料で確認してください。対象であれば、公表前の事業年度の状況を年1回、一般に閲覧できる方法で公表します。
Q. 男性技術者の育児休業まで手が回りませんが、女性の定着に関係しますか。
関係します。配偶者が育児を分担できるかどうかは、女性技術者が復職後にどの現場を担当できるかに直結します。出生時育児休業と育児休業の分割取得は男女いずれも対象ですので、男性技術者にも同じ手順で個別周知と意向確認を行ってください。取得実績が積み上がると、休業を前提とした配置替えが社内で当たり前になり、女性の申出もしやすくなります。
出典
- 育児・介護休業法
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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