#定着・育成2026.10.15 公開読了 約9分建設タレントサーチ 人事ノート 編集部

治療と仕事の両立支援 事業場で整える手順

厚生労働省のガイドラインに沿って、治療と仕事の両立支援で事業場が整えるものを実務の順序に並べました。両立支援の申出から勤務上の配慮、職場復帰までの流れ、様式と情報の扱い、建設業での現場特有の論点を表と手順でまとめます。

情報の基準日
2026.10.14
定着・育成

治療と仕事の両立支援 事業場で整える手順

人事ノート

病気の治療をしながら働く人は、建設・不動産業界でも珍しくありません。がん、脳卒中、心疾患、糖尿病、肝炎、難病などは、通院しながら働き続けられる場合があります。一方で、会社側に受け止める仕組みがないと、本人が言い出せずに離職してしまいます。

厚生労働省は「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」を公表しています。これは法律そのものではなく、事業場が取り組む際の考え方と進め方を示した資料です。ここでは、このガイドラインに書かれている範囲を、人事が動く順序に並べ替えて整理します。

まず押さえる前提 法律上の義務との関係

両立支援そのものを一律に義務づける法律はありません。ただし、関連する義務は別にあります。人事としては、義務の部分と、ガイドラインが推奨する取り組みの部分を分けて理解しておくと、社内の説明がぶれません。

区分内容位置づけ
健康診断の実施と事後措置労働安全衛生法に基づく一般健康診断、医師の意見聴取、就業上の措置法律上の義務
安全配慮義務労働契約法に基づき、生命・身体の安全を確保しつつ労働できるよう配慮する法律上の義務
障害者への合理的配慮障害者雇用促進法に基づく措置(対象となる場合)法律上の義務
両立支援の体制整備相談窓口、申出の手順、勤務上の配慮の検討ガイドラインが示す取り組み
両立支援プランの作成治療の見通しに合わせた就業上の措置を書面化するガイドラインが示す取り組み

義務ではない部分も、安全配慮義務の履行として機能します。本人から体調の申出があったのに何も検討しなかった場合、後から責任を問われる余地があります。「ガイドラインだから任意」と切り捨てない方が安全です。個別の事案で判断に迷うときは、産業医や社会保険労務士、弁護士に相談してください。

支援の対象と、支援の起点

ガイドラインが想定しているのは、反復・継続して治療が必要となる疾病です。がん、脳卒中、心疾患、糖尿病、肝炎、その他の難病などが挙げられています。短期で治る病気やけがは、通常の休暇・休職の運用で対応することになります。

支援の起点は、原則として本人からの申出です。会社が健康情報を勝手に集めて先回りすることはできません。人事が整えるべきは、本人が申し出やすい入口をつくることです。

  • 誰に申し出ればよいかを、就業規則や社内文書に書いておきます。
  • 申し出たことで不利益な扱いを受けないと明記します。
  • 申出の窓口を複数用意します。直属の上司だけだと、言いにくい人が出ます。
  • 健康診断の結果や産業医面談も、本人が相談を切り出すきっかけになります。

事業場で整えておくもの(体制編)

申出があってから慌てて考えると、対応が人によってばらつきます。平時に次を整えておきます。

1 基本方針を決めて周知する

治療と仕事の両立を支援するという方針を、経営層の名前で出します。周知の場は、朝礼、安全衛生委員会、社内掲示、入社時オリエンテーションなどです。方針が無いと、現場の所長が独自の判断で「人手が足りないから無理」と答えてしまいます。

2 相談窓口と担当者を決める

人事部門の担当者、衛生管理者、産業保健スタッフのうち、誰が一次窓口になるかを決めます。常時50人以上の労働者がいる事業場では産業医の選任義務がありますから、産業医との連携経路も決めておきます。50人未満の事業場では、地域産業保健センターなどの外部資源を使う方法があります。利用できる支援機関は公表資料で確認してください。

3 休暇・勤務制度を点検する

両立支援は、特別な新制度がなくても既存制度の組み合わせで回せることがあります。自社に何があるかを一覧にします。

制度想定する使い方整備のポイント
時間単位・半日単位の年次有給休暇定期通院、検査時間単位年休は労使協定が必要
病気休暇(法定外)治療のための欠勤を有給または無給で扱う日数、賃金の取扱い、診断書の要否を就業規則に書く
短時間勤務復帰直後の体力回復期期間の上限と賃金の計算方法を決める
時差出勤通院時間帯の確保、混雑回避現場の朝礼時刻との整合を確認する
休職制度長期入院、集中的な治療期間、復職の判断手順、期間満了時の扱いを明記する
在宅勤務内勤業務への一時的な変更建設業では対象業務が限られる点を前提に設計する

4 様式を用意する

ガイドラインには、情報のやり取りに使う様式例が示されています。自社で一から作らず、様式例をもとに社名や項目を調整して使う方が早いです。用意しておくのは、本人が会社に出す申出書、会社から主治医へ業務内容を伝える文書、主治医から会社へ就業上の意見をもらう文書、両立支援プランの4点です。

申出があってからの流れ(手順編)

  1. 本人から申出を受けます。 受けた担当者は、その場で可否を答えません。「検討する手順がある」と伝えます。
  2. 本人に業務内容を整理してもらいます。 作業の種類、高所作業や重量物の有無、勤務時間、交替制の有無、出張や現場移動の頻度を書き出します。会社側が書式を渡した方が早く進みます。
  3. 主治医へ業務内容を伝え、就業上の意見を求めます。 本人を通じて渡します。主治医は職場の実態を知りません。「事務職」とだけ書くと実態と合わない意見が返ります。
  4. 主治医の意見書を受け取ります。 本人の同意を得たうえで会社が受領します。
  5. 産業医または産業保健スタッフの意見を聞きます。 主治医の意見を、自社の業務に当てはめて翻訳する役割です。産業医がいない事業場では、外部の産業保健機関に相談する方法があります。
  6. 就業上の措置を決めます。 勤務時間、作業内容、配置、通院への配慮を具体的に決めます。
  7. 両立支援プランを作ります。 措置の内容、適用する期間、見直しの時期、連絡の取り方を書面にします。
  8. 本人と上司に説明し、合意します。 現場の職長や所長にも、必要な範囲で伝えます。
  9. 定期的に見直します。 治療の経過で状況は変わります。プランに「次の確認日」を必ず書いておきます。

休職から復帰する場合は、この流れに職場復帰支援プランの作成が加わります。復帰の可否判断、復帰後の業務の段階的な引き上げ、フォローの時期を決めます。

健康情報の取扱い

両立支援では、本人の病名や治療内容といった機微な情報を扱います。労働安全衛生法に基づき、事業者は心身の状態に関する情報の取扱規程を定めることとされています。両立支援の体制づくりと合わせて整備してください。

  • 情報を取得するときは、本人の同意を得ます。
  • 目的の範囲を超えて使いません。採用や人事評価の材料にしません。
  • 共有する相手と範囲を限定します。上司には「病名」ではなく「必要な配慮の内容」を伝える方法があります。
  • 保管の方法と期間、アクセスできる人を決めます。
  • 退職後の取扱いも決めておきます。

「現場の所長に病名まで伝えてしまった」という事故が起きがちです。誰に何を伝えるかを、本人と事前に確認する運用にしてください。

建設業・不動産業で特に詰めておく点

論点起きやすい問題詰めておくこと
高所作業・重機操作めまい、意識消失のリスクがある疾病で、安全配慮と本人の希望が衝突する制限が必要な作業を一覧化し、代替配置の候補を先に決めておく
現場の所在地が変わる通院先から遠い現場に配置され、通院が続かない配置を決める段階で通院条件を考慮する手順を入れる
交替制・早朝勤務服薬時刻や休息時間が確保できない時差出勤や勤務時間帯の固定を検討する
夏季の屋外作業持病と熱中症リスクが重なる熱中症対策の措置と両立支援プランを併せて検討する
一人現場・少人数現場体調悪化時に気づく人がいない連絡手段と緊急時の連絡先をプランに書く
技術者の専任配置専任が必要な工事で、短時間勤務と両立しない配置計画の段階で人事と工事部門が事前に調整する
下請の労働者元請が実態を把握していない自社従業員の支援と、下請への対応は分けて整理する

技術者の配置義務に関わる判断は、建設業法上の要件が関わります。短時間勤務や休職の措置を検討する際は、配置計画への影響を工事部門と必ず突き合わせてください。

よくあるつまずき

  • その場で可否を答えてしまう。 上司が「それは無理だ」と即答し、本人が申出を取り下げてしまう例があります。一次受付者の役割は「受けて、つなぐ」ことだと教育してください。
  • 診断書だけで判断する。 診断書には病名と療養期間しか書かれていないことがあります。就業上の措置を決めるには、業務内容を伝えたうえでの意見が要ります。
  • 主治医に業務を伝えていない。 建設現場の作業内容は、医師には想像がつきません。高所、重量物、屋外、粉じん、運転の有無を具体的に書いて渡します。
  • プランを作って終わりにする。 見直し日を決めずに放置すると、治療が進んでも制限が外れないままになります。
  • 期間を決めずに短時間勤務を始める。 期限が無いと、本人も周囲も先が見えません。期間を区切り、更新するかを都度決める形にします。
  • 周囲に説明しない。 配慮の理由を伝えないと、周囲に不公平感が残ります。病名を出さずに「一定期間、勤務時間に配慮している」と伝える形を本人と相談してください。
  • 復職判断の基準が無い。 休職期間の満了が近づいてから慌てることになります。復職の判断手順を就業規則に書いておきます。

年間でやることの目安

時期やること担当
年度初め基本方針の再周知、相談窓口の掲示更新人事
健康診断の実施後有所見者への産業医面談、相談の入口づくり衛生管理者・人事
安全衛生委員会(毎月)両立支援の事例共有(個人が特定されない形で)衛生管理者
随時申出の受付、プランの作成と見直し人事・産業医
年1回就業規則と様式の点検、健康情報取扱規程の見直し人事

よくある質問

Q. 本人が病名を会社に知らせたくないと言っています。支援はできますか。

病名を明かさなくても、必要な配慮の内容が分かれば検討は進められます。主治医や産業医の意見として「重量物の取扱いを避ける」「月2回の通院時間を確保する」といった業務上の制約だけを共有する方法があります。会社が勝手に病名を聞き出すことはできませんので、本人の同意の範囲を書面で確認したうえで進めてください。

Q. 短時間勤務にした分、賃金を減らしてよいですか。

ノーワーク・ノーペイの考え方により、働かなかった時間分を控除すること自体は一般に可能です。ただし、控除の方法や手当の扱いを就業規則や賃金規程に定めていないと、後でもめます。固定的な手当を一律に全額カットすると不利益変更の問題になる場合がありますので、制度を作る段階で社会保険労務士に確認してください。

Q. 主治医の意見と産業医の意見が食い違ったときは、どちらに従いますか。

主治医は治療の立場から、産業医は自社の業務と作業環境を踏まえた立場から意見を述べます。食い違う場合は、産業医から主治医へ情報提供を求め、業務内容の前提をそろえたうえで再度意見を聞くのが基本です。それでも判断がつかないときは、安全が確保できる水準の措置を先に適用し、期間を区切って再評価してください。

Q. 休職期間が満了しても復職できないときは、どう扱えばよいですか。

就業規則に定めた休職期間の満了時の取扱いに従うことになりますが、運用を誤ると紛争になりやすい場面です。復職可否の判断手順、判断の材料とする資料、本人への通知の時期をあらかじめ規程に書いておいてください。個別の事案では、解雇や退職の扱いになる前に弁護士など専門家に相談することをおすすめします。

Q. 下請の職人から治療中だと相談を受けました。元請としてどこまで対応しますか。

雇用関係がない以上、就業上の措置を決める主体は雇用主である下請事業者です。元請としては、現場の安全確保の観点から必要な情報を下請事業者と共有し、作業内容の調整を求める形になります。健康情報を元請が直接管理することは避け、下請事業者を通じた対応に整理してください。

Q. 従業員50人未満の事業場で、産業医がいません。どうすればよいですか。

産業医の選任義務がない規模でも、外部の産業保健支援機関に相談できる仕組みがあります。地域の支援窓口や利用条件は地域ごとに異なりますので、公表資料で確認してください。相談先を平時に確認し、社内の相談窓口の案内に書き添えておくと、申出があったときに動きが早くなります。

出典

  • 厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」

本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

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