建設業の安全衛生管理体制 規模別の選任と届出
人事ノート安全衛生管理体制は、現場任せにできない領域です。選任義務があるのは事業者であり、資格者の確保と届出の管理は人事の仕事になります。ここでは労働安全衛生法が定める体制を、事業場の規模ごと、そして建設現場ごとに整理します。人数区分や資格要件は条文と政令・省令に分かれて書かれているため、表にまとめて確認できる形にしました。
安全衛生管理体制は二階建てで考える
建設業の体制は、性質の違う二つの仕組みが重なっています。ここを分けて理解しないと、「現場に統括安全衛生責任者がいるから安全管理者は不要」といった誤解が起きます。
| 階層 | 対象 | 判断のもとになる人数 | 主な役職 |
|---|---|---|---|
| 事業場ごとの体制 | 本社、支店、営業所、作業所(現場)それぞれ | その事業場が常時使用する自社の労働者数 | 総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、産業医、安全衛生推進者 |
| 混在作業に対する体制 | 一つの場所で元請と下請が混在して作業する現場 | 元請と関係請負人の労働者を合計した数 | 統括安全衛生責任者、元方安全衛生管理者、店社安全衛生管理者、安全衛生責任者 |
事業場ごとの体制は、自社の労働者を守るための社内の仕組みです。混在作業に対する体制は、元請として現場全体の連絡調整を行うための仕組みです。両方の要件に該当すれば、両方を満たす必要があります。
このほか、作業の種類によって選任する作業主任者があります。こちらは人数ではなく、行う作業の内容で決まります。
「事業場」と「常時使用する労働者数」の数え方
選任の判断は会社単位ではありません。原則として、場所ごとに独立した事業場として扱います。建設業では、本社、支店、そして継続して作業を行う作業所が、それぞれ別の事業場になると考えるのが基本です。
人事が最初に行うべきことは、事業場の一覧化です。
- 労働保険の適用単位や、労働基準監督署への各種届出をどの署に出しているかを手がかりに、自社の事業場を洗い出します。
- 事業場ごとに、常時使用する労働者数を月次で把握できる台帳を作ります。
- 人数が区分の境目(10人、50人、100人)に近い事業場に印を付け、担当者を決めて毎月確認します。
人数の数え方で迷いやすい点を挙げます。
- 正社員だけでなく、パートタイム労働者や有期契約の労働者も、常時使用していれば算入します。
- 派遣労働者は、安全衛生管理体制の人数算定において派遣先でも算入する取扱いとされています。応援や派遣で一時的に増える現場は、区分を超えていないか確認してください。
- 「常時」とは、恒常的に使用している状態を指します。判断に迷う場合は、所轄の労働基準監督署に事実関係を示して確認するのが確実です。
事業場の規模ごとに選任するもの
建設業の事業場を前提に整理します。建設業は、安全管理者の選任義務がある業種であり、安全委員会の設置義務がある業種でもあります。
| 常時使用する労働者数 | 選任・設置するもの |
|---|---|
| 10人以上50人未満 | 安全衛生推進者 |
| 50人以上100人未満 | 安全管理者、衛生管理者、産業医、安全委員会、衛生委員会(安全衛生委員会として一体運営が可能) |
| 100人以上 | 上記に加えて総括安全衛生管理者 |
人数が増えると、衛生管理者の必要人数も増えます。
| 常時使用する労働者数 | 衛生管理者の人数 |
|---|---|
| 50人以上200人以下 | 1人以上 |
| 200人を超え500人以下 | 2人以上 |
| 500人を超え1,000人以下 | 3人以上 |
| 1,000人を超え2,000人以下 | 4人以上 |
| 2,000人を超え3,000人以下 | 5人以上 |
| 3,000人を超える場合 | 6人以上 |
加えて、一定規模を超えると専任や専属の要件が加わります。建設業では、常時300人以上の労働者を使用する事業場について、安全管理者のうち少なくとも1人を専任とする定めがあります。衛生管理者についても、常時1,000人を超える事業場や、常時500人を超えて一定の有害業務に従事する労働者が多い事業場では、専任の衛生管理者を置くこととされています。産業医は、常時1,000人以上の事業場や、一定の有害業務に常時500人以上が従事する事業場では専属である必要があります。自社に該当しそうな規模の事業場がある場合は、条文の該当箇所を確認したうえで手配してください。
それぞれの役割と資格要件
総括安全衛生管理者
その事業場の事業の実施を統括管理する者を充てます。支店長や作業所長がこれに当たることが多く、免許や講習の要件はありません。安全管理者と衛生管理者を指揮し、危険防止措置や健康診断、労働災害の原因調査と再発防止対策などを統括します。役職者の異動と直結するため、人事異動の内示段階で選任替えの要否を確認する運用にしてください。
安全管理者
資格要件があります。一定の学歴と実務経験を満たしたうえで厚生労働大臣が定める研修(安全管理者選任時研修)を修了した者、または労働安全コンサルタントなどから選任します。作業場を巡視し、設備や作業方法に危険がある場合は必要な措置を講じる役割です。研修は日程が限られるため、候補者を前もって受講させておくのが現実的です。
衛生管理者
免許が必要です。建設業では、第二種衛生管理者免許では選任できません。第一種衛生管理者免許、衛生工学衛生管理者免許、労働衛生コンサルタント、医師、歯科医師などから選任します。少なくとも毎週1回作業場を巡視し、衛生状態に有害のおそれがあるときは必要な措置を講じます。免許は試験合格が必要なため、社内で計画的に受験させる仕組みがないと、50人到達時に選任できません。
産業医
医師であって、厚生労働省令で定める要件を満たす者から選任します。健康診断や面接指導、衛生教育、健康障害の原因調査などを行います。職場巡視は毎月1回が原則で、事業者から所定の情報が提供され事業者が同意した場合は2か月に1回とすることができます。契約して終わりにせず、巡視と委員会出席の日程を年間で押さえてください。
安全衛生推進者
常時10人以上50人未満の事業場で選任します。一定の実務経験がある者や、都道府県労働局長の登録を受けた者が行う講習を修了した者などから選任します。安全管理者や衛生管理者のような免許は不要ですが、選任したら氏名を作業場の見やすい場所に掲示するなどして、関係する労働者に周知する必要があります。
作業主任者
人数ではなく作業の種類で決まります。建設業で登場しやすいものとして、地山の掘削、土止め支保工、型枠支保工の組立て等、足場の組立て等、建築物等の鉄骨の組立て等、酸素欠乏危険作業、有機溶剤、石綿等に関する作業があります。免許を受けた者、または技能講習を修了した者から選任し、氏名と職務を作業場に掲示するなどして周知します。政令で定める作業の範囲は改正されることがあるため、最新の一覧を公表資料で確認してください。
安全委員会と衛生委員会
建設業では、常時50人以上の事業場で安全委員会と衛生委員会の両方を設置します。両方を設ける場合は、安全衛生委員会として一つにまとめて運営できます。
運営で押さえる点は次のとおりです。
- 開催は毎月1回以上です。
- 議長は、総括安全衛生管理者、またはその事業場において事業の実施を統括管理する者もしくはこれに準ずる者から選びます。
- 議長以外の委員の半数は、労働者の過半数で組織する労働組合、それがない場合は労働者の過半数を代表する者の推薦に基づいて指名します。会社が一方的に全員を指名する運用は認められません。
- 議事の概要を労働者に周知します。議事録は一定期間保存する必要があります。
人事の実務としては、年間の開催日をあらかじめ決め、議題のひな型(労働災害の発生状況、健康診断結果の概況、長時間労働者の状況、危険箇所の報告など)を用意しておくと、形骸化を防げます。現場の職員が出席しやすいよう、開催時間や参加方法を工夫することも必要です。
建設現場の混在作業に対する体制
元請として現場を管理する場合、事業場ごとの体制とは別の選任が生じます。判断のもとになるのは、その場所で作業する元請と関係請負人の労働者の合計人数です。
| 工事の種類 | 合計人数 | 元請が選任するもの |
|---|---|---|
| ずい道等の建設、圧気工法による作業、一定の橋梁の建設 | 常時30人以上 | 統括安全衛生責任者、元方安全衛生管理者 |
| 上記以外の建設工事 | 常時50人以上 | 統括安全衛生責任者、元方安全衛生管理者 |
| ずい道等の建設、圧気工法による作業、一定の橋梁の建設 | 常時20人以上30人未満 | 店社安全衛生管理者 |
| 主要構造部が鉄骨造または鉄骨鉄筋コンクリート造の建築物の建設 | 常時20人以上50人未満 | 店社安全衛生管理者 |
統括安全衛生責任者は、その場所で行う仕事を統括管理する者を充てます。元方安全衛生管理者は、統括安全衛生責任者を選任した事業者が、一定の資格を持つ者から選任し、技術的事項を管理します。店社安全衛生管理者は、現場ではなく店社に置き、定期的に現場を巡視して指導を行います。
下請側にも義務があります。統括安全衛生責任者が選任される現場で作業する関係請負人は、安全衛生責任者を選任し、統括安全衛生責任者との連絡や、その連絡事項の関係者への伝達などを行います。自社が下請として入る場合の選任漏れにも注意してください。
あわせて、特定元方事業者には、協議組織の設置と運営、作業間の連絡および調整、作業場所の巡視、関係請負人が行う教育に対する指導や援助などの措置が求められます。作業場所の巡視は、毎作業日に少なくとも1回行うこととされています。人数区分に該当しない小規模な現場でも、混在作業がある以上、連絡調整の仕組みは必要です。
選任の期限と届出の手順
選任には期限があります。総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、産業医、安全衛生推進者は、いずれも選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任します。「事由が発生した日」は、人数が区分に達した日や、前任者が退職した日です。
実務手順は次のとおりです。
- 人数台帳で区分到達を確認します。到達が見込まれる段階で、候補者と資格の有無を確認します。
- 資格が必要な役職は、有資格者を社内から探します。いない場合は、外部委託や採用、講習受講の手配を並行して進めます。
- 選任の辞令を出し、社内の記録に残します。選任日を明確にしてください。
- 総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、産業医については、選任報告書を所轄の労働基準監督署長に遅滞なく提出します。
- 安全衛生推進者や作業主任者は、選任報告の提出は求められていませんが、氏名の周知が必要です。掲示の写真を残しておくと、後の確認が容易です。
- 選任台帳(事業場名、役職、氏名、資格、選任日、報告日、次回更新の要否)を人事で一元管理します。
総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者が旅行や疾病、事故などで職務を行えないときは、代理者を選任する定めがあります。長期出張や休業が発生してから慌てないよう、事業場ごとに代理者候補をあらかじめ決めておいてください。
選任義務や委員会の設置義務に違反した場合、罰則の対象となります。金額や条文の詳細は、労働安全衛生法の該当条文で確認してください。
よくあるつまずき
- 本社の人数だけで判断している。 事業場は場所ごとです。作業所単位で10人や50人を超えていないか、月次で確認してください。
- 応援と派遣で人数区分を超えたことに気づかない。 繁忙期に一時的に増えたまま常態化しているケースがあります。台帳は請負や派遣の人数も分けて記録しておくと判断しやすくなります。
- 第二種衛生管理者免許で選任してしまう。 建設業では第一種が必要です。免許の種類まで台帳に記載してください。
- 安全管理者に選任時研修を受けさせていない。 資格要件を満たさない選任は、選任していないのと同じ扱いになりかねません。
- 産業医と契約しただけで終わっている。 職場巡視と委員会への関与が伴わなければ、体制として機能しません。年間日程を先に固めるのが有効です。
- 委員の半数を会社が指名している。 労働者側委員は、過半数代表の推薦に基づく指名が必要です。過半数代表の選出手続そのものが適正かどうかも確認してください。
- 選任報告を出していない。 選任はしたが届出だけ漏れている例は少なくありません。台帳に報告日欄を設けて管理します。
- 統括安全衛生責任者と安全衛生責任者を混同している。 前者は元請、後者は下請が選任するものです。自社が下請に入る現場での選任も忘れないでください。
- 有資格者が特定の人に偏っている。 退職や異動で一気に欠員になります。事業場ごとに複数名の資格保有を目標にし、受験や講習の費用を年度予算に組み込んでください。
人事が年度単位で回すこと
最後に、年度の運用として決めておく項目を挙げます。
| 時期 | 実施すること |
|---|---|
| 年度初め | 事業場一覧と選任台帳の棚卸し。異動に伴う選任替えと届出 |
| 四半期ごと | 各事業場の常時使用労働者数の確認。区分到達の見込み判定 |
| 年間を通じて | 衛生管理者試験、安全管理者選任時研修、各種技能講習の受講計画と予算執行 |
| 毎月 | 安全衛生委員会の開催状況と議事録の回収。産業医の巡視実施状況の確認 |
| 新規現場の着手前 | 混在作業の人数見込みから、統括安全衛生責任者や店社安全衛生管理者の要否を判定 |
体制の整備は、労働災害が起きてからでは間に合いません。人数区分と資格要件を台帳で管理し、資格者を計画的に育てることが、人事にできる最も確実な備えです。個別の事業場の区分判断や、複雑な工事形態での選任要否については、所轄の労働基準監督署や社会保険労務士などの専門家に確認してください。
出典
- 労働安全衛生法
出典
- 労働安全衛生法
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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