高年齢者雇用確保措置の実務と建設業での論点
人事ノート建設業では、60歳を超えても現場や技術部門で中心的な役割を担う社員が少なくありません。資格と経験を持つ人材が定年で一斉に抜けると、配置できる技術者が足りなくなります。高年齢者の雇用は、法令対応というだけでなく、施工体制を維持するための人員計画そのものです。
この記事では、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律に定められた措置を、人事が動く順序に並べ替えて整理します。個別の事案の当てはめは、社内規程と実際の勤務実態によって結論が変わります。判断に迷う場面は、社会保険労務士や弁護士、許可行政庁に確認してください。
まず全体像を押さえる 65歳までと70歳まで
法律が事業主に求めているものは、大きく三つに分かれます。定年年齢の下限、65歳までの雇用確保措置、70歳までの就業確保措置です。義務の強さが違うので、混同しないことが出発点になります。
| 区分 | 内容 | 義務の強さ | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 定年年齢の下限 | 定年を定める場合、60歳を下回ることはできない | 義務 | 同法第8条 |
| 65歳までの雇用確保措置 | 定年の引上げ、継続雇用制度の導入、定年の定めの廃止のいずれかを実施する | 義務 | 同法第9条 |
| 70歳までの就業確保措置 | 上記に加え、他の事業主による継続雇用や創業支援等措置を含む選択肢から実施する | 努力義務 | 同法第10条の2 |
65歳までは「希望者全員」が対象です。ここが最も重要な線引きです。健康状態や勤務成績を理由に、会社側が自由に選別することはできません。一方で70歳までの措置は努力義務であり、対象者を限定する基準を設ける余地があります。
2025年4月からは経過措置が使えません
継続雇用制度には、かつて労使協定で対象者の基準を定めていた事業主向けの経過措置がありました。老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢に合わせて、基準を段階的に適用できる仕組みです。この経過措置は2025年3月31日で終了しました。2025年4月1日以降は、経過措置に依拠した選別基準は使えません。
就業規則に「継続雇用は労使協定の基準を満たす者に限る」といった条文が残っている会社は、まずそこを確認してください。運用では希望者全員を再雇用していても、規程の文言が古いままというケースは実際にあります。
継続雇用制度を設計する手順
三つの選択肢のうち、多くの会社が選ぶのは継続雇用制度です。定年は60歳のままにして、定年後に再雇用する形が中心になります。導入と見直しの手順を、社内でそのまま使える形に並べます。
- 対象者を洗い出す(人事、着手はすぐ)。60歳以上の在籍者と、今後5年間で定年に到達する社員を一覧にします。保有資格、担当現場、後任の有無まで書き込みます。
- 現行規程を点検する(人事、1か月以内)。定年年齢、継続雇用の対象範囲、契約期間、更新の上限年齢を確認します。経過措置に基づく基準が残っていないかを見ます。
- 措置の型を決める(経営、規程改定の3か月前まで)。定年引上げ、継続雇用、定年廃止のどれにするかを決めます。技術者の常勤性を重視するなら定年引上げが扱いやすい場合もあります。
- 賃金と職務を設計する(人事と各部門、同時期)。職務内容、勤務日数、賃金テーブル、賞与や手当の扱いを決めます。職務が変わらないのに賃金だけ大きく下げる設計は、紛争になりやすい点に注意します。
- 就業規則を変更し届け出る(人事)。労働者代表の意見を聴き、意見書を添えて所轄の労働基準監督署へ届け出ます。再雇用者用の別規程を作る場合も同じ手続きが必要です。
- 本人面談の時期を規定化する(人事、定年の6か月前などを目安に)。希望の有無、勤務日数、担当業務を確認し、記録に残します。
- 労働条件を書面で示す(人事、契約開始前)。契約期間、更新の判断基準、職務内容、就業場所、賃金を明示します。再雇用は新たな労働契約なので、明示は必須です。
- 配置と安全衛生を確認する(各部門と安全担当、契約開始前)。作業内容、高所作業や暑熱環境の有無、健康診断結果を踏まえて配置を決めます。
- 報告義務に対応する(人事、毎年)。高年齢者の雇用状況について、毎年6月1日現在の状況を報告する義務があります。対象となる企業規模と提出期限は、毎年の案内と公表資料で確認してください。
継続雇用しないことが認められる場合
希望者全員が対象とはいえ、例外がないわけではありません。就業規則に定める解雇事由または退職事由に該当する場合は、継続雇用しないことが認められると整理されています。ただし、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められます。単に「勤務評価が低い」「上司との相性が悪い」といった理由では足りません。適用を検討する場面は、必ず事前に専門家へ相談してください。
グループ会社での継続雇用
自社ではなく、子会社や関連会社で継続雇用する方法も認められています。この場合、特殊関係事業主にあたることと、事業主間で継続雇用についての契約を結んでいることが前提です。建設業では、施工会社と設備会社、管理会社などをグループで持つ例があります。どの会社で受け入れるかを決めたら、契約書の整備まで進めてください。
70歳までの就業確保措置の選択肢
70歳までの措置は努力義務ですが、人材確保の観点で先に手を打つ会社も増えています。選択肢は次のとおりです。
| 選択肢 | 概要 | 実施前に必要なこと |
|---|---|---|
| 定年の70歳までの引上げ | 定年年齢そのものを引き上げる | 就業規則の変更と届出 |
| 定年の定めの廃止 | 定年を設けない | 就業規則の変更と届出 |
| 70歳までの継続雇用制度 | 定年後に自社で再雇用する | 就業規則の変更と届出、対象者基準を設ける場合は労使での協議 |
| 他の事業主による継続雇用 | 特殊関係事業主に限らず、他社で雇用する | 受入先との契約締結 |
| 創業支援等措置 | 業務委託契約を結ぶ、または社会貢献事業に従事してもらう | 計画の作成、過半数労働組合または過半数代表者の同意、労働者への周知 |
創業支援等措置は雇用ではありません。労働基準法上の労働者としての保護が及ばない働き方になるため、導入には計画の作成と労使の同意という手続きが定められています。安易に業務委託へ切り替えると、実態が指揮命令下の労働であるとして労働者性を問われる可能性があります。建設業では作業の指示が細かくなりがちなので、この点は特に慎重に検討してください。
あわせて、高年齢者の雇用を推進する担当者を選任することが努力義務とされています。人事部門の誰が窓口になるかを決めておくと、面談や報告の運用が回りやすくなります。
建設業で先に確認したい四つの論点
専任技術者や技術者要件との整合
建設業許可の専任技術者には常勤性が求められます。継続雇用にあたって勤務日数を大きく減らしたり、業務委託に切り替えたりすると、常勤の要件を満たさなくなる場合があります。専任技術者や経営業務の管理を担う立場の社員を継続雇用する場合は、人事制度を決める前に、建設業法上の要件と許可行政庁の取扱いを確認してください。経営事項審査の技術職員の評価にも関わります。
現場配置と専任のルール
監理技術者や主任技術者として配置する場合、専任が必要な工事では他の現場との兼務ができません。週3日勤務のような設計にすると、配置できる現場が限られます。継続雇用者を「現場配置の技術者」として使うのか、「若手の指導と社内検査の担当」として使うのかを、契約前に決めておくことが実務上の分かれ目になります。
安全衛生と職務の再設計
高所作業、重量物の取扱い、暑熱環境での作業は、加齢による身体機能の変化が事故につながりやすい領域です。健康診断の結果と本人の申告を踏まえ、作業内容の見直し、休憩の確保、単独作業を避ける配置などを検討します。措置の具体的な内容は、安全衛生の所管が示す公表資料で確認してください。制度として継続雇用を用意しても、安全配慮が伴わなければ長く働いてもらえません。
技能と経験の引き継ぎ
継続雇用の期間は、技能承継のための期間でもあります。担当してきた工種、協力会社との関係、過去のトラブル対応の記録を、後任に渡す仕組みを作ります。CCUS に技能者の就業履歴と保有資格を蓄積しておくと、誰がどの経験を持つかを社内で共有しやすくなります。
離職する場合の援助措置
高年齢者が離職する場面についても定めがあります。解雇などの理由で離職する45歳以上65歳未満の労働者が希望した場合、求職活動支援書を作成して交付するなどの再就職援助措置に努めることが求められます。また、同一の事業所で一定人数以上が短期間に離職する場合には、ハローワークへの届出が必要です。対象となる人数と期間、様式は公表資料で確認してください。
募集や採用で年齢制限を設ける場合に理由の提示が必要になる点も、この法律に関係します。求人票の表現は別の記事で扱っていますので、あわせて確認してください。
よくあるつまずき
- 就業規則の文言が古い。運用は希望者全員でも、規程に旧経過措置の基準が残っている状態です。労働基準監督署の調査や助成金の申請時に指摘されます。
- 再雇用の労働条件を口頭で済ませる。契約期間、更新の判断基準、職務内容、賃金を書面で示していないと、更新をめぐって争いになります。
- 職務が変わらないのに賃金だけ下げる。役割と責任を見直さずに賃金だけ下げる設計は、本人の納得を得られません。担当範囲と権限を文書で整理してから、賃金を決めてください。
- 有期契約の更新を漫然と続ける。定年後の継続雇用者と無期転換ルールの関係には特例があり、手続が必要です。要件は労働契約法と関連法令の公表資料で確認し、必要な認定を受けているかを点検してください。
- 配置の前提を確認していない。専任技術者の常勤性や現場専任のルールを踏まえずに勤務日数を決めると、後から配置を組み替えることになります。
- 本人の希望を聞く時期が遅い。定年の直前に面談すると、後任の育成や採用の準備が間に合いません。定年の6か月前など、面談時期を規程に書いておきます。
社内で決めておくこと
最後に、人事が答えを持っておくべき項目を挙げます。空欄が多いなら、制度の見直しから始めるのが順序です。
- 定年年齢と、65歳までの措置としてどの型を採用しているか。
- 継続雇用の対象範囲と、規程上の文言が現行法に合っているか。
- 再雇用時の職務、勤務日数、賃金の決め方と、決定権を持つ部署。
- 定年前の面談時期と、面談記録の保管場所。
- 専任技術者や現場配置に影響する社員の一覧と、代替の配置案。
- 70歳までの措置を導入するかどうかの方針と、検討の期限。
- 高年齢者の雇用状況報告の担当者と、毎年の対応時期。
制度は、規程を直しただけでは動きません。誰がいつ面談し、どの部署が配置を決め、どこに記録を残すかまで決めることが、実務としての対応になります。
出典
- 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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