#制度・助成金2026.11.01 公開読了 約10分建設タレントサーチ 人事ノート 編集部

職業能力開発促進法が求める能力開発の実務

職業能力開発促進法は、事業主に対して労働者の能力開発を図るよう求めています。多くは努力義務ですが、事業内職業能力開発計画の作成や職業能力開発推進者の選任など、実務で形にすべき項目があります。建設会社の人事が何を、いつまでに、誰が担うかの順序で整理します。

情報の基準日
2026.10.31
制度・助成金

職業能力開発促進法が求める能力開発の実務

人事ノート

建設会社の人事担当者から、「教育訓練は安全衛生法の義務教育だけやっていればよいのか」という質問をよく受けます。答えは「それだけでは足りない」です。労働安全衛生法とは別に、職業能力開発促進法が事業主に対して、雇用する労働者の職業能力の開発と向上を図るよう求めているからです。

この法律が求める内容の多くは努力義務です。罰則がないため後回しになりがちですが、計画や推進者の有無が社内の人材育成の土台になり、助成金や各種の認定で取組状況を問われる場面もあります。ここでは、法律が求めている方向を実務の順序に並べ替えて説明します。

1. この法律が事業主に求めていることの全体像

職業能力開発促進法は、労働者が職業生活の全期間を通じて段階的かつ体系的に職業能力を開発できるようにすることを目的としています。そのうえで、事業主に対して、雇用する労働者の職業能力の開発と向上を図ることを責務として定めています。労働者の側にも、自ら職業能力の開発と向上に努めることが求められています。

実務で押さえるべき点は、次の3つです。

  • 教育訓練は「やりたい会社がやるもの」ではなく、法律上、事業主が努めるべきものとして位置づけられている
  • 単発の研修ではなく、職務に必要な能力を段階的に身につけさせる「体系」をつくることが求められている
  • 会社が与える訓練だけでなく、労働者が自分で学ぶことへの援助も求められている

なお、条番号は改正によって変わることがあります。社内規程や申請書類に条番号を記載する場合は、必ず最新の条文で確認してください。

2. 努力義務の中身を分解する

法律が求めている事項を、建設会社の実務に落とし込むと次のようになります。

法が求めている方向建設会社での具体化主な担当着手の時期
必要な職業訓練の実施、訓練機会の確保施工管理職・技能職それぞれの年間教育計画、外部講習の受講枠の確保人事・教育担当年度計画の策定時
事業内職業能力開発計画の作成と周知職種別・段階別の能力一覧と訓練体系を1つの文書にまとめ、社内に掲示・配付人事責任者年度開始前
職業能力開発推進者の選任教育訓練に関する決定権のある管理職を選任し、社内に周知経営者・人事計画の作成と同時
自発的な能力開発への援助有給教育訓練休暇、始業終業時刻の変更、受講費用の負担、資格手当人事・各部門長就業規則の見直し時
キャリアコンサルティングの機会の確保年1回以上の面談、外部の有資格者の活用人事・推進者評価面談と同じ時期
職務経歴等の記録の作成支援経験工種・資格・受講歴を本人が記録できる様式の配付人事入社時と年1回の更新
職業能力の適正な評価技能検定、施工管理技士、CCUSの能力評価の活用人事・工事部門評価制度の改定時

努力義務は「守らなくてよい」という意味ではありません。取組をしていないこと自体で直ちに処分を受ける性質のものではありませんが、計画や推進者の存在が助成金の支給要件や加算の判断材料になることがあります。助成金ごとの要件は、それぞれの公表資料で確認してください。

3. 事業内職業能力開発計画をつくる手順

事業内職業能力開発計画は、社内の職業訓練について基本となる方針と体系を定めた文書です。様式が一律に決まっているわけではありませんが、次の順序で作ると実務に耐える形になります。

  1. 職種を区分する。 施工管理、設計・積算、技能職、営業、事務といった単位で分けます。建設会社では、同じ「技術者」でも土木と建築で必要な資格が違うため、必要なら細分します。
  2. 職種ごとに能力の段階を決める。 補助者、担当者、主任者、責任者のように3〜5段階に分けます。段階ごとに「一人で何ができる状態か」を1行で書きます。
  3. 段階ごとに必要な資格と経験を書き出す。 2級・1級施工管理技士、技能検定、主任技術者として配置できる状態、CCUSのレベルなど、外から確認できる指標を入れます。
  4. 訓練の手段を割り付ける。 現場での指導(OJT)、社外講習、通信教育、資格取得支援のどれで身につけさせるかを決めます。現場での指導は、誰が指導担当かを決めないと実行されません。
  5. 実施時期と費用負担を書く。 受講が繁忙期と重ならないように、年度のどこで実施するかを明記します。費用の会社負担の範囲も書きます。
  6. 評価と処遇への反映を書く。 段階が上がったときに等級や手当がどう変わるかを示します。ここが空欄だと、計画は読まれません。
  7. 推進体制を書く。 職業能力開発推進者の氏名・役職、各部門の担当、計画の見直し時期を記載します。
  8. 周知する。 作っただけで共有されていない例が非常に多いです。掲示、配付、入社時説明のいずれかで、全員が見られる状態にします。

最初から完璧なものを目指す必要はありません。A4で数枚、職種は2〜3区分から始めて、年度ごとに更新していく形で十分です。

4. 職業能力開発推進者の選任

事業主は、事業内職業能力開発計画の作成と実施、労働者からの相談対応などを担う職業能力開発推進者を選任するよう求められています。

選任で迷いやすい点を整理します。

  • 誰を選ぶか。 教育訓練の実施について社内で判断できる立場の人が適しています。人事部長、総務部長、工事部門の責任者などです。権限のない担当者を名ばかりで置くと機能しません。
  • 何人置くか。 事業所ごとに置く考え方が基本です。支店や営業所が複数ある会社では、本社だけでなく拠点ごとに置くかを検討します。
  • 何をするか。 計画の作成と実行管理、社内の訓練情報の取りまとめ、労働者からの相談の受付、外部の訓練機関や行政との連絡です。
  • 手続きはあるか。 選任したことを所定の先に連絡する運用が設けられている場合があります。連絡先や様式は、都道府県の職業能力開発協会や労働局の公表資料で確認してください。

選任したら、社内の掲示物や就業規則の付属文書に氏名と連絡先を書いてください。誰に相談すればよいか分からない状態では、置いていないのと変わりません。

5. 自発的な能力開発への援助

法律は、労働者が自ら職業能力の開発に取り組む場合に、事業主がそれを援助するよう求めています。援助の手段は複数あり、自社でできるものから就業規則に書いていきます。

援助の手段内容建設業での使いどころ
有給教育訓練休暇教育訓練を受けるための有給の休暇。年次有給休暇とは別に設ける施工管理技士の試験日、長期の講習期間
始業・終業時刻の変更受講日に合わせて勤務時間をずらす夕方からの講座、土曜開催の講習
所定外労働の免除、勤務時間の短縮受験期や受講期間中の残業を外す試験直前期の現場配置の調整
費用の援助受講料、受験料、教材費、交通費の負担資格取得支援規程での上限設定
情報の提供と相談受講できる講座、試験日程、社内の支援制度の案内年度初めの一斉案内

費用を会社が負担する場合、退職時の取扱いをどうするかという論点が出ます。返還を求める取決めは、内容によって有効性の判断が分かれます。個別の設計は社会保険労務士や弁護士に相談してください。

また、講習や研修の受講時間が労働時間にあたるかどうかは、受講が業務命令か自由参加かなどによって判断が分かれます。制度を作る前に、自社の運用がどちらに当たるかを整理しておいてください。

6. キャリアコンサルティングと職務経歴の記録

法律は、労働者の職業生活の設計を支援するため、キャリアコンサルティングの機会を確保することや、職務の経歴や能力を記録する書面の作成を支援することを、事業主に求めています。

建設業では、次のように運用すると実態に合います。

  • 面談の時期。 年1回の評価面談と別枠にすると負担が大きいため、評価面談の後半30分をキャリアの話に充てる形が現実的です。評価の話と混ぜると本音が出にくいので、「ここからは評価と関係のない話」と区切ります。
  • 話す内容。 これまで経験した工種・工事規模、次に経験したい分野、取得したい資格、転勤や現場勤務の希望です。
  • 記録の様式。 経験した工事の名称と役割、保有資格、受講した講習、自己評価を1枚にまとめた様式を会社が用意し、本人が年1回更新します。
  • CCUSとの関係。 CCUSには就業履歴と保有資格が蓄積されますが、どんな役割で何を担ったかという本人の記述は残りません。両方を併用すると、配置検討と育成の判断材料がそろいます。

面談を担当する人は、社内の管理職でもかまいません。より専門的な対応が必要な場合は、国家資格を持つキャリアコンサルタントに外部委託する方法もあります。

7. 法定の義務教育との切り分け

能力開発の話をするとき、安全衛生の義務教育と混同されることがあります。性質が違うので、社内の説明では分けてください。

区分根拠性質実施しない場合
雇入れ時教育、作業内容変更時教育、特別教育、職長教育労働安全衛生法義務法違反となる
事業内職業能力開発計画、推進者の選任、自己啓発援助職業能力開発促進法努力義務直ちに罰則の対象ではない

実務では、義務教育を計画の土台に置き、その上に資格取得と技能向上の体系を積む形にします。義務教育の実施記録は保存が必要ですから、能力開発計画の進捗管理と同じ台帳で管理すると二度手間が減ります。

8. 年間の段取り

時期やること担当
年度開始の2〜3か月前前年度の受講実績と資格取得実績を集計し、計画を見直す人事・推進者
年度開始前事業内職業能力開発計画を確定し、周知する。推進者の交代があれば更新人事責任者
年度初め受講案内の一斉配付、資格試験の日程共有、受験者の把握人事
四半期ごと受講状況と現場配置の突き合わせ、未受講者のフォロー推進者・部門長
評価面談の時期キャリアに関する面談、職務経歴の記録の更新部門長・人事
年度末取得資格の反映、等級・手当の見直し、翌年度の予算要求人事・経営

9. よくあるつまずき

  • 計画が研修一覧表になっている。 講座名と日程を並べただけでは、どの段階の人が何を受けるべきか分かりません。能力の段階と訓練を結びつけてください。
  • 推進者を選任したが社内で誰も知らない。 書類上だけの選任は機能しません。氏名と役割を掲示してください。
  • 現場での指導が記録に残らない。 誰が誰を指導したかを残さないと、育成の進み具合が見えません。月次の現場報告に1行の指導記録欄を設けると続きます。
  • 受講時間の労働時間性を整理していない。 休日の講習を自由参加と称して実質的に強制している例は、後から未払いの問題になります。
  • 資格を取っても処遇が変わらない。 取得後の手当や等級の扱いを決めていないと、受講が進みません。
  • 繁忙期に講習を設定している。 現場の工程と教育計画を別々に作ると、受講辞退が続きます。年度計画の段階で工事部門と日程をすり合わせてください。
  • 助成金の申請直前に計画や推進者を求められて慌てる。 要件は制度ごとに異なります。使う可能性がある制度の公表資料を、年度初めに確認しておいてください。

よくある質問

Q. 努力義務ということは、何もしなくても罰則はないのですよね。

直ちに罰則が科される性質のものではありません。ただし、法律が事業主の責務として定めている以上、取組がない状態は望ましくありません。助成金の要件や社内の人材育成の土台にもなるため、計画の作成と推進者の選任だけでも先に整えることをおすすめします。

Q. 職業能力開発推進者は、何か資格を持っている人でないと選任できませんか。

特定の国家資格がなければ選任できないという仕組みではありません。重要なのは、教育訓練の実施について社内で判断でき、労働者からの相談に対応できる立場にあることです。選任の手続きや連絡の要否は運用が設けられている場合がありますので、都道府県の職業能力開発協会や労働局の公表資料で確認してください。

Q. 事業内職業能力開発計画は、決まった様式で何ページ必要ですか。

法律で分量や様式が一律に決まっているわけではありません。職種区分、能力の段階、段階ごとの訓練、実施時期、評価との結びつきが分かれば、A4で数枚でも実務に耐えます。助成金の申請に使う場合は、その制度が求める記載事項が別にあることがありますので、申請前に公表資料で確認してください。

Q. 有給教育訓練休暇は、年次有給休暇とは別に与える必要がありますか。

年次有給休暇を教育訓練に使わせることと、教育訓練のための有給休暇を別に設けることは別の話です。法律が援助の手段として想定しているのは後者にあたる仕組みです。導入する場合は、対象となる訓練の範囲、日数の上限、申請方法を就業規則に書いてから運用してください。

Q. 協力会社の技能者や一人親方の教育も、自社の計画に入れるべきですか。

職業能力開発促進法が事業主に求めているのは、自社が雇用する労働者に対する取組です。したがって計画の対象は自社の従業員が基本になります。ただし元請として現場全体の技能向上に取り組むこと自体は妨げられませんので、自社の計画と、現場単位の安全衛生教育や技能向上の取組は、文書を分けて整理してください。

Q. CCUSのレベル判定があれば、能力開発計画は作らなくてよいですか。

別のものです。CCUSの能力評価は技能者の経験と資格を外から確認する仕組みで、社内でどう育てるかの体系を示すものではありません。レベル判定を計画の中の到達目標として位置づけ、そこに至るまでの訓練と処遇を自社で設計してください。

出典

  • 職業能力開発促進法

本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

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