中央値と平均値の違いと求人年収への使い分け
人事ノート求人票に書く年収、社内の賃金水準の点検、昇給原資の配分。いずれも「いくらが真ん中か」を把握するところから始まります。このときに使う代表値が平均値と中央値です。両者は似た数字に見えますが、計算の仕組みが違うため、使い所を間違えると判断を誤ります。この記事では、定義を短く整理したうえで、建設・不動産の人事がどの場面でどちらを使うかを手順の形でまとめます。
平均値と中央値の定義
平均値
平均値は、全員の金額を合計して人数で割った値です。全員の数字が反映されるので、総額を把握したいときに向きます。人件費総額を人数で割った「1人あたり人件費」は、まさに平均値の考え方です。
一方で、極端に高い人や低い人がいると、その影響をそのまま受けます。10人の職場に1人だけ年収2,000万円の役員がいれば、平均値はその1人に引っ張られて上がります。残りの9人の実感とはずれた数字になります。
中央値
中央値は、全員を金額順に並べたときのちょうど真ん中の人の値です。人数が偶数のときは、真ん中2人の平均を取ります。並び順だけで決まるので、極端な値があっても動きにくいのが特徴です。
「自社の技術者の標準的な年収はいくらか」「応募者が期待する水準はどのあたりか」を知りたいときは、中央値のほうが実感に近くなります。
最頻値と分位数
代表値には最頻値もあります。最も人数が多い金額帯のことです。賃金のように連続した数字では、金額帯を区切って「最も人数が多いのは350万円台」のように使います。
あわせて覚えておきたいのが分位数です。全員を金額順に並べ、下から25%の位置にいる人の値を第1四分位数、75%の位置を第3四分位数と呼びます。中央値は第2四分位数にあたります。賃金構造基本統計調査では、分位数が公表されている集計があります。どの表に分位数が載っているかは、公表資料で確認してください。
3つの代表値の違いを表で整理する
次の表は、人事が判断するときの目安です。
| 項目 | 平均値 | 中央値 | 最頻値 |
|---|---|---|---|
| 計算方法 | 合計を人数で割る | 順番に並べて真ん中を取る | 最も人数が多い金額帯 |
| 外れ値の影響 | 強く受ける | ほとんど受けない | 受けにくい |
| 総額との関係 | 人数を掛ければ総額に戻る | 戻らない | 戻らない |
| 向いている用途 | 人件費総額の管理、原資配分 | 標準的な水準の把握、求人レンジ | 求人票の提示額の設計 |
| 弱点 | 少数の高額者で実感とずれる | 分布の広がりが分からない | 区切り方で値が変わる |
| 人事での使用例 | 1人あたり人件費、昇給原資 | 自社と統計の水準比較 | 応募が集まる価格帯の推定 |
実務では、1つだけを見ないことが大切です。平均値と中央値を並べて、差がどれだけあるかを見ます。賃金の分布は、高い側に長く伸びる形になりやすいため、多くの場合で平均値が中央値を上回ります。差が大きいほど、社内の賃金のばらつきが大きいと読めます。
求人の年収をどう決めるか
使い分けの基本
求人票の年収レンジは、応募者が最初に見る数字です。ここで使う考え方を整理します。
- レンジの下限は、実際に採用して支払う最低額に合わせます。平均値から機械的に引いた数字にはしません。
- レンジの中心は、同じ職種・同じ経験年数の在籍者の中央値を目安にします。
- レンジの上限は、実際に在籍者が到達している額までにします。理論上の最高額を書くと、面接で説明がつかなくなります。
手順
- 対象となる職種と役割を決めます。施工管理と設計、技術職と事務職を混ぜません。
- 在籍者のうち、その職種で働いている人を抜き出します。役員と出向者は分けます。
- 一人ひとりの年収を同じ定義で計算します。賞与と固定的な手当を含めるか、通勤手当を含めるかを先に決めます。
- 金額順に並べ、中央値と第1四分位数、第3四分位数を出します。
- 賃金構造基本統計調査の建設業・該当する年齢層や経験年数の数字と並べます。比べる前に、統計側の定義を確認します。
- 自社の中央値が統計より低い場合は、その理由を言葉にします。地域、企業規模、手当の構成のどれで説明できるかを確かめます。
- 募集職種ごとにレンジを決め、面接で説明する根拠を1枚にまとめます。
4の計算は表計算ソフトの関数で足ります。中央値を出す関数と、分位数を出す関数があります。人数が20人に満たない職種では、1人の入退社で中央値が動きます。前年と比べるときは、人数も一緒に記録しておきます。
誰がいつまでにやるか
| 作業 | 担当 | 時期 |
|---|---|---|
| 年収の定義決め | 人事 | 集計を始める前 |
| 在籍者データの抽出 | 人事・給与担当 | 賃金改定の2〜3か月前 |
| 中央値・分位数の算出 | 人事 | 抽出の直後 |
| 統計との突き合わせ | 人事 | 公表資料の更新後 |
| レンジの決定 | 人事・経営 | 募集を出す前 |
| 面接での説明資料の作成 | 採用担当 | 募集開始の1週間前 |
統計の数字を読むときの注意
賃金構造基本統計調査は、産業別・企業規模別・年齢別などの区分で賃金を公表しています。読むときは次の点を押さえます。
- どの賃金を指しているかを確認します。所定内給与なのか、賞与を含むのかで水準が変わります。
- 公表されている代表値が平均値か中央値かを確認します。集計表によって異なります。
- 建設業といっても、総合建設と専門工事、技術職と技能職では分布が違います。自社に近い区分を選びます。
- 企業規模の区分を合わせます。規模が違う数字と比べると、差の原因が分からなくなります。
- 年収に換算するときは、月額に12を掛けるだけでは足りません。賞与の扱いを決めてから計算します。
細かい集計区分や公表時期は年によって変わることがあります。実際に使う表は、公表資料で確認してください。
よくあるつまずき
平均値だけで「自社は統計より高い」と判断してしまう
役員や高齢の高給者が少数いると、自社の平均値は実態より高く出ます。若手の応募者が見る水準は中央値に近いところです。平均値が統計を上回っていても、若手層の中央値が低ければ応募は集まりません。年齢層を分けて中央値を出し直してください。
求人票の上限額に、在籍していない水準を書く
「年収400万円〜800万円」と書いても、800万円の人が1人もいなければ、面接で説明できません。応募者から質問されたときに答えに詰まり、信頼を失います。上限は在籍者の実績の範囲に収めます。
定義を揃えずに自社と統計を比べる
自社は賞与込みの年収、統計は所定内給与の月額、という比べ方をしてしまう例があります。必ず同じ定義に揃えてから比較します。固定残業代を含めるかどうかも、先に決めておきます。
人数が少ない職種で中央値を年ごとに追う
5人しかいない職種で中央値を前年と比べても、1人の入退社で大きく動きます。人数が少ない場合は、中央値だけでなく全員の金額を並べて見るほうが実態をつかめます。
分布の形を見ないまま代表値だけを比べる
中央値が同じでも、全員が近い金額に集まっている職場と、上下に大きく開いている職場では、賃金制度の課題が違います。第1四分位数と第3四分位数も一緒に出して、どれだけ開いているかを確かめます。
中途採用の提示額を既存社員と照らし合わせない
採用市場に合わせて高い額を提示すると、同じ仕事をしている既存社員の中央値を上回ることがあります。入社後に不満が出る原因になります。提示前に、同職種・同経験年数の在籍者の分布と照らしてください。
社内で説明するときの言い方
経営層に報告するときは、平均値と中央値を並べて示します。「平均は○○円ですが、中央値は△△円です。差があるのは、上位に少数の高給者がいるためです」という形にすると、何を議論すべきかがはっきりします。
賃上げの議論では、原資の総額は平均値で、効果の実感は中央値で語ると整理しやすくなります。一律に同じ額を上げれば平均も中央値も同じだけ上がりますが、上位層に厚く配分すると平均だけが上がり、中央値は動きません。どちらを動かしたいのかを先に決めてから、配分を設計してください。
個別の賃金制度の変更や、不利益変更にあたるかどうかの判断は、社会保険労務士などの専門家に相談してください。
よくある質問
Q. 自社の人数が少なく、中央値を出しても意味がある気がしません。どうすればよいですか
人数が10人程度であれば、中央値を1つの数字として扱うより、全員の年収を金額順に並べた一覧を作るほうが実態をつかめます。誰がどの位置にいるかが一目で分かり、昇給の配分も検討しやすくなります。そのうえで、統計と比べるときだけ中央値を使い、人数も併記して解釈に幅を持たせてください。
Q. 求人票の年収レンジは、中央値を中心にすれば必ず応募が増えますか
必ず増えるとは言えません。応募は年収だけでなく、勤務地、休日、担当する工事の内容など複数の要素で決まります。中央値を基準にレンジを組むのは、面接で説明できる数字にするための方法です。応募状況を見ながら、どの条件が効いているかを分けて検証してください。
Q. 賃金構造基本統計調査に、建設業の中央値は載っていますか
調査では平均値のほか、分位数を含む集計が公表されている表があります。ただし、産業区分や職種区分のどこまで細かく分位数が出ているかは、年や集計表によって異なります。使いたい区分で中央値にあたる数字が取れるかどうかは、公表資料で確認してください。
Q. 平均値と中央値の差は、どれくらい開いていたら問題ですか
一律の基準はありません。賃金の分布は高い側に伸びやすいため、平均値が中央値を上回ること自体は自然です。問題になるのは、差が前年より大きく広がった場合や、同じ職種・同じ経験年数の中で開きが大きい場合です。そのときは昇給の配分や等級の運用を点検してください。
Q. 統計と自社を比べたら自社が低く出ました。すぐに賃上げすべきでしょうか
比較の前提を先に確かめてください。企業規模、地域、年齢構成、賃金の定義のいずれかが揃っていなければ、差は見かけ上のものかもしれません。前提を揃えても差が残り、かつ採用や定着に支障が出ているなら、原資の確保とあわせて改定を検討する段階です。
出典
- 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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