障害者雇用率の算定と達しないときの手続き
人事ノート障害者雇用率は、計算式そのものは単純です。つまずくのは、分母に入れる労働者の範囲、分子のカウント方法、そして建設業に関わる除外率の扱いです。ここを間違えると、報告した実雇用率も、納付金の申告額も合わなくなります。この記事では、算定の順序と、達しなかったときに何が起きるかを、実務の流れに沿って整理します。
まず確認する3点
人事が着手するときは、次の3点を先に押さえます。順番を入れ替えると手戻りが出ます。
- 自社が制度の対象か:法定雇用率の適用を受ける事業主は、常時雇用する労働者数が一定以上の企業です。この人数は法定雇用率から逆算して決まるため、率が引き上げられると対象になる企業の範囲も広がります。
- 適用される法定雇用率は何%か:法定雇用率は政令で定められ、段階的に引き上げられてきました。算定しようとしている時点でどの率が適用されるかは、厚生労働省の公表資料で必ず確認してください。引き上げの切り替え時期をまたぐ年度は、報告と納付金で前提となる率が異なる場合があります。
- 除外率の対象事業所があるか:建設業は、障害者の就業が一般に困難と認められる業種として除外率が設定されている業種に含まれます。ただし除外率は段階的に引き下げられてきており、現在適用される率は公表資料で確認が必要です。
算定は企業単位で行います。本社、支店、営業所、作業所をすべて合算した数字で判断します。支店ごとに達成しているかどうかを見ても意味がありません。
分母の数え方(常時雇用する労働者)
分母になるのは「常時雇用する労働者」です。正社員だけではありません。
- 1年を超えて雇用される見込みの者、または過去1年を超えて継続して雇用されている者が対象です。
- 1週間の所定労働時間が30時間以上の労働者は1人、20時間以上30時間未満の短時間労働者は0.5人として数えます。
- 週20時間未満の労働者は、分母には算入しません。
建設業で判断に迷いやすいのは、現場の技能労働者と出向者です。
| 対象 | 分母に入れるかどうかの考え方 |
|---|---|
| 有期契約の技能労働者 | 契約が反復され1年を超えて雇用される見込みがあれば算入する |
| 工事単位の短期雇用 | 1年を超える見込みがなければ算入しない |
| 在籍出向者 | 雇用関係や賃金の負担状況で判断が分かれるため、ハローワークに確認する |
| 役員 | 労働者性がなければ算入しない(使用人兼務役員は実態で判断) |
| 派遣で受け入れている人 | 派遣元の労働者として扱われ、受入先の分母には入れない |
「現場の応援で来ている人」「下請の作業員」を自社の数に含めてしまう誤りが実際に起きます。雇用契約の相手が誰かで切り分けてください。
分子の数え方(対象障害者のカウント)
分子は、雇用している対象障害者の数です。所定労働時間と障害の種類・程度でカウントが変わります。
| 区分 | 週30時間以上 | 週20時間以上30時間未満 | 週10時間以上20時間未満 |
|---|---|---|---|
| 身体障害者 | 1 | 0.5 | 算入しない |
| 重度身体障害者 | 2 | 1 | 0.5 |
| 知的障害者 | 1 | 0.5 | 算入しない |
| 重度知的障害者 | 2 | 1 | 0.5 |
| 精神障害者 | 1 | 0.5(※) | 0.5 |
※精神障害者である短時間労働者については、当分の間1人としてカウントする特例が設けられています。適用の要件と期間は変更されることがあるため、算定時点の公表資料で確認してください。
週10時間以上20時間未満のいわゆる特定短時間労働者を0.5として算入できるのは、重度身体障害者、重度知的障害者、精神障害者に限られます。この区分の人は分母には入らず分子にだけ入るため、短時間での雇入れを検討する価値があります。
対象障害者であることの確認は、原則として身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳などによります。手帳に有効期限がある場合、基準日の時点で有効であることが必要です。更新が遅れていて基準日時点で失効していた、という取りこぼしは珍しくありません。手帳情報は機微な個人情報です。収集・保管・利用は本人の同意を得て、目的を伝えたうえで行ってください。
実雇用率の計算と除外率
基本の式は次のとおりです。
- 実雇用率=対象障害者である労働者の数 ÷ 常時雇用する労働者の数
- 法定雇用障害者数=常時雇用する労働者の数 × 法定雇用率(端数は切り捨て)
除外率が設定されている業種の事業所については、その事業所の常時雇用労働者数に除外率を掛けた人数を分母から控除します。ここで押さえておくべき点が2つあります。
- 除外率は事業所単位で、その事業所が営む業種に応じて適用します。本社が建設業だからといって、業種の異なる事業所まで一律に適用することはできません。
- 除外率は分母を小さくするため、必要な雇用障害者数が減ります。結果として、未達の場合の不足数にも影響します。
適用できる除外率の具体的な数値は、引き下げが行われてきた経緯があるため、算定時点の公表資料で確認してください。
毎年6月1日現在の報告
法定雇用率の適用を受ける事業主は、毎年6月1日現在の障害者の雇用状況を、管轄のハローワークに報告する義務があります。いわゆる「6月1日報告」です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 誰が | 常時雇用する労働者数が基準以上の事業主(企業単位) |
| いつの状況を | 毎年6月1日現在 |
| いつまでに | 例年7月中旬が期限。年度ごとの期限はハローワークの案内で確認する |
| どこへ | 本社を管轄するハローワーク |
| 何を | 労働者数、対象障害者数、実雇用率、不足数など |
実務の段取りは次のとおりです。
- 5月中に、6月1日時点で在籍見込みの労働者名簿を部門別・所定労働時間別に出す。
- 対象障害者の手帳の種類、等級、有効期限、所定労働時間を一覧にする。
- 事業所ごとに業種を確認し、除外率の適用対象を切り分ける。
- 分母・分子を計算し、法定雇用障害者数と不足数を出す。
- 報告書を作成し、期限までに提出する。
- 計算の根拠資料は、翌年度以降の納付金申告や監査に備えて保存する。
納付金・調整金の申告
障害者雇用納付金制度は、雇用率を達成している事業主と、そうでない事業主との経済的な負担を調整する仕組みです。
- 常時雇用する労働者が一定数を超える事業主は、法定雇用率に不足する人数に応じて納付金を納めます。不足1人につき月額5万円が基本です。
- 法定雇用率を超えて雇用している場合は、調整金または報奨金の支給申請ができます。単価と、支給対象人数が一定を超えた部分の支給調整については、見直しが行われているため、申告の年度に適用される金額を公表資料で確認してください。
- 申告・申請の窓口は独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構です。前年度分について、年度明けの一定期間に申告します。期限は機構の案内で確認してください。
納付金の申告は、未達であっても義務です。 納付金を納めれば雇用義務を果たしたことになる、という理解は誤りです。申告をしなかったり、事実と異なる申告をしたりした場合は、追徴金が課されることがあります。
達しないときに何が起きるか
雇用率が低い状態が続くと、行政指導が段階的に進みます。おおむね次の流れです。
- 雇入れ計画の作成命令:実雇用率が著しく低い事業主に対し、ハローワークから2年間の障害者雇入れ計画の作成が命じられます。始期と提出期限は命令書で示されます。
- 計画の実施:計画に沿って採用と定着を進めます。ハローワークから進捗の確認や助言が入ります。
- 適正実施勧告:計画の実施状況が悪い場合、勧告が行われます。
- 特別指導:勧告後も改善が見られない場合、一定期間の特別指導が行われます。
- 企業名の公表:それでも改善しない場合、企業名が公表されることがあります。
公共工事の受注を主とする企業にとって、企業名の公表は採用面にも取引面にも影響します。計画作成命令を受けた段階で、採用計画、配属先、業務の切り出しを経営層を含めて決める体制に切り替えてください。
雇用したあとに続く手続き
雇入れて終わりではありません。障害者雇用促進法は、雇用後にも事業主の義務を定めています。
| 事項 | 内容 |
|---|---|
| 障害者職業生活相談員 | 一定数以上の障害者を雇用する事業所で選任し、ハローワークに届け出る。資格認定講習の受講が必要 |
| 障害者雇用推進者 | 法定雇用率の適用を受ける事業主の努力義務。報告や計画の担当窓口になる |
| 解雇の届出 | 障害者を解雇する場合、原則としてハローワークへの届出が必要 |
| 合理的配慮 | 募集・採用時および採用後に、過重な負担にならない範囲で必要な措置を講じる |
| 差別の禁止 | 障害を理由とする不当な差別的取扱いの禁止 |
選任の人数基準や届出の期限は、事業所の状況によって異なります。該当しそうな場合は、ハローワークの案内で確認してください。
よくあるつまずき
- 工事ごとの短期雇用を一律に分母から外す:契約が更新され結果的に1年を超えている場合は算入が必要です。契約書の形式ではなく、更新の実態で判断します。
- 手帳の有効期限を管理していない:精神障害者保健福祉手帳には有効期限があります。基準日時点で失効していると算定できません。更新時期を人事側でも把握しておきます。
- 除外率を企業全体に掛けてしまう:除外率は事業所単位で、その事業所の業種に応じて適用します。不動産管理部門や設計部門など、業種が異なる事業所の扱いを分けてください。
- 採用だけ進めて業務の切り出しをしない:配属先の業務が決まらないまま入社日を迎え、早期離職につながる例があります。計画作成命令への対応でも、定着までを計画に含めます。
- 納付金の申告を失念する:未達の年度こそ申告が必要です。年度明けの手続きとして、年間の人事カレンダーに入れておきます。
- 手帳情報を無断で収集する:本人の同意を得ず、利用目的も示さずに収集すると別の問題になります。社内の取扱いルールを先に決めてください。
障害の状況や職務内容は個別性が高く、算定や配慮の判断に迷う場面があります。判断に迷うときは、ハローワークや障害者職業センター、社会保険労務士など専門家に相談してください。
よくある質問
Q. 現場に入っている下請会社の作業員や派遣社員は、自社の労働者数に含めますか
含めません。算定の対象は自社と雇用契約がある労働者です。下請会社の労働者はその会社の算定に、派遣社員は派遣元の算定に含まれます。ただし在籍出向者の扱いは雇用関係や賃金負担の実態で判断が分かれるため、管轄のハローワークに確認してください。
Q. 障害者手帳を持っていない従業員でも、雇用率に算入できますか
原則として算入できません。算定の対象になるのは、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳などで確認できる人です。知的障害については判定機関の判定書で確認する方法もあります。手帳がない場合でも、助成金や支援制度の対象になることがあるため、個別の制度要件を公表資料で確認してください。
Q. 納付金を納めれば、雇用義務を果たしたことになりますか
なりません。納付金は、達成企業との経済的な負担を調整するための仕組みであり、雇用義務を免除するものではありません。実雇用率が低い状態が続けば、雇入れ計画の作成命令、勧告、特別指導、企業名の公表という段階を進むことがあります。納付と並行して採用と定着の計画を進める必要があります。
Q. 週10時間程度の短時間でも雇用率に算入できると聞きましたが、誰でも対象ですか
誰でも対象というわけではありません。週10時間以上20時間未満の区分で0.5として算入できるのは、重度身体障害者、重度知的障害者、精神障害者に限られます。身体障害者や知的障害者で重度に該当しない場合は、この区分では算入できません。適用の詳細は公表資料で確認してください。
Q. 期の途中で雇用率が達成できなくなった場合、すぐに報告が必要ですか
毎年の雇用状況報告は6月1日現在の状況について行うもので、期中の変動をその都度届け出る仕組みではありません。ただし障害者を解雇する場合は、ハローワークへの届出が別途必要です。納付金の申告は月ごとの状況を積み上げて計算するため、期中の退職や所定労働時間の変更も記録に残しておいてください。
出典
- 障害者雇用促進法
本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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