#定着・育成2026.10.20 公開読了 約8分建設タレントサーチ 人事ノート 編集部

研修や資格講習の時間は労働時間にあたるか

技能講習や職長教育、社内研修、eラーニングの時間を労働時間として扱うかは、参加が業務命令かどうかで判断します。労働基準法の条文に沿って、判断軸、類型別の整理、賃金と割増の計算、休日受講の手続、社内規程に落とす手順までを実務の順序でまとめます。

情報の基準日
2026.10.19
定着・育成

研修や資格講習の時間は労働時間にあたるか

人事ノート

建設業では、現場作業以外に時間を使う場面が多くあります。技能講習、特別教育、職長教育、資格試験の対策講座、安全大会、社内の技術研修、eラーニングなどです。これらの時間を労働時間として扱うかどうかで、賃金の計算も、労働時間の記録も変わります。判断を担当者の感覚に任せると、同じ会社の中で扱いが食い違い、後から未払いの指摘につながります。ここでは労働基準法の枠組みに沿って、判断の順序を整理します。

まず押さえる前提

労働基準法には「労働時間」の定義規定は置かれていません。実務では、使用者の指揮命令下に置かれている時間かどうかで判断します。この考え方は裁判例で示されてきたもので、名称が「研修」「自己啓発」であっても、実態が指揮命令下にあれば労働時間として扱います。

重要なのは、次の2点です。

  • 労働時間かどうかは客観的に定まります。労使で「研修は労働時間に含めない」と合意しても、実態が業務命令であれば労働時間です。
  • 賃金を払うかどうかの前に、労働時間として記録するかどうかが先に来ます。記録がなければ、時間外の集計も36協定の管理もできません。

関係する主な条文は、労働時間の原則を定める第32条、休日の第35条、時間外・休日労働の協定の第36条、割増賃金の第37条、就業規則の記載事項の第89条、賃金台帳の第108条、記録の保存の第109条です。記録の保存期間には経過措置があるため、現在の取扱いは公表資料で確認してください。

労働時間かどうかを判断する5つの問い

研修や講習ごとに、次の順で確認します。1つでも「はい」が強く出れば、労働時間として扱う方向で検討します。

  1. 参加を指示しましたか。 書面の業務命令だけでなく、朝礼での口頭指示、班ごとの受講者割当、上長からの「出ておいて」も指示にあたり得ます。
  2. 参加しない場合に不利益がありますか。 人事評価が下がる、昇格の条件から外れる、特定の作業に就けなくなる、といった扱いがあれば、実質的に強制です。
  3. その内容は業務に必要ですか。 受講しないと従事できない業務がある教育、配置要件に直結する資格の講習は、必要性が高いと判断されます。
  4. 時間と場所が拘束されていますか。 集合時刻が決まっている、会社の会議室で行う、受講後に報告書の提出を求める、といった事情は拘束を示します。
  5. 会社が受講状況を管理していますか。 出欠の確認、受講期限の設定、未了者への督促があれば、指揮命令下にあると評価されやすくなります。

類型別の整理

実際の場面を、指示の有無と不利益の有無で整理すると次のようになります。個別の事情で結論が変わるため、迷う案件は社会保険労務士や弁護士に相談してください。

場面会社の関わり方不参加の不利益労働時間としての扱い
法令で事業者に義務づけられた安全衛生教育(雇入れ時、特別教育、職長教育など)事業者の義務として実施受講しないと就かせられない業務がある労働時間として扱うのが基本
会社が受講を命じた技能講習・資格講習業務命令、受講料も会社負担評価や配置に影響労働時間
会社が案内し費用も出すが、受講は任意推奨のみ、出欠を管理しないなし労働時間にあたらない余地がある
社内の全体研修・安全大会(出欠を取る)日時を指定して招集欠席者に報告を求める労働時間
eラーニングを期限付きで課す受講期限と未了者への督促あり評価に反映労働時間(時間の把握方法を決める)
自主的な受験勉強・通信教育会社は関与しないなし労働時間ではない
始業前の体操・KY活動・資料準備参加が前提になっている遅れると注意を受ける労働時間になりやすい
講習会場への移動直行直帰か、事業所に集合するかで異なる—集合して会社の指示で移動する場合は労働時間になり得る

「受講料を会社が負担しているから労働時間だ」とは限りません。費用負担と労働時間性は別の論点です。逆に、費用が自己負担でも、受講を命じていれば労働時間です。

賃金の計算に落とす

労働時間として扱うと決めたら、どの時間帯に行ったかで賃金の計算が変わります。

研修・講習を行う時間帯賃金の扱い先に必要な手続
所定労働時間内通常の賃金。現場作業と同じ扱い労働時間としての記録
所定労働時間外だが法定労働時間内働いた時間分の賃金(割増の要否は就業規則の定めによる)時間の記録
法定労働時間を超える2割5分以上の割増賃金36協定の締結・届出、上限の管理
法定休日に行う3割5分以上の割増賃金36協定、休日振替の検討
深夜(22時から翌5時)深夜の割増賃金が別途必要記録と計算方法の確認

月60時間を超える時間外労働の割増率は別に定められています。自社の該当者が出る場合は、条文と公表資料で率を確認してください。

研修時間に通常と異なる賃金単価を適用したい場合は、就業規則に定めたうえで、最低賃金を下回らないことを確認します。単価を分けると割増賃金の基礎の計算も複雑になるため、運用できる形かどうかを先に確かめてください。

休日や所定外に講習を入れるときの手順

技能講習は平日の日中に設定されることが多く、現場の稼働を止めないために休日受講を選ぶ会社があります。その場合の段取りです。

  1. 受講日を決める前に、その日が所定休日か法定休日かを確認します。 週休2日制でも、法定休日は週1日です。どちらに当たるかで割増率が変わります。
  2. 法定休日に受講させるなら、36協定の休日労働の範囲に入っているかを確認します。 協定に休日労働の定めがなければ、まず協定を見直します。
  3. 振替休日とするなら、事前に振替日を特定して本人に伝えます。 事後に休ませる代休とは扱いが異なります。
  4. 当日の時間を記録します。 講習の開始・終了時刻、昼休憩、移動の扱いを記録様式に欄として作っておきます。
  5. 月末に時間外・休日労働の集計へ合算します。 研修時間を集計から外すと、上限の管理を誤ります。

社内で決めておくこと

現場任せにせず、次の形で社内の基準を文書化します。

  1. 研修・講習の分類表を作ります。 「業務命令(労働時間)」「推奨(労働時間としない)」の2区分に、実際の講習名を割り付けます。新しい講習が出たら、人事が区分を決めてから案内します。
  2. 案内文の書式を統一します。 業務命令のものには「業務として受講を命じます。当日の時間は労働時間として扱います」と明記します。任意のものには「受講は任意です。受講しないことで不利益な取扱いはしません」と書きます。この一文の有無が、後の判断材料になります。
  3. 時間の記録方法を決めます。 会場受講は出欠表と開始・終了時刻、eラーニングは学習記録の出力、自宅受講は本人申告と上長確認、というように方式ごとに決めます。
  4. 就業規則に根拠を置きます。 研修時間の取扱い、休日受講時の振替、研修時の賃金単価を定める場合はその内容を記載します。
  5. 現場の職長・所長に周知します。 実際に受講を指示するのは現場です。任意の講習について「出ないと困る」と伝えてしまえば、実態は業務命令になります。

よくあるつまずき

  • 「自己啓発」と名付ければ労働時間から外せると考える。 名称ではなく実態で判断します。出欠を取り、未受講者に督促していれば、自己啓発とは言えません。
  • 資格手当とひもづけたまま「任意」と案内する。 受講しないと手当が付かない、昇格できないという設計は、不参加の不利益にあたります。任意扱いを続けるなら、処遇との結びつきを見直してください。
  • eラーニングの時間を記録していない。 自宅で深夜に受講され、後から時間を主張される例があります。受講可能な時間帯を就業時間内に限る、所要時間の目安を決めて申告させる、といった運用を先に決めます。
  • 講習の受講料だけ精算し、時間の扱いを決めていない。 経理の精算と労務の判断が分かれているときに起きます。受講申込の時点で、区分と時間の扱いを一緒に決めます。
  • 移動時間をまとめて切り捨てる。 事業所に集合して会社の車で移動する場合と、自宅から直接会場へ向かう場合では扱いが異なります。パターンごとに基準を決めておきます。
  • 36協定の集計から研修時間を外す。 繁忙期に講習が重なると、上限を超える原因になります。集計対象に入れて早めに把握します。

よくある質問

Q. 技能講習を本人の希望で受けたいと言われました。費用は会社が出しますが、時間は労働時間になりますか。

本人からの申し出であっても、会社が受講日を指定し、出欠を管理し、資格取得を配置や評価に結びつけている場合は、労働時間として扱うのが安全です。純粋に任意とするなら、受講しないことで不利益な取扱いをしないことを案内文に明記し、実際にその運用を守ってください。費用を会社が負担しているかどうかだけでは、労働時間性は決まりません。

Q. 研修の時間だけ時給を下げて支払うことはできますか。

通常の業務と異なる賃金を研修時間に適用すること自体は、就業規則に定めがあり、最低賃金を下回らなければ検討の余地があります。ただし割増賃金の計算が複雑になり、運用を誤ると未払いにつながります。実際に導入する前に、計算方法まで詰めたうえで専門家に確認してください。

Q. 社外の講習会場へ直接向かってもらう日の、自宅から会場までの時間はどう扱いますか。

通常の通勤と同じように自宅から直接向かい、移動中に業務の指示がない場合は、通勤に準じて扱うのが一般的な考え方です。一方で、いったん事業所に集合して会社の指示で移動する場合や、移動中に資材の運搬などを指示する場合は、労働時間として扱う必要が出てきます。パターンごとに社内の基準を決め、判断に迷う事案は専門家に相談してください。

Q. 法令で義務づけられている安全衛生教育を、休日に無給で受けさせることはできますか。

できません。事業者の義務として行う教育は、業務として受講させるものですから、労働時間として扱い、賃金を支払う必要があります。法定休日に行えば休日労働の割増賃金も発生し、36協定の対象にもなります。平日に組み込めない場合は、振替休日の指定を含めて事前に段取りしてください。

Q. eラーニングの受講時間は、本人の申告だけで記録してよいですか。

本人申告だけに頼ると、実態との差が生じやすくなります。学習記録を出力できるものは出力し、出力できないものは標準的な所要時間を会社として定め、申告との差が大きい場合に確認する仕組みにしてください。あわせて、受講できる時間帯を就業時間内に限るなど、記録しやすい運用に整えることが現実的です。

出典

  • 労働基準法

本記事は建設タレントサーチ 人事ノートが作成しています。法令・制度は改定されることがあるため、 実務にあたっては官公庁の最新の公表資料をご確認ください。 個別の判断が必要な事案は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

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