労働者死傷病報告の提出期限と様式の実務
人事ノート現場で災害が起きた直後は、被災者の手当てと現場の安全確保が最優先です。ただし、その後の数日で人事・労務が動かないと、報告の期限と内容で後から苦労します。ここでは労働安全衛生規則にもとづく労働者死傷病報告について、誰が・いつまでに・何を出すのかを順番に整理します。
労働者死傷病報告は何のための書類か
労働者死傷病報告は、労働者が業務でけがをしたり、病気になったり、死亡したときに、事業者が所轄の労働基準監督署長へ提出する報告です。行政が災害の発生状況を把握し、再発防止の指導や統計に使うためのものです。
実務でいちばん取り違えやすいのが、労災保険の給付請求との関係です。別の手続きなので、片方を出したからもう片方は不要、ということはありません。
| 比べる点 | 労働者死傷病報告 | 労災保険の給付請求 |
|---|---|---|
| 根拠 | 労働安全衛生規則 | 労働者災害補償保険の制度 |
| 目的 | 災害の把握と再発防止 | 被災した人への補償 |
| 手続きをする人 | 被災した労働者を雇用する事業者 | 原則として被災者本人(事業主が証明欄を記入) |
| 休業がごく短いとき | 休業1日でも報告の対象 | 休業に関する給付は待期の扱いがあり、短期では対象外になることがある |
| 出さなかった場合 | 労働安全衛生法の罰則の対象 | 被災者が給付を受けられない |
休業4日未満の災害では労災保険の休業給付が出ないため、「保険を使わないから報告もいらない」と誤解されることがあります。報告の義務は保険給付とは無関係です。ここは社内で最初に共有してください。
休業日数で変わる様式と提出期限
労働安全衛生規則では、休業日数によって様式と期限が分かれています。
| 災害の区分 | 様式 | 提出期限 |
|---|---|---|
| 死亡 | 様式第23号 | 遅滞なく |
| 休業4日以上 | 様式第23号 | 遅滞なく |
| 休業1日以上3日以下 | 様式第24号 | 四半期ごとにまとめて、その四半期の最後の月の翌月末日まで |
四半期報告の締切は、1月から3月分が4月末日、4月から6月分が7月末日、7月から9月分が10月末日、10月から12月分が翌年1月末日です。該当する災害がなかった四半期は、提出は不要です。
休業日数の数え方も確認しておきます。被災した当日は含めず、翌日から数えます。所定の休日も休業日数に含めて数えるのが基本です。現場の所長が「現場が休みの日は数えない」と思い込んでいると、4日以上の災害を4日未満として処理してしまいます。
日数が確定しないときの扱い
「医師の診断で休業がいつまでになるか分からないので、治ってから出す」という遅れ方が非常に多く起きます。様式第23号は休業の見込み日数を書く作りになっています。確定を待つ必要はありません。見込みで記載し、遅滞なく提出してください。後から日数が大きく変わった場合の扱いは、所轄署に相談すると指示をもらえます。
誰が提出するのか。元請・下請・派遣の整理
建設業で混乱が起きるのは、労災保険が元請一括で扱われるのに対し、死傷病報告は雇用関係で義務者が決まる点です。
| 被災した人 | 報告する義務がある者 | 補足 |
|---|---|---|
| 元請の社員 | 元請事業者 | 自社の現場の災害として処理します |
| 下請の社員 | その労働者を雇用する下請事業者 | 元請が作成を手伝うことはあっても、義務者は雇用主です |
| 派遣労働者 | 派遣先と派遣元の双方 | 派遣先が提出した報告書の写しを派遣元へ送る取扱いです |
| 一人親方・個人事業者 | 労働者ではないため労働者死傷病報告の対象外 | 個人事業者等の業務上の災害についても報告の仕組みが設けられています。対象範囲と様式は公表資料で確認してください |
下請の災害では、元請が労災保険の手続きを担うことが多いため、下請側が「元請に任せてある」と考えて死傷病報告を出さないまま時間が過ぎることがあります。元請の安全担当者は、下請に対して報告の義務者が誰かを明示し、提出したかどうかを確認する運用にしてください。
提出先は、原則としてその事業場を所轄する労働基準監督署長です。建設業では工事現場が一つの事業場として扱われるのが基本なので、現場の所在地を所轄する署が窓口になることが多くなります。本社所在地の署へ出してしまい、出し直しになる例があります。判断に迷う現場は、提出前に所轄署へ電話で確認するのが確実です。
災害が起きた日からの手順
社内の手順書にそのまま使える形で並べます。
- 当日:被災者の救護と医療機関への搬送、現場の二次災害防止。負傷者の氏名、被災時刻、作業内容、同席者を記録します。
- 当日:死亡や重篤な災害の場合は、所轄の労働基準監督署へ電話で第一報を入れます。現場の保存について指示が出ることがあります。
- 当日から翌日:現場の状況を写真で残します。機械、足場、開口部、使用していた保護具、周囲の寸法関係が分かるように撮ります。片付けてしまうと後から再現できません。
- 翌日まで:作業手順書、作業計画、当日の作業指示、危険予知活動の記録、新規入場者教育の記録、資格の証明書類をそろえます。
- 数日以内:医師に休業の見込み日数を確認します。4日以上か4日未満かで様式が分かれます。
- 遅滞なく:様式第23号を作成し、所轄署へ提出します(死亡・休業4日以上)。派遣労働者の場合は写しを派遣元へ送ります。
- 四半期ごと:休業3日以下の災害を様式第24号にまとめ、期限までに提出します。
- 並行して:被災者の労災保険の給付請求を支援します。請求書の事業主証明欄の記入が必要です。
- 提出後:監督署からの調査や是正指導に対応します。再発防止対策を文書にし、同種作業のある他の現場へ展開します。
事故報告が別に必要になる場合
労働安全衛生規則では、けが人がいなくても報告が必要な事故が定められています。建設業では、足場や型枠支保工などの倒壊、クレーンなどの機械の事故、火災や爆発が該当し得ます。人的被害がないからといって報告不要と決めつけず、対象となる事故の範囲を規則の条文で確認してください。
記載でつまずきやすい項目
提出後に差し戻しや追加の聞き取りが起きるのは、だいたい次の項目です。
- 災害発生状況が抽象的:「本人の不注意により転倒」だけでは原因が分かりません。どの作業の、どの動作の途中で、何に接触し、どこから何メートル落ちたのか、そのとき何を使っていたのかまで書きます。略図を添えると伝わります。
- 原因と結果が入れ替わっている:「安全帯を使用していなかったため墜落」と書く前に、なぜ使えなかったのかを書きます。取付設備がなかったのか、作業手順に定めがなかったのかで、再発防止策が変わります。
- 職種と経験期間:全体の職歴ではなく、その作業の経験がどれくらいかを書く欄です。入社年月と混同しないでください。
- 派遣労働者の欄のチェック漏れ:派遣で就業していた人かどうかの記載を落とすと、派遣元への写しの送付も漏れます。
- 外国人の場合の記載:国籍や在留資格を記入する欄があります。在留カードの記載どおりに書きます。
- 休業見込日数の空欄:確定していないから空けておく、という処理は避けます。
- 事業の種類:建設業の中でも工事の種類によって区分が分かれます。社内で過去の提出例をそろえておくと迷いません。
電子申請への備え
労働者死傷病報告は、電子申請による提出が原則とされる取扱いに変わっています。当分の間は電子申請が難しい場合の書面提出の扱いも設けられていますが、社内の標準は電子申請にしておくほうが安全です。
準備は災害が起きてからでは間に合いません。次の3点を平時に済ませてください。
- 電子申請に必要な利用者登録と認証手段を取得し、有効期限を管理する
- 申請できる担当者を本社と支店で複数人決め、退職や異動の際の引き継ぎ手順を決めておく
- 過去の提出控えを電子で保存し、様式の最新版と記載例を共有フォルダに置く
様式の内容と電子申請の具体的な画面は改定されることがあります。年度の初めに最新の様式と手引きを確認する担当を決めておいてください。
提出しないとどうなるか
労働者死傷病報告を提出しない、または事実と異なる内容で提出することは、いわゆる労災かくしとして扱われます。労働安全衛生法には罰則の定めがあり、送検された事例は公表されます。
実務で起きやすいのは、悪意のない形の未提出です。たとえば、休業4日未満だと思って四半期報告の対象にしたが、実際は4日以上だった。被災者が有給休暇で休んだため休業として扱わなかった。治療費を会社が負担し、健康保険で受診させた。いずれも後から指摘される典型です。業務上の災害を健康保険で処理することは認められていません。
建設業では、災害の発生や報告の状況が発注機関の指名停止などの措置につながる場合があります。措置の基準は発注機関ごとに異なるため、該当する発注機関の公表資料で確認してください。
社内で整えておくもの
- 災害発生時の連絡系統図(現場所長、安全担当、人事、経営者、所轄署の連絡先)
- 社内用の災害発生速報の様式(氏名、時刻、場所、作業、傷病部位、搬送先、休業見込み)
- 休業日数の数え方を書いた1枚のメモ(翌日起算、休日を含める)
- 下請への周知文書(報告義務者は雇用主であること、元請への連絡期限)
- 提出控えと監督署からの指導内容を保存する台帳
年に一度、現場の職長と事務担当を集めて、この手順を読み合わせる機会を作ってください。災害は起きる頻度が低いため、手順を知っている人が現場にいないまま当日を迎えることが、最大のつまずきの原因になります。
よくある質問
Q. 被災者が有給休暇を使って休んだ場合も、休業にあたりますか
賃金の取扱いと、災害による休業かどうかは別の話です。医師の指示などで働けない状態であれば、有給休暇を充てたかどうかにかかわらず休業として数えるのが基本の考え方です。年次有給休暇を充てたことを理由に報告の対象外とする扱いは避けてください。個別の事案で判断が難しいときは、所轄の労働基準監督署に事実関係を伝えて確認してください。
Q. けがをした本人が「労災にしないでほしい」と言っています。報告しなくてよいですか
労働者死傷病報告は事業者に課された報告の義務で、本人の意向で免除されるものではありません。保険給付を請求するかどうかは本人の判断ですが、報告は別に必要です。本人が通院を続けていることが後から分かり、未提出が発覚する例もあります。業務上の災害を健康保険で受診させる処理も認められていませんので、その点も本人に説明してください。
Q. 他社の現場に応援で出した社員がけがをしました。どちらが出しますか
報告の義務は、その労働者を雇用している事業者にあります。応援先の現場であっても、雇用主である自社が提出します。ただし労働者派遣として就業していた場合は、派遣先と派遣元の双方に報告が必要で、派遣先が作成した報告書の写しを派遣元が受け取る取扱いです。応援か請負か派遣かで結論が変わるため、契約の形を先に確認してください。
Q. 休業が4日未満だと思って四半期報告に回した後、4日以上になったと分かりました
区分が変わった時点で、遅滞なく様式第23号で提出する扱いになります。四半期報告に含めたままにせず、所轄の労働基準監督署に経緯を説明して、提出方法と既に出した分の訂正の要否を確認してください。見込みの段階で医師に確認し、判断に迷う場合は4日以上として早めに出すほうが、結果として手戻りが少なくなります。
Q. 通勤途中の事故も労働者死傷病報告の対象ですか
労働者死傷病報告は、業務上の負傷や疾病などを対象とする報告です。通勤災害は労災保険の給付の対象にはなりますが、この報告の対象とは扱いが異なります。現場への移動が業務にあたるかどうかで判断が分かれる場面もありますので、移動の目的や指示の有無を整理したうえで、判断に迷う場合は所轄署と公表資料で確認してください。
出典
- 労働安全衛生規則
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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