離職率とは何か 自社の数字の出し方と読み方
人事ノート「うちの離職率は高いのか」と役員から聞かれたとき、すぐに答えられる会社は多くありません。理由は単純で、離職率という言葉が社内で共通の定義になっていないからです。分子に誰を入れるか、分母をいつ時点の人数にするかで、同じ会社の同じ年でも数字は変わります。
この記事は、離職率という用語の意味を整理したうえで、自社の数字をどう出し、どう読むかを実務の手順として書きます。数字を出す担当者と、その数字を見て判断する経営層の双方で使える形にしています。
離職率が指しているもの
離職率は、ある集団のうちどれだけの人が期間内に離職したかを示す割合です。基本の形は次のとおりです。
離職率(%)= 期間中の離職者数 ÷ 分母となる労働者数 × 100
計算式そのものは単純です。実務で差が出るのは、次の三つをどう決めるかです。
- 期間:年度で見るか、暦年で見るか、四半期で見るか
- 分母:期首の在籍者数か、期中の平均在籍者数か、期首と期中入社の合計か
- 分子:どの離職理由まで含めるか、どの雇用区分まで含めるか
この三つを文書で決めていないと、担当者が代わったときに数字が飛びます。前年と比較した増減が、実態の変化なのか集計方法の変化なのか分からなくなります。まず社内定義を紙に落とすことが、離職率を扱う最初の作業です。
厚生労働省の雇用動向調査での考え方
外部の水準と比べるときの代表的な資料が、厚生労働省の雇用動向調査です。事業所を対象に、入職者と離職者の状況を調べる調査で、産業別や事業所規模別、就業形態別などの区分で結果が公表されています。建設業も産業区分のひとつとして掲載されます。
この調査では、離職率は年初時点の常用労働者数を分母に置き、その期間の離職者数の割合として算出される形が取られています。入職率も同じ分母で計算されるため、入職率と離職率を並べて差を見ることができます。年間の結果のほか、上半期と下半期に分けた集計も公表されています。
ただし、常用労働者の範囲、離職者に含める事由、集計対象となる事業所の規模など、細かい定義は調査の用語解説に書かれています。自社の数字と比較する前に、必ず公表資料の定義部分を確認してください。ここを読まずに比較すると、比べているものが違うまま議論が進みます。
外部統計と自社数字がずれる主な理由
| ずれの原因 | 具体的な内容 | 対応 |
|---|---|---|
| 対象者の範囲 | 統計はパートタイム労働者を含む区分がある。自社は正社員だけで集計していることが多い | 自社側も就業形態別に分けて出す |
| 分母の時点 | 統計は年初の在籍者数。自社は平均在籍者数を使うことがある | どちらの定義かを明記して比較する |
| 事業所の単位 | 統計は事業所単位の調査。自社は法人全体で集計しがち | 支店や営業所単位でも出してみる |
| 産業の分類 | 建設業に分類されるかは事業所の主な事業による。設備工事、不動産管理などは別区分になる場合がある | 自社が比べるべき産業区分を先に決める |
| 集計期間 | 統計は暦年。自社は年度が多い | 年度と暦年の両方で自社数字を持つ |
外部統計はあくまで目安です。自社より高いか低いかを一喜一憂するより、自社の数字を同じ定義で毎年積み上げ、その推移を見るほうが実務では役に立ちます。
自社の離職率を出す手順
社内で集計するときの手順を、そのまま作業指示として使える形にします。
- 集計期間を決める。人事考課や予算の単位に合わせるのが自然です。多くは年度(4月1日から翌年3月31日)です。
- 対象範囲を決める。正社員のみか、契約社員や再雇用者を含むか、技能労働者と技術者を分けるか。派遣で受け入れている人は自社の労働者ではないため通常は除きます。
- 分母の定義を決める。期首在籍者数を使うか、期中平均を使うかを選びます。
- 分子に含める離職事由を決める。自己都合、会社都合、定年、契約期間満了、死亡、グループ内転籍などを、含める・含めないで仕分けます。
- 元データの出所を決める。給与システムの在籍者マスタか、社会保険の資格取得・喪失の記録か。毎回同じ台帳から取ることが重要です。
- 計算し、定義とあわせて記録する。数字だけを残さず、「分母=期首在籍の正社員」「分子=定年と契約満了を除く」といった注記を同じシートに残します。
- 分解して見る。勤続年数、職種、年齢、入社経路、配属部署の軸で内訳を出します。ここまでやって初めて打ち手につながります。
分母と分子の選び方
| 項目 | 選択肢 | 向いている場面 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 分母 | 期首在籍者数 | 外部統計と比べたいとき | 期中に大量採用すると実態より高く出る |
| 分母 | 期中平均在籍者数(各月末の平均) | 採用が期中に集中する会社 | 外部統計と単純比較できない |
| 分母 | 期首在籍+期中入社の延べ人数 | 早期離職を含めて全体を見たいとき | 一般的な定義ではないため注記が必須 |
| 分子 | 全離職者 | 総入れ替わりの規模を見る | 定年が多い年に跳ね上がる |
| 分子 | 定年・契約満了を除く離職者 | 定着施策の効果を見る | 定年前の早期退職の扱いを決めておく |
| 分子 | 自己都合離職者のみ | 引き止めが利く層を見る | 会社都合か自己都合かの認定にぶれが出る |
どれが正解ということはありません。目的に合わせて選び、選んだ理由を書き残すことが重要です。定着施策の効果を測るなら、定年と契約満了を分子から外した数字が実態に近くなります。
建設・不動産業界で分けて見るべき軸
全社の離職率をひとつ出しても、対策には結びつきません。建設・不動産の会社では、次の軸で分けると原因の見当がつきます。
| 分解の軸 | 分け方の例 | 数字が高いときに疑うこと |
|---|---|---|
| 勤続年数 | 1年未満、1年以上3年未満、3年以上 | 1年未満が高いなら採用時の条件提示や受け入れ体制 |
| 職種 | 施工管理、設計、技能職、営業、事務 | 特定職種だけ高いなら労働時間や配置の偏り |
| 年齢層 | 20代、30代、40代、50代以上 | 30代が高いなら処遇の頭打ちや役割の停滞 |
| 入社経路 | 新卒、中途、紹介、リファラル | 経路ごとに事前説明の質が違う可能性 |
| 配属先 | 支店別、現場別、上長別 | 特定の配属先に偏るなら現場運営の問題 |
| 勤務地 | 転居を伴う配属の有無 | 転勤の説明と実際の運用のずれ |
特に建設業では、配属現場と上長の単位で見ると差がはっきり出ることがあります。全社平均では見えなかった偏りが、支店別に出すと一目で分かる場合があります。人数が少ない単位は割合が跳ねやすいので、割合と実人数を必ず併記してください。
早期離職をどう測るか
採用の質を見るには、年単位の離職率よりも入社年次でまとめた指標が向いています。
- 入社1年以内離職率:ある年度に入社した人のうち、入社日から1年以内に離職した人の割合
- 入社3年以内離職率:同じ考え方で3年以内に離職した人の割合
- 試用期間中の離職者数:割合ではなく実人数で追う
これらは、入社した人の集団(入社年次ごとの集団)を分母にして追いかける形です。年度の在籍者を分母にする通常の離職率とは分母が違うため、同じ表に並べるときは列を分けて誤解を防いでください。
入社1年以内の離職は、採用時の説明と実際の仕事の食い違い、初期の受け入れ体制、上長との関係が原因になりやすい領域です。人数が少なくても、退職者一人ずつの事情を記録に残すほうが、割合を精緻に計算するより示唆が得られます。
よくあるつまずき
分母を法人全体、分子を現場社員だけで数えてしまう。管理部門を分母に含めたまま、分子は技能職と施工管理だけを数えると、実態より低い数字になります。分母と分子の範囲は必ず一致させます。
定年退職者の扱いを毎年変える。ベテランの多い会社では、定年退職の有無で数字が大きく動きます。含める・含めないを固定し、含める場合は定年分を別掲します。
期中入社してすぐ辞めた人が数字に出てこない。期首在籍者数を分母、期首在籍者からの離職者を分子にする定義だと、4月に入社して6月に辞めた人はどちらにも入りません。早期離職はコホートの指標で別に追ってください。
出向・転籍を離職に含めるか決めていない。グループ会社への転籍は雇用契約が変わるため離職に当たりますが、実務上は在籍出向と混同されがちです。人事台帳の区分を先に整えます。
分母の人数を給与システムと社会保険の記録で使い分けている。月の途中の入退社の扱いが違い、数人単位でずれます。どちらの台帳を正とするかを決めます。
小さい単位の割合を大きく取り上げる。在籍5人の営業所で1人辞めれば20%です。実人数を併記しないと、会議で誤った危機感が生まれます。
退職理由を自己都合で一律に処理している。退職届の記載と実際の理由は違うことがあります。離職票の記載や退職手続きの適否は個別性が高いため、判断に迷う場合は社会保険労務士など専門家に相談してください。
社内での運用
数字は出して終わりではありません。誰が、いつ、何を出すかを決めておきます。
| 時期 | 担当 | 作業 | 提出先 |
|---|---|---|---|
| 毎月10日まで | 人事担当 | 前月の入社・退職者数と、退職者の勤続年数・職種・配属先を台帳に記録 | 人事責任者 |
| 四半期末の翌月 | 人事担当 | 四半期の離職者一覧と、支店別・職種別の内訳を作成 | 経営会議 |
| 年度末の翌月 | 人事責任者 | 年度の離職率、入社年次別の早期離職率、前年比較を作成 | 経営会議 |
| 年1回(統計公表後) | 人事責任者 | 雇用動向調査の建設業の数字を確認し、自社定義との違いを注記して比較 | 経営会議 |
| 随時 | 直属の上長 | 退職の申し出を受けた時点で人事へ連絡し、面談の記録を残す | 人事担当 |
退職者との面談は、退職日の直前ではなく、申し出から数日以内に行うほうが率直な話が出やすくなります。聞く内容は毎回同じ項目にそろえ、後から集計できる形にしてください。項目がばらばらだと、数年たっても傾向が見えません。
数字を見たあとに何をするか
離職率が上がっていたとき、すぐに手当や制度の話に飛ばないほうが得策です。順序としては次のようになります。
- 分解して、どの層で上がったかを特定する
- その層の退職者の面談記録を読み返す
- 該当する現場や部署の労働時間、休日取得、配属期間の実績を確認する
- 採用時に提示した条件と、実際の勤務実態の差を確認する
- 差が確認できたところから直す
離職率は結果を表す数字であって、原因を教えてくれる数字ではありません。分解と記録があってはじめて、次の打ち手が決まります。逆にいえば、退職者の情報を台帳に残す仕組みさえあれば、離職率の計算式そのものは難しくありません。
定義を決め、同じ方法で毎年積み上げ、層ごとに分けて見る。この三点を押さえれば、経営層からの問いにも根拠を持って答えられます。
出典
- 厚生労働省「雇用動向調査」
用語の定義や集計方法の詳細は、公表資料の用語解説と利用上の注意を必ずご確認ください。個別の労務判断については、社会保険労務士など専門家にご相談ください。
出典
- 厚生労働省「雇用動向調査」
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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