#データ・市況2026.10.18 公開読了 約7分建設タレントサーチ 人事ノート 編集部

退職金制度の有無を就労条件総合調査で比べる手順

退職金制度を見直すとき、まず必要なのは自社の現状整理と、同じ土俵で並べられる外部データです。厚生労働省の就労条件総合調査を使い、産業や企業規模をそろえて比較するまでの手順、自社側で用意する集計項目、社内説明での注意点を実務の順序でまとめました。

情報の基準日
2026.10.17
データ・市況

退職金制度の有無を就労条件総合調査で比べる手順

人事ノート

退職金をどうするかという話は、経営会議で突然出てきます。「同業は出しているらしい」「若手が辞めるのは退職金が無いからでは」といった声に、人事が数字で答えられるかどうかで議論の質が変わります。ここでは厚生労働省の就労条件総合調査を使い、自社の退職金制度を外部と並べて見るまでの手順を整理します。数値そのものは年によって変わるため、この記事では数字を載せず、どの表をどう読むかに絞ります。

まず用語をそろえる

社内で「退職金」と呼んでいるものが、統計上どの区分に当たるのかを先に確認します。ここがずれていると、比較しても意味がありません。

用語指す範囲自社で確認する書類
退職給付制度退職一時金と退職年金をまとめた呼び方就業規則、退職金規程
退職一時金制度退職時にまとめて支払う形退職金規程、支給実績
退職年金制度年金の形で支払う制度(確定給付、確定拠出など)規約、運営管理機関との契約書
社外積立の共済中小企業退職金共済、建設業退職金共済など加入証、掛金の納付記録
適用範囲誰に支払う制度か(正社員のみか、有期も含むか)退職金規程の適用条項、労働条件通知書

統計の区分名と社内の呼び名が違う場合は、対応表を1枚作っておきます。後で経営層に説明するとき、この1枚が効きます。

就労条件総合調査で分かること

この調査は、企業の労働時間、休日、賃金制度、退職給付などの就労条件を調べたものです。退職給付に関する事項は毎年詳しく調べられるわけではなく、調査年によって収録される項目が変わります。最新がどの年のデータなのかは、必ず公表資料の調査の概要で確認してください。

比較に使える主な軸は次のとおりです。

比較軸使いどころ注意点
産業(建設業)同業他社の普及状況をつかむ建設業は一括りで、職種や工種の違いは出ない
企業規模自社と近い規模で並べる規模は企業単位の常用労働者数。現場の人数ではない
制度の形態一時金のみ、年金のみ、併用の割合社外積立の扱いは調査票の定義を確認する
退職事由定年、会社都合、自己都合の別事由で水準が大きく変わるため、必ずそろえる
勤続年数・学歴給付額の目安を見る平均値は長期勤続者に引っ張られやすい

調査対象の企業規模には下限があります。自社がその下限を下回る規模であれば、「同じ土俵の数字ではない」と断った上で参考値として扱います。対象範囲の正確な定義は公表資料で確認してください。

比較するまでの手順

  1. 自社の現状を棚卸しする。 退職金規程の有無、適用範囲、勤続年数の要件、支給の計算方法、積立の形(社内引当か社外積立か)を一覧にします。担当は人事。期限は着手から1週間。
  2. 比較の目的を1行で決める。 「制度を新設するかの判断材料」なのか「既存制度の水準見直し」なのかで、見るべき表が変わります。前者は制度の有無、後者は給付額の表です。
  3. 調査年と対象範囲を確認する。 退職給付の項目が収録された直近の調査年を特定し、調査対象の企業規模と産業分類を控えます。
  4. 表番号と区分をメモして転記する。 産業は建設業、企業規模は自社に近い階級を選び、全産業の数値も併記します。出典は「就労条件総合調査(◯年)」の形で表の下に書きます。
  5. 自社の数値を同じ定義で作る。 後述の集計シートを使い、調査の定義に合わせて自社の値を出します。
  6. 差の理由を文章にする。 数値を並べるだけでは判断できません。「差があるのは事実、原因はこれが考えられる」まで書きます。
  7. 経営会議に出す。 判断を求める点(新設するか、水準を変えるか、いつまでに決めるか)を冒頭に書きます。

自社側で用意する集計シート

外部データと並べるには、自社の数値も同じ定義で作る必要があります。最低限、次の項目をそろえます。

項目定義の決め方出どころ
制度の有無規程として定めがあるかどうか就業規則、退職金規程
適用者数と全従業員数適用範囲に入る人数を分子にする人事台帳
勤続年数の要件何年以上で支給対象になるか規程の支給要件
直近3年の支給実績退職事由別に分けて集計する支給台帳、賃金台帳
年間の掛金・引当額社外積立は納付額、社内は引当額経理資料
未積立の債務社内引当の場合の将来負担経理・顧問税理士に確認

人数は必ず分母を明記します。「正社員のうち」なのか「全従業員のうち」なのかで、見え方がまったく変わります。

よくあるつまずき

  • 「退職金あり」の一言で比較してしまう。 実際には勤続年数の要件があり、短期離職者には出ないことが多くあります。有無だけの比較は、若手の定着を論じる場面ではほとんど役に立ちません。
  • 社外積立を「制度なし」と誤って整理する。 共済に加入していれば、社内に規程が薄くても退職金の仕組みはあります。社内の実態把握の段階で取りこぼしがちです。
  • 企業規模の読み違え。 統計の規模区分は企業単位です。現場ごとの人数や、常用でない人を含めて自社を分類すると、比較相手がずれます。
  • 平均額をそのまま自社の目標にする。 平均は退職事由、学歴、勤続年数で大きく変わります。条件をそろえずに引用すると、経営層に過大な印象を与えます。
  • 古い調査年の数値を最新として扱う。 退職給付の項目は毎年同じ内容で出るとは限りません。引用の前に調査年を明記する習慣をつけます。
  • 求人票の記載と規程が食い違う。 「退職金あり」とだけ書き、入社後に勤続要件を知って不信感につながる例があります。要件まで書くか、面接で必ず説明します。

制度を検討するときの整理

比較の結果、制度の新設や見直しに進む場合は、類型ごとに論点が違います。人事が最初に確認すべき点を挙げます。金額、掛金、税務の取扱いは制度ごとに決まりがあるため、公表資料と専門家への確認が前提です。

類型積立の形人事が先に確認する点
社内規程による一時金社内で引当将来債務の見通し、支給要件の明確さ
中小企業退職金共済社外積立加入できる企業規模、対象とする従業員の範囲
建設業退職金共済社外積立対象となる労働者の範囲、証紙や掛金の管理体制
確定給付企業年金社外積立規約の作成と変更の手続、運営の事務負担
企業型確定拠出年金社外積立加入者への投資教育、他制度との併用の可否

建設業では、公共工事の入札に関わる経営事項審査の労働福祉の状況として、退職一時金制度や企業年金制度の導入状況が評価項目に含まれています。評価の方法や加点の扱いは公表資料で確認してください。制度の検討が採用だけでなく受注にも関わる点は、経営層への説明材料になります。

なお、退職手当に関する事項は、定めをする場合に労働者へ明示すべき事項とされています。適用される労働者の範囲、決定と計算と支払の方法、支払の時期を規程で明確にしておきます。有期契約やパートを対象外とする場合は、不合理な待遇差に当たらないかを別途検討し、求められたときに説明できる整理をしておきます。

社内での進め方の目安

時期作業担当
1週目自社の制度と適用範囲の棚卸し人事
2週目調査年の特定、比較表の作成人事
3週目費用試算、経理との突き合わせ人事・経理
4週目経営会議へ論点提示、方針決定人事・経営層
方針決定後規程案の作成、意見聴取、周知人事

就業規則や規程を変える場合は、手続と周知が必要です。退職金の引下げに当たる変更は、不利益変更の問題になります。進める前に専門家へ相談してください。

よくある質問

Q. 建設業の数値だけを見て判断してよいですか

建設業の数値は同業の目安として有効ですが、それだけで結論を出すのは避けてください。採用市場では他産業とも人材を取り合うため、全産業や近い規模の数値を併記して幅を持って見るほうが、経営会議での議論が噛み合います。産業と企業規模の両方で区分した表があるかは、公表資料で確認してください。

Q. 建設業退職金共済に加入していれば、退職金制度があると言えますか

実務上は退職金の仕組みがあると説明できますが、統計上どう分類されるかは調査票の定義によります。調査の定義と区分は公表資料で確認してください。社内説明では、共済による給付と社内規程による給付を分けて書くと誤解が生じにくくなります。

Q. 求人票には退職金をどう書けばよいですか

「退職金あり」とだけ書くと、勤続年数の要件を知らずに入社した人との間で食い違いが起きます。支給の対象となる勤続年数や、社外積立の共済による給付であることなど、条件を簡潔に添えてください。規程の内容と求人票の記載が一致しているかを、掲載前に必ず突き合わせます。

Q. 退職金制度を新しく作ると、経営事項審査で有利になりますか

退職一時金制度や企業年金制度の導入状況は、経営事項審査の労働福祉の状況に関する評価項目に含まれています。ただし評価の方法や必要な証明書類は定められた基準に従うため、加点の見込みは公表資料で確認し、必要に応じて行政書士など専門家に相談してください。採用面の効果と受注面の効果は分けて試算すると、経営層が判断しやすくなります。

Q. 有期契約の社員を退職金の対象から外しても問題ありませんか

対象範囲を分けること自体が直ちに違法になるわけではありませんが、職務の内容や配置の変更範囲などを踏まえて、不合理な待遇差でないかを検討する必要があります。説明を求められたときに答えられるよう、区分の理由を文書で残してください。個別の判断は事情により変わるため、専門家への相談をおすすめします。

出典

  • 厚生労働省「就労条件総合調査」

本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

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