人材開発支援助成金を建設業の教育にどう使うか
人事ノート建設業の人材育成は、技能講習や特別教育のように法令で受講が求められるものと、施工管理の育成やソフト操作のように自社の判断で行うものが混ざります。人材開発支援助成金は、この両方を対象にしうる制度ですが、コースが分かれているため「どの教育をどのコースで見るか」を最初に決めないと、手続きの順序を間違えます。
この記事では、コースの構成、建設業でよくある教育との対応、申請の流れ、社内で整える書類を、実務の順序で整理します。助成率や上限額はコース・企業規模・訓練内容で細かく分かれ、年度ごとに見直されることがあるため、金額は本記事では扱いません。必ず厚生労働省が公表する最新の資料と支給要領で確認してください。
助成金を探す前に決める3つのこと
助成金の名前から入ると、要件に合わせて教育の中身を曲げてしまいがちです。順序は逆にします。
- 教育の目的を一文で書きます。「未経験入社の施工管理を1年で現場担当にする」「有資格者を増やして受注できる工事の幅を広げる」など、成果の形まで書きます。
- 対象者の範囲を決めます。雇用保険の被保険者かどうかが分かれ目になります。役員、個人事業主、一人親方として請負契約で働く方は、原則として対象労働者になりません。
- 実施の形を決めます。社外の講習に出すのか、社内で講師を立てるのか、座学と現場での実習を組み合わせるのかで、見るコースが変わります。
この3つが決まってから、次の表でコースを当てます。
コースの構成と建設業での使いどころ
人材開発支援助成金は、訓練の性質ごとにコースが分かれています。建設業に関係の深いものを整理します。
| コース | 主に想定される訓練 | 建設業での使いどころの例 |
|---|---|---|
| 人材育成支援コース | 職務に関連した知識・技能の訓練。社外の研修受講、社内での訓練、現場での実習を組み合わせる型など | 未経験入社者への施工管理の基礎研修、積算・原価管理の研修、座学と現場実習の組み合わせ |
| 教育訓練休暇等付与コース | 有給の教育訓練休暇制度などを就業規則に定め、労働者が自ら学べるようにする | 資格取得の学習時間を確保する休暇制度の新設 |
| 人への投資促進コース | 定額制の研修サービスの利用、労働者の自発的な能力開発、長期の教育訓練休暇、デジタル分野の訓練など | 施工管理ソフトや設計系ソフトの操作研修、情報化施工に関わる人材の育成 |
| 事業展開等リスキリング支援コース | 新規事業や業態転換に伴い、新しい分野の知識・技能を身につける訓練 | 維持補修、再生可能エネルギー、不動産管理などへ事業を広げる際の訓練 |
| 建設労働者認定訓練コース | 職業能力開発促進法に基づく認定職業訓練 | 職業訓練校や技能士会が行う型枠、鉄筋、左官などの訓練への派遣 |
| 建設労働者技能実習コース | 技能の向上や安全衛生に関する実習 | 玉掛け、足場の組立て等作業主任者、車両系建設機械などの技能講習、各種の特別教育や安全衛生教育 |
| 障害者職業能力開発コース | 障害のある方に対する職業能力開発 | 職業能力開発施設等での訓練の実施 |
建設業向けの2つのコースは対象事業主が限定されます
建設労働者認定訓練コースと建設労働者技能実習コースは、中小建設事業主などを対象に置かれているコースです。雇用保険の保険料率が建設の事業として適用されているか、労災保険の適用がどうなっているかが判定に関わります。自社が対象に入るかどうかは、労働保険の申告内容を手元に置いて、都道府県労働局に確認するのが確実です。
また、技能実習コースは、事業所の規模や受講者の属性によって助成の区分が分かれる作りになっています。区分の内容は年度で変わることがあるため、実施年度のパンフレットと支給要領で必ず確認してください。
建設業でよくある教育と、見るコースの当て方
| 実施したい教育 | まず見るコース | 注意する点 |
|---|---|---|
| 技能講習、特別教育、安全衛生教育 | 建設労働者技能実習コース | 受講先が要件を満たす機関かどうかを申込み前に確認します |
| 訓練校での認定職業訓練 | 建設労働者認定訓練コース | 訓練が認定職業訓練に当たるかを訓練実施機関に確認します |
| 未経験の施工管理への座学と現場実習 | 人材育成支援コース | 実習部分の指導者と記録の付け方を先に決めます |
| 施工管理ソフト、図面・積算ソフトの操作研修 | 人材育成支援コース、人への投資促進コース | 研修サービスの契約形態でコースが変わります |
| 自発的な資格学習のための休暇制度 | 教育訓練休暇等付与コース | 就業規則への規定と届出が前提になります |
| 新分野への進出に伴う訓練 | 事業展開等リスキリング支援コース | 事業展開の内容を示す資料が必要になります |
資格試験の受験そのものや、受験手数料の扱いは、コースによって対象外とされる場合があります。受験対策の講座と受験申込みは別に考え、対象になるかを事前に労働局へ確認してください。
申請の流れ 誰が いつまでに 何をするか
細かな期限はコースと年度で異なりますが、大きな順序は共通です。訓練を始めてから申請することはできません。ここが最大の分岐点です。
| 段階 | 誰が | いつまでに | 何をするか |
|---|---|---|---|
| 1 社内の計画づくり | 経営層と人事 | 訓練の申込み前 | 事業内職業能力開発計画の作成、職業能力開発推進者の選任(コースにより必要) |
| 2 訓練内容の確定 | 人事と現場責任者 | 計画届の提出前 | 対象者、時間、実施場所、講師、経費の見積りを確定 |
| 3 計画の届出 | 人事 | 訓練開始前の所定の期日まで(原則として開始の一定期間前) | 訓練計画に関する届出書と添付書類を都道府県労働局へ提出 |
| 4 訓練の実施 | 現場と人事 | 訓練期間中 | 出席の記録、実習の記録、賃金の支払い、経費の支払いを証拠が残る形で行う |
| 5 支給申請 | 人事 | 訓練終了後の所定の期間内 | 支給申請書と添付書類を提出 |
| 6 審査と支給 | 労働局 | 申請後 | 追加資料の求めに対応し、支給決定を待つ |
3の提出期限と5の申請期間は、コースごとに定められています。実務では「訓練開始の1か月以上前」「訓練終了後2か月以内」といった目安で社内スケジュールを組み、実際の日数は実施年度の要領で確定させる進め方が安全です。年度をまたぐ訓練は、開始時点と終了時点で要領が変わることがあるため、着手前に労働局へ相談してください。
社内で先に整えておく書類と体制
- 事業内職業能力開発計画。自社の職務ごとに、どの段階でどの能力を身につけるかを書いた計画です。コースにより提出や作成が求められます。
- 職業能力開発推進者。社内で人材育成を進める担当者です。選任が求められるコースがあります。
- 就業規則。教育訓練休暇の制度を作る場合は、規定の追加と所轄の労働基準監督署への届出が前提になります。
- 出勤簿と賃金台帳。訓練を受けた時間と、その時間に賃金が支払われたことを示す資料です。現場ごとに様式がばらばらだと、審査で説明できません。
- 経費の証憑。受講料の請求書と、事業主名義で支払ったことが分かる記録を残します。
よくあるつまずき
- 訓練が始まってから相談する。 計画届が間に合わず、その訓練は対象外になります。技能講習は日程が先に埋まるため、受講申込みと同時に届出の準備を始めます。
- 対象にならない人を数に入れる。 役員、請負契約で働く方、雇用保険の被保険者でない方は原則として対象外です。名簿を作る段階で雇用保険の資格取得状況を突き合わせます。
- 受講料を受講者が立て替えたままにする。 事業主が負担したことが分かる形になっていないと、経費として認められない場合があります。立替えたときは、精算の記録まで残します。
- 訓練時間に現場作業をさせる。 座学の予定時間に急な応援へ出すと、記録と実態が合いません。訓練日は工程表に先に入れ、代替の人員を決めておきます。
- 実習の記録が空欄のまま終わる。 現場での実習を組み込む型では、指導者と受講者の双方が記録を残す運用が必要です。様式と記入のタイミングを事前に決めます。
- 労働保険料の未納や、他の助成金との重複を確認していない。 助成金には共通の不支給要件があります。申請前に、労働保険の納付状況と、同じ訓練で他の助成を受けていないかを確認します。
- 就業規則を変えたが届け出ていない。 制度を作るコースでは、規定の整備と届出がそろって初めて要件を満たします。
年度ごとの見直しに備える
コースの名称、区分、率や上限は、年度の改正で変わることがあります。人事側では次の運用にしておくと取りこぼしが減ります。
- 4月に、実施年度のパンフレットと支給要領を入手し、前年度からの変更点を1枚にまとめます。
- 年間の教育計画(技能講習の更新時期、新人研修の日程)を作り、それぞれに「見るコース」と「届出の締切」を書き込みます。
- 労働局の担当窓口を確認し、判断に迷う点は着手前に照会し、回答の日付と担当部署を記録します。
助成金は、教育を実施する理由にはなりません。まず育成の計画があり、その費用の一部を国が支援する順序です。自社の事情に当てはまるかどうかの最終判断は、実施年度の公表資料と都道府県労働局の回答に基づいて行い、個別の事案は社会保険労務士などの専門家に相談してください。
出典
- 厚生労働省「人材開発支援助成金」
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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