建設業許可の人に関する要件と欠員時の実務
人事ノート建設業の許可は、会社という器だけでは維持できません。許可の要件のうち相当部分が「人」に紐づいており、その人が辞めた日から、会社は要件を欠いた状態になります。採用と退職を扱う人事は、この構造を理解しておく必要があります。
この記事は、建設業法に定められた許可の要件のうち、人に関するものを、人事の実務の順序に並べ替えて整理したものです。数値や期限の細部は許可行政庁が公表する手引きで最新のものを確認してください。個別の判断は行政書士などの専門家や許可行政庁に相談することをおすすめします。
人に関する要件は4つに分けて考える
建設業法は、許可の基準として複数の要件を定めています。このうち人に関わるものを整理すると、次の4つになります。財産的基礎の要件は人に紐づかないため、ここでは扱いません。
| 要件 | 内容の要旨 | 担う人 | その人が欠けたときの影響 |
|---|---|---|---|
| 経営業務の管理を適正に行う能力 | 建設業の経営経験を持つ常勤役員等がいること | 常勤役員等(いわゆる経営業務の管理責任者) | 許可の要件を欠く。速やかな後任配置と届出が必要 |
| 専任技術者 | 営業所ごとに、資格または実務経験を満たす技術者を専任で置くこと | 各営業所の専任技術者 | その営業所で当該業種の許可を維持できなくなる |
| 誠実性 | 請負契約に関して不正または不誠実な行為をするおそれが明らかでないこと | 法人・役員等・令3条使用人 | 許可を受けられない、または維持できない |
| 欠格要件に該当しないこと | 法人、役員等、令3条使用人などが法定の欠格事由に当たらないこと | 法人・役員等・令3条使用人 | 許可の拒否または取消しの対象になり得る |
重要なのは、この4つが「採用・登用・退職・組織変更」のたびに揺れる点です。人事が動かす人が、そのまま許可の土台になっています。
なお、ここでいう「令3条使用人」とは、建設業法施行令第3条に定める使用人、つまり支店長や営業所長など、請負契約の締結について一定の権限を委任された者を指します。役員でなくても欠格要件などの確認対象になるため、支店長の任命は人事の管轄であっても許可の話として扱う必要があります。
常勤役員等(経営業務の管理責任者)
何が求められているか
建設業法は、経営業務の管理を適正に行うに足りる能力を有することを許可の基準としています。その具体的な基準は国土交通省令で定められており、代表的な形は、建設業に関して5年以上の経営業務の管理責任者としての経験を持つ常勤役員等が1人いる、というものです。
このほか、常勤役員等1人と、その者を直接補佐する者を組み合わせて基準を満たす形も設けられています。組み合わせの場合に求められる経験年数や補佐者の職務範囲は細かく定められているため、自社が該当しそうなときは許可行政庁の手引きで条件を確認してください。記憶で判断せず、必ず現行の基準に当ててください。
人事が確認すること
- 常勤であること。他社の常勤役員を兼ねている、遠隔地に居住していて通勤の実態が説明できない、といった場合は常勤性を疑われます。
- 常勤性を示す資料が揃うこと。健康保険の被保険者記録、賃金台帳、出勤の記録などが典型です。役員報酬が名目的な金額にとどまっていないかも見られます。
- 経営経験を示す資料が揃うこと。過去に在籍した会社の登記事項証明書(役員としての在任期間)、その会社の許可通知書、工事の契約書や注文書などです。個人事業主としての経験なら確定申告書が使われます。
採用で外部から招くときの注意
経営経験のある人を役員として招く場合、経験年数の証明は前職の会社の協力なしには揃わないことがあります。円満退職でない場合、必要書類が入手できず、要件を満たせないという事態が起こります。内定を出す前に、証明資料が揃うかどうかを本人と確認してください。この確認を後回しにすると、役員登記まで済ませてから要件を満たせないと分かる、という順序の誤りが起きます。
専任技術者
一般建設業と特定建設業の違い
専任技術者は、営業所ごと、かつ許可を受ける業種ごとに置く必要があります。求められる水準は、一般建設業と特定建設業で異なります。
| 区分 | 求められる水準の要旨 | 押さえどころ |
|---|---|---|
| 一般建設業 | 指定学科を卒業し所定年数の実務経験がある者、一定年数以上の実務経験がある者、または国家資格等を有する者 | 実務経験で満たす場合は年数の証明が重い |
| 特定建設業 | 1級の国家資格等を有する者、または一般の要件に加えて元請として一定の指導監督的実務経験を持つ者 | 指定建設業では資格等が必須となり、実務経験だけでは満たせない |
指定建設業に該当する業種では、実務経験による特定建設業の専任技術者は認められません。該当業種を扱う会社が特定建設業の許可を目指すなら、資格者の採用または社内育成が唯一の道になります。採用計画の前提としてここは早めに確認してください。
営業所に専任であること
専任技術者は、その営業所に常勤して専らその職務に従事することが求められます。したがって、原則として現場に配置する主任技術者や監理技術者と兼ねることはできません。近接した工事について例外的な取扱いが示されている場合がありますが、条件が細かいため、公表資料で確認してから運用してください。
現場配置の技術者のルール自体は許可の要件とは別の話です。混同すると、営業所の人員設計を誤ります。営業所に置く人と現場に置く人は、別々に数えてください。
実務経験で満たす場合の証明
実務経験で要件を満たす場合、その期間に携わった工事の内容と在籍先の証明が必要になります。前職での経験を含める場合は、前職の会社に証明を依頼することになります。ここでも、採用の段階で証明の見通しを確認しておくことが実務上の分かれ目です。加えて、経験期間が他の用途と重複して数えられないかどうかも確認が要ります。
誠実性と欠格要件
誠実性
建設業法は、請負契約に関して不正または不誠実な行為をするおそれが明らかな者でないことを許可の基準としています。判断は許可行政庁が行いますが、人事の側では、役員や営業所長の登用時に、過去の行政処分歴や重大な契約トラブルの有無を本人に確認する運用を持っておくと安全です。
欠格要件
建設業法第8条は、許可を受けられない場合を列挙しています。人事に関係が深いものを整理します。
| 類型 | 概要 |
|---|---|
| 破産 | 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者 |
| 許可の取消し | 許可を取り消され、一定期間を経過しない者 |
| 営業の停止 | 営業を停止されている期間中の者 |
| 刑罰 | 禁錮以上の刑に処され、その執行を終わった日等から一定期間を経過しない者 |
| 特定の法令違反 | 建設業法など定められた法令の違反による罰金刑を受け、一定期間を経過しない者 |
| 暴力団関係 | 暴力団員である者、暴力団員でなくなった日から一定期間を経過しない者など |
| 反社会的勢力による支配 | 暴力団員等がその事業活動を支配する者 |
経過期間の年数は法令に定めがありますので、該当しそうな事案があるときは条文と手引きで確認してください。ここを記憶で判断してはいけません。
重要なのは、この欠格要件が法人本体だけでなく、役員等や令3条使用人にも及ぶという点です。つまり、支店長を1人任命したことで会社全体の許可が危うくなる場合があり得ます。役員登用と営業所長の任命は、人事の承認プロセスに「許可要件のチェック」を組み込んでおいてください。
人が動いたときに何をするか
建設業法は、許可を受けた後に一定の事項が変わったときの届出を定めています。人に関する変更は特に期限が短いため、人事の処理と連動させる必要があります。
| 出来事 | 主な対応 | 期限の目安 |
|---|---|---|
| 常勤役員等(経営業務の管理責任者)の交代 | 変更の届出 | 2週間以内 |
| 専任技術者の交代、担当業種・営業所の変更 | 変更の届出 | 2週間以内 |
| 令3条使用人(支店長等)の交代 | 変更の届出 | 2週間以内 |
| 役員の就任・退任、商号・営業所の所在地の変更 | 変更の届出 | 30日以内 |
| 決算 | 事業年度終了後の変更の届出 | 事業年度終了後4か月以内 |
| 廃業等 | 廃業等の届出 | 30日以内 |
期限と様式は許可行政庁ごとに案内が出ています。社内の退職手続の書式に「許可要件に該当する人か」のチェック欄を入れると、届出漏れが減ります。退職届が人事に届いてから許可担当に伝わるまでに1週間かかると、2週間の期限はすぐに尽きます。
欠員が出たときの動き方
- 退職の申し出を受けた日に、その人が常勤役員等・専任技術者・令3条使用人のいずれかに該当するかを確認します。
- 該当する場合、最終出社日ではなく退任日を基準に期限を逆算します。
- 社内の有資格者・経験者リストから後任候補を選びます。候補者の常勤性と経験証明が揃うかを確認します。
- 後任が社内にいない場合、採用または他営業所からの異動を検討します。営業所の統廃合という選択肢もあります。
- 許可行政庁または顧問の専門家に、空白期間の扱いを相談します。
- 届出を提出し、社内の掲示物や名簿を更新します。
要件を満たさない状態が続けば、許可の取消しなど不利益な処分の対象になり得ます。「後任が見つかるまで様子を見る」は選択肢になりません。
よくあるつまずき
- 1人が経管と専技を兼ねている。この状態で本人が退職すると、2つの要件が同時に欠けます。兼務が認められる場合でも、後任は2人分探すことになると考えて備えてください。
- 専任技術者を現場の応援に出す。繁忙期に営業所の技術者を現場へ回すと、専任の要件と食い違います。人員が薄い営業所ほど起きやすい問題です。
- 役員登記だけ先に済ませる。経営経験の証明資料が揃わないまま登記すると、後戻りが難しくなります。
- 前職の証明が取れない。実務経験や経営経験を前職に依存している人を採用するときは、証明の可否を内定前に確認してください。
- 支店長の人事異動が許可担当に伝わらない。令3条使用人は営業部門の判断で動かされがちです。任命と解任を人事の承認フローに乗せてください。
- 社会保険の加入状況と常勤の主張が食い違う。常勤と主張する人が被保険者になっていないと、常勤性の説明が難しくなります。
- 定年到達の予定を許可の観点で見ていない。60代の経管が1人しかいない会社は、定年や再雇用の設計を許可の維持と合わせて考える必要があります。
- 休職・長期療養の扱いを決めていない。長期に職務を離れる場合の扱いは、許可行政庁に確認したうえで社内の判断基準を決めておいてください。
人事が持っておく仕組み
名簿を1枚にまとめる
常勤役員等、営業所ごとの専任技術者、令3条使用人を、氏名・生年月日・就任日・根拠となる資格または経験・後任候補の順で一覧にします。この1枚があるかどうかで、欠員時の初動の速さが変わります。人事情報として機微を含むため、閲覧範囲は限定してください。
年1回の点検
事業年度終了後の届出の準備に合わせて、次を点検します。
- 名簿の内容が現状と一致しているか。
- 今後3年以内に定年や退職が見込まれる該当者がいるか。
- 後任候補が各ポストに1人以上いるか。いない営業所はどこか。
- 特定建設業を維持している業種で、資格者が1人しかいない状態になっていないか。
- 役員と令3条使用人について、欠格要件に関わる事情の申告を受けているか。
実務経験の記録を残す
将来の専任技術者候補が社内にいるなら、担当した工事の内容と期間を継続的に記録しておいてください。証明が必要になった時点で過去をたどるより、日々の記録の方が確実です。技術者の育成計画とあわせて設計すると無駄がありません。
採用要件に反映する
専任技術者が手薄な営業所があるなら、その営業所の求人票では、必要な資格を「歓迎」ではなく要件として明記する判断もあり得ます。ただし、資格を必須にすると母集団は狭まります。許可維持のために今すぐ必要なのか、育成でも間に合うのかを分けて考えてください。
まとめ
建設業許可の人に関する要件は、常勤役員等、専任技術者、誠実性、欠格要件の4つです。いずれも特定の個人に紐づいており、人事の判断がそのまま許可の維持につながります。名簿、年1回の点検、退職手続へのチェック欄という3つの仕組みを持てば、欠員が出ても慌てずに済みます。細かい基準や期限は許可行政庁の公表資料で確認し、判断に迷う事案は専門家に相談してください。
出典
- 建設業法
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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