#制度・助成金2026.09.12 公開読了 約8建設タレントサーチ 人事ノート 編集部

業務改善助成金を賃上げと設備投資に使う手順

業務改善助成金は、事業場内の最低賃金を引き上げ、あわせて生産性向上のための設備投資などを行った中小企業に、その費用の一部を助成する制度です。制度の骨組み、申請から支給までの順序、建設業で論点になりやすい事業場の単位や日給者の時間額換算、交付決定前の発注といったつまずきを、人事の実務の順に整理します。

情報の基準日
2026.09.11
制度・助成金

業務改善助成金を賃上げと設備投資に使う手順

人事ノート

賃上げの原資をどう作るかは、建設業の人事にとって毎年の課題です。業務改善助成金は、賃金の引上げと生産性向上のための投資をセットで行う事業者を対象にした厚生労働省の制度です。「賃上げをしたから出る」お金ではなく、「賃上げの計画」と「設備投資などの計画」の両方を先に届け出て、交付決定を受けてから実行する順序が決まっています。この順序を外すと、同じ内容でも対象外になります。

なお、引上げ額の区分、助成率、上限額、事業場の規模要件、受付期間は年度ごとに見直されます。この記事では金額の具体的な数値には踏み込みません。申請前に厚生労働省「業務改善助成金」の公表資料と当年度の交付要領で必ず確認してください。

制度の骨組み。何と何をセットにする制度か

業務改善助成金は、次の2つを組み合わせることが前提です。

  1. 事業場内最低賃金の引上げ。その事業場でいちばん低い時間額を、定められた額以上引き上げます。
  2. 生産性向上に資する取組。機械装置やシステムの導入、コンサルティングの利用、人材育成・教育訓練など、業務の効率化や売上向上につながる取組を行います。

この2つを計画として提出し、交付決定を受けてから実行し、実績を報告して初めて助成金が支払われます。順序が逆になると支給されません。

対象は中小企業・小規模事業者で、事業場の労働者数に上限が設けられています。また、引上げ前の事業場内最低賃金が、その地域の地域別最低賃金と一定額以内の差に収まっていることが条件になります。つまり、すでに賃金水準が地域別最低賃金から大きく離れている事業場は対象になりません。この「一定額」と規模の上限は年度によって変わるため、公表資料で確認してください。

申請の単位は会社ではなく事業場

判定は会社全体ではなく、事業場ごとに行われます。建設業では本社、支店・営業所、資材センターなど、労働者の所属と労働時間の管理がどこで行われているかで単位が分かれます。工事現場は通常、所属する営業所などの一部として扱われる整理になりますが、組織の実態によって判断が分かれます。自社の事業場の区切りが判然としない場合は、申請前に労働局に確認してください。

使えるかどうかを先に確かめる

計画書を書き始める前に、次を社内で確認します。ここで1つでも「いいえ」があれば、先に社内の整備が必要です。

確認する事項見る書類確認する人
事業場内でいちばん低い時間額はいくらか賃金台帳、雇用契約書人事・給与担当
その額と地域別最低賃金の差は要件に収まるか賃金台帳、最低賃金の公表額人事担当
事業場の労働者数は規模要件に収まるか労働者名簿人事担当
賃金の未払いや労働関係法令の違反がないか賃金台帳、出勤記録、是正勧告の有無人事・安全衛生担当
就業規則と賃金規程が最新の内容に整っているか就業規則、賃金規程、届出控え人事担当
引上げ後の賃金を継続して払える見通しがあるか受注見込み、資金計画経営・経理

賃金の未払いや労働関係法令の違反があると不交付になります。時間外労働の割増賃金の計算、休日の取扱い、労働時間の記録などに不安があるときは、助成金の申請より先にそこを直してください。申請の過程で書類を提出するため、整っていない点は表に出ます。

申請から支給までの順序

実務では次の順序で進みます。年度ごとの締切や様式は公表資料に従ってください。

  1. 賃金引上計画を決める。どの労働者の時間額を、いつから、いくら上げるかを決めます。引上げの対象と実施日が計画の中心です。
  2. 生産性向上の取組を選ぶ。何を導入し、何時間分の作業をどう減らすのかを書けるものを選びます。見積書を取得します。
  3. 交付申請書と事業計画を提出する。提出先は都道府県労働局です。窓口の名称と提出方法は公表資料で確認してください。
  4. 交付決定を受ける。ここまで発注・契約・支払いをしてはいけません。
  5. 計画どおりに実行する。設備の導入と賃金の引上げを、事業実施期間内に行います。
  6. 事業実績報告書を提出する。導入した設備の証拠、支払いの証拠、引上げ後の賃金台帳などを添えます。
  7. 額の確定と支払い。審査後に支給額が確定し、支払われます。

誰が何をいつまでに担うか

工程主担当期限の目安
対象事業場と対象者の洗い出し人事申請の2〜3か月前
引上げ額と実施日の決定経営・人事申請の1〜2か月前
導入する設備・研修の選定と見積取得業務改善の担当部署申請の1か月前
就業規則・賃金規程の改定案作成人事申請前
交付申請書の作成と提出人事年度の受付期間内
発注・契約調達担当交付決定の
賃金引上げの実施と台帳への反映給与担当計画に定めた実施日
実績報告書の作成と提出人事・経理事業実施期間の終了後、定められた期限内

受付は年度ごとで、予算の状況により早く終了する場合があります。年度の後半に動き出すと間に合わないことがあるため、賃上げの検討時期と申請の受付時期を人事の年間予定に入れておくと確実です。

建設業で論点になりやすいところ

日給・日給月給の労働者をどう換算するか

事業場内最低賃金は時間額で判定します。日給で支払っている場合は、所定労働時間で割って時間額に換算します。所定労働時間が現場によって違う、あるいは就業規則の記載と実態がずれている、という状態だと換算ができません。まず所定労働時間を規程上はっきりさせることが出発点です。

また、賃金のうちどの手当を時間額の計算に算入できるかは要領で定められています。通勤手当や現場ごとの手当の扱いは判断が分かれやすいところです。自社の手当構成にあてはめた計算は、公表資料の定義を確認したうえで行ってください。

引上げた賃金は下げられない

計画で引き上げた賃金は、引上げ後の水準を維持することが前提です。繁忙期だけ上げて閑散期に戻す、という運用はできません。受注の波が大きい会社では、固定的な部分をどこまで上げるかを経営判断として先に決める必要があります。

一人親方や下請の作業員は対象にならない

助成の判定に関わるのは、自社が雇用する労働者の賃金です。請負契約で働く一人親方や、下請事業者が雇用する作業員の報酬は、自社の事業場内最低賃金の対象になりません。契約の形と実態が一致しているかは、この機会にあわせて確認しておくとよいでしょう。

生産性向上の取組は「工事そのもの」ではない

対象になるのは、業務の効率化や売上向上につながる設備・システム・研修などの費用です。単なる更新や、通常の事業活動に伴う支出は認められにくい扱いです。建設業でよく候補にあがるのは、施工管理や図面のための情報機器やシステム、測量・計測の機器、書類作成の自動化、教育訓練などですが、個々の品目が対象になるかは要領の判断によります。迷う品目は、見積を取る前に労働局へ相談してください。

よくあるつまずき

  • 交付決定の前に発注してしまった。見積を取った流れでそのまま発注すると、その費用は対象外になります。調達部門に「交付決定の通知が出るまで発注しない」と文書で伝えてください。
  • 賃金の引上げ日が計画とずれた。給与計算の締め日の都合で1か月後ろにずれると、計画との不一致になります。締め日と実施日の関係を、計画作成の段階で給与担当に確認します。
  • 就業規則・賃金規程を直していない。実際の支給額だけ上げても、規程が古いままだと説明がつきません。変更の届出も忘れがちです。
  • 支払いの証拠が残っていない。現金払いや相殺で処理すると、実績報告で支払いを示せません。振込記録が残る方法で支払います。
  • 事業実施期間内に納品が終わらない。機器の納期や工事の日程が延びると、期間内に完了できません。納期に余裕のある品目を選びます。
  • 対象者の洗い出しが漏れた。パート、短時間の事務職、入社直後の労働者など、いちばん低い時間額の人を見落とすと計画の前提が崩れます。事業場の全員分の時間額を一覧にしてから計画を作ります。

他の制度との関係

同じ経費や同じ賃上げについて、他の助成金や補助金と重ねて受けられるかは制度ごとに定めがあります。重複が認められない場合もあるため、社内で別部署が補助金を申請していないかを先に確認してください。人材育成については人材開発支援助成金、賃上げに関する税制上の措置など、目的が近い制度が並行して存在します。どれを使うのが自社に合うかは、対象経費と手続きの負担を並べて比べて決めます。判断に迷う場合は、労働局や専門家に相談してください。

公共工事に携わる会社では、設計労務単価の改定や、元請からの労務費の取扱いとあわせて賃上げの水準を検討することになります。助成金は投資費用の一部を支えるものであって、賃上げ後の人件費そのものを継続的に補うものではありません。維持できる水準かどうかの見極めは、あくまで自社の収支で行ってください。

よくある質問

Q. 支店ごとに別々に申請できますか

判定と申請は事業場ごとに行われるため、要件を満たす事業場それぞれについて検討できます。ただし、どこまでを一つの事業場とみるかは、労働時間の管理や指揮命令の実態で判断されます。支店と現場の関係が組織図と実態で食い違っている場合は、申請前に都道府県労働局に整理のしかたを確認してください。同一事業者が複数事業場で申請する場合の上限などの取扱いは、当年度の公表資料で確認が必要です。

Q. 交付決定を待たずに機器を発注してしまいました。後から対象にできますか

交付決定の前に発注・契約・支払いをした費用は、原則として助成の対象になりません。見積の取得までは交付決定前に行ってかまいませんが、発注は通知を受けてからです。すでに発注してしまった場合は、その品目を計画から外して別の取組で申請するかどうかを含め、労働局に相談してください。

Q. 基本給ではなく手当を増やす形でも賃上げとして認められますか

判定は事業場内最低賃金、つまり時間額で行われますが、時間額の計算に算入できる賃金の範囲は要領で定められています。手当の名称ではなく性質で判断されるため、自社の手当がどう扱われるかは一律に言えません。賃金規程と支給実態を示したうえで、公表資料の定義に照らして確認してください。

Q. 一人親方に支払う金額を引き上げても対象になりますか

対象になるのは自社が雇用する労働者の賃金です。請負契約に基づく一人親方への支払いは、事業場内最低賃金の判定には入りません。なお、契約が請負でも働き方の実態が労働者に近い場合は、労働関係法令上の扱いそのものが問題になります。判断に迷う事案は専門家に相談してください。

Q. 賃上げをした後に受注が落ちた場合、賃金を元に戻せますか

計画で引き上げた水準を維持することが前提の制度です。引下げを行うと、助成金の返還などの問題が生じ得ます。業績の波が大きい会社では、固定的に上げる部分をどこまでにするかを申請前に経営判断として決め、その範囲で計画を作ってください。返還に関する具体的な取扱いは、当年度の交付要領で確認してください。

出典

  • 厚生労働省「業務改善助成金」

本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

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