品確法が求める担い手の育成と確保 人事の実務
人事ノート公共工事の品質確保の促進に関する法律(以下、品確法)は、工事の出来栄えだけを対象にした法律ではありません。将来にわたって公共工事の品質を確保するためには、その工事を担う技術者・技能労働者が育ち、業界に残り続ける必要がある、という考え方が法律の土台に置かれています。
そのため、現場の施工管理部門だけでなく、賃金・労働時間・教育訓練を扱う人事部門にも関係します。この記事では、品確法が受注者と発注者それぞれに求めている内容を整理したうえで、人事が社内で何を、いつまでに、誰の責任で進めるかを並べ替えて説明します。
品確法は何のための法律か
品確法は、公共工事の品質確保を促進することを目的とした法律です。価格だけで落札者を決めると、無理な価格競争が起き、結果として工事の品質と、現場で働く人の処遇が同時に下がるという問題意識が背景にあります。
この法律の特徴は、次の三つです。
- 公共工事の品質確保は、価格と品質が総合的に優れた内容の契約によって実現されるべきだとしている点
- 品質確保の担い手が中長期的に育成・確保されることを、基本理念のなかに位置づけている点
- 発注者と受注者の双方に、それぞれの立場での責務を定めている点
品確法は制定後に複数回改正されており、担い手の育成・確保や、現場で働く人の処遇改善に関する内容が段階的に強められてきました。改正の時期と施行日、条文の具体的な表現は、公表資料で確認してください。本記事では条番号ではなく、法律が求めている内容の中身で整理します。
発注者の責務と受注者の責務を分けて読む
品確法を読むときは、「発注者に向けた内容」と「受注者に向けた内容」を分けると、自社でやるべきことがはっきりします。発注者向けの内容は、自社が何を期待してよいかの根拠になり、受注者向けの内容は、自社が整えるべき体制の根拠になります。
| 区分 | 法律が求めている主な方向 | 自社(受注者)側での受け止め方 |
|---|---|---|
| 発注者の責務 | 予定価格を適正に設定すること、著しく低い価格での契約を防ぐこと | 積算に労務費・法定福利費を適正に織り込む前提が整う |
| 発注者の責務 | 施工の実態や地域の実情を踏まえた適正な工期を設定すること | 休日確保・時間外削減の社内目標を立てる前提になる |
| 発注者の責務 | 工事の施工時期を平準化するよう努めること | 年間を通じた人員計画・採用計画が立てやすくなる |
| 発注者の責務 | 設計変更に応じた適切な契約変更を行うこと | 追加の人員投入が賃金原資を圧迫しない前提になる |
| 受注者の責務 | 適正な額の請負代金・適正な工期での下請契約を結ぶこと | 協力会社の処遇も含めた管理が必要になる |
| 受注者の責務 | 技術者・技能労働者の育成と確保に努めること | 教育訓練計画、資格取得支援、採用計画が対象になる |
| 受注者の責務 | 賃金その他の労働条件、安全衛生など労働環境の改善に努めること | 人事の中心的な担当範囲になる |
発注者の責務は、自社が交渉や協議を行うときの土台です。たとえば工期が明らかに短く、休日確保が不可能な設定になっている場合に、協議を申し入れる根拠として位置づけられます。協議の進め方は契約ごとに異なりますので、個別の案件は契約担当部門と確認してください。
人事が担当する範囲を項目に分解する
「担い手の育成・確保」は言葉としては広く、そのままでは作業になりません。人事が扱う単位に分解すると、次の表の形になります。担当部署と時期の目安を、自社の実情に合わせて埋めてから使ってください。
| 項目 | 法律が示す方向 | 人事が行う実務 | 時期の目安 | 主担当 |
|---|---|---|---|---|
| 賃金水準 | 労働条件の改善 | 職種別・経験年数別に現行賃金を一覧化し、改定案を作る | 公共工事設計労務単価の改定公表後から賃金改定月まで | 人事・経理 |
| 法定福利費 | 適正な負担の確保 | 社会保険の加入漏れを洗い出し、是正する | 入札参加資格の申請前と、入退社のつど | 人事 |
| 労働時間 | 適正な工期の確保 | 36協定の内容確認、現場別の時間外時間の集計 | 36協定の更新前と毎月 | 人事・各現場 |
| 休日 | 週休2日の確保 | 現場ごとの休日取得実績を集計し、差の原因を確認する | 毎月 | 人事・各現場 |
| 技能評価 | 能力に応じた処遇 | CCUS の登録状況とレベル判定を確認し、手当や等級に反映する | 年1回の評価時期 | 人事 |
| 教育訓練 | 担い手の育成 | 年間教育計画の作成、受講記録の一元管理 | 年度計画の策定時 | 人事・安全衛生部門 |
| 採用 | 担い手の確保 | 新卒・中途・未経験の採用計画を工事量の見通しと合わせる | 年度計画の策定時 | 人事 |
| 多様な人材 | 就業環境の整備 | 更衣室・トイレ・休憩所の確認、育児介護制度の周知 | 現場着工前と年1回 | 人事・現場 |
賃金の見直しをどう組み立てるか
賃金の見直しは、「上げるかどうか」から入ると結論が出にくくなります。順序としては、現状の把握、外部水準との比較、原資の確認、反映方法の決定、という流れが扱いやすいです。
公共工事設計労務単価は、公共工事の積算に用いられる単価として毎年度改定され、公表されています。これは個々の労働者に支払う賃金そのものを決めるものではありませんが、職種別の水準を外部の指標として確認するために使えます。単価の構成や取扱いの考え方は、公表資料で確認してください。
労働時間と休日は現場単位で集計する
建設業にも時間外労働の上限規制が適用されています。会社全体の平均だけを見ていると、特定の現場や特定の職種に時間外が集中している事実が見えません。現場別・職種別に集計し、上限に近づいている人を月単位で把握する仕組みにしてください。
休日についても同じです。「週休2日に取り組んでいます」と会社として宣言していても、現場ごとの実績を集計していなければ、発注者や応募者に説明できません。現場ごとの閉所日数、または個人ごとの休日取得日数のどちらで管理するかを先に決めておきます。
社内で進める手順
次の順序で進めると、担当者が入れ替わっても再現できます。
- 社内の現状を一覧にします。職種別の人数、平均年齢、経験年数、保有資格、CCUS の登録とレベル判定の状況をひとつの表にまとめます。担当は人事、期限は年度計画の着手前です。
- 過去1年の労働時間と休日を、現場別・職種別に集計します。上限規制に近い層と、休日取得が少ない層を特定します。
- 社会保険の加入状況を確認します。加入漏れ、被扶養者の要件、短時間労働者の判定に誤りがないかを点検します。
- 賃金水準を外部の指標と比べます。職種別・経験年数別の自社水準を出し、差がある職種を特定します。
- 年間の教育訓練計画を作ります。法定の安全衛生教育、職長教育、資格取得の受験計画を、現場の繁忙期を避けて配置します。
- 採用計画を工事量の見通しと突き合わせます。退職予定、定年到達、技術者の配置要件を踏まえ、必要人数と時期を出します。
- 以上を1枚の計画書にまとめ、経営会議で決裁します。賃上げや教育投資は原資の確認が必要なので、経理部門を必ず同席させます。
- 四半期ごとに実績を確認します。計画どおりに進んでいない項目は、原因を現場側と確認して次の四半期の計画に反映します。
年間の組み立て方
公共工事を受注している会社は、年度の区切りで動く場面が多くなります。おおまかな目安は次のとおりです。自社の決算期や入札参加資格の申請時期に合わせて調整してください。
| 時期 | 人事が行うこと |
|---|---|
| 年度初め | 前年度の労働時間・休日・教育訓練の実績を確定させる。新年度の教育計画を現場に配布する |
| 年度前半 | 設計労務単価の改定内容を確認し、賃金改定の検討資料を作る。36協定の運用状況を点検する |
| 年度半ば | 採用計画の進捗を確認する。CCUS のレベル判定と処遇反映の対象者を洗い出す |
| 年度後半 | 経営事項審査や入札参加資格の申請に必要な人員・資格の資料を整える |
| 年度末 | 翌年度の工事量見通しと人員計画を突き合わせる。退職予定と資格者の配置を確認する |
よくあるつまずき
- 担い手の育成を新卒採用だけに狭めてしまう。品確法が想定しているのは、育成と確保の両方です。既にいる技能者が辞めない状態をつくることも、同じ比重で扱う必要があります。離職の理由を確認せずに採用人数だけ増やすと、人数は変わらないまま採用費だけが積み上がります。
- 賃上げの判断材料を社内の感覚だけで決める。職種別・経験年数別の自社水準を一覧にしないまま一律の率で決めると、採用で競合する職種の見劣りが解消されません。どの職種のどの層を優先するかを、数字で決めてください。
- 協力会社の技能者を自社の集計から外している。受注者の責務には、下請契約を適正な額と工期で結ぶことが含まれます。自社の正社員だけを見た集計では、現場全体の実態を説明できません。少なくとも常時入っている協力会社については、社会保険の加入状況と休日の取得状況を把握しておきます。
- CCUS の登録だけ済ませて処遇に反映していない。登録とレベル判定は、能力に応じた処遇につなげて初めて意味を持ちます。レベルごとにどの手当がいくら付くのかを就業規則または賃金規程に書き、本人に説明してください。
- 教育訓練の記録が現場ごとに散らばっている。受講記録が現場の書類棚にしかないと、資格の更新時期や受講済みかどうかを会社として把握できません。受講者名、実施日、科目、時間数を一覧で管理する担当者を決めます。
- 工期が短いまま契約し、後から休日を削って調整する。工期の設定は発注者の責務に関わる部分です。無理があると判断した場合に、どの段階で誰が協議を申し入れるかを社内で決めておかないと、しわ寄せが現場の労働時間に出ます。
取組みを記録し、社外に説明できる形にする
担い手の育成・確保への取組みは、社内の自己満足で終わらせず、外部に説明できる状態にしておくと使い道が広がります。
- 入札参加資格や総合評価方式での評価では、若年者の雇用、技能者の育成、労働環境に関する項目が設定されることがあります。評価項目と必要書類は発注機関ごとに異なりますので、各発注者が公表している資料で確認してください。
- 経営事項審査では、技術職員の数や、一定の取組みが評価の対象になります。該当する項目と加点の仕組みは、公表されている審査の基準で確認してください。
- 採用の場面では、休日の実績、教育訓練の内容、資格取得支援の有無が応募者の判断材料になります。集計した数字をそのまま求人情報に載せられる形で残しておくと、求人票の作成が早くなります。
記録として最低限残したいのは、年度ごとの「教育訓練の受講実績」「資格取得者数」「現場別の休日取得状況」「社会保険の加入状況」「CCUS の登録・レベル判定の状況」の五つです。保管場所と更新担当者を決め、年度末に更新する運用にしてください。
よくある質問
Q. 公共工事を受注していない会社でも、品確法を踏まえる必要はありますか
品確法は公共工事の品質確保を目的とした法律ですので、直接の対象は公共工事です。ただし、担い手の育成・確保や労働環境の改善という考え方は、民間工事を中心とする会社でも採用と定着の課題として共通します。将来的に公共工事への参加を検討する場合は、技術者の資格や社会保険の加入状況など、申請時に求められる体制を早めに整えておくと動きやすくなります。
Q. 発注者が設定した工期では休日が確保できないとき、どうすればよいですか
品確法は、発注者が施工の実態を踏まえた適正な工期を設定するよう求めています。これを根拠に、契約前の段階で工程表と必要な人員を示し、協議を申し入れることが考えられます。協議の手続や時期は契約ごとに定められているため、人事だけで判断せず、契約担当部門と施工管理部門を交えて進めてください。個別の契約に関する対応は、必要に応じて専門家に相談することをおすすめします。
Q. CCUS のレベル判定を賃金にどこまで反映すればよいですか
反映の方法や金額を法律が定めているわけではありません。自社の賃金体系のなかで、レベルを等級に対応させる、レベルごとの手当を設ける、評価の加点要素にするといった選択肢があります。どの方法を採る場合でも、賃金規程に記載し、対象者に事前に説明することが前提です。制度の詳細や能力評価基準は、運営団体の公表資料で確認してください。
Q. 協力会社の技能者の処遇まで、元請の人事が把握する必要がありますか
受注者には、適正な額の請負代金と適正な工期で下請契約を結ぶ責務があります。元請が協力会社の賃金額を直接決めるわけではありませんが、社会保険の加入状況や、現場での休日・労働時間の実態は、現場の安全衛生管理の面からも把握しておく必要があります。どこまでを元請が確認し、どこからを協力会社の責任とするかは、契約と社内規程で線引きを明確にしておいてください。
Q. 担い手の育成・確保の取組みは、何から手を付けるのが現実的ですか
まずは現状の一覧化です。職種別の人数、平均年齢、保有資格、CCUS の登録状況、過去1年の労働時間と休日の実績をひとつの表にまとめると、不足している層がはっきりします。賃上げや教育投資は原資の確認が必要なので、一覧ができた段階で経理部門と経営層を巻き込み、優先順位を決めてから着手してください。
出典
- 公共工事の品質確保の促進に関する法律
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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