離職理由の内訳から自社の課題を見つける手順
人事ノート離職率の数字が出ても、それだけでは何を直せばよいか決まりません。必要なのは「誰が、どの理由で辞めたか」の内訳です。厚生労働省「雇用動向調査」には、転職入職者が前職を辞めた理由の区分が用意されています。この区分を自社の退職者データにも当てはめると、社内の会話が「離職が多い」から「どの層の、どの理由が多い」に変わります。この記事では、公表資料で確認できる区分の考え方と、自社で同じ形に集計する手順をまとめます。
なお、本記事では具体的な割合の数値は挙げません。年によって水準も区分の表記も変わるため、数値は必ず最新の公表資料で確認してください。
雇用動向調査で分かること、分からないこと
雇用動向調査は、厚生労働省が事業所を対象に実施している統計調査です。事業所についての調査票と、その期間に入職・離職した労働者についての調査票があり、後者から「転職入職者が前職を辞めた理由」が集計されます。産業別、性別、年齢階級別の集計が公表されています。調査の対象範囲や実施回数などの前提は、公表資料の利用上の注意で確認してください。
人事が押さえておきたいのは、次の線引きです。
分かること
- 前職を辞めた理由が、どの区分にどれくらい集まっているか
- 男女別、年齢階級別に、理由の集まり方が違うか
- 建設業という産業単位での傾向
分からないこと
- 建設業の中の職種別(施工管理、技能者、設計、事務など)の違い
- 会社の規模や地域による違いの細かい部分
- 退職者が言わなかった本当の理由
つまり、この統計は自社の答えを教えてくれるものではありません。自社の内訳を同じ物差しで作り、産業の形と見比べるための「型」として使います。
前職を辞めた理由の区分を、社内の物差しにする
公表されている区分は、大きく「個人的理由」「事業所側の理由」「契約期間の満了」「定年」などに分かれ、個人的理由の中がさらに細かく分かれる構造です。細分の項目には、職場の人間関係、労働時間・休日等の労働条件、給料等収入、会社の将来性、能力や個性・資格を生かせない、仕事の内容への興味、結婚、出産・育児、介護・看護、といった内容が並びます。区分名の細かい表記は年によって変わることがあるため、集計に使う年の公表資料で正確な項目名を確認してください。
自社で使うときは、次のように「その理由が出たら、どこを見に行くか」まで決めておきます。ここまで決めておかないと、内訳が出ても議論が止まります。
| 理由の区分 | 自社で確かめる社内データ | 主に動かす部署 |
|---|---|---|
| 労働時間・休日等の労働条件 | 現場別の時間外時間数、休日出勤日数、有給取得日数 | 工事部門・安全衛生 |
| 給料等収入 | 等級別の支給実績、同職種の求人相場、昇給の実施状況 | 人事・経営 |
| 職場の人間関係 | 所属長別の離職者数、相談窓口の受付件数、面談記録 | 人事 |
| 会社の将来性 | 受注残の説明の有無、事業計画の共有頻度 | 経営 |
| 能力・資格を生かせない | 配属履歴、資格取得後の担当変更の有無 | 人事・工事部門 |
| 仕事の内容への興味 | 入社前の説明内容と初期配属の一致度 | 採用担当 |
| 結婚・出産・育児・介護 | 制度の利用実績、短時間勤務や配置転換の可否 | 人事 |
| 契約期間の満了 | 有期契約者の更新方針、工事工程との関係 | 人事・工事部門 |
| 事業所側の理由(経営上の都合など) | 受注状況、要員計画 | 経営 |
| 定年 | 継続雇用の申出状況、退職予定者の把握 | 人事 |
自社の離職理由を集計する手順
以下はそのまま社内の作業手順として使える形にしています。担当と期限を入れて運用してください。
- 対象期間と対象者を決める(人事、年度開始時)。会計年度か暦年かを決め、以後は変えません。対象は「自己都合退職」だけに絞らず、契約満了、定年、会社都合も含めて全件を拾います。理由の内訳は、母数に何を入れたかで見え方が変わります。
- 理由の記録元をそろえる(人事、随時)。退職届の記載、上長からの報告、退職面談の記録の三つを突き合わせます。書面に「一身上の都合」としか書かれていないことは珍しくないので、面談記録がないと集計になりません。
- 区分に当てはめるルールを文書化する(人事、初回のみ)。理由が複数あるときは「主たる理由を一つ」に決め、副次の理由は別欄に残します。判断に迷う例(例:現場が遠く帰宅が遅い→労働時間か、転勤・配属か)を三つ程度、判断例として書き残しておくと、担当者が替わっても集計がぶれません。
- 属性を必ず一緒に持つ(人事、退職手続時)。入社年月、勤続期間、年齢、職種、雇用区分、直近の所属(現場名または部署名)、直属の上長、入社経路(紹介、自社応募、縁故など)を付けます。属性が無い内訳は、打ち手に結びつきません。
- 四半期ごとに更新する(人事、各四半期の翌月末まで)。年1回だけの集計では、手を打つのが遅れます。
- 年1回、区分別の内訳を経営会議に出す(人事、年度末)。あわせて雇用動向調査の建設業の集計と形を見比べ、自社で特に膨らんでいる区分を一つか二つに絞ります。
退職面談を、集計できる形で設計する
理由の内訳は、退職面談の質で決まります。次の点を決めておきます。
- 実施者:直属の上長ではなく、人事または人事に準じる立場の担当が行います。人間関係が理由の場合、上長には言えません。
- 時期:退職日の直前は本音が出にくく、退職の申出直後は感情が強く出ます。申出から一週間程度あけ、退職日の二週間前までを目安にします。
- 時間:十五分から三十分。長く取ると評価面談のようになり、構えられます。
- 伝えること:内容は本人の評価や退職手続に影響しないこと、集計は個人が分からない形にすること、この二つを冒頭で伝えます。
質問は、区分に落とせる形で用意します。
- 転職を考え始めたのはいつ頃ですか。そのきっかけは何でしたか。
- その時点で、会社側が何をしていれば残る余地はありましたか。
- 労働時間、休日、賃金、仕事の内容、人間関係、将来性のうち、影響が大きかった順に三つ挙げてください。
- 次の勤務先を選んだ決め手は何ですか。
- 入社前に聞いていた話と、実際が違った点はありますか。
三つ目の質問は、そのまま区分への振り分けに使えます。五つ目は、採用時の説明の見直しに直結します。面談記録は所定の様式に落とし、自由記述をそのまま残してください。要約だけにすると、後から読み返しても打ち手が出ません。
建設業で読むときの注意点
- 契約期間の満了と会社都合は、工事の波と連動します。 受注が細った期の内訳は、本人の意思による離職の傾向を見るには向きません。区分を分けて見ます。
- 労働条件の理由は、会社単位ではなく現場単位で出ます。 全社平均の時間外時間数では見えません。退職者の直近の従事現場ごとに並べ替えてください。特定の現場や特定の所属長に集中していることがあります。
- 転勤・配属は独立した項目として置かれていないことがあります。 公表区分では他の項目に含まれる形になる場合があるため、自社集計では「配属地・転勤」を副次の記録欄で必ず拾っておきます。建設業では影響が大きい要素です。
- 年齢階級で分けて見ます。 若年層と中堅層では、同じ「賃金」でも意味が違います。若年層は初任給水準や昇給の見通し、中堅層は役職や責任に対する見合いの話であることが多く、打ち手が異なります。
- 入職の理由と離職の理由を混ぜません。 入職側の集計は求人票の見直しに、離職側の集計は定着施策に使います。
よくあるつまずき
「自己都合」で全件を処理してしまう
退職届の文言をそのまま集計に使うと、ほぼ全件が個人的理由になり、内訳の意味がなくなります。書面上の区分と、集計上の理由は別に管理してください。
分母が小さいのに割合だけを見る
年間の退職者が数名の会社で「人間関係が三十パーセント」と言っても、一名か二名の話です。割合と実数を必ず併記します。三年分をまとめて見る方が、傾向がはっきりすることもあります。
統計の数値と自社の数値を、そのまま優劣で語る
雇用動向調査は産業単位の集計で、自社の集計とは対象期間も母集団も違います。並べるのは水準の比較ではなく、内訳の形の違いを見るためです。「自社は労働時間の理由が突出している」といった相対の読み方にとどめます。
集計しただけで終わる
内訳を出しても、確認先と担当が決まっていなければ何も動きません。前掲の表のように、区分ごとの確認先をあらかじめ決めておきます。
面談記録を評価や再雇用の判断に流用する
一度でも流用すると、以後の面談で本音が出なくなります。閲覧できる者を限定し、運用の範囲を文書で決めてください。
経営に出す一枚に載せる項目
年1回の報告は、次の五項目に絞ると議論が進みます。
- 退職者の実数と、離職率(算定式を明記)
- 理由の区分別内訳(実数と割合、前年との比較)
- 勤続期間別の内訳(特に入社一年未満の人数)
- 職種別・所属別の内訳
- 上位二つの区分に対して、次年度に誰が何をするか
五番目まで書いて、初めて報告になります。統計はそのための物差しであって、結論ではありません。個別の退職事案で法的な争いが想定される場合は、社内の集計とは切り離し、弁護士や社会保険労務士に相談してください。
出典
- 厚生労働省「雇用動向調査」
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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