就業規則の作成届出義務と変更手順の実務
人事ノート就業規則は、労働条件と職場のルールを文書で定めるものです。労働基準法は、一定の規模の事業場に対して作成と届出を義務づけ、記載しなければならない事項や手続きも定めています。建設業では本社と作業所(現場)が分かれ、雇用形態も正社員・契約社員・パート・技能者と幅があるため、「どの単位で、誰を数えて、いつ届け出るのか」があいまいになりがちです。この記事では、法令に書かれている範囲を実務の順序に並べ替えて説明します。
作成・届出が義務になるのはどの単位か
労働基準法は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に、就業規則の作成と行政官庁(所轄の労働基準監督署長)への届出を義務づけています。ここで押さえるべき点は次の2つです。
- 判断は会社単位ではなく事業場単位です。本社、支店、営業所、独立性のある作業所は、それぞれ別に数えるのが原則です。
- 「常時10人以上」は、常態としてその人数を使用しているかで見ます。繁忙期に一時的に10人を超えただけの場合と、通年で10人前後を使用している場合とは区別して考えます。
人数の数え方の整理
| 区分 | 数えるか | 実務での確認ポイント |
|---|---|---|
| 正社員・契約社員 | 数える | 休職者も雇用関係が続いていれば在籍として扱う |
| パート・アルバイト | 数える | 短時間でも労働者であれば人数に含む |
| 有期の技能者・季節的な採用 | 常態として使用していれば数える | 常時使用しているかどうかを実績で確認する |
| 派遣労働者 | 派遣元の事業場で数える | 受入側の就業規則は適用関係が異なるため注意 |
| 代表者・役員 | 数えない | 使用人兼務役員は労働者性の判断が必要 |
| 下請の労働者 | 数えない | 雇用主である下請事業者の事業場で数える |
判断に迷う典型が、作業所(現場)の扱いです。所長の指揮のもとで人事・労務・経理がある程度独立して行われている作業所は、独立した事業場として扱われることがあります。一方、規模が小さく、労務管理が本社で一体的に行われている作業所は、本社に含めて扱う整理が取られることがあります。自社の体制がどちらに当たるかは、所轄の労働基準監督署に事前に確認してください。個別の事情で判断が変わるため、社内の思い込みで決めないことが大切です。
なお、10人未満の事業場に作成義務がないとしても、作成しておく実務上の意味はあります。労働時間、賃金、休職、退職の取扱いを文書で定めておかないと、採用時の説明と入社後の運用がずれ、後の紛争の材料になります。
就業規則に書かなければならない事項
労働基準法は、就業規則に必ず記載する事項(絶対的必要記載事項)と、その制度を設ける場合には記載しなければならない事項(相対的必要記載事項)を定めています。
| 区分 | 内容 | 建設業での書き方の注意 |
|---|---|---|
| 絶対的 | 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、交替制の場合の就業時転換に関する事項 | 現場ごとに始業時刻が異なる場合の変更手続きを条文に書いておく |
| 絶対的 | 賃金の決定・計算・支払の方法、賃金の締切と支払の時期、昇給に関する事項 | 現場手当、出張手当、資格手当の支給要件を明確にする |
| 絶対的 | 退職に関する事項(解雇の事由を含む) | 有期契約の更新・不更新の取扱いも整理する |
| 相対的 | 退職手当(適用範囲、決定・計算・支払の方法、支払時期) | 中小企業退職金共済や建設業退職金共済を使う場合の関係を明記する |
| 相対的 | 臨時の賃金等(賞与)、最低賃金額 | 支給日在籍要件を置くかどうかを決めておく |
| 相対的 | 労働者に負担させる食費・作業用品その他の費用 | 安全靴、作業服、資格取得費用の負担区分を書く |
| 相対的 | 安全および衛生 | 保護具の着用、健康診断、熱中症対策の位置づけ |
| 相対的 | 職業訓練 | 資格取得支援、費用返還の定めを置く場合はここで整理 |
| 相対的 | 災害補償、業務外の傷病扶助 | 労災上乗せ保険がある場合の取扱い |
| 相対的 | 表彰および制裁の種類・程度 | 制裁は種類と程度を具体的に書く |
| 相対的 | その他、事業場の労働者すべてに適用される事項 | 副業、車両の私的利用、情報管理など |
制裁のうち減給については、労働基準法に上限が定められています。
| 項目 | 上限 |
|---|---|
| 1回の非違行為に対する減給額 | 平均賃金の1日分の半額まで |
| 一賃金支払期における減給の総額 | その期の賃金総額の10分の1まで |
就業規則に「減給は月額給与の10パーセントまで」といった書き方をしていると、上限を超える運用につながります。条文の言い回しを確認してから記載してください。
就業規則は、法令および当該事業場に適用される労働協約に反してはならないと定められています。行政官庁は、法令や労働協約に抵触する就業規則の変更を命ずることができます。また、就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約の効力については、別に法律の定めがあります。ここは条文の適用関係が細かいため、社内で結論を出す前に条文と公表資料で確認し、必要に応じて専門家に相談してください。
作成から届出までの手順
作成でも変更でも、労働基準法が求める手続きの骨格は同じです。順序を守らないと、届出のやり直しになります。
- たたき台を作る。既存の規程、雇用契約書、実際の運用(現場の始業時刻、休日の取り方、手当の支給実績)を突き合わせ、条文と運用の差を洗い出します。担当は人事。
- 法令との整合を確認する。労働時間の上限、割増賃金、年次有給休暇、育児・介護に関する定めなど、直近の改正内容を反映します。ここで曖昧な点は所轄署または専門家に確認します。
- 経営判断が必要な項目を決める。退職手当、賞与、資格取得費用の負担、休職期間の長さなどです。決裁のうえ確定させます。
- 労働者側の意見を聴く。労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその組合、ない場合は労働者の過半数を代表する者の意見を聴きます。意見は書面(意見書)にまとめてもらいます。
- 意見を踏まえて修文する。反映しない意見があっても手続き自体は成立しますが、なぜ反映しないのかを記録しておくと、後の説明が楽になります。
- 届出書と就業規則、意見書を所轄の労働基準監督署長に提出する。提出後は受付の控えを保管します。電子申請が使える場合もあるため、方法は事前に確認してください。
- 労働者に周知する。周知は届出とは別に義務づけられています(後述)。
- 運用に落とす。就業規則と雇用契約書、賃金台帳、勤怠システムの設定を一致させます。
過半数代表者の選び方でつまずかないために
過半数代表者は、事業場の労働者の過半数の支持を得て選ばれる必要があります。次の点に注意してください。
- 会社が指名して終わりにしないこと。投票、挙手、持ち回りの署名など、選出の方法と結果を記録に残します。
- 「労働者の過半数」の母数には、パートや有期の労働者も含みます。管理職の扱いは、労働基準法上の管理監督者に当たるかどうかで整理が変わるため、区分を確認してください。
- 事業場が複数ある場合は、事業場ごとに意見を聴く必要があります。本社の代表者1人の意見書で全社分を済ませることはできません。
複数事業場がある会社の届出
支店や作業所を事業場として届け出る場合、本社で一括して届け出る取扱いが認められる場合があります。ただし、各事業場の就業規則の内容が同一であることなど、一定の条件があります。必要部数や意見書の扱いも含め、所轄の労働基準監督署に確認してから準備してください。
周知の義務
労働基準法は、就業規則を労働者に周知することを使用者に義務づけています。周知の方法としては、次のようなやり方が示されています。
| 方法 | 建設業での実務 |
|---|---|
| 常時各作業場の見やすい場所に掲示、または備え付ける | 現場事務所のファイル備置。所長が更新版に差し替える運用を決める |
| 書面を交付する | 入社時に配付。改定時は差分だけでなく最新版を渡す |
| 電子的方法で記録し、労働者が確認できる機器を設置する | 社内ポータルに掲載。現場の端末やスマートフォンから閲覧できるかを確認する |
よくあるのは、本社のキャビネットに原本があるだけで、現場では誰も見られないという状態です。作業所が多い会社では、周知の担い手を作業所長に置き、改定のたびに配信と確認の記録を残す運用にしておくと安全です。
変更するときの手順と注意点
変更でも、意見聴取と届出、周知の3点は作成と同じです。加えて、変更内容が労働者にとって不利益になる場合は、慎重な進め方が必要になります。
- 変更の目的と対象を確定する。対象は全社か、特定の事業場か、特定の職種かを先に決めます。
- 不利益変更に当たるかを判定する。賃金・手当の減額、休職期間の短縮、退職手当の見直し、休日日数の変更などは、不利益変更として扱われる可能性があります。就業規則の変更による労働条件の変更については、労働契約法に定めがあります。判断枠組みは条文と公表資料で確認し、影響が大きい場合は必ず専門家に相談してください。
- 説明の場を設ける。全社説明会、事業場ごとの説明、質疑の記録を残します。説明した内容と配付資料は保管します。
- 意見聴取を行う。事業場ごとに、過半数組合または過半数代表者から意見書を受け取ります。
- 施行日と経過措置を決める。賃金に関わる変更は賃金計算期間の区切りに合わせます。既得の権利を扱う場合は経過措置を条文に明記します。
- 届出と周知を行う。施行日より前に届出と周知を終える段取りにします。
- 関連文書を直す。雇用契約書のひな型、労働条件通知の様式、賃金規程、勤怠システムの設定、求人票の記載を同時に更新します。
変更スケジュールの目安
| 時期 | やること | 担当 |
|---|---|---|
| 施行日の3か月前 | 変更方針の決裁、条文案の作成 | 人事・経営 |
| 2か月前 | 法令整合の確認、影響を受ける人数と金額の試算 | 人事 |
| 1.5か月前 | 説明会の開催、質疑への回答 | 人事・各事業場 |
| 1か月前 | 意見聴取、意見書の受領 | 各事業場 |
| 2〜3週間前 | 労働基準監督署へ届出 | 人事 |
| 施行日まで | 周知、関連文書とシステムの更新 | 人事・総務 |
建設業でよくあるつまずき
- 現場ごとの始業時刻を条文に書き切ろうとする。元請の指示や工程で始業が変わる場合は、原則の時刻を定めたうえで、変更の手続き(誰が、いつまでに、どう通知するか)を条文に置く形が実務的です。
- 手当の支給要件が不明確。現場手当や出張手当を「所長の判断で支給」としていると、同じ条件の社員の間で扱いが分かれます。距離、宿泊、期間などの要件を書きます。
- 賃金規程や育児・介護に関する規程を「別規程」にしたまま届け出ていない。就業規則の一部として別に定めた規程も、届出と周知の対象になります。本体だけを提出して終わりにしないでください。
- 契約社員や技能者に本則をそのまま適用している。適用範囲の条文がないと、正社員向けの制度が全員に及ぶ読み方が可能になります。適用除外や別規程の関係を明記します。
- 意見書の日付が届出日より後になっている。順序が逆だと手続きの説明ができません。日付を必ず確認します。
- 改定版が現場に届いていない。周知が不十分だと、規定の効力をめぐって説明が難しくなります。配信記録を残します。
- 採用の場面と規程がずれている。求人票や労働条件の明示内容と就業規則の記載が異なると、入社後の不信につながります。改定時は採用資料も同時に見直してください。
罰則と、社内で持つべき記録
就業規則の作成・届出の義務や、意見聴取の手続きに違反した場合、労働基準法上は30万円以下の罰金の対象とされています。金額の大小よりも、監督指導の場面で「手続きを踏んでいない会社」と見られることの影響が大きいと考えてください。
社内で保管しておくべき記録は次のとおりです。
- 就業規則および別規程の各改定版(施行日つき)
- 届出書の控えと受付の記録
- 過半数代表者の選出方法と結果の記録
- 意見書の原本
- 説明会の資料、日時、出席記録
- 周知の方法と実施記録(掲示写真、配信ログ、受領確認)
これらは、労働基準監督署の調査、労使間の認識のずれ、退職に伴う紛争のいずれの場面でも最初に確認される資料です。改定のたびに一式をそろえてファイルする運用にしておくと、担当者が変わっても対応できます。
まとめ
就業規則の実務は、「事業場単位で人数を数える」「必要記載事項を漏らさない」「意見聴取、届出、周知の3点を順序どおりに行う」の3つに整理できます。変更のときは、不利益変更に当たるかどうかの判定と、説明・記録の残し方が要点になります。条文の適用関係や自社の事業場区分については、所轄の労働基準監督署や社会保険労務士などの専門家に確認しながら進めてください。
出典
- 労働基準法
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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