職長と主任技術者 昇格前に確かめる要件
人事ノート現場の中核人材が育ってくると、「そろそろ職長を任せたい」「主任技術者として名前を出せるか」という相談が人事に上がってきます。ところが、この二つは根拠となる制度が別で、確かめる書類も違います。ここを混ぜたまま辞令を出すと、後から配置のやり直しや手当の付け替えが発生します。
この記事では、建設業法が定める主任技術者の要件を軸に、昇格の判断をどの順序で進めるかを整理します。個別の工事での配置可否は、許可行政庁や発注者の判断が絡みます。迷う事案は専門家や許可行政庁に確認してください。
職長と主任技術者は別の制度
まず、二つの違いを社内で共有しておきます。呼び方が現場ごとに違うことも多いので、人事側で定義をそろえておくと運用が楽になります。
| 項目 | 職長 | 主任技術者 |
|---|---|---|
| 位置づけ | 作業を直接指揮・監督する者 | 工事の施工の技術上の管理をつかさどる者 |
| 主な根拠 | 労働安全衛生に関する法令(教育の受講が求められます) | 建設業法 |
| 昇格の前提 | 所定の教育の修了と、現場での指揮経験 | 法定の資格要件(資格・学歴+実務経験・実務経験年数)を満たすこと |
| 確認する書類 | 修了証、受講記録 | 資格者証、卒業証明書、実務経験の証明 |
| 置く単位 | 作業の区分ごと | 請け負った建設工事ごと |
職長は「人を動かす立場」、主任技術者は「技術上の管理を負う立場」です。実務では同じ人が両方を担うことがありますが、要件の確認は別々に行います。
主任技術者の資格要件には三つの入口がある
建設業法は、許可を受けた建設業者が請け負った建設工事を施工するときに、主任技術者を置かなければならないと定めています。元請か下請かを問いません。その主任技術者になれる者は、営業所に置く専任技術者と同じ要件で判断します。入口は次の三つです。
| 入口 | 内容 | 人事が集める書類 |
|---|---|---|
| 学歴+実務経験 | 指定学科を卒業していること。大学・高等専門学校の指定学科卒業なら卒業後3年以上、高等学校等の指定学科卒業なら卒業後5年以上の実務経験 | 卒業証明書(学科名が分かるもの)、実務経験証明書 |
| 実務経験のみ | その業種について10年以上の実務経験 | 実務経験証明書、在籍期間を裏づける資料 |
| 資格など | 国土交通大臣が上記と同等以上の知識・技術があると認めた者。施工管理技士などの国家資格がここに位置づけられます | 合格証明書、資格者証の写し |
対象となる指定学科の名称と、業種ごとに使える資格の一覧は、国が告示等で定めています。自社の業種で使える資格かどうかは、公表資料で必ず確認してください。記憶や前例だけで判断すると、業種違いの資格で申請してしまいます。
実務経験年数を数えるときの注意
- 年数は業種ごとに数えます。同じ期間を二つの業種に重ねて数えることはできません。
- 雑務や事務だけの期間は、施工の技術上の経験として数えにくくなります。従事した工事名と役割を記録から拾えるようにしておきます。
- 前職の期間を含める場合は、前職の会社に証明を依頼する必要があります。退職から時間がたつほど取りにくくなるので、入社時に経歴を確認しておくのが安全です。
昇格を決める前に踏む手順
人事が主任技術者への昇格を判断するときは、次の順で進めます。そのまま社内の確認シートに落とせる形にしています。
- どの業種で任せるかを決める(人事・工事部門/昇格検討の開始時)。土木一式、建築一式、内装仕上など、対象業種を一つに特定します。業種が決まらないと要件も決まりません。
- 資格・学歴・経験のどの入口で満たすかを選ぶ(人事/1の直後)。資格があるなら資格が最短です。ない場合は年数の積み上げになります。
- 書類を集めて年数を確定する(人事/辞令の1か月前まで)。証明書の取り寄せに時間がかかるため、早めに着手します。
- 専任が必要な工事かを確認する(工事部門/配置を決める前)。専任なら他現場との掛け持ちはできません。
- 営業所の専任技術者との兼務を確認する(人事/同上)。営業所に置いている専任技術者を、そのまま現場の主任技術者にすることは原則としてできません。
- 雇用関係を確認する(人事/同上)。主任技術者は、その工事を請け負った建設業者と直接的かつ恒常的な雇用関係にあることが運用上求められます。出向者や短期の雇用契約は、扱いを事前に確認してください。
- 処遇と職務権限を決める(人事・経営/辞令の発令時)。手当、評価区分、決裁権限の範囲を書面にします。
専任が必要な工事と兼務の可否
建設業法は、公共性のある施設や工作物、多数の者が利用する施設に関する重要な建設工事で、請負代金の額が政令で定める金額以上のものについて、技術者を工事現場ごとに専任で置くことを求めています。金額の基準は改正で見直されているため、最新の額は公表資料で確認してください。
| 場面 | 兼務の可否の考え方 |
|---|---|
| 専任が必要な工事 | その現場に専任します。他の現場との掛け持ちはできません |
| 専任が不要な工事 | 施工の技術上の管理を適切に行える範囲で、複数現場を担当できる場合があります |
| 密接な関係のある二以上の工事を同一場所等で施工 | 建設業法の定めにより、同一の主任技術者が管理できる場合があります |
| 特定専門工事 | 一定の要件を満たす場合、元請の主任技術者が下請の分もあわせて管理し、下請が主任技術者を置かないことができる仕組みがあります |
| 監理技術者を置く工事 | 監理技術者補佐を専任で置く場合に、監理技術者の兼務が認められる特例があります |
いずれの特例も、書面による合意や下請金額などの条件が細かく定められています。使う前に条文と公表資料で条件を確認し、記録を残してください。
職長として任せる前に確かめること
職長は、作業員を直接指揮・監督する立場です。昇格前に次を確認します。
- 所定の職長等の教育を修了しているか。修了証の写しを人事で保管しているか。
- 安全衛生責任者としての役割もあわせて担わせるのか。担わせる場合、その教育も済んでいるか。
- 作業手順書の作成や、危険予知活動の進行を任せられる状態か。
- 元請から求められる資格・教育の要件を満たしているか。現場によって要求が上乗せされることがあります。
教育の対象業種や内容は安全衛生の法令で定められています。自社の作業が対象に含まれるかどうかは、公表資料で確認してください。
昇格を社内制度に落とす
要件を満たしても、処遇の設計がないと本人が昇格を受けたがりません。責任だけが増える形になるためです。
| 変わるもの | 決めておく内容 |
|---|---|
| 賃金 | 職長手当・技術者手当の額と支給条件。専任期間だけ支給するのか、資格保有で支給するのか |
| 評価 | 昇格後の評価項目。安全成績、原価、工程、部下の育成をどう配点するか |
| 権限 | 発注の決裁上限、人員配置の判断範囲 |
| 記録 | 資格者名簿への登載、更新期限の管理担当 |
資格者証や修了証には有効期限があるものがあります。誰がいつ更新の案内を出すかを決めておかないと、期限切れのまま配置してしまいます。
よくあるつまずき
- 業種違いの資格で配置してしまう。 同じ施工管理の資格でも、対応する業種は決まっています。工事の業種から逆算して確認します。
- 実務経験を重ねて数えてしまう。 同一期間を複数業種で使うことはできません。年数が足りない場合は、資格取得を先に支援する方が早いことがあります。
- 前職の証明が取れない。 入社時に経歴と工事名を聞き取っておくだけで、後の証明が大きく楽になります。
- 専任の現場に、営業所の専任技術者を当ててしまう。 営業所と現場の兼務は原則できません。営業所側の欠員にもつながります。
- 辞令だけ出して手当の規定を作らない。 就業規則や賃金規程に根拠がないまま支給すると、後で止めにくくなります。
- 配置の変更を記録に残さない。 現場の交代時に書類が更新されず、名簿と実態がずれます。
よくある質問
Q. 職長教育を受けた社員は、そのまま主任技術者にできますか。
できません。職長の教育と、主任技術者の資格要件は別の制度です。主任技術者は、建設業法が定める資格、または学歴と実務経験、もしくは10年以上の実務経験のいずれかを満たす必要があります。修了証だけでは要件を満たしませんので、資格や経験年数を書類で確認してください。
Q. 出向者を主任技術者として配置できますか。
主任技術者には、工事を請け負った建設業者との直接的かつ恒常的な雇用関係が運用上求められます。出向の形態や期間によって扱いが分かれるため、一律には判断できません。配置を決める前に、許可行政庁や発注者に確認し、判断の経緯を記録に残してください。
Q. 専任が必要かどうかの金額の基準を教えてください。
専任が必要になるのは、公共性のある施設等に関する重要な建設工事で、請負代金の額が政令で定める金額以上のものです。この金額は改正で見直されているため、この記事では具体的な額を示しません。最新の基準は建設業法とその政令、国が公表する資料で確認してください。
Q. 実務経験が10年に届かない社員を、どう育てればよいですか。
年数の積み上げを待つより、資格取得の支援を先に設計する方が早い場合があります。受験資格や試験日程を確認し、費用負担と学習時間の扱いを社内規程で決めてください。あわせて、従事した工事名と役割を毎年記録しておくと、将来に実務経験で証明する道も残せます。
Q. 昇格後すぐに本人が辞退を申し出た場合、手当は戻せますか。
手当の支給条件と停止条件を規程に書いてあるかどうかで扱いが変わります。規程がないまま支給していると、一方的な減額は不利益変更として問題になり得ます。個別の事情が絡むため、実際に減額や停止を行う前に社会保険労務士など専門家に相談してください。
出典
- 建設業法
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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