職長教育と特別教育 対象作業と実施の手順
人事ノート現場で「この作業には何の教育が要るのか」を最初に聞かれるのは、多くの会社で人事か安全担当です。職長教育と特別教育は名前が似ていますが、根拠も対象も実施のしかたも違います。ここでは、労働安全衛生法に基づく教育の種類を整理したうえで、作業の棚卸しから教育計画、記録の保存までを、人事が明日から着手できる順序で示します。
個別の作業が対象になるかどうかは、作業の実態と条文の要件で決まります。判断に迷う作業は、所轄の労働基準監督署や登録教習機関に確認してください。
安全衛生教育には複数の種類がある
労働安全衛生法が事業者に求める教育は、ひとつではありません。採用時に行うもの、特定の危険有害業務に就かせるときに行うもの、監督する立場になったときに行うものが、それぞれ別に定められています。
| 教育の種類 | 根拠(労働安全衛生法) | 対象になる人 | 実施のタイミング |
|---|---|---|---|
| 雇入れ時の教育 | 第59条第1項 | 新たに雇い入れたすべての労働者 | 雇い入れたとき |
| 作業内容変更時の教育 | 第59条第2項 | 作業内容が変わった労働者 | 作業を変更したとき |
| 特別教育 | 第59条第3項 | 危険有害業務として定められた作業に就く労働者 | その作業に就かせる前 |
| 職長等の教育 | 第60条 | 新たに職長その他の作業中の労働者を直接指導・監督する者(作業主任者を除く) | その職務に就く前 |
| 危険有害業務従事者への教育 | 第60条の2 | すでにその業務に就いている労働者 | 必要に応じて(努力義務) |
この表で押さえておきたいのは、特別教育は「作業」に紐づき、職長教育は「立場」に紐づくという点です。同じ人が両方必要になることも、どちらか一方だけで足りることもあります。採用時の教育を済ませたから特別教育は不要、という整理にはなりません。
また、教育は事業者の責任で行うものです。原則として所定労働時間内に実施し、費用は事業者が負担する取り扱いが行政解釈で示されています。時間外に実施した場合の賃金の扱いを含め、社内規程と実態がずれていないか確認してください。
職長教育の対象者と内容
誰が対象になるか
労働安全衛生法第60条は、政令で定める業種について、新たに職長その他の作業中の労働者を直接指導または監督する者になった人に、安全衛生教育を行うことを事業者に義務づけています。建設業はこの対象業種に含まれます。
実務では、次の点を押さえておくと判断がぶれません。
- 肩書きが「職長」でなくても、作業中の労働者を直接指導・監督する立場であれば対象になります。社内の呼称(班長、世話役、現場代理人など)ではなく、実際の役割で判断します。
- 作業主任者は対象から除かれています。作業主任者は技能講習の修了などが別に求められるためです。ただし、作業主任者と職長を兼ねる場合の取り扱いは実態によるため、迷う場合は確認してください。
- 教育は人に紐づきます。すでに他社で職長教育を修了している人を中途採用した場合、原則として再受講は不要です。ただし修了を確認できる書面を自社で保管しておく必要があります。
教育の科目
職長教育の科目は労働安全衛生規則に定められています。大きくは次の内容です。
- 作業方法の決定および労働者の配置に関すること
- 労働者に対する指導または監督の方法に関すること
- 危険性または有害性等の調査およびその結果に基づき講ずる措置に関すること
- 異常時等における措置に関すること
- その他現場監督者として行うべき労働災害防止活動に関すること
科目ごとの時間数も規則で定められており、改正が入ることがあります。**合計時間と科目構成は、受講を申し込む前に最新の条文と公表資料で確認してください。**数字を社内資料に転記したまま何年も使い続けると、実際の講習内容と食い違います。
安全衛生責任者教育との関係
建設業では、下請として現場に入る事業者が安全衛生責任者を選任する場面があります。安全衛生責任者に対する教育は、行政通達に基づいて実施されるもので、職長教育とあわせて「職長・安全衛生責任者教育」として一体で行われることが一般的です。元請から新規入場時に修了証の提示を求められるのも、多くはこの一体型の修了証です。
下請として現場に入る可能性がある会社は、職長教育だけの修了証では元請の確認を通らない場合があります。どちらの形で受講させるかは、取引先の求めに合わせて決めてください。
再教育(能力向上教育に準じた教育)
職長については、一定期間ごと、または機械設備等に大幅な変更があったときに再教育を行うことが行政通達で示されています。法令上の義務とは位置づけが異なりますが、元請によっては受講を求められます。実施の間隔や対象については公表資料で確認し、自社の教育計画に組み込んでおくと安全です。
特別教育が必要になる主な作業
特別教育は、労働安全衛生規則に列挙された危険有害業務に労働者を就かせるときに必要です。建設の現場で関係しやすいものを挙げます。
| 作業の例 | 補足 |
|---|---|
| 研削といしの取替えまたは取替え時の試運転 | 自由研削用、機械研削用で科目が分かれます |
| アーク溶接等の業務 | 半自動溶接機を使う場合も含みます |
| 低圧・高圧の充電電路の取扱い等 | 低圧と高圧・特別高圧で内容が異なります |
| 小型の車両系建設機械(整地・運搬・積込み用および掘削用)の運転 | 機体重量が一定未満のもの |
| 小型のフォークリフト、不整地運搬車の運転 | 最大荷重が一定未満のもの |
| 作業床の高さが一定未満の高所作業車の運転 | 高さが基準以上のものは技能講習 |
| つり上げ荷重が一定未満のクレーン、移動式クレーンの運転 | 荷重区分で免許・技能講習に分かれます |
| つり上げ荷重が一定未満の玉掛け業務 | 荷重区分で技能講習に分かれます |
| 足場の組立て、解体または変更の作業 | 作業主任者の選任義務とは別に、従事者側に必要です |
| ロープ高所作業 | 対象となる作業の定義を条文で確認してください |
| 高さ2メートル以上で作業床を設けることが困難なところでのフルハーネス型墜落制止用器具の使用 | すべての高所作業が対象ではありません |
| 石綿が使用されている建築物等の解体等の作業 | 石綿障害予防規則に基づく教育です |
| 粉じん作業(特定粉じん作業) | 粉じん障害防止規則に基づく教育です |
| 酸素欠乏危険場所での作業 | 第一種・第二種で区分されます |
| 建設用リフト、巻上げ機の運転 | 機械ごとに要件が異なります |
| チェーンソーを用いた伐木等の業務 | 対象となる樹木の規模に注意が必要です |
表に挙げた荷重や高さの具体的な数値は、条文で必ず確認してください。社内の一覧表に数値を書き込む場合も、条文の原文と突き合わせたうえで、確認日を併記しておくと更新漏れを防げます。
なお、携帯用丸のこ盤や刈払機のように、特別教育ではなく行政通達に基づく安全教育として位置づけられている作業もあります。義務の強さは異なりますが、災害が起きやすい作業であることに変わりはありません。社内の教育計画では区別して管理してください。
特別教育と技能講習、免許の線引き
同じ機械でも、能力や規模によって必要な資格の段階が変わります。ここを取り違えると、無資格作業になります。
| 機械・作業 | 小規模 | 中規模 | 大規模 |
|---|---|---|---|
| 車両系建設機械(整地・運搬・積込み・掘削) | 特別教育 | 技能講習 | 技能講習 |
| 高所作業車 | 特別教育 | 技能講習 | 技能講習 |
| フォークリフト | 特別教育 | 技能講習 | 技能講習 |
| 移動式クレーン | 特別教育 | 技能講習 | 免許 |
| 玉掛け | 特別教育 | 技能講習 | 技能講習 |
区分の境目となるつり上げ荷重、最大荷重、機体重量、作業床の高さの数値は、それぞれの規則で定められています。**社内で「小型だから特別教育でよい」と口頭で判断せず、使用する機械の仕様書と条文を突き合わせてください。**現場でレンタル機械の機種が変わった結果、必要な資格の段階が上がっていた、という事例は少なくありません。
誰が実施し、記録をどう残すか
実施主体
特別教育は、事業者が自ら行うことができます。社内に十分な知識と経験を持つ人がいれば、社内実施で差し支えありません。登録教習機関や関係団体に委託することもできます。職長教育も同様に、事業者が自ら行うか、外部に委託するかを選べます。
社内実施を選ぶ場合は、次の点を決めておく必要があります。
- 講師を誰にするか。その人が当該業務について十分な知識・経験を持つことを説明できるか
- 科目、時間、使用する教材をどう確保するか
- 学科と実技の両方が定められている科目について、実技を行う場所と機械をどう用意するか
実技を伴う教育は、社内で形だけ行っても意味がありません。設備が整わないものは外部委託に切り替える判断が必要です。
科目の一部省略
労働安全衛生規則には、特別教育の科目について、十分な知識および技能を有していると認められる労働者には当該科目を省略できる定めがあります。ただし、これは科目単位の省略であって、教育そのものの免除ではありません。省略する場合は、なぜ省略できると判断したのか(他の資格の保有、実務経験の内容など)を記録に残してください。「ベテランだから」という理由だけで全部を省くのは、法令上の取り扱いとして成り立ちません。
記録の保存
特別教育については、受講者、科目等の記録を作成し、一定期間保存することが労働安全衛生規則で定められています。保存期間は条文で確認し、社内の文書管理規程に反映してください。
職長教育については、特別教育と同じ形の保存規定は置かれていません。ただし、元請の新規入場時確認や、労働基準監督署の調査で修了状況を聞かれることがあります。修了証の写しを人事台帳に紐づけて保管するのが実務です。
CCUS に技能者情報を登録している会社は、保有資格・教育履歴の登録内容と社内台帳が一致しているかも定期的に照合してください。片方だけ更新されている状態が続くと、現場で提示する情報と社内の記録が食い違います。
人事が進める手順
- **自社が請け負う作業を棚卸しする。**工種ごとに、使用する機械と作業内容を書き出します。営業や工事部門に聞き取り、過去1年の施工実績から拾うと漏れが減ります。
- **作業ごとに必要な教育・資格を対応表にする。**特別教育、技能講習、免許、作業主任者の選任のどれが必要かを、条文を確認しながら埋めます。確認日を列に入れておきます。
- **従業員ごとの保有状況を台帳にする。**氏名、保有資格、修了年月日、修了証番号、発行機関を並べます。中途採用者は入社時に修了証の写しを提出してもらいます。
- **不足を一覧化し、優先順位をつける。**現に配置予定がある作業から埋めます。次に、来期の受注見込みから必要になりそうなものを拾います。
- **年間の教育計画を作る。**登録教習機関の日程は早い時期に埋まります。繁忙期を避け、前年度のうちに申し込み枠を確保します。社内実施分は講師と場所を押さえます。
- **配置前のチェックを運用に組み込む。**新規入場時の書類作成や作業指示の段階で、必要な教育の修了を確認する欄を設けます。確認者の名前が残る形にします。
- **修了後に台帳と CCUS を更新し、記録を保存する。**保存期間を文書管理規程に明記し、廃棄の判断を担当者の裁量に任せないようにします。
- **年1回、対応表を見直す。**法令改正、取り扱う機械の変更、新しい工種の受注があれば、そのつど更新します。
よくあるつまずき
- **職長教育と作業主任者を混同する。**作業主任者は、政令で定める作業ごとに、免許者または技能講習修了者から選任するものです。職長教育を受けただけでは作業主任者にはなれません。逆に、作業主任者は職長教育の対象から除かれています。
- **「職長」の呼称がない人を対象から外す。**役割が指導・監督であれば対象です。小規模な現場で、肩書きのない中堅技能者が実質的に作業を仕切っているケースが見落とされがちです。
- **フルハーネスの特別教育をすべての高所作業に必要だと考える。**対象は、高さ2メートル以上で作業床を設けることが困難なところでの使用です。範囲を広げすぎても狭めすぎても運用が崩れるため、条文の要件で整理してください。
- **足場の特別教育を作業主任者だけに受けさせる。**組立て、解体、変更の作業に従事する人が対象です。補助的に関わる人を含めるかどうかは作業の実態で判断します。
- **レンタル機械の仕様変更を追えていない。**機体重量や作業床の高さが変わると、必要な資格の段階が変わります。発注時に機種が確定した段階で、配置予定者の保有資格を照合する運用にしてください。
- **修了証の原本・写しが個人任せになっている。**退職や異動のときに所在不明になります。入社時と修了直後に、人事が写しを回収する手順を決めておきます。
- **教育を時間外・休日に無給で行っている。**事業者の義務として行う教育は、労働時間としての取り扱いが問題になります。賃金の支払いと割増賃金の計算を含めて、社内の運用を点検してください。
- **未実施のまま作業に就かせている。**必要な教育を行わずに危険有害業務に就かせた場合、罰則の対象となります。具体的な法定刑は条文で確認してください。
よくある質問
Q. 前の会社で受けた職長教育の修了証がありません。本人は受講したと言っています。
教育は個人に紐づくため、修了していれば再受講は不要ですが、修了を確認できなければ会社として説明ができません。まず本人を通じて受講した教習機関に再交付を申請できるか確認し、機関や受講時期が特定できない場合は、改めて受講させる判断が安全です。元請から修了証の提示を求められる場面を考えると、書面が手元にない状態を続けるのは避けてください。
Q. 特別教育を社内で実施したいのですが、講師の資格要件はありますか。
特別教育の講師について、免許や講習修了といった形式的な資格要件は定められていません。当該業務について十分な知識と経験を有する人であれば差し支えないとされています。ただし、科目・時間・内容は規則に従う必要があり、実技が定められている科目は設備も必要です。要件の詳細は公表資料で確認し、自社で満たせない科目は外部委託に切り替えてください。
Q. 職長教育を受けた社員が、数年後に別の工種の現場で職長になります。受け直しが必要ですか。
職長教育そのものは、新たに職長等の職務に就くときに一度受ければ足り、工種が変わるたびに受け直す義務は定められていません。ただし、その工種で必要な特別教育や作業主任者の選任は別に判断が必要です。また、機械設備等に大幅な変更があったときの再教育が行政通達で示されているため、該当するかどうかは公表資料で確認してください。
Q. 一人親方や協力会社の作業員にも、当社が教育を行う義務がありますか。
特別教育や職長教育の実施義務は、その人を雇用する事業者が負います。協力会社の労働者については、原則として協力会社が実施主体です。ただし、建設業では元請が統括管理の立場から修了状況の確認や教育の援助を求められる場面があり、一人親方の取り扱いは契約の実態によって判断が分かれます。実態として指揮命令関係があると評価される場合は責任の所在が変わるため、個別の事案は専門家に相談してください。
Q. 教育の記録は、どの範囲まで残しておけばよいですか。
特別教育については、受講者、科目等の記録を作成し保存することが規則で定められています。実務では、実施日、場所、科目ごとの時間、講師名、使用教材、受講者名簿と署名まで残しておくと、調査時の説明がしやすくなります。保存期間は条文で確認し、文書管理規程に明記してください。職長教育は同様の保存規定が置かれていませんが、修了証の写しを人事台帳に紐づけて保管するのが実務です。
出典
- 労働安全衛生法
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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