建設業の入職率と離職率を雇用動向調査で読む
人事ノート採用計画を役員会に出すと、「業界の離職率と比べてどうか」と必ず聞かれます。その根拠として使えるのが、厚生労働省の雇用動向調査です。ただし、定義をそろえずに自社の数字と並べると、話がかみ合わなくなります。
この記事では、雇用動向調査で何が分かるのか、建設業の数字を読むときに何を前提として押さえるべきか、自社データをどうそろえるかを、実務の順序で整理します。具体的な数値は年ごとに変わるため、最新の公表資料でご確認ください。
雇用動向調査で分かること、分からないこと
雇用動向調査は、事業所を対象に、一定期間内に新しく入った人(入職者)と辞めた人(離職者)の動きを調べる調査です。産業別の入職率・離職率が公表されるため、建設業の水準を確認する用途に向いています。
一方で、この調査だけでは分からないこともあります。人事が使う前に、範囲を先に押さえておきます。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 分かること | 産業別の入職者数・離職者数、入職率・離職率、性別・年齢階級別の内訳、事業所規模別の内訳、入職経路、離職理由の区分、転職入職者の賃金変動の状況 |
| 分かりにくいこと | 施工管理・技能者といった職種ごとの内訳、企業単位での定着状況、雇用されていない一人親方や個人事業主の動き |
| 対象外になりうるもの | 調査対象となる事業所規模に満たない小規模事業所、産業分類上「建設業」に入らないグループ会社の事業所 |
公表される集計区分は年によって差があります。欠員の状況など、事業所側の求人に関する項目が含まれる年もあります。使いたい区分が当年の公表物にあるかどうかは、公表資料の目次と統計表の一覧で確認してください。
なお、新規学卒者の「就職後3年以内の離職率」として広く引用される数値は、雇用動向調査とは別の集計です。会議資料で混ぜて引用すると出典があいまいになるため、分けて扱ってください。
入職率・離職率の定義をそろえる
比較の出発点は計算式です。雇用動向調査では、率は年初時点の常用労働者数を分母として計算されます。
| 指標 | 計算式 | 読み方 |
|---|---|---|
| 入職率 | 入職者数 ÷ 1月1日現在の常用労働者数 × 100 | その年に新しく入った人が、年初人員の何割にあたるか |
| 離職率 | 離職者数 ÷ 1月1日現在の常用労働者数 × 100 | その年に辞めた人が、年初人員の何割にあたるか |
| 入職超過率 | 入職率 − 離職率 | 正なら入職が上回り、負なら離職が上回る |
ここで押さえるべき点は三つです。
第一に、分母は期末人員でも期中平均でもなく、年初の人員です。期中に大きく人員を増やした会社が期中平均で計算すると、公表値より低い率が出ます。
第二に、常用労働者の範囲です。期間を定めずに雇われている人と、一定期間を超える契約で雇われている人が対象になります。日雇や短期の契約をどう扱うか、細かい線引きは公表資料の用語解説に定義が載っているため、そこに合わせてください。
第三に、入職者・離職者の数え方です。同一企業内の異動や出向をどう扱うかで、率は大きく変わります。定義の細部は用語解説で確認し、自社の集計ルールを文書に残してください。
建設業の数字を読むときの前提
産業別の数値をそのまま自社に当てはめると、誤読が起きます。よくある読み違いと、実務での扱い方を整理します。
| よくある読み違い | 実務での扱い方 |
|---|---|
| 統計の「建設業」を建設業許可の業種区分と同じものとして扱う | 産業分類は事業所単位で、主な事業により分類されます。許可業種の区分とは別の考え方です |
| 建設業の数値を、現場の技能者だけの数値と考える | 建設業に分類される事業所であれば、営業・設計・経理などの従業員も含まれます |
| 離職率が低い年を「定着が良くなった」と読む | 採用を絞れば入職率も下がります。入職率と入職超過率をセットで見ます |
| 単年の増減を傾向として説明する | 標本調査であり、細かい区分ほど数値は動きます。数年並べて向きを見ます |
| 全産業平均と比べて優劣を語る | 産業ごとに雇用形態の構成が違います。比較するなら区分をそろえ、規模帯も合わせます |
| 一人親方の増減も含まれていると考える | 事業所に雇用されている労働者の動きが対象です。雇用されていない就業者の動きは含まれません |
特に建設業では、小規模事業所と個人事業主の比率が高い点に注意が必要です。統計の対象は一定規模以上の事業所であるため、業界全体の人の動きと完全には一致しません。社内説明では「雇用されている労働者について、この範囲での数字」と一言添えておくと、後の議論がぶれません。
自社の入職率・離職率をそろえる手順
公表値と比べられる形に自社データを整える手順です。そのまま社内の作業指示として使えます。
- 集計期間を暦年(1月1日から12月31日)にそろえます。年度で管理している会社は、暦年ベースの集計を別に作ります。
- 分母を「1月1日現在の常用労働者数」に固定します。人事システムの在籍者一覧を、その日付で出力します。
- 常用労働者の範囲を決めます。役員、短期契約者、出向受入者、出向送出者、休職者の扱いを一つずつ決め、決定内容を集計ルールとして文書化します。
- 入職者を数えます。新卒採用、中途採用、定年後再雇用の再入職、他事業所からの転入について、それぞれ計上するかしないかを決めます。
- 離職者を数えます。自己都合、会社都合、契約期間の満了、定年、死亡、出向送出を区分して数えます。区分は公表資料の離職理由の区分に近づけると比較しやすくなります。
- 入職率、離職率、入職超過率を計算します。
- 事業所別、年齢階級別、勤続年数別に分解します。全社の平均値だけでは打ち手が決まりません。
- 公表値と並べ、差が出た理由を文章で一行書きます。「当社は年初人員の増加が大きく、分母の取り方で差が出ている」といった説明を残しておくと、翌年の担当者が再現できます。
集計シートに置く項目は次のとおりです。
| 項目 | 定義の決めどころ | 取得元 | 担当 |
|---|---|---|---|
| 1月1日現在の在籍者数 | 休職者・出向者を含めるか | 人事システム | 人事担当 |
| 入職者数 | 再雇用と社内転入の扱い | 入社手続き記録 | 人事担当 |
| 離職者数 | 定年・契約満了を別建てにするか | 退職手続き記録 | 人事担当 |
| 離職理由の区分 | 自己都合の中身を分けるか | 退職届・面談記録 | 人事担当 |
| 年齢階級 | 年初時点か退職時点か | 人事システム | 人事担当 |
| 事業所区分 | 現場は所属事業所で集計するか | 組織マスタ | 人事責任者 |
集計軸ごとの使いどころ
公表資料は複数の集計軸を持っています。全体の率だけを見て終わらせず、打ち手に結びつく軸を選びます。
| 集計軸 | 読み取ること | 人事の打ち手 |
|---|---|---|
| 年齢階級別 | どの年代で出入りが多いか | 若年層の離職が目立つなら、初期配属と教育計画を見直す |
| 事業所規模別 | 自社と同じ規模帯の水準 | 全産業平均ではなく、同規模帯の値を社内説明に使う |
| 入職経路別 | 人がどの経路で入っているか | 採用チャネルの配分と、求人票を出す媒体の選び方を見直す |
| 離職理由別 | 定年や契約満了がどれだけ含まれるか | 自然減が多いなら、補充採用の計画数に定期的に織り込む |
| 転職入職者の賃金変動 | 転職で賃金が上がった人の割合の傾向 | 中途採用の提示額を決める際の参考にする |
| 性別 | 出入りの構造の違い | 女性技術者の採用・定着施策の検討材料にする |
離職理由の区分については、公表資料に区分名と定義が示されています。自社の退職区分をその区分に寄せておくと、毎年の比較作業が短くなります。
採用計画への落とし込み
入職率・離職率は、必要採用数を決める計算に使います。考え方は単純です。
必要入職数 = 期首人員 × 想定離職率 + 増員計画数
仮に期首人員が200人、想定離職率を自社実績から10パーセントと置き、増員計画が10人であれば、必要入職数は30人になります。ここで使う想定離職率は、公表値ではなく自社の過去数年の実績を基本にします。公表値は、自社の実績が業界の動きから大きく外れていないかを確かめるための当て木として使います。
年間の作業は次の形で回します。
| 時期 | 作業 | 担当 |
|---|---|---|
| 1月上旬 | 前年1月1日現在の人員と、前年の入職・離職者数を確定する | 人事担当 |
| 1月から2月 | 自社の入職率・離職率・入職超過率を算出し、事業所別と年齢階級別に分解する | 人事担当 |
| 公表資料が出た後 | 建設業の値と自社値を突き合わせ、差の理由を整理する | 人事責任者 |
| 次年度計画の策定時 | 想定離職率を置き、必要入職数を決めて予算に反映する | 経営・人事責任者 |
| 半期ごと | 実績の進捗を確認し、想定離職率のずれを修正する | 人事担当 |
公表の時期は年によって異なります。公表予定は事前に確認し、社内の計画スケジュールに組み込んでおいてください。
よくあるつまずき
- 年度と暦年を混ぜる。自社は4月から3月、公表値は1月から12月です。期間をそろえないまま比較すると、季節性の影響で差が出ます。
- 分母に期末人員を使う。増員期には率が小さく、縮小期には大きく出ます。年初人員に固定します。
- 雇用形態の範囲がずれる。自社はパートタイム労働者を除いて計算し、公表値は含む値を見ている、という組み合わせが起きがちです。
- 出向者を二重に数える。送出側で離職、受入側で入職として計上すると、グループ全体では実態より率が高く出ます。
- 現場間の応援や配置転換を入職・離職に数える。雇用関係は続いているため、原則として社内異動は入職・離職ではありません。
- 単年の動きだけで施策を決める。標本調査であることを踏まえ、数年分を並べて向きを確認します。
- 産業分類の建設業を許可業種と読み替える。統計上の分類と許可制度の区分は別です。
- 数値を引用したのに出典年を書き忘れる。資料には調査年と、上半期・下半期・年間のどれを使ったかを必ず明記します。
社内で使うときの注意
公表値はあくまで全国の傾向です。自社の採用の当否を決めるのは自社の実績値であり、公表値は説明の補助線として使うのが実務的です。数値を経営会議や外部説明に使う場合は、調査年、集計期間、対象範囲を併記してください。
また、離職率の改善策として労働条件を見直す場合は、就業規則の変更や労働時間の管理など、法令上の手続きが関わります。個別の判断は、社会保険労務士などの専門家に相談してください。
この記事の要点
- 雇用動向調査は、事業所に雇用されている労働者の入職と離職を捉える調査です。職種別や一人親方の動きは分かりません。
- 率の分母は年初の常用労働者数です。自社の計算をここにそろえないと比較できません。
- 統計上の「建設業」は産業分類であり、建設業許可の業種区分とは別の考え方です。
- 全体の率だけでなく、年齢階級別、規模別、入職経路別、離職理由別の軸まで下ろして打ち手に結びつけます。
- 具体的な数値は年ごとに更新されます。引用するときは最新の公表資料で確認し、調査年と集計期間を必ず明記してください。
出典
- 厚生労働省「雇用動向調査」
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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