#労務・法改正2025.11.04 公開2026.09.08 更新読了 約9建設タレントサーチ 人事ノート 編集部

現場への移動時間は労働時間か 判断の手順

直行直帰、事務所への立ち寄り、現場間の移動、社用車の運転。建設業では移動の形が多様で、労働時間かどうかの判断が現場任せになりがちです。労働基準法の考え方を土台に、パターン別の整理、判定の質問、就業規則と記録への落とし込みまでを実務手順でまとめます。

情報の基準日
2026.09.08
労務・法改正

現場への移動時間は労働時間か 判断の手順

人事ノート

直行直帰が当たり前の職種では、移動時間の扱いが会社ごとにばらばらになりがちです。上限規制や割増賃金の計算にも直結するため、人事が判断の型を持っておく必要があります。ここでは労働基準法の考え方を土台に、パターンごとの整理と、社内で決めるべき順序を示します。

判断の土台は「指揮命令下にあるか」

労働時間かどうかは、就業規則にどう書いてあるかで決まるわけではありません。実態として使用者の指揮命令下に置かれていたかどうかで判断されます。これは労働基準法の労働時間規制(法定労働時間、割増賃金)の解釈として確立している考え方です。

判断のときに見るのは、次のような点です。

  • 会社がその移動を義務づけているか。従わなければ不利益があるか。
  • 移動中に業務そのもの(運搬、監視、同僚の送迎、電話対応など)を行っているか。
  • 場所や経路、時刻を会社が指定しているか。労働者が自由に決められるか。
  • 移動中に労働から解放されているか。休憩や私用に充てられるか。

逆に言えば、「自宅からどこへ、どの手段で向かうかを本人が自由に決められ、移動中に業務がない」時間は、通常の通勤と同じ性質になります。通勤時間は労働時間ではないという整理が基本です。

ここで注意したいのは、会社が「移動時間は労働時間としない」と規程に書いても、実態が指揮命令下にあれば労働時間として扱われる点です。規程は実態を追認するもので、実態を変える力はありません。

パターン別の整理

建設・不動産の現場でよく出てくる移動を、パターンに分けて整理します。個別の事情で結論が変わる場合があるため、社内での初期判断の枠として使ってください。

パターン原則の考え方判断が変わる要素
自宅から現場へ直行、現場から自宅へ直帰通勤に相当し、労働時間としない途中で資材受け取りや書類受け渡しを指示されている場合は、その業務時間と前後の移動が労働時間になりうる
自宅→事務所→現場(事務所に立ち寄る義務がある)自宅から事務所までは通勤。事務所での朝礼・積み込みから労働時間立ち寄りが義務でなく本人の任意なら、事務所滞在中の業務時間のみで判断
事務所から現場への移動(業務命令)労働時間として扱うのが基本移動手段・経路の自由度、移動中の業務の有無
現場から別の現場への移動(1日で複数現場)労働時間として扱うのが基本移動の合間に長時間の自由時間があれば、その部分は休憩として整理できる場合がある
社用車を運転し、同僚を同乗させる運転者は労働時間として扱うのが基本会社が送迎を指示していたか、集合場所を指定していたか
社用車に同乗するだけ集合と同乗が義務づけられていれば労働時間と評価されやすい同乗が任意で、自家用車や公共交通も選べるなら通勤に近づく
遠隔地への出張の移動(新幹線・飛行機など)移動そのものに業務がなければ労働時間としない整理が一般的物品の監視や運搬を命じられている場合、移動中に打合せや資料作成を指示された場合は労働時間
前泊・移動日移動のみで業務がなければ労働時間としない整理が一般的到着後に打合せや現場確認を行えば、その部分は労働時間
現場での待機・手待ち労働から解放されていなければ労働時間呼び出しに備えて待つ時間は休憩ではありません
資材置き場での積み込み・積み下ろし労働時間

表の右列にあるとおり、分かれ目は「義務か任意か」「移動中に業務があるか」の2点に集約されます。社内で判断が割れたときは、この2点に戻して議論すると早くまとまります。

判定の質問シート

個別のケースを判定するときは、次の質問に順番に答えます。人事が現場の所長にヒアリングする形でも使えます。

質問「はい」のとき「いいえ」のとき
1. その移動をしないと業務命令違反になりますか労働時間の可能性が高い質問2へ
2. 集合場所・時刻・移動手段・経路のいずれかを会社が指定していますか労働時間の可能性が高い質問3へ
3. 移動中に運転、資材や機材の運搬・監視、電話や書類の対応を行っていますかその時間は労働時間質問4へ
4. 移動中に自由に休憩したり私用を済ませたりできますか労働時間としない整理がしやすい実態を再確認し、専門家に相談

質問1と2が両方「いいえ」で、質問3も「いいえ」なら、通勤と同じ性質と整理できます。逆に、質問1から3のどこかで「はい」が出た場合は、労働時間として賃金計算に含める前提で設計してください。

明日からの手順

1. 移動の実態を洗い出す(人事、2週間程度)

職種と現場のパターンごとに、実際の1日の動きを書き出します。施工管理、設備、内装、営業で動き方が違うため、まとめて1つにしないでください。洗い出す項目は次のとおりです。

  • 出発地(自宅・事務所・前の現場)と到着地
  • 集合場所と時刻の指定があるか
  • 移動手段(社用車、自家用車、公共交通)と、その選択が任意か
  • 移動中に行っている業務
  • 1日あたりの移動回数と、おおよその所要時間

2. 判定して区分を決める(人事と現場責任者、1週間)

洗い出したパターンに、前掲の質問シートを当てます。結論は「労働時間」「労働時間としない」「要検討」の3つに分けます。要検討は放置せず、実態を変えるか、専門家に相談するかを決めます。

3. 実態を整えるか、賃金計算に反映するかを選ぶ(経営判断)

判定で「労働時間」になった移動には、二つの対応があります。

  1. 労働時間として認め、始業・終業の扱いと賃金計算に反映する。
  2. 指揮命令をやめ、実態として通勤に近づける(集合の義務をなくす、直行直帰を原則にする、送迎の指示を出さない)。

どちらを選ぶかは経営判断です。ただし、2を選ぶなら現場の運用まで変える必要があります。規程だけ書き換えて運用が変わらない状態は、最も危険です。

4. 就業規則と賃金規程に書く(人事、1か月)

労働時間や賃金の定めは、就業規則の必須の記載事項です。移動時間の扱いも、始業・終業や賃金計算に関わるため、規程に落とし込みます。書くべき項目は次のとおりです。

規程に書く項目記載の要点
始業時刻の起点現場に直行する場合の起点(現場到着時か、指定集合場所の集合時か)を明記する
終業時刻の終点直帰の場合の終点、事務所に戻る場合の終点を分けて書く
事務所立ち寄りの扱い立ち寄りが義務かどうかを明示する。義務なら立ち寄り後を労働時間とする
現場間移動労働時間に含める旨を明記する
社用車の運転運転を命じる場合の扱い、同乗者の扱いを分けて書く
出張・移動日移動のみの日の扱い、移動中に業務を命じる場合の扱い
移動に関する手当手当の性質(実費補償か、労働の対価か)を明確にする
記録の方法誰が、いつ、どこに記録するかを定める

5. 記録の仕組みを作る(人事と情報システム、1か月)

労働時間として扱う移動は、記録がなければ管理できません。日報や勤怠システムに、次の欄を用意します。

  • 集合時刻または現場到着時刻
  • 現場ごとの入場・退場時刻
  • 現場間移動の出発・到着時刻
  • 運転を担当したかどうか

労働基準法は賃金台帳の作成と記録の保存を求めています。移動時間を含めた労働時間の記録も、この管理の一部として整えてください。保存期間は条文と最新の公表資料で確認してください。

6. 周知と教育(人事、決定後すぐ)

所長・職長に対して、判定の考え方と記録の書き方を説明します。説明は口頭だけにせず、1枚の判定表を配ります。労働者にも、どこからが労働時間かを明示します。ここを曖昧にしたままだと、後から未払い賃金の主張につながります。

賃金の払い方をどう決めるか

労働時間と評価される移動は、法定労働時間を超えれば割増賃金の対象になります。ここは避けられません。

一方、労働時間としない移動については、賃金の支払義務はありません。ただし、遠方現場への負担を考えて手当を出す会社は多くあります。その場合、手当の性質を整理しておいてください。

手当の性質位置づけ注意点
交通費・実費補償労働の対価ではない実費との対応関係を説明できるようにする
現場までの距離に応じた手当設計次第で労働の対価と評価されうる割増賃金の算定基礎に含めるかどうかを整理しておく
移動時間に対する定額手当労働時間に対する賃金の前払と評価される可能性がある対応する時間数を明示し、超過分は別途支払う設計にする

定額手当で移動時間分をまとめて払う設計は、対応する時間数が不明確だと機能しません。「何時間分に相当するか」を規程で示し、それを超えたら差額を払う仕組みにしてください。

上限規制との関係を忘れないこと

移動時間を労働時間として扱うと、時間外労働の集計に加算されます。建設業も時間外労働の上限規制の対象になっており、36協定の枠を超えられません。移動時間の扱いを見直した結果、時間外労働が想定より増えるケースがあります。

そのため、判定と同時に次を確認してください。

  1. 移動時間を加算した場合の、月間・年間の時間外労働の見込み
  2. 36協定で届け出ている上限との差
  3. 遠方現場の配置の見直し(宿泊、現場近くの拠点、担当替え)
  4. 事務所立ち寄りを不要にする運用(電子化、直行直帰の徹底)

移動時間の削減は、労務管理の課題であると同時に、配置と業務設計の課題です。人事だけで完結しないため、工務や営業を含めた場で決める必要があります。

事業場外みなし労働時間制の使いどころと限界

労働基準法には、労働者が事業場外で業務に従事し、労働時間の算定が難しい場合のみなし労働時間制の定めがあります。直行直帰の多い職種で検討されることがありますが、使えるかどうかは慎重に判断してください。

  • 会社が随時指示を出し、報告を求め、行動を把握できる状態では「算定が難しい」とは言えません。
  • 現場の入退場時刻が管理されている場合、算定は可能と評価されやすくなります。
  • 移動時間だけを切り出してみなしの対象にする設計は、無理が出やすいです。

導入を検討するなら、労使協定の締結や運用条件を条文と行政の公表資料で確認し、専門家に相談してください。安易に導入して、実態が伴わないまま運用すると、後から全期間分の是正を求められる可能性があります。

よくあるつまずき

その1 集合場所を指定しているのに通勤扱いにしている

「朝7時に資材置き場集合」と指示していれば、そこから先は指揮命令下です。集合場所での点呼や積み込みも労働時間です。自宅から資材置き場までが通勤で、そこからが労働時間、という切り分けになります。

その2 運転者と同乗者を同じ扱いにしている

運転は業務です。同乗は状況によります。同じ車に乗っていても扱いが違う可能性があるため、日報に運転担当を記録してください。運転を交代した場合も記録が必要です。

その3 直行直帰と言いながら事務所立ち寄りが常態化している

書類提出や鍵の受け渡しのために、実際には毎朝事務所に寄っている例があります。この場合、事実上の義務と評価される可能性があります。電子化や現場での受け渡しに切り替えるか、労働時間として扱うかを決めてください。

その4 現場間移動を「移動だから」と一律に除いている

1日に複数現場を回る施工管理では、現場間移動が積み上がります。ここを除外していると、集計上の労働時間が実態より短くなります。上限規制の管理も甘くなります。

その5 手当を払っているから問題ないと考えている

手当の支払いは、割増賃金の支払義務を消しません。手当が何に対する対価かを示せなければ、別に割増賃金を求められる可能性があります。

その6 規程を直しただけで運用を変えていない

最も多いつまずきです。判定の結論は、現場の指示の出し方に反映しなければ意味がありません。所長への説明を必ず入れてください。

社内で決めるときの進め方

  1. 人事が職種別の移動パターンを一覧化する。
  2. 現場責任者と一緒に、質問シートで判定する。
  3. 「要検討」に残ったものを一覧にして、専門家に相談する。
  4. 経営会議で、労働時間として認める範囲と、運用を変える範囲を決める。
  5. 就業規則と賃金規程を改定し、意見聴取と届出、周知の手続を行う。
  6. 勤怠の記録項目を変更し、所長・職長へ説明する。
  7. 3か月後に、記録が想定どおり取れているかを点検する。

移動時間の扱いは、過去分にも影響します。現在の運用に不安がある場合は、遡って是正すべき範囲があるかどうかを含め、社内で判断せず専門家に相談してください。判断の根拠は労働基準法とその解釈にありますので、条文と行政の公表資料で最新の内容を確認しながら進めてください。

出典

  • 労働基準法

本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

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