高年齢技術者の継続雇用 労働条件の決め方
人事ノート定年を迎える技術者を継続雇用するとき、人事の担当者がいちばん迷うのは「賃金や職務をどこまで変えてよいのか」という点です。高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下、高年法)は、雇用の場を確保することを事業主に求めていますが、継続雇用後の労働条件の中身までは具体的に定めていません。そのため、法が決めている枠と、自社で決めなければならない部分を切り分けることが出発点になります。
この記事では、法の枠組みを確認したうえで、定年の12か月前から継続雇用の初日までに、誰が何を決めるのかを順に並べます。個別の事案の当否は事情によって変わりますので、争いになりそうな場面では社会保険労務士や弁護士に相談してください。
高年法が決めていることと、決めていないこと
まず、法の条文が及ぶ範囲を確認します。
| 条文 | 内容 | 性質 |
|---|---|---|
| 第8条 | 定年を定める場合は60歳を下回ることができない(一部の業務を除く) | 義務 |
| 第9条 | 65歳未満の定年を定めている事業主は、定年の引上げ・継続雇用制度の導入・定年の定めの廃止のいずれかを講じる | 義務 |
| 第9条第2項 | 継続雇用先は、自社のほか、特殊関係事業主(子法人等)でもよい。この場合は事業主間の契約が必要 | 義務の履行方法 |
| 第10条の2 | 65歳から70歳までの就業確保措置(定年引上げ、継続雇用制度、定年廃止、創業支援等措置) | 努力義務 |
重要なのは、この条文のどこにも「賃金をいくらにする」「職務をどうする」とは書かれていないことです。法が求めているのは、希望する人が働き続けられる仕組みを用意することであって、定年前と同じ労働条件を維持することではありません。
ただし、労働条件を自由に決めてよいという意味でもありません。継続雇用後の契約にも、最低賃金、労働時間の上限規制、年次有給休暇、割増賃金、安全衛生などの各法令がそのまま適用されます。有期契約にする場合は、通常の労働者との均衡・均等に関する規定も関係します。高年法は「働く場を確保する法律」、労働条件の適否は「他の法令と労使の合意」で判断する、と整理してください。
対象者を限定する経過措置は終わっています
かつては、労使協定で継続雇用の対象者を限定する基準を定められる経過措置がありました。この経過措置は2025年3月31日で終了しています。現在は、継続雇用制度を採る場合、65歳までは希望者全員が対象です。
就業規則や継続雇用規程に「労使協定で定める基準を満たす者」という文言が残っていないか、この機会に確認してください。規程が古いまま運用されている会社は少なくありません。
65歳から70歳までは努力義務
65歳以降については、第10条の2で就業確保措置が努力義務とされています。選べる措置は、定年の引上げ、70歳までの継続雇用制度、定年の定めの廃止、そして雇用によらない創業支援等措置です。創業支援等措置は業務委託契約や社会貢献事業への従事を内容とするもので、導入には過半数労働組合または過半数代表者の同意が必要とされています。手続の詳細は公表資料で確認してください。
建設業では、有資格の技術者が65歳を過ぎても現場を支えている会社が多くあります。努力義務だからと先送りにせず、65歳以降の扱いを規程に書いておくと、その都度の個別交渉を減らせます。
継続雇用で先に決める5つの項目
継続雇用の条件は、次の5項目を分けて決めると整理しやすくなります。項目をまとめて「再雇用条件」として一括で提示すると、本人が何に納得できないのかが見えません。
| 決める項目 | 決める内容 | 主に決める人 | 決める時期の目安 | 書き残す先 |
|---|---|---|---|---|
| 職務 | 担当工事、役割(現場代理人・技術者・指導担当など)、責任の範囲 | 所属部門長と人事 | 定年の6か月前まで | 労働条件通知書、職務分担表 |
| 勤務形態 | 週の所定日数、1日の所定時間、時間外の有無、現場常駐か内勤か | 所属部門長 | 6か月前まで | 労働条件通知書 |
| 賃金 | 基本給の決め方、手当の継続と廃止、賞与の有無 | 人事と経営 | 4か月前まで | 継続雇用規程、労働条件通知書 |
| 契約期間 | 期間の定めの有無、期間の長さ、更新の有無と上限、更新の判断基準 | 人事 | 4か月前まで | 継続雇用規程、労働条件通知書 |
| 就業場所 | 配属現場の範囲、転居を伴う異動の有無、通勤時間の上限 | 所属部門長 | 6か月前まで | 労働条件通知書 |
5項目のうち、実務で最ももめるのは賃金ですが、職務と勤務形態が決まらないと賃金は決められません。順番を守ってください。
賃金の決め方の型
継続雇用後の賃金には、いくつかの決め方があります。どれが正解ということはありませんが、会社として型を決めておかないと、部門長ごとに提示額がばらついて不公平感が生まれます。
| 型 | 決め方 | 向いている場面 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 定率型 | 定年時の基本給に一定の率を掛ける | 職務が定年前とほぼ同じ場合 | 職務が変わらないのに大きく下げると説明が難しい |
| 定額型 | 役割区分ごとに一律の月額を定める | 人数が多く、運用を簡素にしたい場合 | 高資格者に不満が出やすい |
| 職務給型 | 担当する役割と責任に応じて等級を設定する | 役割を明確に変える場合 | 役割定義の文書化が前提 |
| 時間給型 | 短時間・短日勤務に応じて時間単価で支払う | 週3日勤務などを認める場合 | 社会保険の加入要件の確認が必要 |
いずれの型でも、資格手当や現場手当のように、職務に紐づく手当を継続するのか廃止するのかを先に決めてください。「基本給は下げるが、監理技術者として配置する間は資格手当を継続する」といった設計は、本人の納得を得やすい形です。
建設業で特に確認したい論点
技術者としての配置に影響しないか
短時間勤務や隔日勤務を認める場合、その人を主任技術者や監理技術者として配置できるかを、契約条件を決める前に確認してください。技術者の配置や専任については建設業法に基づくルールがあり、雇用関係の在り方が問われる場面があります。細かい要件は建設業法と所管官庁の公表資料で確認し、必要であれば許可行政庁に照会してください。
65歳以降の就業確保措置として業務委託契約(創業支援等措置)を検討する場合は、この点が特に問題になります。雇用ではなくなるため、技術者として配置できる前提が崩れることがあります。「働き続けてもらう形」を決める前に、「その形で現場に配置できるのか」を必ず確認してください。
健康確保と作業内容の見直し
高所作業、暑熱下の屋外作業、夜間作業は、年齢とともに負担が大きくなります。継続雇用の面談では、本人の希望とあわせて、担当してもらう作業内容を具体的に確認してください。健康診断の結果に基づく就業上の措置は、継続雇用後も同じように必要です。
作業内容を変えるのであれば、それは賃金の見直し理由にもなります。逆に、作業内容も責任も変えずに賃金だけを大きく下げると、説明が成り立ちません。
資格の維持と技術の引き継ぎ
免許や技能講習の有効期間、特別教育の受講履歴を、継続雇用の開始前に棚卸ししてください。更新費用を会社が負担するかどうかも、条件提示の前に決めておく項目です。
あわせて、継続雇用者の職務に「若手の指導」を明記するかを検討してください。指導を役割として位置づけると、賃金の説明がしやすくなり、本人の動機づけにもつながります。口頭のお願いで終わらせず、職務分担表に書くことが大切です。
定年12か月前からの手順
以下は、そのまま社内の運用手順として使える形にしたものです。時期は目安ですので、自社の人事カレンダーに合わせて調整してください。
- 12か月前:人事が、翌年度に定年を迎える人の一覧を作ります。氏名、所属、保有資格、現在の担当工事、定年到達日を入れます。
- 10か月前:所属部門長に一覧を渡し、継続雇用後に担ってほしい役割の案を出してもらいます。ここで「現場常駐を続けるのか」「内勤に移るのか」の方向を決めます。
- 8か月前:人事が本人と第1回の面談を行います。継続雇用制度の概要を説明し、本人の希望(働き方、勤務日数、続けたい業務、健康上の不安)を聞き取ります。この段階では条件を提示しません。
- 6か月前:部門長と人事で、職務・勤務形態・就業場所を確定します。技術者配置への影響もこの時点で確認します。
- 4か月前:賃金と契約期間を確定し、社内の決裁を取ります。
- 3か月前:本人に条件を提示し、第2回の面談を行います。提示は書面で行い、口頭の説明だけにしません。
- 2か月前:本人の意向を確認します。合意が得られない場合は、代替案の検討に入ります。
- 1か月前:労働条件通知書を交付し、署名または記名押印をもらいます。あわせて社会保険・雇用保険の手続を確認します。
- 定年翌日:継続雇用の契約を開始します。所属や配置が変わる場合は、社内への周知と現場への連絡を忘れないでください。
就業規則に継続雇用制度の規定がない、または対象者限定の古い文言が残っている場合は、この手順に入る前に規程の見直しが必要です。就業規則の変更には所定の手続と届出が必要ですので、逆算して着手してください。
よくあるつまずき
- 本人の希望を聞かずに条件を通知してしまう:先に条件だけを示すと、交渉ではなく通告になります。手順3の面談を飛ばさないでください。
- 「継続雇用しない場合」の要件が規程にない:解雇事由や退職事由に該当する場合の扱いを、継続雇用規程に書いていない会社があります。書いていないまま個別に判断すると、後から争われたときに根拠を示せません。
- 更新の上限と更新基準が書かれていない:有期契約で継続雇用する場合、更新の有無、上限、更新の判断基準を労働条件通知書に明示する必要があります。「毎年更新」とだけ書いて上限を示していない例が目立ちます。
- 無期転換の扱いを整理していない:定年後に引き続き雇用される高年齢者については、無期転換申込権に関する特例の制度があります。適用を受けるには所定の認定手続が必要ですので、制度の要件と手続は所管官庁の公表資料で確認してください。
- グループ会社で雇用するのに契約書がない:特殊関係事業主で継続雇用する場合は、事業主間の契約が必要です。実態として出向や転籍を行っているのに、書面がないままになっていないか確認してください。
- 65歳到達時の扱いを決めていない:65歳の誕生日が近づいてから慌てて協議する例が多く見られます。努力義務の措置をどう扱うかを、あらかじめ規程に書いておくと運用が安定します。
- 報告の元データがない:高年法に基づき、毎年6月1日現在の高年齢者の雇用状況を報告する義務があります。提出期限や様式は公表資料で確認してください。報告の直前に集計を始めると誤りが出ますので、人事システムで定年到達者と継続雇用者を随時把握できるようにしておくことをおすすめします。
年に一度、規程と実態を突き合わせる
継続雇用の仕組みは、作ったあとに実態がずれていきます。年1回の報告に合わせて、次の点を点検してください。
| 点検項目 | 確認の観点 |
|---|---|
| 就業規則・継続雇用規程 | 対象者を限定する古い文言が残っていないか |
| 労働条件通知書の様式 | 更新の有無・上限・判断基準が記載されているか |
| 賃金の型 | 部門ごとに提示額がばらついていないか |
| 技術者配置 | 継続雇用者の勤務形態が配置要件と矛盾していないか |
| 65歳以降の扱い | 措置の内容が規程に書かれているか |
| 健康確保 | 作業内容の見直しが行われているか |
点検の担当と期限を決め、人事の年間計画に組み込んでください。担当者の記憶に頼る運用は、担当が替わった時点で崩れます。
よくある質問
Q. 定年前より賃金を下げても法律違反にはなりませんか
高年法は継続雇用後の賃金額を定めていませんので、条件を見直すこと自体が直ちに違反になるわけではありません。ただし、職務も責任もほとんど変わらないのに大幅に引き下げるような場合には、他の法令や個別の合意の観点から問題になることがあります。職務や勤務形態の変更内容と賃金の関係を書面で説明できる形にし、判断に迷う場合は社会保険労務士や弁護士に相談してください。
Q. 会社が示した条件を本人が受け入れず、継続雇用に至らなかった場合はどうなりますか
会社が合理的な範囲の条件を提示し、それでも本人が希望しなかった場合には、継続雇用に至らなくても措置を講じたと扱われる余地があります。一方で、到底受け入れられないような条件の提示は、措置を講じたことにならないと判断される可能性があります。面談の記録、提示した条件の書面、本人の回答を必ず残し、個別の判断は専門家に相談してください。
Q. 65歳を過ぎた技術者を有期契約で更新し続けると、無期転換の申込みを受けることになりますか
有期契約が通算で一定期間を超えると無期転換の申込権が発生しますが、定年後に引き続き雇用される高年齢者については特例の制度があります。特例の適用には所定の認定手続が必要で、要件も定められていますので、制度の内容と手続は所管官庁の公表資料で確認してください。認定を受けていない場合は、原則どおりの取扱いになる点に注意が必要です。
Q. 継続雇用の受け皿をグループ会社にすることはできますか
高年法第9条第2項により、特殊関係事業主(子法人等)で継続雇用することが認められています。この場合は、継続雇用を受け入れる旨の事業主間の契約が必要です。契約書がないまま実態として出向させているケースがありますので、書面の有無を確認してください。
Q. 短時間勤務の継続雇用者を主任技術者や監理技術者として配置できますか
技術者の配置や専任に関する要件は建設業法に基づくもので、高年法とは別の枠組みです。勤務形態によっては配置に支障が出る可能性がありますので、条件を提示する前に建設業法と所管官庁の公表資料で確認し、判断が難しい場合は許可行政庁に照会してください。特に、雇用ではなく業務委託の形にする場合は影響が大きくなります。
出典
- 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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