年次有給休暇の年5日取得義務と現場での設計手順
人事ノート年次有給休暇は、労働者からの請求を待つ制度でした。しかし働き方改革関連法による労働基準法の改正で、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者については、使用者が時季を指定して年5日を取得させる義務が加わりました。請求がなければ何もしなくてよい制度ではなくなっています。
建設現場では、工程が動くと年休の予定が崩れます。「取らせる義務がある」ことは知られていても、誰が対象で、どの日数がカウントされ、いつまでに何をすればよいかが社内で共有されていない会社は少なくありません。この記事では、労働基準法に定められた範囲を、人事が動く順序に並べ替えて整理します。
義務の中身と根拠
根拠は労働基準法第39条第7項です。年次有給休暇が10日以上付与される労働者に対して、使用者は5日について時季を定めて与えなければならないと定められています。
押さえるべき点は4つです。
- 義務の主体は使用者です。労働者が請求しなかったという理由は成り立ちません。
- 対象は「年10日以上付与される労働者」です。付与日数が10日未満の人は対象外です。
- 期間は、付与した日(基準日)から1年間です。会計年度や暦年ではありません。
- 労働者が自分で取得した日数、労使協定による計画的付与で与えた日数は、5日から差し引きます(第39条第8項)。つまり、労働者が自発的に5日以上取得していれば、使用者が時季を指定する必要はありません。
また、使用者が時季を指定するときは、あらかじめ労働者の意見を聴き、その意見を尊重するよう努めることが労働基準法施行規則で定められています。会社が一方的に日付を割り振る運用は、この点で問題になります。
誰が対象になるか
通常の労働者(週所定労働日数が5日以上)
付与日数は勤続期間で決まります。8割以上の出勤という要件も併せて確認します。
| 継続勤務期間 | 付与日数 | 年5日の義務 |
|---|---|---|
| 6か月 | 10日 | 対象 |
| 1年6か月 | 11日 | 対象 |
| 2年6か月 | 12日 | 対象 |
| 3年6か月 | 14日 | 対象 |
| 4年6か月 | 16日 | 対象 |
| 5年6か月 | 18日 | 対象 |
| 6年6か月以上 | 20日 | 対象 |
入社6か月で10日が付与されるため、正社員はほぼ全員が対象になります。中途採用が多い会社では、入社月ごとに基準日が散らばる点に注意が必要です。
週所定労働日数が少ない労働者(比例付与)
パート・アルバイト、短時間の事務職員なども、比例付与で10日に達した時点から対象になります。判定の目安は次のとおりです。
| 週所定労働日数 | 10日に達する時期の目安 | 年5日の義務 |
|---|---|---|
| 5日以上 | 6か月 | 対象になる |
| 4日 | 3年6か月 | その時点から対象になる |
| 3日 | 5年6か月 | その時点から対象になる |
| 2日以下 | 10日に達しない | 対象にならない |
比例付与の日数表は勤続期間ごとに細かく分かれています。個々の日数は公表資料で確認してください。実務では「週4日で3年半」「週3日で5年半」を境目として、該当者を年度初めに洗い出す形にすると漏れにくくなります。
判断を間違えやすい区分
- 派遣労働者は、年次有給休暇を付与するのが派遣元です。年5日の義務も派遣元が負います。受入側は、就業調整で取得を妨げない配慮が必要です。
- 一人親方や請負の技能者は、労働者ではないため対象外です。ただし実態が指揮命令下の労働であれば労働者と判断される余地があります。判断が微妙な場合は専門家に相談してください。
- 管理監督者も年次有給休暇の対象です。労働時間の規制が及ばないことと、年休の義務は別問題です。工事部長や支店長が取得できていない例は多く、優先して点検すべき層です。
5日にカウントできる日数と、できない日数
ここを誤ると、期末に「5日足りない」ことが発覚します。
| 取得のかたち | 年5日への算入 | 補足 |
|---|---|---|
| 労働者が請求して取得した年次有給休暇 | 算入する | 前年からの繰越分を使った日も算入します |
| 労使協定による計画的付与 | 算入する | 夏季・年末年始の一斉休暇に使う運用が中心です |
| 使用者が時季指定して取得させた日 | 算入する | 意見聴取が前提です |
| 半日単位の取得 | 0.5日として扱える | 取扱いの詳細は行政の解釈を確認してください |
| 時間単位年休 | 算入しない | 時間単位の取得は使用者の時季指定の対象外です |
| 所定休日・現場の閉所日 | 算入しない | 休日に年休を充てることはできません |
| 特別休暇(慶弔休暇など) | 算入しない | 就業規則上の別制度です |
| 休業手当を支払った休業日 | 算入しない | 会社都合の休業を年休に振り替えることはできません |
建設業でとくに多い誤りは、下の2行です。雨天中止日や現場閉所日を事後的に年休として処理する運用は、労働者の請求も計画的付与もない一方的な処理であれば認められません。休業手当の支払いを避けるために年休に振り替えることも同様です。
履行期間(基準日)の管理
義務の1年間は、付与日から起算します。入社日が異なれば基準日も異なります。
管理方法は大きく2つです。
- 個別管理:入社日から6か月後を基準日として、1人ずつ1年間を管理します。人数が少なければ運用できますが、100人を超えると点検の抜けが出ます。
- 基準日の統一(斉一的取扱い):付与を前倒しして、全員の基準日を同じ日にそろえます。入社時に一部を付与し、次の全社基準日から全員同一とする設計が一般的です。付与を前倒しする場合、労働者に不利にならないことが条件です。また前倒しによって履行期間が重なるときは、重なった期間を通じて按分した日数を取得させる特例的な扱いが定められています。設計する場合は、公表資料と行政の解釈を確認したうえで社内規程に落としてください。
人事の実務としては、基準日を統一したほうが管理簿の点検も社内アナウンスも一度で済みます。ただし移行年度の計算は複雑になるため、社会保険労務士など専門家の確認を挟むことをおすすめします。
現場が回らないときの設計
工程表に年休枠を先に置く
年休が取れない原因は、たいてい「工程を組んだ後に年休を探している」ことです。順序を逆にします。
- 着工前の工程会議で、各職員の年休予定日を工程表に先に落とします。
- 監理技術者・主任技術者の専任が必要な工事では、不在日の代理体制を工事ごとに決めておきます。技術者を1現場1名で張り付けている限り、年休は取れません。
- 施主・元請との調整が必要な休止日は、契約段階で協議事項として挙げます。工期と休日の設定は、発注段階の条件に左右されます。
計画的付与を軸にする
労働基準法第39条第6項の計画的付与は、労使協定によって、年休のうち5日を超える部分について取得日をあらかじめ決める仕組みです。付与日数が10日の人であれば、最大5日まで計画的付与に充てられます。労働者が自由に使える5日は必ず残す設計です。
建設業と相性がよいのは、次の使い方です。
- 夏季休暇・年末年始休暇が所定休日になっていない会社で、その期間を計画的付与に充てる。
- 現場の閉所日に合わせて、事業場単位または班単位で一斉に付与する。
- 個人別の年休計画表を労使協定に基づいて作成し、四半期ごとに更新する。
計画的付与で与えた日は、年5日から差し引かれます。制度としていちばん確実に義務を満たせる方法です。
時季変更権との関係
労働者が請求した日に、事業の正常な運営を妨げる事情があるときは、使用者は他の時季に変更できます。ただし、変更を繰り返して結果的に年5日を満たさなければ、義務違反の状態になります。「今は繁忙だから」で先送りした記録が残るほど、会社側が不利になります。変更する場合は、代わりの取得日を同時に決めるのが実務上の原則です。
年間の実務手順
社内でそのまま使える形に並べます。担当者はここでは人事部門を前提にしています。
- 基準日の3か月前:対象者リストを作ります。付与日数、基準日、繰越日数を一覧化します。比例付与で今年から10日に達する人を色分けします。
- 基準日の1か月前:計画的付与の労使協定を確認・更新します。夏季と年末年始の日程を先に決めます。
- 基準日:付与日数を通知します。年休計画表の提出期限(例:付与から1か月以内)を各現場に依頼します。
- 付与から3か月:計画表の提出状況を集計します。未提出の現場は、所長単位で督促します。
- 付与から6か月:取得実績を集計します。取得が2日未満の人を抽出し、所属長へ通知します。ここが最初の分岐点です。
- 付与から9か月:残り3か月で5日に届かない人に、使用者からの時季指定の予告をします。本人の希望日を聴き取り、書面またはシステムで記録します。
- 付与から10〜11か月:時季指定を確定します。工程との調整はこの時点で終わらせます。
- 付与から12か月:管理簿を締め、達成状況を記録します。未達の原因を現場単位で振り返り、翌年の工程設計に反映します。
退職予定者は、この周期の外側で管理します。退職日までに履行期間が終わらない場合の扱いは個別性が高いため、退職の申出を受けた時点で年休残と取得済み日数を確認し、必要な指定を行ってください。育児休業や私傷病休職と重なる場合の扱いも、期間の長さによって結論が変わります。判断に迷う場合は行政の公表資料と専門家の確認を経てください。
就業規則と管理簿
就業規則
休暇に関する事項は、労働基準法第89条により就業規則の必要記載事項です。使用者による時季指定を行うのであれば、その対象となる労働者の範囲と時季指定の方法を就業規則に定める必要があります。規定がないまま指定だけを行っている状態は、点検で必ず指摘されます。
記載を確認すべき項目は次のとおりです。
| 項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 対象労働者の範囲 | 年10日以上付与される者、と明示されているか |
| 時季指定の方法 | 意見聴取の手順と、通知の方法・時期が書かれているか |
| 計画的付与 | 労使協定に基づく付与を行う旨が書かれているか |
| 半日単位・時間単位 | 制度を設けている場合、単位と上限が書かれているか |
年次有給休暇管理簿
労働基準法施行規則により、使用者は労働者ごとに、時季・日数・基準日を記載した年次有給休暇管理簿を作成し、一定期間保存しなければなりません。保存年数は改正の経緯があるため、公表資料で現行の年数を確認してください。
管理簿は、給与システムの残日数表示とは別物です。残日数だけを表示している運用では、「いつ取得したか」が残らず、管理簿の要件を満たしません。
よくあるつまずき
- 現場閉所日を年休に計上している:所定休日に年休は充てられません。就業規則の休日規定と実際の閉所日がずれている会社ほど、この混同が起きます。
- 時間単位年休で数を稼いでいる:時間単位の取得は年5日に算入されません。年5日の達成は日単位(半日を含む)で数える必要があります。
- 基準日を4月1日だと思い込んでいる:中途入社者の基準日は入社日基準です。統一していない限り、年度で締めると期間を誤ります。
- 管理監督者と技術者が抜けている:現場代理人や支店長など、代替が用意されていない役職から未達が出ます。対象者リストは役職を問わず作成します。
- 意見聴取をしていない:会社が一律に日付を割り振る運用は、施行規則が求める意見聴取と尊重の努力を欠きます。希望日を聴いた記録を残してください。
- 退職時にまとめて消化させている:退職前の一括消化は、その年度の義務履行としては通用しない場合があります。在籍中の履行期間で5日を満たしておく設計が前提です。
- 下請の技能者に指示している:義務の主体は雇用している事業者です。他社の労働者の年休を元請が指定することはできません。工期と閉所日の設定で協力する形になります。
罰則と、点検されたときの説明
年5日の時季指定義務に違反した場合は、労働基準法第120条により30万円以下の罰金の対象になります。対象となる労働者1人ごとに1件として扱われるとされており、未達者が多い会社ほど影響が大きくなります。就業規則の記載義務違反も別に罰則の対象です。正確な条文と法定刑は、労働基準法の本文で確認してください。
実際の監督指導では、まず年次有給休暇管理簿の提示を求められます。そのうえで、未達者について会社が何をしたかを問われます。次の3点が記録として残っていれば、説明の起点になります。
- 対象者リストと基準日の管理表
- 6か月・9か月時点の取得状況の点検記録と、所属長への通知
- 時季指定の際の意見聴取と通知の記録
社内で先に決めておくこと
最後に、人事として決定しておくべき事項を挙げます。工程の都合で年休が動くことは前提としたうえで、決めごとを固定しておけば運用は回ります。
- 基準日を統一するか、個別管理を続けるか
- 計画的付与を何日分、どの時期に充てるか
- 6か月・9か月の点検を誰が行い、誰に通知するか
- 技術者不在日の代理体制を、工事ごとにどう決めるか
- 管理簿をどのシステムで、どの項目まで残すか
年5日は「取らせる義務」ですが、現場では「代われる人がいるか」の問題に置き換わります。制度の整備と、要員配置の設計を同時に進めることが、結局いちばん確実な対応になります。個別の事案や移行年度の計算は、公表資料を確認のうえ、社会保険労務士など専門家に相談してください。
出典
- 労働基準法
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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