入職経路の内訳から採用チャネルを見直す
人事ノート採用がうまくいかないとき、「媒体をもう一つ増やすか」という話になりがちです。しかし、増やす前に確かめたいのは、自社に実際に入った人がどこから来たのかという事実です。厚生労働省「雇用動向調査」には、入職者が入職経路別にどう分かれているかの集計があります。公表データで業界全体の形を押さえ、同じ区分で自社の数字を並べると、どのチャネルに予算を寄せるかの判断材料ができます。
この記事は、採用担当者が明日から手を動かせるように、確認の順序とチェック項目をまとめたものです。数値は年や調査によって変わりますので、本文では具体的な数値を置かず、確認の手順を示します。実際の数値は公表資料でご確認ください。
入職経路とは何を指すか
雇用動向調査は、事業所を対象に、一定期間の入職者と離職者の状況を調べる統計です。入職者については、性別・年齢・産業・就業形態などの区分に加えて、入職経路別の集計が公表されています。入職経路は、おおむね次のような区分で整理されています。区分名や細かさは調査年や表によって異なりますので、実際に使う表の区分名を確認してください。
| 経路の区分(代表例) | 採用実務でいうと | 主な費用の性格 |
|---|---|---|
| 広告 | 求人サイト、折込、フリーペーパーなど | 掲載料または成功報酬 |
| 職業安定所(ハローワーク) | 公共職業安定所の紹介 | 無料 |
| 民営職業紹介所 | 人材紹介会社の紹介 | 成功報酬が中心 |
| 学校 | 高校・専門学校・大学などの紹介 | ほぼ無料(関係維持の工数) |
| 縁故 | 社員の知人、取引先からの紹介 | 社内の謝礼制度があれば費用 |
| 前の会社 | 出向元や関係会社からの移籍など | 社内調整の工数 |
| その他 | 直接応募、自社サイトなど | 自社運用の工数 |
ここで大事なのは、**入職経路は「応募がどこから来たか」ではなく「入職した人がどこから来たか」**だという点です。応募数の多さと入職数の多さは一致しません。応募は多いが入職に至らないチャネルと、応募は少ないが決まりやすいチャネルを、同じ土俵で比べられるのが入職経路の良いところです。
手順1 公表データで業界の形を押さえる
- 厚生労働省「雇用動向調査」の公表ページで、最新年の結果を開きます。
- 統計表の一覧から、入職経路別の入職者数を含む表を探します。表番号は年によって変わるため、表題で探すのが確実です。
- 産業別の区分がある表を選び、建設業の行を見ます。産業別に細かい区分が取れない表もありますので、その場合は全産業の数字を参照し、その旨をメモに残します。
- 一般労働者とパートタイム労働者、新規学卒とそれ以外など、就業形態の区分を必ず確認します。区分をまたいで合算すると、自社比較で食い違いが出ます。
- 経路ごとの構成比(その経路からの入職者が全入職者に占める割合)を計算し、表にします。公表資料に構成比が載っている場合はそれを使います。
業界全体の形を押さえる目的は、順位を暗記することではありません。自社の配分が業界の形から大きく外れている経路はどれかを見つけることです。外れていること自体は悪いことではありません。外れている理由を説明できるかどうかが問われます。
つまずきやすいところ
- 調査年を混ぜてしまう。前年と当年の表を並べると、区分名が変わっていることがあります。表の注記を読んでください。
- 「入職者」には転職入職者だけでなく、未就業からの入職者も含まれます。どちらを見ているのかを意識してください。
- 集計の対象となる事業所規模の下限が設定されている場合があります。小規模事業所の実態と違って見えることがあります。
手順2 自社の入職経路を同じ区分で集計する
公表データと比べるには、自社側も同じ区分で数えなければなりません。採用管理の記録が媒体名のままになっていることが多いので、まず変換表を作ります。
- 直近12か月(または直近の年度)に入社した人を全員リストにします。内定辞退者や応募止まりの人は入れません。
- 一人ずつ、入社のきっかけとなった経路を上の区分に割り当てます。媒体名は変換表で区分に寄せます。
- 同じ人が複数の経路に触れている場合(求人サイトを見た後に社員から誘われた、など)は、入社を決めた最後の接点を一つ選ぶルールをあらかじめ決めます。ルールを決めずに都度判断すると、翌年の数字と比べられなくなります。
- 就業形態(正社員・契約・パート、技術者・技能者・事務など)ごとに分けて集計します。建設業では職種によって決まる経路がかなり違います。
- 経路ごとに、入職者数・構成比・要した費用・在籍状況(入社後6か月・12か月時点で在籍しているか)を並べます。
| 経路 | 入職者数 | 構成比 | 直接費用 | 1人あたり費用 | 6か月在籍率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 広告(求人サイト等) | |||||
| 職業安定所 | |||||
| 民営職業紹介所 | |||||
| 学校 | |||||
| 縁故 | |||||
| その他(直接応募等) | |||||
| 合計 |
この表は空欄のまま社内で配り、採用担当と現場の管理部門で埋めるのが早いです。費用欄には、掲載料・成功報酬・謝礼・広告制作費など、支払いが発生したものを入れます。社員の工数は別欄にメモしておき、無料のチャネルが本当に安いのかを後で検討します。
つまずきやすいところ
- 縁故採用の費用をゼロにしてしまう。社内の紹介謝礼制度があれば費用です。謝礼がなくても、紹介者のフォロー工数はかかっています。
- 人材紹介の費用を支払った年度で計上してしまい、入社年度とずれる。比較するなら入社した人に紐づけて計上します。
- 在籍率を全員まとめて出してしまう。経路ごとに出さないと、どのチャネルの採用が定着しているかが見えません。
手順3 配分を見直す判断の順序
数字が並んだら、次の順序で検討します。どの会社でも同じ答えになるわけではありませんので、最後は自社の採用計画と照らして決めます。
- 採用充足の状況を確認する。計画人数に届いているかどうかで、見直しの性格が変わります。届いていないなら増やす議論、届いているなら費用の議論です。
- 構成比の大きい経路を先に点検する。入職者の多くを占める経路が止まると、採用計画全体が崩れます。止まるリスクがないかを確認します。
- 1人あたり費用と在籍率を並べて見る。費用が高くても定着しているなら、単価だけで切るのは早計です。逆に、安く採れても早期離職が続く経路は、受け入れ側の問題も含めて見直します。
- 業界の形と大きく外れる経路を説明できるか確かめる。例えば学校経由がほぼゼロなら、新卒採用をしない方針なのか、関係づくりができていないだけなのかを区別します。
- 来期の配分案を作る。増やす経路、維持する経路、減らす経路を決め、それぞれの理由を一行で書きます。理由が書けないものは、まだ判断材料が足りないということです。
- やめる判断には期限を付ける。「次の半期で入職者が出なければ停止」という形で、あらかじめ基準を決めておくと、感覚での延長を防げます。
判断の目安になる組み合わせ
| 状況 | 読み方 | 次の一手の例 |
|---|---|---|
| 構成比が高く、費用も高い | 依存度が高く、費用の波を受けやすい | 代替経路の育成を同時に進める |
| 構成比が高く、費用が低い | 強みのある経路 | 維持し、担当者の属人化を解消する |
| 構成比が低く、費用が高い | 投下に見合っていない可能性 | 期限を決めて継続可否を判断する |
| 構成比が低く、費用が低い | 手をかけていないだけの可能性 | 運用を見直してから評価する |
| 在籍率が低い | 採用段階の情報提供か受け入れに課題 | 求人票の記載と入社後の体制を点検 |
手順4 建設業で特に見ておきたい点
建設業の採用では、職種によって有効な経路が分かれます。集計を全社一本でまとめると、この違いが消えてしまいます。
- 技能者と技術者を分ける。資格要件の有無、募集時期、求められる経験が異なります。経路の有効性も変わります。
- 現場ごとの採用を本社が把握しているか確認する。現場や協力会社経由での採用が、本社の集計から漏れていることがあります。
- 新規学卒の経路は学校との関係に依存する。訪問や実習受入れの実績が、翌年以降の紹介につながります。工数はかかりますが、単年の費用だけでは評価できません。
- 外国人材の受入れは在留資格の手続きが伴う。経路の費用だけでなく、受入れ後に続く届出や支援の体制まで含めて検討してください。制度の要件は公表資料でご確認ください。
- 縁故採用の比重が高い場合、紹介者が退職すると経路そのものが細ります。紹介者が特定の数人に偏っていないかを確認します。
手順5 社内で合意を取るための資料の作り方
配分の見直しは予算の話になりますので、経営層の合意が要ります。説明資料は次の構成にすると話が早く進みます。
- 採用計画人数と、直近1年の実績(経路別)
- 経路別の費用と1人あたり費用
- 経路別の在籍率(6か月・12か月)
- 公表データとの比較(厚生労働省「雇用動向調査」の入職経路別構成比)
- 来期の配分案と、増減の理由
- 判断の見直し時期(いつ、誰が、どの数字で再検討するか)
4の比較は、自社の配分が妥当だと主張するためではなく、議論の出発点をそろえるために置きます。公表データの年次と区分名は資料に明記してください。出典名を書かずに数字だけ載せると、後から確認できません。
年間の運用に落とす
- 毎月、入社者の経路を記録する担当者を1人決めます。入社手続きの一部に組み込むと漏れにくくなります。
- 四半期ごとに集計を更新し、半期で配分を見直します。毎月見直すと、数が少ないため振れ幅に振り回されます。
- 年1回、公表データの最新年が出た時点で業界の形を更新します。
よくある質問
Q. 公表データの入職経路の区分と、自社の媒体名がうまく対応しません。どう割り当てればよいですか。
完全に一致させる必要はありません。自社で変換表を作り、どの媒体をどの区分に寄せたかを書き残しておけば、翌年以降も同じ基準で比べられます。判断に迷うものは、担当者の裁量で決めず、採用責任者が一度決めて文書化してください。区分名は調査年によって変わることがありますので、使う表の注記を公表資料で確認してください。
Q. 同じ人が求人サイトと社員紹介の両方に触れている場合、どちらに数えますか。
あらかじめルールを決めて、全員に同じルールを適用してください。実務では「入社の意思決定に最も近い接点」を採る方法が扱いやすく、紹介で背中を押されて入社したなら縁故に寄せます。重要なのはどちらが正しいかではなく、年をまたいで同じ数え方を続けることです。ルールを変える場合は、変更した年を記録し、前年との比較時に注記を付けてください。
Q. 入職経路の構成比が業界全体と違っていたら、合わせに行くべきですか。
合わせる必要はありません。公表データの構成比は、規模も地域も職種構成も異なる事業所をまとめた平均の姿です。自社の違いに説明が付くなら、そのままで問題ありません。説明が付かない経路が見つかったときに、手を付けていないだけなのか、方針として使っていないのかを切り分けてください。
Q. 費用がかからない経路だけに寄せれば、採用単価は下がりますか。
単価の数字は下がりますが、採用人数が計画に届かなくなる危険があります。無料の経路にも、学校訪問や紹介者フォローといった社員の工数がかかっています。工数を時間で記録し、金額に換算して比べたうえで判断してください。また、一つの経路に寄せると、その経路が止まったときに代わりがなくなります。
Q. 集計の期間は年度と暦年のどちらに合わせるべきですか。
自社の採用計画と予算の期間に合わせるのが実務的です。ただし公表データは調査の対象期間が決まっていますので、比較する際は期間がずれていることを資料に明記してください。期間をそろえられない場合でも、同じずれ方を毎年続ければ、年ごとの傾向は読み取れます。対象期間の定義は公表資料で確認してください。
出典
- 厚生労働省「雇用動向調査」
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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