主任技術者を専任で置く工事と置かなくてよい工事
人事ノート主任技術者は、請け負った建設工事には原則として必ず置きます。一方で「専任で置かなければならないか」は、工事の種類と請負代金の額で分かれます。ここを混同すると、配置計画が崩れたり、技術者が他の現場に出られなくなったりします。
この記事は、建設業法の定めを、人事・工事管理部門が配置を決めるときの順序に並べ替えて整理したものです。請負代金の金額基準は政令で定められ、これまで改正が重ねられてきました。本文では具体額を示しませんので、契約前に最新の政令と所管官庁の公表資料で確認してください。
まず「配置」と「専任」を分けて考える
建設業法第26条は、建設業者が請け負った工事を施工するときに、工事現場の技術上の管理をつかさどる技術者を置くことを求めています。ここで出てくる言葉が人事の場面で混ざりやすいため、先に整理します。
| 呼び方 | 根拠のおおよその位置 | 置く場所 | 人事での論点 |
|---|---|---|---|
| 営業所の専任技術者 | 建設業法第7条第2号ほか(許可の要件) | 営業所 | 退職・異動で欠けると許可の維持に影響する |
| 主任技術者 | 建設業法第26条第1項 | 工事現場 | 請け負った工事ごとに必要。資格または実務経験で判定 |
| 監理技術者 | 建設業法第26条第2項 | 工事現場 | 元請が一定額以上を下請に出す場合に主任技術者に代えて置く |
| 現場代理人 | 請負契約上の定め | 工事現場 | 法令上の技術者とは別の立場。兼務の可否は契約で確認する |
ポイントは次の2つです。
- 配置は、請負代金の大小にかかわらず求められます。小さな工事でも主任技術者は置きます。
- 専任は、建設業法第26条の専任に関する規定により、公共性のある施設などに関する重要な建設工事で政令で定めるものに限って求められます。
つまり「専任でなくてよい」は「置かなくてよい」ではありません。非専任であっても、主任技術者として職務(建設業法第26条の4に定める施工計画の作成、工程管理、品質管理、技術上の管理および施工に従事する者の技術上の指導監督)を果たせる体制が必要です。
専任が必要かを判断する3つの条件
条件1 公共性のある施設などに関する重要な建設工事か
専任の対象は、公共性のある施設もしくは工作物、または多数の者が利用する施設もしくは工作物に関する重要な建設工事で、政令で定めるものです。政令では、国や地方公共団体が注文者である工事のほか、鉄道、道路、堤防、ダム、電気・ガスの事業用施設、学校、病院、百貨店、事務所、共同住宅など、具体的な施設が列挙されています。
実務上は、個人の住宅を除くおおむねの工事が該当すると考えて差し支えありません。ただし自社が受ける工事が列挙に当たるかどうかは、政令の条文で確認してください。発注者が民間であっても対象になる工事は多くあります。「民間工事だから専任は不要」という理解は誤りです。
条件2 請負代金の額が政令の金額以上か
条件1に当たる工事のうち、請負代金の額が政令で定める金額以上のものが専任の対象です。金額の考え方で押さえるべき点は次のとおりです。
- 判定するのは自社が請け負った契約の金額です。工事全体の規模ではありません。
- 建築一式工事は、それ以外の工事より高い金額が定められています。
- 消費税等を含む額で判定する扱いです。契約書の金額表記が税抜きの場合は、税込みに直して判断してください。
- 当初契約と変更契約がある場合は、合計した額で判断します。
- 注文者が材料を提供する場合は、その市場価格等を加えた額で判断する取扱いがあります。該当しそうな契約は、契約担当と技術部門で事前に確認してください。
この金額基準は政令改正で引き上げられてきました。社内のマニュアルに古い金額が残っていることがあります。年に一度は基準額の記載を点検し、最新の政令と公表資料に合わせてください。
条件3 元請か下請かは問わない
専任の要否は、元請・下請の立場では決まりません。下請であっても、条件1・条件2の両方を満たせば、自社が置く主任技術者は専任でなければなりません。「元請が専任の監理技術者を置いているから下請は非専任でよい」という理解は誤りです。
判定の流れを表にすると次のようになります。
| 手順 | 確認すること | 確認の材料 | 誰が |
|---|---|---|---|
| 1 | 政令に列挙された施設・工作物に関する工事か | 発注図書、契約書の工事名・施設名 | 工事管理部門 |
| 2 | 自社の請負代金(税込み、変更契約込み)が基準額以上か | 請負契約書、変更契約書 | 契約担当 |
| 3 | 1と2が両方とも該当するか | 判定記録 | 工事管理部門 |
| 4 | 該当するなら専任、しないなら非専任で配置 | 技術者配置計画表 | 人事・工事管理部門 |
「専任」とは何をしてはいけないことか
専任とは、他の工事現場に係る職務を兼ねず、常時継続的にその工事現場の職務に従事することを指します。人事が運用で迷いやすいのは次の点です。
- 他の工事現場の主任技術者・監理技術者を同時に務めることはできません。
- 営業所の専任技術者との兼務は原則できません。限られた要件のもとで認められる取扱いがありますが、要件は細かいため、該当しそうなときは公表資料で確認し、必要に応じて許可行政庁に照会してください。
- 現場代理人との兼務は、契約上の定めに反しない限り妨げられません。むしろ併任が一般的です。
- 常駐と専任は同じ意味ではありません。研修、休暇、所属会社での打ち合わせなど、合理的な理由があり、現場との連絡体制が確保されていれば、一時的に現場を離れることまで否定されるものではないと整理されています。社内で「離れてよい場面」と「連絡体制の確保の仕方」を文書化しておくと、現場判断のばらつきが減ります。
なお近年は、情報通信技術の活用を前提に専任の取扱いを見直す動きがあります。適用の開始時期と要件は公表資料で確認してください。
専任を置かなくてよい工事と、兼務が認められる場面
専任を外せる場面は、次のように整理できます。いずれも「主任技術者を置かない」話と「専任にしなくてよい」話が混在するため、区別して覚えてください。
| 場面 | 扱い | 注意点 |
|---|---|---|
| 政令の列挙に当たらない工事(個人住宅など) | 主任技術者は置くが専任は不要 | 施設の用途で判断する。発注者の官民は決め手ではない |
| 請負代金が基準額未満 | 主任技術者は置くが専任は不要 | 変更契約で基準額を超えたら専任に切り替える |
| 密接な関係のある2以上の工事を、同一の建設業者が同一または近接した場所で施工する場合 | 同一の専任の主任技術者が複数の工事を管理できる | 「密接な関係」「近接」の範囲に運用上の基準があるため、個別に確認する |
| 特定専門工事(建設業法第26条の3)の下請 | 要件を満たせば下請は主任技術者を置かないことができる | 対象となる工事の種類、下請代金の合計額の上限、元請と下請の書面合意、元請側の技術者の経験要件など、複数の条件を同時に満たす必要がある |
特定専門工事の仕組みは、下請の技術者不足に効く一方で、条件が細かく設定されています。使う前に、対象工事の種類、金額の上限、必要な書面、元請側に求められる技術者の要件を条文で確認してください。一つでも欠けると、下請側に主任技術者の配置義務が残ります。
専任の主任技術者に求められる雇用関係
人事が最も関わるのがここです。専任で配置する技術者は、所属する建設業者と直接的かつ恒常的な雇用関係にあることが求められます。実務では次のような人は専任に充てられません。
- 労働者派遣により受け入れている技術者
- 在籍出向で他社から受け入れている技術者(取扱いに例外的な整理がある場合もあるため、該当しそうなときは照会してください)
- 工事の期間だけ雇用する契約で、恒常的な雇用関係があるとはいえない人
公共工事などでは、入札や契約の時点より一定期間前から雇用関係があることを求められる場合があります。必要な期間は案件の条件によって異なるため、入札公告や発注者の指示、公表資料で確認してください。人事としては、中途採用者を専任で配置する予定がある場合、入社日から配置可能日までの期間を採用決定の時点で確認しておくことが要点です。採用してすぐ専任で入れるつもりが、雇用期間の要件で配置できず工程が止まる、という事故が起きます。
雇用関係の確認に使われる書類は、健康保険被保険者証の写し、住民税特別徴収税額通知書、雇用契約書などです。個人情報を含むため、提出範囲と保管方法を社内で決めておいてください。
人事が行う実務手順
工事の受注が決まってから配置が確定するまでの流れを、社内手順の形にすると次のようになります。
- 工事管理部門から、工事名、施設の用途、発注者、請負代金(税込み)、工期、現場所在地の6項目を受け取る。
- 前掲の判定表で専任の要否を判定し、判定記録を残す。判定者と判定日を必ず書く。
- 専任が必要な場合、候補者の資格要件を確認する。国家資格で満たすのか、指定学科卒業+実務経験で満たすのか、実務経験のみで満たすのかを、工事の業種ごとに確認する。
- 候補者の雇用関係を確認する。入社日、雇用区分、出向・派遣の有無を人事記録で照合する。
- 技術者配置計画表で、同時期の他現場との重複がないかを確認する。専任は他現場と重ねられないため、工期の始期と終期を日単位で管理する。
- 発注者または元請へ提出する書類(資格を証する書面、雇用関係を確認する書類など)を準備する。
- 工期延長、追加工事、変更契約が生じたら、2に戻って再判定する。
- 配置の記録を保存し、CCUSの就業履歴や技能者情報と整合しているかを確認する。
技術者の資格と経験は、配置の都度調べると間に合いません。人事台帳に「保有資格と取得日」「指定学科の卒業の有無」「業種別の実務経験年数」を項目として持ち、年1回は更新してください。
よくあるつまずき
- 下請だから非専任でよいと思い込む。自社の請負代金で判定します。元請の配置とは関係ありません。
- 税抜きで判定してしまう。消費税等を含む額で判断する扱いです。見積書の表記のまま判定すると誤ります。
- 追加工事で基準額を超えたことに気づかない。変更契約の決裁ルートに「技術者の専任要否の再判定」を組み込んでください。
- 近接した現場だから兼務できると自己判断する。密接な関係のある工事を同一または近接した場所で施工する場合の例外には、運用上の基準があります。工事の内容と距離だけで判断せず、根拠を確認してください。
- 営業所の専任技術者を現場に出す。その営業所の許可の維持に関わります。欠員が生じるときは、後任の選任と変更届の期限を先に確認してください。
- 出向者や派遣技術者を専任に充てる。直接的かつ恒常的な雇用関係が求められます。繁忙期の応援要員で埋めることはできません。
- 工期が延びて他現場に動かせなくなる。専任は工期の間続きます。延長の可能性がある工事は、次の配置予定を仮置きしておき、代替要員の候補を決めておいてください。
- 工事に着手する前や中断している期間の扱いを決めていない。発注者との間で書面により取扱いを明確にしておくべき場面があります。社内の契約書式に反映しているか確認してください。
専任の要否は、最終的には個別の契約と工事の内容で決まります。判断に迷う案件は、許可行政庁や発注者に照会し、回答を記録として残してください。社内の判断だけで進めると、後から配置のやり直しが必要になります。
よくある質問
Q. 専任が必要な金額の基準は、いまいくらですか
請負代金の基準額は政令で定められ、これまで改正によって引き上げられてきました。建築一式工事とそれ以外とで額が異なります。本記事では具体額を示していませんので、契約前に最新の政令と所管官庁の公表資料で確認してください。社内マニュアルに古い金額が残っていないかも、あわせて点検することをおすすめします。
Q. 当初は基準額未満だった工事が、追加工事で基準額を超えました。どうしますか
当初契約と変更契約を合計した額で判定しますので、超えた時点から専任の配置が必要になります。すでに配置している主任技術者が他現場を兼務している場合は、兼務を解くか、専任可能な技術者に交代させる必要があります。変更契約の決裁時に技術者の要否を再判定する手順を、社内のルールとして組み込んでください。
Q. 派遣や出向で受け入れている技術者を専任の主任技術者にできますか
専任で配置する技術者には、所属する建設業者との直接的かつ恒常的な雇用関係が求められます。労働者派遣で受け入れている技術者を充てることはできません。在籍出向については取扱いが分かれる場合がありますので、個別の事情を整理したうえで許可行政庁や発注者に確認してください。
Q. 専任の主任技術者は、現場を一歩も離れてはいけないのですか
専任は、他の工事現場の職務を兼ねず、継続的にその現場の職務に従事することを指します。常に現場に物理的に居続けることまでを一律に求めるものではなく、研修や休暇、所属会社での打ち合わせなど合理的な理由があり、現場との連絡体制が確保されていれば離れられると整理されています。ただし判断に幅があるため、社内で「離れてよい場面」と「連絡体制」の基準を文書にしておき、発注者の指示がある場合はそれに従ってください。
Q. 現場代理人と主任技術者は同じ人が兼ねてよいのですか
現場代理人は請負契約上の立場であり、建設業法上の技術者とは別のものです。契約で禁じられていなければ、同一人が兼ねることは妨げられません。公共工事では発注者の定める約款や特記仕様書に兼務の条件が書かれていることがありますので、契約書類で確認してください。
出典
- 建設業法
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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