雇用保険の資格取得届と喪失届 入退社時の実務
人事ノート入社と退社のたびに発生する手続のなかで、雇用保険の資格取得届と資格喪失届は、遅れが本人の不利益に直結しやすいものです。期限が短く、現場採用が多い建設業では「入社日の確定が遅い」「離職理由の社内認識が揃っていない」といった事情で、毎月のように遅延やり直しが起きます。
この記事では、根拠となる考え方を雇用保険法に置きつつ、人事が実際に手を動かす順序と、社内で決めておくべき点を整理します。個別の事案や最新の様式・添付書類の扱いは、必ず管轄のハローワークや公表資料で確認してください。
まず押さえる全体像
雇用保険は、雇われて働く人を対象とする公的な保険です。会社は、適用事業所として届け出たうえで、対象となる人を雇い入れたときに「被保険者資格取得届」を、離職などで対象から外れたときに「被保険者資格喪失届」を出します。退職して基本手当の対象になりうる人については、喪失届に合わせて「離職証明書」を作ります。
人事が押さえるべき分岐は、次の三つに整理できます。
- その人は雇用保険の被保険者になるのか(加入判定)
- なるとして、どの区分の被保険者か(一般、高年齢、短期雇用特例、日雇)
- 退職時に離職証明書を作る必要があるか(本人の希望と年齢要件)
この三つを入社時と退職時にそれぞれ確認する運用にすると、手戻りが大きく減ります。
加入するかどうかの判定
雇用保険の被保険者になるかどうかは、所定労働時間と雇用の見込み期間が基本の軸です。社会保険(健康保険・厚生年金)の加入要件とは判定の軸が異なるため、同じ人でも「雇用保険は加入、社会保険は非加入」という組み合わせが起こります。入社時の確認票は、雇用保険と社会保険を別の欄に分けて作ってください。
判定でとくに迷いやすいのは、次のような人です。
| 対象者 | 確認するところ | 社内で決めておくこと |
|---|---|---|
| 短時間のパート・アルバイト | 週の所定労働時間、雇用見込み期間 | 契約書の所定労働時間欄を必ず数値で書く運用 |
| 期間を区切った現場要員 | 契約更新の見込み、連続雇用の実態 | 更新の有無を契約時に書面で示す |
| 季節的に短期間だけ働く人 | 季節的業務か、期間はどれだけか | 短期雇用特例被保険者に当たるかの事前確認 |
| 日々雇い入れる人 | 日雇労働被保険者の手続に当たるか | 現場ごとの受入れ担当と人事の連絡経路 |
| 役員・取締役 | 使用従属の実態、兼務役員かどうか | 兼務役員の実態資料を残す |
| 同居の親族 | 他の従業員と同じ指揮命令・賃金か | 就労実態を示す資料の保管 |
| 昼間学生 | 学生であっても加入する例外に当たるか | 在学証明や就労形態の確認手順 |
役員・同居の親族・学生は、形式だけでは判断できません。実態を示す資料(出勤記録、賃金台帳、就業規則の適用関係など)をそろえ、迷う場合は管轄のハローワークに事前に相談する運用にしてください。
建設業では、ひとりの技能者が複数の会社の現場に入ることがあります。雇用保険は、原則として主たる賃金を受ける一つの雇用関係で被保険者となる考え方です。掛け持ちの申告があった場合は、本人に「他社で雇用保険に入っていないか」を確認し、二重に届け出ないようにします。
入社時 資格取得届の手順
1 入社日を確定する
資格取得日は、原則として雇い入れた日です。現場都合で初出勤日がずれることがあるため、「契約上の雇入れ日」と「実際の初出勤日」を人事で突き合わせてから届け出ます。
2 本人から情報を集める
届出には氏名、生年月日、被保険者番号、マイナンバー、賃金、雇用形態、契約期間などが必要です。被保険者番号は、前職で交付された雇用保険被保険者証に記載されています。入社時の提出物リストに必ず入れてください。
3 期限内に提出する
資格取得届は、雇い入れた日の属する月の翌月10日までに提出します。月をまたぐと期限が近づくため、月末入社は特に注意します。
4 交付物を本人に渡す
手続が済むと、被保険者証や資格取得等確認通知書が交付されます。被保険者証は本人に渡すか、会社で預かる場合は預かりの記録を残し、退職時に確実に返します。
入社時チェック表
| 確認項目 | 担当 | いつまでに |
|---|---|---|
| 雇用契約書の所定労働時間・契約期間の記載 | 人事 | 入社日まで |
| 雇用保険被保険者証の提出(前職ありの場合) | 本人 | 入社日まで |
| マイナンバーの収集と保管 | 人事 | 入社日まで |
| 加入区分の判定(一般・高年齢・短期雇用特例・日雇) | 人事 | 入社日まで |
| 資格取得届の作成・提出 | 人事 | 入社月の翌月10日まで |
| 交付物の本人交付または預かり記録 | 人事 | 交付後すみやかに |
退職時 資格喪失届と離職証明書
1 退職日と喪失原因を確定する
離職による資格喪失日は、原則として離職日の翌日です。退職日の認識が部署ごとに違うと、喪失日も離職証明書の賃金の区切りもずれます。退職届や合意書で退職日を一つに確定させてから進めます。
2 離職証明書を作るかを確認する
離職証明書は、退職者が基本手当などを受けるために必要な書類です。本人が希望しない場合は省略できる扱いがありますが、年齢によっては本人の希望にかかわらず作成が必要になる場合があります。実務上は「離職証明書の要否」を退職手続の確認書に入れ、本人の署名で意思を残すのが安全です。省略した後に本人から求められた場合は、改めて作成して提出します。
3 期限内に提出する
資格喪失届は、被保険者でなくなった日の翌日から起算して10日以内に提出します。資格取得届より期限が短い点に注意してください。離職証明書を添える場合も同じ流れで提出します。
4 離職票を本人に届ける
手続後に交付される離職票は、退職者本人が手続に使います。退職後に連絡が取りにくくなることが多いため、退職手続の時点で送付先住所と連絡先を確認し、送付方法を決めておきます。
期限の比較
| 届出 | 期限の起算 | 期限 | 添える主な書類 |
|---|---|---|---|
| 資格取得届 | 雇い入れた日の属する月 | 翌月10日 | 必要に応じて賃金台帳・出勤簿など |
| 資格喪失届 | 被保険者でなくなった日の翌日 | 10日以内 | 離職証明書(作成する場合) |
| 氏名・事業所などの変更 | 変更の事実が生じた日 | すみやかに | 変更の事実が分かる書類 |
添付書類は、届出の内容や事業所の状況によって求められるものが変わります。初めての類型を扱うときは、提出前に管轄のハローワークに確認してください。
離職証明書で間違えやすいところ
離職証明書は、賃金の額と離職理由を記載する書類です。ここの記載が、退職者の給付内容に影響します。
- 賃金支払基礎日数の数え方:月給制、日給制、時間給制で数え方が異なります。欠勤控除や途中入社月の扱いを、賃金台帳と出勤簿で必ず突き合わせます。
- 賃金に含めるもの:通勤手当や各種手当の扱いを、毎回同じ基準で処理します。担当者が変わると基準がぶれやすい部分です。
- 離職理由の区分:会社都合か自己都合かで、記載する区分が変わります。社内で「契約期間満了」「本人の都合」「解雇」などの言い方が混在していると、記載が揺れます。
- 本人の確認:離職理由などについて、退職者本人の確認を取る欄があります。退職後に連絡が取れず確認が取れない場合の進め方は、あらかじめ管轄のハローワークに確認しておきます。
離職理由をめぐっては、退職者と会社の認識が食い違い、後から異議が出ることがあります。退職の経緯が複雑な場合は、記載前に社会保険労務士や弁護士に相談してください。
建設業で起きやすいつまずき
現場先行の採用で届出が遅れる
「明日から現場に入ってほしい」という採用では、契約書の取り交わしが後回しになりがちです。結果として入社日が確定せず、届出も遅れます。対策は、現場の受入れ担当から人事へ「入場日と氏名」を当日中に連絡する経路を一本に決めることです。連絡票の様式を一枚にそろえると、抜けが減ります。
被保険者証を本人が持っていない
前職での交付物を紛失している人は少なくありません。被保険者番号が分からないまま届け出ると、二重に番号が付いてしまうおそれがあります。入社時の案内に「紛失している場合も申告してほしい」と明記し、人事で確認の手順を取るようにします。
短期の反復雇用で加入漏れが起きる
繁忙期だけ、数か月だけという雇用を繰り返すうちに、実態としては継続雇用になっていることがあります。契約の切れ目ごとに判定し直すのではなく、連続した就労実態として見直す必要があります。該当しそうな人の一覧を四半期ごとに作り、点検する運用が有効です。
退職日の認識がずれる
有給休暇の消化、現場の引き継ぎ、最終出勤日の違いで、退職日の認識がずれます。退職手続の確認書に「最終出勤日」と「退職日」を別の欄で書かせ、人事が一つに確定させてください。
離職票を送らないまま放置する
退職者からの問い合わせで最も多いもののひとつです。退職手続のチェック表に「離職票の送付日」を記入する欄を設け、完了まで管理します。
社内体制として決めておくこと
- 窓口の一本化:現場・支店・本社のどこが人事に連絡するかを決めます。複数経路があると重複届出や漏れが起きます。
- 月次の締め日:入退社の情報を人事が締める日を毎月決めます。喪失届は10日以内のため、月一回の締めだけでは間に合いません。退職は発生の都度、取得は締め日で処理する二本立てが現実的です。
- 電子申請の準備:電子申請を使う場合は、利用に必要な設定と担当者を決めておきます。一定規模以上の法人には電子申請が義務づけられる届出があるため、自社が該当するかを公表資料で確認してください。
- 記録の保存:雇用保険に関する書類には保存期間の定めがあります。保存年限と保管場所を社内規程に書き、担当者が変わっても分かるようにします。
- 担当者の代替:担当が一人だけだと、休暇や退職で手続が止まります。手順書を作り、最低二人が扱える状態にしてください。
毎月の運用に落とす
人事の月次作業として、次の形で組み込むと定着します。
| 時期 | やること | 担当 |
|---|---|---|
| 入社の都度 | 提出物の受領、加入判定、取得届の作成 | 人事担当 |
| 退職の申出時 | 退職日の確定、離職証明書の要否確認 | 人事担当 |
| 退職日の翌日から10日以内 | 喪失届と離職証明書の提出 | 人事担当 |
| 毎月10日まで | 前月入社分の取得届の提出完了確認 | 人事責任者 |
| 四半期ごと | 短期・反復雇用者の加入漏れ点検 | 人事責任者 |
| 年に一度 | 手順書と様式の更新、担当者の引き継ぎ確認 | 人事責任者 |
届出の様式や添付書類の取扱いは見直されることがあります。年に一度は公表資料で様式を確認し、社内の手順書を更新してください。
よくある質問
Q. 資格取得届の提出が期限を過ぎてしまいました。どうすればよいですか。
期限を過ぎていても、気づいた時点ですみやかに提出してください。遅れた理由や、雇い入れの事実を確認できる賃金台帳・出勤簿などの提出を求められる場合があります。遡って確認が必要な期間の扱いは事案によって異なるため、提出前に管轄のハローワークへ相談し、求められる書類を確認してください。
Q. 退職者が離職票はいらないと言っています。作らなくてよいですか。
本人が希望しない場合に離職証明書を省略できる扱いがありますが、年齢によっては本人の希望にかかわらず作成が必要になる場合があります。省略するときは、本人の意思を書面で残しておいてください。後から本人が必要になったと申し出た場合は、改めて作成して提出することになります。
Q. 自社と他社の両方で働いている技能者は、どちらで雇用保険に入れますか。
雇用保険は、原則として主たる賃金を受ける一つの雇用関係で被保険者となる考え方です。本人に他社での加入状況を確認し、二重に届け出ないようにしてください。どちらが主たる雇用関係に当たるか判断がつかない場合は、賃金額や所定労働時間の資料を持って管轄のハローワークに相談することをおすすめします。
Q. 役員に就任した従業員の雇用保険は、どう扱えばよいですか。
取締役などに就任して使用従属の関係がなくなった場合は、被保険者資格を喪失します。一方、部長などの職を兼ねる兼務役員で、労働者としての実態が残っている場合は、引き続き被保険者となることがあります。判断には実態を示す資料が必要になるため、就任前にハローワークへ確認し、必要な書類をそろえてください。
Q. 入社したその月のうちに退職した人の手続はどうなりますか。
短期間であっても、被保険者に当たる人であれば資格取得届と資格喪失届の両方を提出します。取得届を出す前に退職が決まった場合でも、まとめて処理できるかは窓口の取扱いによるため、管轄のハローワークに確認してください。賃金台帳や出勤簿の提出を求められることがあるので、短期間の在籍でも記録は必ず残しておきます。
出典
- 雇用保険法
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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