働き方改革推進支援助成金を労働時間短縮に使う
人事ノートこの助成金は何のための制度か
働き方改革推進支援助成金は、厚生労働省が所管する中小企業事業主向けの助成金です。労働時間の短縮、年次有給休暇の取得促進、勤務間インターバル制度の導入といった生産性向上に資する取組みを行い、成果目標を達成した場合に、その取組みにかかった費用の一部が支給されます。
建設業では、時間外労働の上限規制が適用されたことで、現場の労働時間管理が経営課題になっています。労務管理システムの導入、就業規則の整備、外部専門家によるコンサルティングといった費用は、通常は自社負担です。この助成金は、そうした支出を一定の範囲で後押しする仕組みだと考えると分かりやすくなります。
重要な点を先に3つ挙げます。
- 事前の交付申請が必須です。先に設備を買ったり契約したりしてから申請することはできません。
- 成果目標の達成が支給の条件です。取組みを行っただけでは支給されません。
- コースごとに要件も上限額も異なります。年度によってコース構成や金額が見直されるため、必ずその年度の公募要領を確認してください。
本記事では制度の骨格と社内の進め方を整理します。金額・締切・コース名の詳細は年度ごとに変わりますので、厚生労働省「働き方改革推進支援助成金」の当該年度の公表資料で確認してください。
コースの考え方と自社の位置づけ
この助成金は単一の制度ではなく、目的別に複数のコースが用意される形をとっています。年度によって名称や区分が変わりますが、大枠の発想は次のように整理できます。
| 取組みの方向 | 想定される状況 | 建設業でのイメージ |
|---|---|---|
| 時間外労働の削減 | 36協定の限度時間を引き下げたい | 現場の残業時間を見直し、協定の上限を下げる |
| 休日の確保 | 週休2日に近づけたい | 4週8閉所に向けた工程と人員の見直し |
| 年次有給休暇の取得促進 | 取得率が低い | 計画的付与や時間単位年休の導入 |
| 勤務間インターバル | 終業から始業までの間隔が短い | 夜間作業後の翌日始業時刻の調整 |
| 労働時間の適正把握 | 出面帳や自己申告に頼っている | 打刻の仕組みや勤怠システムの導入 |
自社がどの方向に課題を持っているかを先に決めます。ここが曖昧なまま申請書を書き始めると、成果目標と取組み内容がかみ合わず、差し戻しの原因になります。
対象になる事業主の考え方
対象は中小企業事業主です。建設業の中小企業の範囲は、資本金または常時使用する労働者数のいずれかで判定するのが一般的な考え方ですが、助成金ごとに定義が置かれています。自社が中小企業に当たるかどうかは、その年度の支給要領で必ず確認してください。
あわせて、次の点は毎年ほぼ共通して問われます。
- 労働者災害補償保険の適用事業主であること
- 交付申請時点で36協定を締結し、届出していること
- 賃金台帳、出勤簿、就業規則などの労務管理書類が整備されていること
- 過去に不正受給がないこと
3つ目が実務上いちばん引っかかります。助成金は労務管理書類の提出を求めます。出勤簿が現場ごとにばらばらで、賃金台帳と照合できない状態だと、申請の前段で作業が止まります。
対象になりやすい経費と、なりにくい経費
支給対象となる経費は、成果目標の達成に必要な取組みに要した費用です。おおよその整理は次のとおりです。個別の可否は必ず公募要領で確認してください。
| 区分 | 具体例 | 注意点 |
|---|---|---|
| 外部専門家の活用 | 社会保険労務士等による就業規則整備、労働時間制度の設計 | 契約書と成果物が必要 |
| 研修 | 労務管理担当者や現場責任者への研修 | 実施記録と受講者名簿を残す |
| 就業規則等の作成・変更 | 年休の計画的付与、インターバル制度の規定新設 | 労働基準監督署への届出控えが必要 |
| 労務管理用機器の導入 | 勤怠管理システム、タイムレコーダー | 労働時間短縮との関係を説明できること |
| 設備・機器の導入 | 作業時間短縮に直結する機器 | 汎用的な備品は対象外とされやすい |
建設業で判断が割れやすいところ
- 車両やパソコンなどの汎用品は、労働時間短縮との結びつきが説明しにくく、対象外となりやすい区分です。
- 現場で使う施工機械は、それが労働時間短縮に直結することを工程表などで示せるかが分かれ目になります。
- 人件費そのものは対象になりません。増員は取組みとして有効でも、助成の対象経費とは別の話です。
迷った場合は、購入前に労働局の助成金担当窓口に照会してください。購入後に「対象外でした」となっても、取り返しがつきません。
申請から支給までの流れ
交付申請から支給決定までは、おおむね次の順序で進みます。年度によって様式や締切が変わるため、日付は公表資料で確認してください。
- 現状把握(着手の2〜3か月前) 人事担当者が、直近1年の時間外労働時間、年休取得日数、36協定の内容を集計します。
- 成果目標の設定(着手の2か月前) 経営者と協議し、「36協定の限度時間を何時間に引き下げるか」「年休取得日数を何日増やすか」を数字で決めます。
- 取組み内容と経費の見積り(着手の2か月前) 目標達成に必要な取組みを列挙し、見積書を取得します。この時点では契約しません。
- 交付申請書の提出(事業実施前) 所轄の都道府県労働局へ提出します。提出先と締切は年度ごとに公表されます。
- 交付決定通知の受領 ここで初めて発注・契約ができます。
- 取組みの実施(交付決定後から事業実施期間内) 契約、導入、研修、就業規則の変更と届出を行います。
- 成果目標の達成確認 36協定の届出、年休取得実績など、目標を達成したことを示す書類をそろえます。
- 支給申請書の提出(事業実施期間終了後、定められた期限まで) 支払を証する書類、労務管理書類を添えて提出します。
- 支給決定・入金
誰が何を担当するか
| 工程 | 主担当 | 関与者 |
|---|---|---|
| 現状把握・集計 | 人事労務 | 各現場の管理者 |
| 成果目標の決定 | 経営者 | 人事労務、工事部門 |
| 交付申請書の作成 | 人事労務 | 社会保険労務士(必要に応じて) |
| 発注・契約 | 総務・経理 | 人事労務 |
| 就業規則の変更と届出 | 人事労務 | 労働者代表 |
| 支払実績の整理 | 経理 | 人事労務 |
| 支給申請書の提出 | 人事労務 | — |
工事部門を成果目標の決定に必ず入れてください。人事だけで「時間外を減らす」と決めても、工程が動かなければ達成できません。
よくあるつまずき
交付決定前に発注してしまう
もっとも多い失敗です。見積りを取った勢いで発注し、後から交付申請しようとしても認められません。社内の稟議ルートに「助成金対象の支出は交付決定通知の写しを添付する」という一文を入れておくと防げます。
成果目標を高く設定しすぎる
時間外労働の削減幅を大きく取ると助成率や上限額の面で有利になる設計のコースもありますが、達成できなければ支給されません。工事の繁閑を踏まえ、確実に届く水準から検討してください。特に建設業は年度末に工期が集中しやすく、通年の平均で見ると届いても、対象期間の切り方によっては届かないことがあります。
労働時間の記録が現場ごとにばらばら
申請では出勤簿や賃金台帳の提出を求められます。自己申告のみで、開始・終了時刻が残っていない現場があると、そこで手が止まります。申請を考え始めた時点で、記録様式の統一に着手してください。
36協定の届出が古いまま
交付申請の要件として36協定の締結・届出が求められます。事業場ごとに届出が必要ですので、本社だけ出して現場事業場が漏れている、という状態になっていないかを確認します。
就業規則を変えたが届出をしていない
年次有給休暇の計画的付与や勤務間インターバルを規定に入れた場合、労働基準監督署への届出控えが証拠書類になります。規定を作っただけで止めないでください。
予算の上限で締め切られる
助成金は予算の範囲内で行われます。年度の途中で受付が終了することがあります。年度初めに公表資料を確認し、社内スケジュールを前倒しで組んでください。
社内で先に決めておくこと
申請を検討する段階で、次の5点を書面にしておくと、労働局とのやり取りが速くなります。
- 対象とする事業場(本社のみか、支店・現場事業場を含むか)
- 成果目標の具体的な数値と、その根拠となる直近の実績
- 取組みの内容と、目標達成につながる理屈
- 概算の経費と資金繰り(助成金は原則として後払いです)
- 社内の責任者と、支給申請までのスケジュール
4つ目を軽く見ないでください。交付決定後に自社で支払い、事業終了後に申請し、審査を経て入金されます。立替期間が数か月に及ぶことを前提に資金計画を立てます。
ほかの助成金との関係
同じ取組みに対して複数の助成金を重ねて受けることは、原則として認められません。賃上げと設備投資を組み合わせる制度や、教育訓練を対象とする制度など、目的の異なる助成金があります。どの制度で申請するかは、取組みの主目的で選び分けてください。併給の可否は制度ごとに定めがありますので、公表資料で確認するか、労働局に照会してください。
よくある質問
Q. 交付申請の前に業者から見積りを取るのは問題ありませんか。
見積りの取得自体は事前準備として通常行われるもので、問題になりません。禁止されるのは交付決定前の契約・発注・支払です。見積書の日付と契約書の日付が離れていても差し支えありませんので、契約日が交付決定日より後になるように管理してください。
Q. 成果目標を達成できなかった場合、一部でも支給されますか。
成果目標の達成が支給の条件ですので、未達の場合は支給されないのが原則です。ただしコースによって目標の立て方や複数目標の扱いが異なります。自社が申請するコースの取扱いは、その年度の支給要領で必ず確認してください。
Q. 現場ごとに事業場が分かれていますが、どの単位で申請するのですか。
労働保険の適用や36協定の届出と同じく、事業場の単位が問われます。建設業は現場単位の扱いが複雑になりやすい業種です。自社の事業場の区分と申請単位の考え方は、所轄の都道府県労働局に事前に照会することをおすすめします。
Q. 社会保険労務士に依頼した費用も対象になりますか。
外部専門家によるコンサルティング費用は、対象経費として扱われる区分があります。ただし、申請書の作成代行そのものが対象になるかは別の論点です。契約の内容をどう区分するかで判断が変わりますので、契約前に公表資料と労働局への照会で確認してください。
Q. 建設業は時間外労働の上限規制が適用されていますが、法律で義務づけられた対応でも助成の対象になりますか。
法令遵守のために必要な対応と、助成の対象となる取組みは重なる部分があります。ただし、成果目標として設定できる水準は、現行の法定水準を単に守るだけでは足りない場合があります。どの水準を目標に置けるかは年度の支給要領に定めがありますので、事前に確認してください。
Q. 過去に別の助成金を受けたことがありますが、今回も申請できますか。
過去の受給歴があること自体が申請の妨げになるとは限りません。問題になるのは、同一の取組み・同一の経費に対する重複受給と、不正受給の履歴です。同じ設備や同じコンサルティング契約を別制度でも申請していないかを、社内で先に洗い出してください。
出典
- 厚生労働省「働き方改革推進支援助成金」
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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